中小企業のM&Aに必要な準備、期間。売却価格はどのように決まる?

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中小企業がM&Aで事業承継を目指すときには、どのような手順で実施するのでしょうか?必要な準備や買い手の探し方について見ていきましょう。M&Aの代表的な手法や自社の価値の算定方法・最終契約後に必要な引き継ぎについても解説します。

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1.中小企業がM&Aで第三者に引き継ぐ意味

中小企業がM&Aで第三者に引き継ぐ意味

近年の傾向として、中小企業でもM&Aを実施するケースが増えています。中小企業がM&Aにより事業承継することには、どのようなよい点があるのでしょうか?

1-1.後継者不足に悩む経営者は60代で約半数

後継者不足に悩む中小企業が増えています。従来は親族内で承継する場合が多かったものの、時代とともに価値観が変化し、子どもに承継を求めないケースが増加中です

仮に親族内で継ぎたいという人がいても、必ずしもその人が経営者に向いているとは限りません。そのような事情もあり、60代の経営者のうち約半数は後継者がいないといわれています。

たとえ会社の業績が黒字であったとしても、経営者が高齢になり何らかの理由で働けなくなれば事業の継続は難しいでしょう。そのため黒字経営にもかかわらず廃業する中小企業もあります。

このような事態を回避する方法の一つとして、M&Aが注目されているわけです。

参考:2020年版 小規模企業白書『経営者の高齢化と事業承継』|中小企業庁

1-1-1.中小企業のM&Aは増えていえる

中小企業が行うM&Aは、公表されていないケースがほとんどです。そのため正確な実施件数は分かりません。ただし全体の傾向として増加していることは確かです。

国が実施する事業である『事業引継ぎ支援センター』への相談件数やマッチング件数も大幅な増加が見られます。M&Aの実施は業種を問わず活発化している傾向です。

今後もM&Aを利用した業界の再編が行われることが予想され、それにより中小企業のM&Aは増加していくと考えられています。

参考:令和元年度 事業引継ぎ支援事業に係る相談及び事業引継ぎ実績について|中小企業基盤整備機構

1-2.これまで築き上げた事業を継続できる

M&Aを実施し第三者に会社を承継してもらうと、長い期間をかけて築き上げてきた事業を、経営者の引退後も継続できます。買い手企業は上場企業や大手企業など、経営・財務面が安定している企業がほとんどです。

そのため承継前には実現できなかった大きな投資や、大規模な事業展開・販路の拡大なども期待できるかもしれません。従業員の待遇もこれまでより改善する可能性があります。

後継者がいなければ会社は廃業することになり、従業員の雇用を守れません。M&Aにより事業承継することで、従業員の雇用を守ることにもつながります

2.中小企業のM&Aは株式譲渡が一般的

中小企業のM&Aは株式譲渡が一般的

さまざまな手法の中でも、中小企業のM&Aは『株式譲渡』で行われるケースがほとんどです。株式譲渡の特徴やスムーズなM&Aのために実施しておくとよいことを紹介します。

2-1.株式の譲渡で経営権を引き渡す手法

株式譲渡とは、株式を買い手に譲渡することで経営権を引き渡す方法です。手続きが比較的簡単なことや、売り手企業が存続することから、中小企業のM&Aでよく採用されます。

ただし、『経営権』とは法律で定められた権利ではありません。株式会社では株式の保有数に応じた議決権を持つため、株式を多く持っているほど強い権限を行使できます。このルールを利用したのが株式譲渡です。

一般的には、株式を1/2以上保有している場合に経営権があるとみなされます。

2-1-1.株式譲渡と事業譲渡の比較

M&A手法には『事業譲渡』という手法もあります。会社全体を承継させる株式譲渡に対し、事業譲渡で引き継ぐのは事業の全てか一部のみです

株式譲渡はスピーディーに会社全体を引き継げる反面、買い手にとっては不要なものも引き継ぐリスクがあります。株式を買い取るための資金も用意しなければいけません。

一方、事業譲渡では引き継ぐ事業を選択できるため、不要なものは引き継がなくて済みます。ただし手続きが煩雑になりやすい点がデメリットです。両者は売り手側に課される税金も下記の通り異なります。

