農地相続の全知識!農地がいらないときの対処方法やよくあるトラブルも解説
タグ: #農地農地を相続すると、農業を営んだり他人に貸し付けたりして収入を得られる可能性があります。その一方で、必ずしも活用できるとは限らず、適切に維持・管理をする必要があるため、相続人に負担をかけるケースも少なくありません。
また、農地の相続では一般的な不動産相続とは異なる手続きが必要です。農地は食料の貴重な供給源となるため、農地法による売却や転用の制限があり、簡単には手放せないことも理解する必要があるでしょう。
この記事では、農地相続のメリット・デメリット、必要な手続き、農地が不要なときの対処法などを相続税専門の税理士が解説します。
目次 [閉じる]
1.農地を相続するメリット
農地を相続する主なメリットは次のとおりです。
- 農業を営める
- 他人に貸して賃料収入を得ることも可能
- 農地を売却して換金できる
相続するメリットを1つずつみていきましょう。
1-1.農業を営める
農地を相続し、その土地で農業を始めると新たな収入源を確保できます。米や野菜、果物などを育てて販売することで収益を得られるだけでなく、食費を節約することも可能でしょう。
観光農園を開いて訪問客から入園料を得られることもあります。収穫体験や農業体験などのイベントを開催することで、地域の活性化にも貢献できるでしょう。
被相続人(亡くなった方)が使用していた農機具や設備をそのまま活用できるのであれば、初期費用を抑えて農業を始められます。
1-2.他人に貸して賃料収入を得ることも可能
相続した農地を他の農家や農業法人に貸し出すことで、賃料収入を得ることができます。「時間的な余裕がない」「相続した農地が遠方にある」などの理由で農業の経営が難しい場合は、農地を貸し出すことで有効活用が可能です。
借り手を探すのが難しい場合は、地域の農業委員会やJA(農業協同組合)に相談するとよいでしょう。手数料がかかるものの、借り手を仲介してくれる可能性があります。
農地を貸し出すことで、自身が農作業をしなくても収入を得られるだけでなく、遊休農地の発生を防ぎ、地域や近隣の住民に迷惑をかける事態も避けられるでしょう。
1-3.農地を売却して換金できる
相続した農地が不要な場合は、売却してまとまった現金に換えることも可能です。売却により得られた現金は、相続税の納税資金や当面の生活資金、老後資金など、さまざまな方法で活用ができるでしょう。
また、売却により農地を手放すことで、固定資産税の支払いや農地の維持・管理にかかる手間などからも解放されます。草刈りや水路の清掃などをする必要もなくなるため、相続人の負担が大幅に軽減されるでしょう。
相続人が複数いるときは、農地を売却して現金化することで、より公平に遺産を分割しやすくもなります。
ただし、農地の売却には制限があり、基本的には農家や農業生産法人にしか売ることができません。マンションやアパート、戸建て住宅などと比べると、買い手が限定されるために、売却しにくい可能性があります。
2.農地を相続するデメリット
農地を相続する主なデメリットは以下のとおりです。
- 農地を活用できないケースがある
- 適切に維持・管理する必要がある
- 後の相続で相続人に負担をかける可能性もある
2-1.農地を活用できないケースがある
農地を相続しても活用できるとは限りません。とくに農業の経験がない場合は、農作物の育て方や農機具の使い方など、基本的な知識や技術が不足しているため、すぐに利益を得るのは難しいでしょう。
また、農地の場所や条件によっては、他の農家や農業法人への貸し出しや売却も簡単ではありません。住宅地から遠い場所にある農地や道路からのアクセスが悪い農地は、借り手や買い手を見つけるのが難しいことがあります。
2-2.適切に維持・管理する必要がある
農地を相続すると、定期的な管理が必要になります。草刈りや害虫の駆除、水路の清掃などを行い、農地が荒れることのないよう適切に管理をしなければなりません。
管理を怠ると、雑草が生い茂って害虫が発生し、周辺の住環境に悪影響を及ぼす可能性があります。また、管理が不十分な農地は「耕作放棄地」とみなされ、固定資産税が通常の約1.8倍に引き上げられてしまいます。
