農業の事業承継と経営継承の違いを解説。スムーズな引き継ぎのコツも

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農業において事業承継を行う場合には、どのような点に注意するとよいのでしょうか?中小企業の事業承継との違いや、引き継ぐ際の形態、必要な準備などについて見ていきましょう。承継時に活用できる補助金についても解説します。

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1.農業の事業承継について

1.農業の事業承継について

農業の事業承継は、一般的に『経営継承』と呼ばれます。事業承継と区別されるのはなぜなのでしょうか?近年の農業の経営体や後継者の状況とともに紹介します。

1-1.事業承継と経営継承の違い

事業承継ではなく経営継承と呼ぶのは、農業の引き継ぎ方が一般的な中小企業の引き継ぎ方とは異なるためです。中小企業では事業の一部分のみを譲渡するケースもありますが、農業ではほとんどありません。

農地や農業機械などの経営資源とともに生産技術を引き継がなければ、事業として運営できないためです。そのため一般的な事業承継と区別し、以下の条件を満たした農業の引き継ぎを経営継承と呼びます。

  • 経営者の引退前後でも生産活動が連続している
  • 後継者が農業経営に必要な経営資源を引き継ぎ生産活動を行う

1-2.農業の経営体は減少傾向

農業を経営する法人や個人を合わせて『経営体』といいます。農業の経営体数は以下の通り推移しており、減少傾向です。

  • 2010年:167万9,000
  • 2015年:137万7,000
  • 2020年:107万6,000

ただし経営体のうち農業法人に限定すると、その数は増加しています。

  • 2010年:2万2,000
  • 2015年:2万7,000
  • 2020年:3万1,000

経営体の総数は減少していますが、一つの経営体の規模は大きくなりつつあるといえるでしょう。

参考:2020年農林業センサス結果の概要(確定値)|農林水産省

1-3.後継者が不足している

個人経営体が減り続けているのは、後継者が不足していることと関係しています。例えば水稲を行っている農業経営体は全体で71万3,792あるものの、そのうち3万644の経営体は5年以内に経営継承を予定しておらず、50万549の経営体は後継者を確保していません。

5年以内に経営継承を行う目的で後継者を確保しているのは、18万2,599の経営体のみです。50万を超える後継者不在の農業経営体にこのまま後継者が見つからなければ、さらに農業経営体は減少していくでしょう。

参考:農業センサス(表番号1,(11)5年以内の後継者の確保状況別経営体数)|e-Stat

2.経営継承の形態は3種類

2.経営継承の形態は3種類

後継者へ農業を経営継承する方法は、『親族内承継』『関係者への承継』『第三者承継』の3種類あります。3種類の経営継承の形態は、それぞれどのような違いがあるのでしょうか?

2-1.子どもや孫へ引き継ぐ親族内承継

従来の農業の経営継承は、親や祖父母から子どもや孫へ引き継ぐ親族内承継で行われていました。代々耕してきた田畑を引き継いでいく形態です。

しかし近年は価値観の変化もあり、子どもが親の農業を引き継がないケースが増えています。自分でやりたい仕事を見つけて取り組んでいるため、農業を引き継げません。

後継者不在の農業経営体が多いのは、従来の経営継承が行われなくなってきていることと関係していると考えられるでしょう

参考:事業承継における親族内承継とは。スムーズな会社の引き継ぎ方

2-2.従業員や新規就農者への承継

親族内承継に代わって増えているのが第三者承継です。農業法人であれば社内の共同創業者や役員が後継者となるケースや、従業員が内部昇格し引き継ぐケースがあるでしょう。

個人の場合は、新規就農者を後継者として経営継承する事例があります。新規就農は農林水産省でも促進している取り組みです。インターンシップや農泊など、新規就農を希望する人に農業を体験できる機会も設けられています。

