贈与税は不動産の贈与にもかかる。仕組みや住宅取得資金贈与との違い
タグ: 特例・控除, 非課税
贈与税は不動産にも課税されます。適用できる控除の種類や、制度を利用するときの注意点をチェックしましょう。また親から不動産を譲り受ける際に必要な費用や、不動産取得資金の贈与を受ける場合の特例についても解説します。
目次 [閉じる]
1.不動産の贈与にかかる税金
不動産の贈与にはどのような税金がかかるのでしょうか?制度の概要や利用できる控除について見ていきましょう。
1-1.贈与税の概要と控除の種類
個人から財産の贈与を受けると贈与税が課税されます。課税方式は、大きく分けると暦年課税・相続時精算課税の2種類です。これらは贈与税の申告時に選択します。
ただし贈与を受けた全ての財産に贈与税がかかるわけではありません。贈与税が課税される財産は一定額の控除を受けられます。
暦年課税では、1年間に110万円の『基礎控除』を受けられます。そのため1年間に贈与を受けた財産が110万円以下であれば贈与税はかからず申告も不要です。
また夫婦間で居住用不動産(またはその購入資金)を贈与した場合には、最高2,000万円までの『配偶者控除』を利用できます。基礎控除と併用できるため、合計2,110万円まで贈与税がかかりません。ただし配偶者控除が適用されるのは、婚姻関係が20年以上継続した後の贈与に限られます。
1-2.不動産の贈与も贈与税の課税対象
贈与税の対象となる財産には不動産も含まれます。例えば2,000万円のマンションの贈与を受けたときには、基礎控除である110万円を差し引いた1,890万円が課税対象です。
相続税と比較し基礎控除額が少ない贈与税では、多くの不動産が課税対象となってしまいます。贈与税がかかる場合は、財産を受け取った人が贈与を受けた翌年の2月1日~3月15日に申告し納税しなければなりません。
1-3.一般贈与財産と特例贈与財産の違い
贈与を受ける財産は『一般贈与財産』と『特例贈与財産』の2種類に分けられます。特例贈与財産は、父母や祖父母といった直系尊属から贈与を受けた財産のことです。
受贈者は贈与を受ける年の1月1日時点で18歳以上であることが、条件として設定されています。一般贈与財産と比較して低い特例税率で計算されるのが特徴です。
一般贈与財産は特例贈与財産以外の贈与財産で、税額の計算では一般税率が適用されます。
1-4.定期贈与とみなされた場合の課税に注意
暦年課税の制度を利用すると、毎年110万円までは税負担なしで贈与を受けられます。この仕組みを利用し、毎年110万円の贈与を10年間続けると、贈与税がかからずに1,100万円の資金移動が可能です。
ただしこのケースは『定期贈与』とみなされ、後から課税される可能性があるため注意しましょう。定期贈与とはあらかじめ贈与する金額が決まっており、その金額に到達するまで分割して贈与する方法です。
先の例が定期贈与とみなされると、最初に110万円の贈与を受けた年に1,100万円に対して贈与税が課せられます。このとき基礎控除110万円分を差し引いた990万円が課税対象です。
贈与額を毎年変えたり贈与ごとに契約書を作成したりすると、定期贈与と判断されにくくはなりますが、心配であれば税理士に相談するのがおすすめです。
2.相続時精算課税制度を選択することができる
贈与税の課税制度には暦年課税のほかに、相続時精算課税があります。どちらを選ぶかは受贈者が自由に決められるため、それぞれの特徴を把握し適した制度を使いましょう。
2-1.2,500万円まで贈与税の課税なし
相続時精算課税を利用すると、18歳以上の子や孫が60歳以上の父母や祖父母から贈与を受ける場合に累計『2,500万円』まで贈与税がかかりません。2,500万円を超えた分は一律20%の税率です。
この制度を利用すると贈与税の負担を抑えられます。相続が発生する前に大きな財産の移転をしやすいのがメリットです。
ただし、この制度を利用して贈与した財産は、贈与者が死亡したときに相続財産に加算され相続税の課税対象になります。このときの相続税からは、2,500万円を超えた分の贈与税が差し引かれます。
2-2.暦年課税との併用や暦年課税への変更はできない
一度課税制度を相続時精算課税に設定すると、その後、指定した贈与者からの贈与はずっとこの方式で贈与税を申告することになります。暦年課税との併用や暦年課税への変更はできません。そのため暦年課税の基礎控除110万円が受けられなくなることを覚えておきましょう。
なお、2024年1月1日以降の贈与財産については、上記の2,500万円とは別に年間110万円の基礎控除を受けることができます。
相続時精算課税制度は贈与税の節約にはなりますが、相続税が課税されることになるため、税金の負担を少なくする効果を期待できない場合があります。その点も考慮した上で、どちらの課税制度を選ぶか決定しましょう。
3.親から不動産を譲り受けるときにかかる費用
不動産の贈与を受けるときには、贈与税のほかにも必要な費用があります。贈与税の計算方法とともにチェックしましょう。
3-1.贈与税の計算には主に評価額を使う
土地を相続した際には『評価額』を用いて贈与税を計算します。評価額を求める方法は2種類あり、路線価が定められている地域では路線価方式で求めるのが原則です。
路線価方式では、土地の面する道路に設定されている路線価を用い『路線価×土地の面積』で概算を求めます。路線価が定められていない地域では倍率方式で計算しましょう。『固定資産税評価額×倍率』で概算の評価額が分かります。