耕作放棄地は通常の農地より固定資産税が1.8倍も-放置するデメリット
相続した人が遠方に住んでおり、農地の管理が難しい場合は、専門業者に委託する必要があるでしょう。管理を委託すると年間で数十万円の費用がかかることもあり、金銭的な負担がかかります。
農地の維持・管理には時間や労力、費用がかかることも多いため、相続する前にこれらの負担が問題ないかよく検討することが大切です。
2-3.後の相続で相続人に負担をかける可能性もある
農地を相続した人が亡くなると、次の相続でその農地が相続人に引き継がれることになります。相続財産に農地が含まれることで、相続人が困るケースがあります。とくに、相続人のなかで誰も農業をしたことがない場合、そのリスクは高くなるでしょう。
農地の売却や貸し出しができないと、相続人は不要な資産を抱え込むことになりかねません。管理費用がかかる一方となり、相続人に金銭的な負担が生じる可能性があります。
また、農地の管理が相続人にとって大きな負担になる場合もあります。とくに、相続人が農地から離れた場所に住んでいる場合は、維持・管理が難しくなり、放置されるリスクを高めてしまうでしょう。
農地を相続するかどうかを決める際は、その先の相続のことも考えるのが望ましいです。「自分が亡くなった後、この農地は誰が引き継ぐのか」「相続人に負担をかけることにならないか」といった点を、よく検討したうえで、農地を相続するか慎重に判断しましょう。
3.農地を相続する際は名義変更の手続きや届出が必要
農地を相続した場合は、一般の土地とは異なり、2つの手続きが必要になります。1つは法務局での相続登記、もう1つは農業委員会への届出です。
これらの手続きは法律で定められており、期限内に行わないと過料が科せられる可能性があります。手続きの方法や必要書類を理解し、適切に対応することが大切です。
3-1.法務局で相続登記をして名義を変更する
相続した農地の所有権を移転するためには、法務局での相続登記が必要です。相続登記により、農地の名義を故人から相続人に変更しないと、原則として売却ができず他人に貸し出すのも困難となります。
また、令和6年(2024年)4月1日からは相続登記が義務化されたため、相続開始から3年以内に手続きを行わないと、10万円以下の過料が科される可能性があります。
登記の際には、固定資産評価額の0.4%に相当する登録免許税がかかります。また、相続登記の手続きを司法書士に依頼すると、報酬として別途5万〜10万円ほどの支払いが必要です。
3-2.農業委員会へ相続の届出をする
土地を相続した場合は法務局で相続登記を行いますが、農地を相続した場合は相続登記のほかに農業委員会への届出が必要です。届出先は、農地の所在する市町村の農業委員会です。
農業委員会への届出は、相続を知ったときからおおむね10ヶ月以内に行うこととされています。届出をしなかった場合や虚偽の届出をした場合は、10万円以下の過料が科されることがあります。
以前は、農地を相続したときに農業委員会に届出る必要はありませんでした。しかし、耕作放棄地や所有者不明の土地の増加が問題視されたことで、平成21年に農地法が改正され、相続時に農業委員会への届出が義務づけられました。
相続人が遠方に住んでいるなど農地を管理できない場合には、農業委員会で農地管理に関する相談や、農地の借り手探しなどの支援が受けられます。
4.農地を相続する際の必要書類
相続登記と農業委員会の届出で必要となる書類は、下記のとおりです。
手続き内容 | 必要書類 |
---|---|
法務局での相続登記 |
|
農業委員会への届出 |
|
登記申請書は、法務局の窓口やホームページで入手できます。
相続登記について詳しくは、下記記事で解説していますので、あわせてご一読ください。
相続登記の手続き方法とは?自分でもできる?必要書類や流れなどを解説
5.農地の相続税評価額を算出する方法
農地の相続税評価額は、農地の種類によって異なる方法で計算します。農地は以下の5種類に分類されます。
- 純農地