  • 株式譲渡:所得税15%・住民税5%
  • 事業譲渡:消費税10%・法人税40%

このほかに、事業譲渡では買い手が負担する消費税・不動産取得税・登録免許税などもあります。

2-2.株式をまとめておこう

スムーズにM&Aを進めるには、自社の株式をまとめておくとよいでしょう。買い手は株式の100%取得を目指すケースが多く、少数株主から株式を買い取れない場合には株式譲渡を断念することもあります

そのため、100%を目標に、最低でも2/3以上を目安に、事前に買い戻し経営者保有としておきましょう。経営者が一代で築いた企業で、一族のみで株式を保有している場合、比較的短期間の間に目標を達成できるかもしれません。

しかし代々続く企業では、創業期に株式を持っていた従業員や親族が亡くなり、相続が発生している可能性があります。結果として現在の株式保有者を特定できないという事態もあり得るのです。

まとめるのに長期間かかることも想定し、早めに準備を始めましょう。

3.M&Aによる事業承継のメリット

M&Aによる事業承継のメリット

事業承継の方法としてM&Aを採用することには、どのようなメリットがあるのでしょうか?売り手が得られるメリットを見ていきましょう。

3-1.廃業によるコスト発生を避けられる

まず挙げられるのは『廃業コスト』を負担しなくてよいという点です。会社を廃業する際にはさまざまな費用が発生します。例えば税金・店舗や事務所の原状回復費用・設備の廃棄費用などです

債務超過の状態で廃業する場合、さらに負担は膨らみます。裁判所による監督の下『特別清算』の手続きをする場合には、弁護士への報酬も用意しなければいけません。先に挙げた費用のほかに100万円を超える費用がかかります。

廃業せずにM&Aで事業承継できれば、これらにかかる費用の負担は発生しません。

3-2.売却益を受け取れる

現金で支払われる株式の『売却益』を得られるのも、M&Aの利点です。廃業するとケースによっては数百万円もの高額な費用が発生します。全ての清算を終えると資産がなくなることも珍しくありません。

一方M&Aであれば、受け取れる金額の方が大きくなるでしょう。会社の資産や経営状況によっては、数千万円もの現金を受け取れる可能性があります

自社の事業や技術をより高く評価してくれる買い手とのマッチングによっては、期待以上の利益を得られるかもしれません。

4.適正価格の算定方法と売却価格

適正価格の算定方法と売却価格

M&Aでは自社の価値を算定し、売却価格の希望を提示します。このとき相場とかけ離れた高い金額ではチャンスを逃す可能性がある一方、相場より低過ぎる金額では得られたはずの利益が入ってこなくなってしまうでしょう。

適切な価格の計算方法を知れば、価格交渉に役立てられます。

4-1.主に資産と営業権で計算される

適正価格の求め方はさまざまです。中でも中小企業では『時価純資産法』がよく用いられます。時価換算した資産から負債を引いた時価純資産に、営業利益の2~3年分で計算した営業権(のれん代)を足して求める方法です。

計算式では『(時価換算した資産-時価換算した負債)+(営業利益×2~3年)』と表せます。営業権をプラスすることにより、将来的な収益力も考慮した価格です。

また『修正純資産法』という、時価純資産のみで会社の価値を算定する方法もあります。複数の計算方法のどれか一つを採用するのではなく、それぞれの数値を参考に、適正価格を導き出すケースが多いでしょう。

4-2.適正価格を参考に交渉で価格が決まる

計算により求めた適正価格が、必ずしもそのままM&Aの売却価格になるわけではありません。実際の価格は売り手・買い手の交渉により決まります。まずは双方が希望価格を提示し、合意できる価格を探り合うのです。

できるだけ高く売りたい売り手側では、会社の保有する知的財産権といった資産をアピールします。買い手にとって魅力的で利益をもたらすものであれば、魅力を感じ、より高い価格で成約するかもしれません。