参考:親族外承継と親族内承継におけるメリット・デメリット

2-3.M&Aによる第三者承継

M&Aによって第三者へ売却する方法もあります。大手企業がブランド化やコスト削減を目指し農業経営に参入するケースが増えており、注目されている経営継承の形態です。

ただしM&Aを行うには、買い手を見つけなければいけません。仲介会社やマッチングプラットフォームの利用や、弁護士・税理士などの専門家への相談が必要な場合もあるでしょう。

参考:中小企業に注目される第三者承継。会社売却で得られるものとは

3.経営継承に必要な準備

3.経営継承に必要な準備

経営継承を考え始めたなら、できるだけ早く準備を始めましょう。10年後を見据えて準備をするのが目安です。現状把握を行い後継者を選んだら、関係者にも周知します。

3-1.現状把握と方向性の確認

後継者へ経営継承したいと考え始めたら、まずは保有している資産を明らかにしましょう。有形資産はもちろん、目に見えない無形資産も明確にします。有形資産・無形資産の具体例は以下の通りです。

  • 有形資産:農地・農業用機械・資金など
  • 無形資産:生産技術・ノウハウ・販路など

現時点で何があるかを確認した上で、10年先へ向けた中期経営計画を定めます。農業を今後どのように展開していくのかはもちろん、売上高の目標も立てましょう

3-2.後継者の選定と育成

経営継承には後継者が必要です。親族内承継・従業員や新規就農者への第三者承継・M&Aによる第三者承継のうち、どの形態を採用するかを決め後継者を選びます。

選定後は後継者の育成を行う段階です。生産技術や農業用機械の扱い方について伝えるのはもちろん、経理や労務管理など事務に関しても引き継がなければいけません。併せて実際に農業に携わる経験を通し、後継者としての自覚を促すことも重要です

有形資産の引き継ぎは手続きで完了しますが、無形資産は後継者が身に付ける必要があるため承継に時間がかかります。早めに取りかかり、十分な期間を確保しましょう。

3-3.関係者に周知する

農業には親族・従業員・取引先・金融機関など、多くの人が関係しています。後継者を定めたら、関係各所へ周知しましょう。

何も知らせないまま経営継承を行うと、後継者は関係各所との信頼を築きにくくなってしまいます。場合によっては経営継承をきっかけに取引が終了する場合や、資金の返済を求められる事態もあるかもしれません

親族との友好的な関係が築けなければ、地域にうまくなじめず苦労する可能性も考えられます。このような事態を避けるため、引き継ぐ前に周知しておくことが重要です。

参考:事業承継に必須のスケジュール作成。いつ、どんなことを実施するのか

4.資産の引き継ぎをスムーズに実施する方法

4.資産の引き継ぎをスムーズに実施する方法

農業の資産を後継者へ引き継ぐ際には、『法人化』するとスムーズです。個人のままでは手続きが煩雑になり、順調に引き継げない契約も出てきます。

4-1.個人から後継者への資産の引き継ぎは煩雑

個人経営で農業を行っている場合、資産を後継者へ引き継ぐには事業譲渡を行わなければいけません。事業譲渡では資産や契約の引き継ぎに必要な手続きを、個別に実施します。

農地を引き継ぐには利用権を設定し直す必要があり、金融機関との契約も後継者が結び直さなければいけません。場合によっては、後継者との契約が認められないケースもあるでしょう。

資産や契約が多いほど手続きの手間がかかるのに加え、引き継げないリスクも高まります

参考:事業譲渡の目的、主な特徴とは。専門家の知識が欠かせない理由

4-2.法人化でスムーズな手続きを実現

資産の引き継ぎをスムーズに行うには、農業の法人化がおすすめです。法人であれば、全ての資産や契約を『株式譲渡』で後継者へ引き継げます

1/2を超える株式を保有すると、法人の経営権を取得した状態です。さらに2/3以上保有すれば、法人に関する重要な決定を単独で行える支配権を持った状態といえます。

そのため株式の譲渡を行うことで、事業譲渡のような手続きをする必要なく、法人を丸ごと後継者へ譲り渡せます。法人化した上で経営継承する場合には、以下の流れで進めるのが一般的です。