- 中間農地
- 市街地周辺農地
- 市街地農地
- 生産緑地
それぞれの農地について、具体的な評価方法をみていきましょう。
5-1.純農地の評価方法
純農地は、簡単にいえば宅地など他の用途への転用が難しい農地です。
純農地の相続税評価額は「倍率方式」で評価します。計算式は「固定資産税評価額 × 倍率」です。
固定資産税評価額は、毎年5月ごろに市町村から送られてくる固定資産税の納税通知書や、市町村役場で取得可能な固定資産評価証明書で確認できます。
倍率は、国税庁の「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」で確認できます。サイトでダウンロードできる倍率表の「田」または「畑」の欄にある「純」の横に記載されているのが、純農地の倍率です。
5-2.中間農地の評価方法
中間農地は、主に都市近郊にある農地です。純農地よりも農業政策上の規制が緩く、売買も行いやすいという特徴があります。
中間農地も純農地と同様に、「倍率方式」で評価します。計算式は「固定資産税評価額 × 倍率」です。
固定資産税評価額は、市町村から送られてくる納税通知書や固定資産評価証明書、倍率は国税庁の「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」でそれぞれ確認できます。
中間農地は純農地よりも宅地に転用できる可能性が高い一方で、そのぶん土地の利用価値も高まります。そのため、中間農地の倍率は純農地よりも高く設定されるのが一般的です。
5-3.市街地周辺農地の評価方法
市街地周辺農地は、農地以外への転用が許可される地域にあるものの、まだ許可を受けていない農地です。相続税評価額は、市街地農地としての評価額に80%を乗じて算出します。
市街地周辺農地に該当する農地は、国税庁の「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」に掲載される倍率表に「周辺準」と記載されています。
5-4.市街地農地の評価方法
市街地農地は、転用の許可を受けている農地や許可を得なくても転用が可能な農地を指します。
市街地農地の相続税評価額は「宅地比準方式」で計算します。計算式は以下のとおりです。
相続税評価額
=(農地が宅地である場合の1㎡あたりの価額-宅地の転用に必要な1㎡あたりの造成費)×地積
宅地としての価額は、その地域の路線価(道路に面した土地の1㎡あたりの価格)をもとに計算します。
造成費用は、農地を宅地として使えるようにするための整地や土木工事などにかかる費用です。地域ごとに国税局長が定めており、国税庁の「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」で確認できます。
市街地農地は宅地化が容易なため、他の農地よりも評価額が高く算出されるのが一般的です。
なお、市街化区域内にある農地は、宅地基準方式の他にも倍率方式を用いて評価されることがあります。
5-5.生産緑地の評価方法
生産緑地とは、「生産緑地地区」として指定された市街化区域内にある農地のことです。市街化区域になる農地を計画的に保全し、良好な都市環境を形成するために生産緑地という制度が設けられました。
生産緑地の相続税評価額は、その土地が生産緑地でないと仮定したときの評価額を算出し、そこに一定の割合を乗じます。計算式は以下のとおりです。
相続税評価額 = (生産緑地でないとした場合の評価額) ×(1−控除割合)
控除割合は、相続税の課税時期(被相続人が死亡した日)に、市町村に対して買取りの申出ができるかどうかで異なります。
買取りの申出ができない生産緑地の場合、申出ができるようになるまでの期間に応じて控除割合が決められています。課税時期に、市町村長に対してすでに買取りの申出が行われている生産緑地や、買取りの申出が可能な生産緑地の場合、控除割合は一律5%です。
控除割合の一覧は、以下のとおりです。
買取り申出の可否 | 課税時期から買取りの申出をすることができる こととなる日までの期間と税率 |
---|---|