またデューデリジェンスといった詳細な調査により判明した未払残業代や不良債権・簿外債務などは、値下げ交渉の材料になり得ます。

5.M&Aにかかる期間と準備すること

M&Aにかかる期間と準備すること

会社の承継をするためにM&Aを実施する際には、入念な準備が欠かせません。必要な期間や準備について確認しましょう。

5-1.準備、引き渡しまでの期間はケースバイケース

準備期間や引き渡しにかかる期間は、ケースにより異なります。M&Aには手間がかかるため、実際に準備を始めると想像していた以上に時間がかかることがほとんどです。

買い手候補を探すだけでも長い期間がかかるかもしれません。それ以前の準備として、サポートの依頼先を探す期間や、M&Aをしやすい体制を整える期間を含めると、相当な時間がかかると分かります。

M&Aが成立してから引き渡しまでの期間は、売り手の希望に合わせる買い手が大半です。一般的な傾向として、同業種では比較的短期間で引き渡すケースが多いでしょう。

異業種では数年がかりでじっくり引き継ぐ場合もあります。

5-2.資産を把握、整理する

準備としてまず行うのは『資産の把握』です。中小企業は決算書類を作成していますが、ほとんどは金融機関や税務署に対して提出するためのもので、経営実態を正確に反映していない可能性があります。

改めて資産を精査すると、実は債務超過に陥っているかもしれません。これまで把握していなかった簿外債務が明らかになる可能性もあります。

資産や負債を正しく把握できていない点は、経営者の信用に関わるでしょう。場合によっては信用できないと判断され、M&Aのチャンスを逃しかねません。

スムーズにM&Aを進めるために、自社の経営状況を正しく把握し、必要があれば整理して備えます。

5-3.自社の価値を高める

より高い価格でM&Aを実施するには、自社の価値を高めることがポイントです。利益につながる特徴的な技術や特許・ノウハウなどを持っているなら、買い手に正しく伝えられるようまとめておきます

財務状況の整理も欠かせません。必要書類の適切な作成と保管、税金の支払い履歴や申告書なども分かりやすいように整理します。財務の管理体制も整えましょう。

加えて、人事や労務管理の体制も見直します。M&A後も従業員が安心して働き続けられるよう、現在の雇用契約について確認しておくことが大切です。また査定基準や退職金制度なども明確に分かるよう整備します。

6.M&Aの流れ「サポート会社の選定とマッチング」

M&Aの流れ「サポート会社の選定とマッチング」

株式の買い戻しや資産の把握・自社の価値を高める整理などの準備が完了したら、M&Aを実行する段階に入ります。まず行うのは相談先の選定と買い手候補探しです。

6-1.M&Aに精通した専門家に相談する

M&Aは自社のみで進めることも可能です。ただし多岐にわたる専門知識が必要なため、実績豊富な専門家へ相談した方がスムーズに進みます。

まずは日ごろから付き合いのある『弁護士』へ相談するとよいでしょう。M&Aに詳しい弁護士を紹介してもらえるかもしれません。さまざまな法律が関わる手続きが発生するため、気軽に相談できる弁護士がいると安心です。

また買い手とのマッチングや交渉は『M&A専門業者』を利用すると、スムーズに進みやすいでしょう。専門業者を利用する場合の報酬は下記が目安です。

  • 着手金:契約締結時
  • 月額報酬:成約まで毎月
  • 中間金:基本合意締結時など
  • 成功報酬:案件完了時

6-2.交渉相手の紹介、選定

買い手候補を紹介してもらうには、M&A専門業者へ依頼するのが一般的です。このとき候補となる企業へ、社名を伏せて情報提供するための『ノンネームシート』を作成します。

ノンネームシートの内容を確認した買い手が次のステップへ進むと判断したら、お互いに『秘密保持契約』を結び、より詳細な情報を開示する流れが通常です。

買い手を選定するポイントの一つに『シナジー効果』を発揮しやすいかどうかという点が挙げられます。例えば企業文化が合っていれば、統合がスムーズに進み相乗効果が早期に生まれやすいでしょう。

また事業内容や営業エリアが程よく離れている企業も、相乗効果を生みやすい組み合わせです。

6-3.Webを利用したプラットフォームも

中小企業の行うM&Aは比較的小規模なものが多いため、Web上のプラットフォームを利用して行うケースも多くあります。例えば中小企業基盤整備機構が運営する『事業引継ぎポータルサイト』が代表的です

買い手候補探しはもちろん、M&Aの実施に必要な知識やスキルを提供するサービスも展開しています。国の主導で実施されているサービスのほか、民間のM&A専門業者が運営するプラットフォームもあります。