建物については、『固定資産税評価額』を利用しましょう。
3-2.マンションの贈与の場合
マンションの贈与でも、土地(敷地権)の評価額は路線価方式か倍率方式で計算します。ただしマンションでは敷地全てを所有しているわけではなく、持分が決まっています。そのため求めた評価額へ持分の割合を乗じて計算しましょう。
また建物の評価額は一戸建ての家屋と同様、固定資産税評価額を用いるのが基本です。
3-3.相続時と違い、不動産取得税も発生する
相続によって不動産を引き継いだ場合、課税される税金は相続税のみです。しかし贈与を受けたときには贈与税のほかに『不動産取得税』も課されます。
不動産取得税は不動産の取得時点で1回限り課税される税金です。2024年3月31日までは固定資産税課税台帳に記載された評価額に対し、土地や住宅は3%の税率が適用されます。
4.親子間売買をする場合
不動産を親から子へ生前に引き継ぐには、贈与以外に親子間売買をする方法もあります。ただし贈与では発生しない費用負担があるため注意が必要です。
4-1.売買により親子どちらも税金を支払う
贈与で不動産を譲るとき、贈与する側の親には費用が発生しません。必要なのは子が負担する贈与税と不動産取得税です。
しかし親子間売買では子だけでなく親にも税金が課されます。なぜなら不動産の売却により利益が発生すると、譲渡所得税の対象になるためです。
譲渡所得税は所有期間5年超で15%、5年以下で30%かかります。加えて復興特別所得税(所得税額の2.1%)や住民税(所有期間5年超5%、5年以下9%)も必要です。
適正な価格で売買を行った場合は子に贈与税は課せられませんが、不動産取得税はかかります。
4-2.みなし贈与には贈与税がかかる
親子間売買において、不動産を相場とかけ離れた低価格で売買すれば税金を節約できると考える人もいるでしょう。ただしこの方法は『みなし贈与』と判断されるため要注意です。
例えば2,000万円程度の価値がある不動産を100万円で売買するようなケースでは、1,900万円のみなし贈与が行われたとされます。当然みなし贈与分には贈与税が課税されます。
判断基準は法的に定められているわけではありません。目安として地価公示価格の8割以下での売買だと、みなし贈与と判断される可能性があります。不動産の親子間売買を検討する際は、注意点などを税理士に相談するのが賢明です。
5.親から住宅取得資金の贈与がある場合
不動産を贈与するのではなく、住宅取得資金を贈与するケースもあります。住宅取得資金を贈与する場合には、一定額まで贈与税が非課税になる制度があります。住宅取得資金の贈与の非課税とはどのような制度なのでしょうか?
5-1.一定額まで贈与税が非課税になる
住宅取得資金の贈与を父母や祖父母などの直系尊属から受けた場合、2023年12月31日までであれば、非課税の特例を利用できます。所定の条件を満たすことで、最大1,000万円までの贈与には課税されません。
一般の住宅よりも、省エネ性能などを満たした高機能住宅の方が、非課税限度額が大きいのが特徴です(一般の住宅500万円、省エネ等住宅1,000万円)。
5-2.細かな要件を満たさなければならない
贈与税の節約を考える際、非課税の特例は非常に役立ちます。ただし要件を満たさなければ利用できない点には注意しましょう。
まず資金を贈与されたら、その翌年の3月15日までに住宅の購入や新築をして遅滞なく居住しなければいけません。また住居は床面積40~240平米が対象です。
受贈者である子の年齢が贈与を受ける年の1月1日時点で18歳以上であることや、所得金額が2,000万円以下(住居の床面積が40平米以上50平米未満の時は1,000万円以下)であることもポイントといえます。加えて中古住宅を取得するときには、建築時期の要件や耐震基準を満たしていなければいけません。
5-3.購入済住宅のローン返済に使うお金は対象外
非課税の特例が適用されるのは、住宅の取得や増改築に使用する資金のみという点にも注意しましょう。同じ金額を贈与されたとしても、住宅ローンの返済に充てる資金は非課税にならず、通常の贈与として処理されます。
また、タイミングを考えて贈与を受けないと、特例の適用外になる場合もあるでしょう。贈与を受けた翌年の3月15日までに、あるいは同日以降遅滞なく居住しなければいけないため、そこまでに居住できるか事前に確認します。
後から期日に間に合わなくなる事態を避けるよう、贈与は居住開始の直前に受けるのがポイントです。
6.贈与制度の仕組みを理解して賢く活用を
不動産の贈与を受けた際にも贈与税は課税されます。暦年課税では、年間110万円までは基礎控除があるため贈与税がかからず、申告も必要ありません。
一方、相続時精算課税を選ぶと、累計2,500万円の特別控除があるほか、令和6年以降は年間110万円の基礎控除もあります。なお、相続時には相続財産に加えられるため、相続税の支払いが発生する方法です。
相続税を抑えるには、不動産として贈与するのではなく、住宅購入資金として贈与するのも一つの方法です。さまざまな要件を満たす必要はありますが、最大で1,000万円まで非課税にできます。
贈与税の仕組みは複雑です。どのような方法を選択すべきか迷っているなら『税理士法人チェスター』に相談するのもよいでしょう。
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