できない | 5年以下:10% 5年超~10年以下:15% 10年超~15年以下:20% 15年超~20年以下:25% 20年超~25年以下:30% 25年超~30年以下:35% |
できる | 一律5% |
※参考:国税庁「No.4626 生産緑地の評価」
6.相続した農地で農業を続けると税金が優遇される
農地を相続して農業を続ける場合、「農地等の相続税の納税猶予制度」という税金の優遇制度を利用することができます。この制度は、農地の相続税が高額になることで農地が売却されたり、農業が続けられなくなったりすることを防ぐために、1975年に設けられました。
納税猶予制度を適用すると、相続税の大部分の支払いを先送りにできます。さらに、納税を猶予された人が亡くなったときは、猶予されていた税金が免除されます。
以下では、この制度を利用するための要件や計算方法、申請手続きなどについて、詳しく解説していきます。
6-1.納税猶予の要件
相続税の納税猶予の特例が適用できる要件はいくつかありますが、主なものは次のとおりです。
- 被相続人が亡くなる日まで農業を営んでいた
- 相続税の申告期限までに相続人が農業を引き継ぎその後も継続する
- 被相続人が農業をしていた農地が相続税の申告期限までに遺産分割されている など
まず、被相続人が亡くなるまで農業を営んでいたか、農地を他の農業者に貸し付けていた必要があります。
次に、農地を相続する人(相続人)が、相続税の申告期限(被相続人が亡くなってから10ヶ月以内)までに農業経営を始め、その後も継続して農業を行わなければなりません。
相続する農地は、基本的に相続税の申告期限までに遺産分割が完了している必要があります。
納税猶予を申請する際は、要件を満たすことを証明するため、農業委員会から「相続税の納税猶予に関する適格者証明書」を取得する必要があります。
6-2.納税が猶予される税額の計算方法
納税猶予される税額は、通常の評価額で計算した相続税額のうち、農業投資価格で計算した相続税額を超える部分です。
農業投資価格とは、その農地を農業用として使用する場合の価格のことです。国税庁が地域ごとに定めています。一般的に10アール(1,000平方メートル)あたり20万〜90万円程度です。
たとえば、市街地にある農地で通常の評価額が1億円、農業投資価格が84万円の場合、その差額である9,916万円分の相続税が猶予されることになります。
納税が猶予された税額は、相続人が亡くなったときや、後継者に生前一括贈与した場合などに納税が免除される仕組みです。市街化区域内の一定の農地等については、相続税の申告期限の翌日から20年間、農業を継続した場合も免除の対象です。
納税猶予制度を使うことで、相続税の負担を大幅に軽減することが可能です。ただし、農地を譲渡したり農業をやめたりしたときは、猶予された税額と利子税を納めなければなりません。(一定の貸付をした場合はそのまま納税猶予が継続されることがあります)
6-3.納税猶予の適用を受ける方法
納税猶予の適用を受けるためには手続きが必要です。
まず、被相続人が亡くなってから10ヶ月以内に、相続税の申告書を税務署に提出します。この際、農業委員会が発行する「相続税の納税猶予に関する適格者証明書」を添付する必要があります。
また、猶予される税額と利子税(延滞金のようなもの)に見合った担保を提供しなければなりません。担保となるのは、相続した農地や他の不動産が一般的です。
納税猶予を受けた後は、3年ごとに「継続届出書」を税務署に提出する必要があります。この届出書には、農業委員会の証明書や農地の異動状況を記載した書類を添付します。
納税猶予の特例を受ける際の手続きは複雑なため、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
7.被相続人が残した農地がいらないときの選択肢
相続人の全員が農業を引き継ぐ意思がない場合、以下の選択肢が考えられます。
- 売却する
- 転用する
- 相続放棄する
- 相続土地国庫帰属制度を利用する
選択肢を1つずつみていきましょう。
7-1.農地のまま売却する