利用者数が多くマッチングしやすいことや、専門家のアドバイスを受けられるといったサポート体制があることを基準に選ぶとよいでしょう。ほかに手数料や過去の実績も参考にすると、自社に合うサービスを選びやすいはずです。

事業引継ぎポータルサイト

7.M&Aの流れ「売買の実行」

M&Aの流れ「売買の実行」

専門業者やポータルサイトを利用し買い手候補が定まったら、売買を実行する段階です。契約成立に至るまで、慎重に交渉を重ねることが求められます。

7-1.面談を重ね、デューデリジェンスを実施

秘密保持契約後に詳細な情報を確認した結果、交渉が本格化すると両社の意思決定者による『面談』が実施されます。実施のタイミングや回数に決まりはありません。お互いの疑問点が解消されるまで面談を重ねます。

次の段階は『デューデリジェンス(DD)』と呼ばれる、財務や税務を含む売り手企業内部の詳細な調査です。買い手はこの調査により、売り手の企業体制や経営状態をくまなくチェックします。

M&Aによって、期待するだけの利益や相乗効果を得られるのかを判断する調査です。ここで重大な粉飾決算や法的な瑕疵が見つかれば、取引中止の可能性もあります。

7-2.契約を締結する

DDの実行後、双方がM&Aを希望する場合には『最終契約』へ進みます。このときにはDDの結果をもとに、条件変更の交渉を行うのが一般的です。最終的な交渉で合意に至ると、その内容で契約書を作成します。

契約書に記載されているのは、売買条件を含むM&Aに関する最終決定事項です。弁護士といった専門家を通してやり取りしている場合であっても、必ず経営者が自分の目で確認してから締結しましょう。

8.M&Aの流れ「成立後」

M&Aの流れ「成立後」

契約が無事締結したとしても、それでM&Aが終わったわけではありません。期待する利益や相乗効果を出すには、契約成立後の引き継ぎが重要です。

8-1.人や技術などを含めた資産を慎重に引き継ぐ

売り手から買い手へ引き継ぐ資産には、大きく分けて『人』『有形資産』『無形資産』の3種類があります。人の引き継ぎは、後継者の育成とも言い換えることが可能です。無形資産には技術やノウハウなどが含まれます。

3種類の資産のうち、有形資産は書類の手続きのみで承継できますが、人や無形資産は慎重な引き継ぎが必要です。一般的には3カ月~1年程度の期間をかけて実施します。

特殊な技術やノウハウがある場合には、数年がかりで引き継がなければいけないケースもあるでしょう。その間、経営者にも関与してほしいと希望される可能性もあります。

8-2.取引先への説明

M&Aを実施したら取引先への説明も欠かせません。一般的には契約完了後にあいさつ状で知らせしますが、重要な取引先へは直接足を運び伝えるとよい印象を与えやすいでしょう

関係性によっては、数カ月かけて引き継ぎを行うケースもあります。M&Aは事前に情報が流出すると失敗につながる恐れもあるため、契約完了前にM&Aの実施を伝えることはまずありません。

8-3.従業員の退職防止策を考える

中小企業のM&Aで売却価格を決定するときには、従業員が現状のままであることを加味されているケースがあります。中小企業では、特定の従業員が持つ技術やノウハウが事業成功のポイントという場合も多いからです。

そのため従業員の退職を予防しなければいけません。M&Aを実施したからと急激に変化するのではなく、徐々に体制を移行していくことが大切です。

できるだけ抵抗感なく受け入れてもらえるよう、経営者から従業員に対してあらかじめ説明しておくことも役立ちます

9.焦らず十分に検討し、丁寧な事業承継を

焦らず十分に検討し、丁寧な事業承継を

中小企業の経営者が直面する後継者問題の解決策として、M&Aを実施するケースが増加傾向です。買い手企業とのマッチングがうまく進めば、対価を受け取れますし、従業員の仕事を守れます。

売り手・買い手ともによい結果をもたらすM&Aを実施するには、どの段階でも焦らず十分検討することです。引き継ぎの手続きも不備がないよう丁寧に行います。

手続きを進める中で、弁護士といった専門家へ相談できると安心です。また税務関連であれば『税理士法人チェスター』へ相談するとよいでしょう。

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