  1. 後継者とのマッチング
  2. 生産技術や業務を伝える研修
  3. 法人設立
  4. 後継者との共同経営
  5. 経営継承
  6. 引き継いだ後のフォロー

参考:株式譲渡にはどんな手続きが必要?契約や税金に関する基礎知識

5.経営継承時に利用できる補助金

経営継承をする際には、資金を用意しなければいけません。手続きの手間を減らすための法人化や、相続税や贈与税の納税が必要だからです。大きな資金が用意できず経営継承が滞ることのないよう、国や自治体は補助金を用意しています。

5-1.経営継承・発展支援事業

国と市町村からの支援を受けられる『経営継承・発展等支援事業』を利用すると、100万円を上限に補助を受けられます。農業経営体の経営継承を受け、『経営発展計画』の策定などの要件を満たしていれば、個人も法人も対象です

また補助を受けられる経費は以下の13種類と定められています。

  • 法人化
  • 新しい品種や部門などの導入
  • 認証取得
  • データ活用経営
  • 就業規則の策定
  • 経営管理の高度化
  • 就業環境の改善
  • 外部研修の受講
  • 販路開拓
  • 新商品開発
  • 省力化・業務効率化・品質向上
  • 規格などの改善
  • 防災・減災の導入

補助を受ける際には、市町村へ必要書類を提出し申請しましょう。

5-2.農業法人は法人版事業承継税制

農業法人であれば『法人版事業承継税制』の対象です。経営継承を行う農業法人が非上場会社であり、円滑化法の認定を受けている場合、後継者は法人の引き継ぎによって生じる相続税や贈与税の納税猶予を受けられます。

法人版事業承継税制を利用するには、満たすべき要件が複数あり複雑です。一度手続きをすれば終わりではなく、決められたタイミングで『継続届出書』を提出しなければいけません

正しく書類を提出できなければ、猶予されている税金に加え利子税も納める必要があります。手続きを確実に行うには『税理士法人チェスター』へ相談するとよいでしょう。

ただし農業法人の中でも、農事組合法人は法人版事業承継税制の対象外です。

事業承継コンサルティングなら税理士法人チェスター

5-3.個人は納税猶予と個人版事業承継税制

個人経営体なら『農地等にかかる税制特例』と『個人版事業承継税制』を組み合わせて利用できます。農地等にかかる税制特例を利用すれば、農地を一括で後継者へ贈与するときに贈与税の猶予を受けられます。

また後継者が農地を相続し引き続き農業に用いる場合には、農地として取引された場合の価格であると国税局長が認めた地価に対する相続税額と、本来の相続税額の差額が納税猶予の対象です。

加えて農地以外に引き継いだ資産は、個人版事業承継税制により贈与税もしくは相続税の納税猶予を受けられます。

農地等にかかる税制特例について詳しく解説している以下もぜひご覧ください。

農地の納税猶予の特例を利用すれば、相続税がゼロになる? – 相続税専門【税理士法人チェスター】

6.経営継承は計画的な実施がポイント

農業の事業承継は経営継承といいます。後継者への引き継ぎを希望しているなら、10年後を見据えて準備を始めましょう。まずは資産の棚卸しを実施し、有形資産・無形資産を明らかにします。

後継者の選定も必要です。親族内承継を実施するのか、従業員や新規就農者への第三者承継を行うのか、M&Aによる第三者承継を行うのかを決め後継者を決定します。その後は技術やノウハウを伝え後継者を育成するとともに、関係者へ周知しましょう。

経営継承には資金がかかるため、補助金をうまく活用するのもポイントです。補助金によっては要件を満たすのが難しい場合もあるため、税理士のサポートを受けるとよいでしょう。

税理士法人チェスターでは相続事業承継コンサルティング部の実務経験豊富な専任税理士が、お客様にとって最適な方法をご提案いたします。

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