農地を貸し出すことが難しい場合や、宅地などに転用しても買い手が見つかりにくい場合は、農地のまま売却するのも1つの方法です。
農地のまま売却する場合は、農業委員会の許可(農地法第3条許可)が必要です。許可を受けずに売買契約を結んだとしても無効となります。
農地の買主となれるのは、原則として個人の農家または農業生産法人です。また、買主が農業経営に関する一定の要件を満たさない場合は許可されません。
食料を生産する際に農地は欠かせないものであり、農地法による制限を受けるため、宅地や建物などと比較して売却しにくいのです。
7-2.農地から他の用途に転用する
宅地など農地以外に用途変更(転用)して売却する選択肢もあります。農地を他の目的に転用できると、マンションやアパートなどの賃貸住宅を建てたり、駐車場などを設置したりして賃料収入を得られる可能性があります。また、住宅を建てるための土地(宅地)に転用をして売却することも可能です。
転用をするときは、農業委員会の許可(農地法第5条許可)が必要です。転用が可能かどうかは、「立地基準」と「一般基準」に基づいて可否が判断されます。
〇立地基準
農地区分 | 該当する農地の例 | 転用許可の方針 |
---|---|---|
農用地区域内農地 | 市町村の農業振興地域整備計画で農用地区域に指定された農地 | 原則不許可 |
甲種農地 | 農業生産基盤整備事業の対象となった農地、とくに生産性が高く重要な農地 | 原則不許可 |
第1種農地 | 集団的な農地(10ha以上)、農業公共投資の対象となった生産性の高い農地など | 原則不許可 |
第2種農地 | 小規模で生産性の低い農地、市街地として発展する可能性のある区域内の農地など | 第3種農地に立地困難な場合等に許可 |
第3種農地 | 都市的整備が進んでいる区域内の農地、市街地にある農地など | 原則許可 |
〇一般基準の概要(以下のいずれかに該当する場合は不許可)
- 転用の確実性が認められない場合
- 周辺農地への被害防除措置が適切でない場合
- 農地の利用の集積に支障を及ぼす場合
- 一時転用の場合に農地への原状回復が確実と認められない場合
農業委員会の許可を得て用途が変更できたとしても、農地を他の用途で使用するためには造成費がかかります。宅地に転用するのであれば、そこに家を建てて生活するときの利便性を考慮する必要があります。
生活するのに不便な立地であれば、買い手がつかないか、安い価格で売却する可能性を考えておかなければなりません。
7-3.相続放棄する
相続放棄とは、遺産を相続する一切の権利を放棄することです。相続放棄をすると、預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく、被相続人が残した借入金や未払金などマイナスの財産も承継しなくなります。
相続放棄をする場合は、被相続人の死亡から3ヶ月以内に家庭裁判所に申し立てます。相続税の申告・納税期限は、相続の開始を知った日(通常は被相続人が亡くなった日)の翌日から10ヶ月以内であるため、相続放棄をすべきかどうかはより早いタイミングで判断しなければなりません。
相続放棄をすると、農地だけでなく預貯金や不動産、株式などの遺産も受け取ることができません。また、相続人全員が相続放棄をしたことで、農地を管理する人がいない場合は相続財産清算人が選任され管理が引き継がれますが、それまでは管理義務が残ります。
7-4.相続土地国庫帰属制度を利用する
相続土地国庫帰属制度とは、相続や遺贈で取得した土地を国に譲渡できる制度のことです。農地もこの制度の対象です。
相続土地国庫帰属制度を利用するためには、一定の要件を満たす必要があり、法務局による現地調査も実施されます。また、利用の際は負担金を納めなければなりません。
まず、下記のような土地は相続土地国庫帰属制度の対象外です。
- 建物や管理・処分を阻害する工作物が存在する土地
- 土壌汚染や埋設物がある土地
- 危険な崖がある土地
- 権利関係に争いがある土地
- 担保権などが設定されている土地
- 通路など、他人によって使用されている土地 など
負担金は、土地の性質に応じた標準的な管理費用を考慮して算出した10年分の土地管理費相当額です。また、申請時には1筆につき14,000円の審査手数料がかかります。
申請先は、土地が所在する都道府県の法務局・地方法務局(本局)の不動産登記部門(登記部門)です。
相続土地国庫帰属制度であれば、不要な土地のみを手放すことができます。ただし、申請をしてから法務局の審査が完了するまで8ヶ月ほどかかるため、すぐに土地を手放せるわけではありません。
制度を利用するためには要件を満たす必要があり費用もかかるため、検討をする際は相続税専門の税理士や弁護士などに相談をするとよいでしょう。
相続土地国庫帰属制度について詳しくは、下記の記事で解説していますので、あわせてご一読ください。
8.農地を相続する際によくあるトラブル
ここでは、農地相続で多くみられる4つのトラブルについて詳しく解説していきます。
8-1.農地を相続する人が決まらない
亡くなった人が所有していた農地を、誰が相続するかなかなか決まらないケースは少なくありません。たとえば、各相続人が住んでいる場所と、亡くなった人が所有していた農地の距離が離れている場合、維持や管理をするのに手間や時間、費用がかかるために、誰が相続をするかで揉めやすくなるでしょう。
また、農地は一般的な宅地と比べて評価額が低くなりやすいです。農地を相続する人が、預貯金や不動産などの相続を求めても、他の相続人がそれを認めずトラブルが生じるケースも想定されます。
他にも、農地の他にめぼしい遺産がなく遺産分割が偏るような場合も、協議が難航しやすくなるでしょう。
8-2.農業を引き継ぐ相続人がいない
相続人の中に農業をしている人や経験者が1人もいない場合、誰も農地を欲しがらず、遺産分割協議が難航しやすくなります。
農業を引き継ぐ相続人がおらず農地の管理が放置されると、雑草が生い茂り、害虫・害獣が発生するなど、周辺の住環境に悪影響を及ぼしかねません。
たとえ誰かが相続をしたとしても、農業の知識や経験がない場合や遠方に住んでいる場合は、農地の適切な維持・管理は難しいでしょう。
農業を引き継げる相続人がいないのであれば、農地を売却するのも1つの方法です。しかし、農地は一般の不動産と違って売却先が農家や農業生産法人に限定されるため、簡単に買い手が見つかるとは限りません。宅地などに用途変更をして売却しようにも、農地があるエリアによっては転用が困難です。
8-3.農地を相続したあとの手続きが難航する
農地の相続手続きは、一般の不動産相続よりも手間や時間がかかりやすいです。法務局での相続登記に加えて、農業委員会への届出も必要なためです。
相続税評価額を計算する際は、農地の種類(純農地、中間農地、市街地農地など)に応じた方法を用いる必要があります。農業を続ける場合の相続税の納税猶予制度にも複数の要件が定められているため、評価額の算出や納税の猶予を受けられるかどうかの判断は、相続税の専門知識がなければ難しいでしょう。
農地を他の用途に変更(転用)する場合は、農業委員会の許可が必要であり、さまざまな要件を満たしていなければなりません。
そのため、農地の相続に関する手続きが思うように進まず、悩んでしまう相続人は多くいます。
8-4.農地の相続税が高くて払えない
面積が広い農地や市街地農地などは、相続税評価額が高くなり相続税の負担が予想以上に大きくなることがあります。
相続税を支払うために農地を売却しようとしても、農地法の制限により買い手が農家や農業生産法人に限定されるため、すぐに現金化することが難しい場合があります。
相続税の納税猶予制度をするためには、相続人が農業を続けなければなりません。相続人が農業を承継しないのであれば納税猶予制度は受けられないため、農地を相続すると税負担が過大になることがあります。
一般的な宅地であれば「小規模宅地等の特例」を適用して、土地部分の相続税評価額を最大80%減額できますが、農地は対象外です。
9.農地の相続におけるトラブルの対処方法
農地の相続では、さまざまなトラブルが生じることがあるため、対策をするのが望ましいです。ここでは、トラブルを防ぐためにできる対処方法をご紹介します。
9-1.生前に対策をしておく
農地に関する相続トラブルを防ぐためには、所有者が生前に対策をするのがもっとも効果的です。たとえば、相続人となる予定の親族が、誰も農地の相続を希望していないのであれば、所有者が健在なうちに売却をするなど、処分しておくのも1つの方法です。
相続人となる親族で均等に農地を分けたいときは、分筆する方法もあります。分筆とは、1つの土地を複数に分けて登記し直す手続きのことです。分筆をしたうえで、遺言書を作成し農地を相続する方法を指定すると、遺産分割協議をすることなく相続人が決まります。
自身が亡くなったときに遺産の大半が農地を占める場合は、生命保険を活用する方法もあります。農地の所有者自身が契約者(保険料負担者)と被保険者(保険の対象となる人)となり、農地を相続する予定の人を保険金受取人として生命保険に加入する方法です。
このような契約形態で生命保険に加入すると、農地の所有者が亡くなったとき、農地を相続する人は生命保険の死亡保険金を受け取ることができます。死亡保険金を原資として、農地を相続しない相続人に一定の金銭を支払って精算する「代償分割」により、公平な遺産相続ができる可能性があります。
9-2.相続税専門の税理士に相談をする
相続に関するトラブルを防ぐのに効果的な方法は、農地の評価額や家族構成、相続人となる親族の希望など、さまざまな要素で異なります。どの方法が適切か判断するときは、相続税や遺産分割などに関する専門知識が求められるため、生前に相続対策をする場合は相続税専門の税理士に相談することをおすすめします。
すでに相続が発生しており、遺産に農地が含まれている場合も、早急に相続税専門の税理士に相談をするとよいでしょう。相続税に精通した税理士であれば、農地の評価額や相続税を適切に計算してくれるだけでなく、どのように相続をするのがよいかアドバイスもしてもらえます。
また、相続税専門の税理士であれば必要に応じて、司法書士や弁護士を紹介してもらえる場合があります。
相続税の申告は、相続が開始された日の翌日から10ヶ月以内に済ませなければなりません。遺言書がない場合は、必要書類を集めて遺産分割協議を済ませ、農地をはじめとした遺産の評価額と相続税額を適切に計算し、申告書類を作成して手続きをする必要があります。
相続税の専門知識がないと、相続税の申告期限までに農地の遺産分割を終わらせて、申告手続きを済ませるのは非常に困難です。とくに、故人が生前に農地の相続トラブルについての対策をほとんど何もしていなかったときは、早急に相続税専門の税理士に相談することをおすすめします。
10.農地の相続に関する悩みは相続税専門の税理士に相談を
農地の相続では、土地の種類に応じた評価方法で相続税評価額を求める必要があります。また、相続税の納税猶予制度を活用するためには要件を満たしていることを確認し、適切に手続きをしなければなりません。そのため、農地を相続するときは、相続税の取り扱い経験が豊富な専門家に相談することをおすすめします。
税理士法人チェスターは、相続税申告実績が年間2,373件を超え、70名以上の相続税専門の税理士が在籍しています。農地の相続をする際の申告手続きや課題解決にも多数携わってきました。
土地を正確に評価し申告手続きを徹底的にサポートするだけでなく、税務調査対策にも万全を期します。さらに、グループ内の司法書士や弁護士との連携により、相続に関するあらゆる課題にワンストップで対応が可能です。
業界トップクラスの実績と専門性でサポートいたしますので、農地を相続する際は税理士法人チェスターまで、お気軽にご相談ください。
☑ 【査定無料!】農地の売却・有効活用をお考えの方はこちら>>
※この記事は専門家監修のもと慎重に執筆を行っておりますが、万が一記事内容に誤りがあり読者に損害が生じた場合でも当法人は一切責任を負いません。なお、ご指摘がある場合にはお手数おかけ致しますが、「お問合せフォーム→掲載記事に関するご指摘等」よりお問合せ下さい。但し、記事内容に関するご質問にはお答えできませんので予めご了承下さい。