株主間契約を締結するメリットは?作成時のポイントも解説
株主間契約(SHA)は、株主同士で締結する経営に関する契約です。株主間契約はどのような場合に結ぶのでしょうか?締結によってできることや、メリット・デメリットを見ていきましょう。契約書を作成するときのポイントも紹介します。
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1.株主間契約とは何か
複数の株主がいる場合に、経営について合意事項を定めるのが株主間契約です。あらかじめ合意事項を決めておけば、株主が複数いる場合にもトラブルを防ぎやすくなります。スムーズな経営の遂行に役立つ契約です。
1-1.経営に関する合意事項
株主の間で締結する経営についての取り決めを、株主間契約といいます。非上場企業の経営は、株主同士の信頼関係によって成り立つ側面が大きいものです。複数の株主がいても、親族や共同経営者など信頼できる相手であれば、経営上の問題は発生しません。
ただし信頼関係が失われた場合や、株式の相続・贈与などで株主が入れ替わった場合には、不都合が生じる可能性があります。経営に関する意見の相違から、重要な決定ができない可能性もあるでしょう。
株主間契約を締結しておけば、信頼関係が失われたときや、株主の交代・追加などに対応しやすくなります。
1-2.株主が複数存在する場合に役立つ
経営者が株式を100%保有している場合のように、株主が1人であれば、単独で議決権を行使できます。経営方針の違いから意見がぶつかることもなく、スムーズな組織運営が可能です。
一方、株主が複数いる場合には、経営方針の違いから重要事項についてなかなか決定できないケースもあるでしょう。場合によってはトラブルに発展する可能性もあります。
株主が複数いる場合でも、起こり得る具体的な事態を想定し、解決策を盛り込める株主間契約があれば、経営をスムーズに実施でき、トラブルの回避も可能です。
2.株主間契約でできること
株主間契約を結ぶと、株主の間で意見が分かれ経営に関する決定ができない状態になるのを防げます。また、経営に大きな影響を及ぼす株式譲渡ができないよう定めることも可能です。
何ができるか把握しておくことで、自社に適した活用ができるでしょう。
2-1.デッドロックの回避
複数の株主で意見が異なると、経営に関する決定ができない『デッドロック』の状態に陥る可能性があります。例えば議決権付き株式を1/2保有している株主が1人と、1/4ずつ保有している株主が2人いるケースで考えてみましょう。
1/2保有している株主と1/4ずつ保有している株主2人で意見が異なる場合、このままでは事態が進展しません。膠着状態が長く続けば、経営に悪影響を及ぼす可能性もあるでしょう。
このとき株主間契約において、『保有している議決権が一番多い株主の意向に従う』と定めてあれば、議決権を1/2保有している株主の意見に従って決定できます。デッドロックを避け、素早い意思決定が可能です。
2-2.株式譲渡の禁止
非上場企業の株式は、売買によって会社に大きな影響が及ぶかもしれません。例えば第三者に株式を売却すると、創業家と無関係の第三者が経営へ参画する事態も起こり得ます。
第三者が株式の買収を続けて保有割合を高めていくと、会社を乗っ取られてしまう可能性もあるでしょう。また株価が高まったタイミングで、会社に株式を買い取るよう株主が請求すると、会社は多額の現金を失います。経営資金が底をつくかもしれません。
小規模な会社の株式譲渡は、経営に与える影響が大きい取引です。思わぬ株式譲渡でダメージを受けることがないよう、株主間契約で株式譲渡を禁止するとよいでしょう。
3.株主間契約のメリット
会社経営における大まかなルールは、会社法で定められています。ただし個別具体的なケースを、すべて会社法で解決するのは現実的ではありません。
自由度が高く煩雑な手続きなしで締結できる株主間契約なら、会社の状況に合わせたルールを設定できます。また登記の手間や費用がかからず、少数株主の意見を取り入れやすくなるのもメリットです。
3-1.自由度の高いルールを設定できる
会社によって取り巻く状況はさまざまです。会社法のみですべての問題に対応するのは不可能でしょう。株主間契約であれば以下の内容をはじめ、会社にとって必要なルールを柔軟に設定できます。
- 取締役の決定権
- 株式の譲渡制限
- 株主間で同意が必要な事項・株主の決議事項に対する拒否権
- 会社の経営への関与
- 株式売却に関する権利
- 株主間で合意が行われない場合(デッドロック)の解決方法
具体的な状況を設定し対応策を定めておけるため、適切な対策を取りやすいでしょう。
3-2.煩雑な手続きが不要
重要な決定を行うにあたり、会社では株主総会決議を行います。例えば定款の変更には、株主総会の特別決議が必要です。
株主総会決議を開催するには、招集通知を発送したり決議する議題を確認したりしなければいけません。定款を実際に変更するまでには多くの手間と時間がかかります。
一方、株主間契約は株主同士の契約のため、株主総会決議の実施は不要です。当事者間で合意が形成されればよいため、煩雑な手続きが不要というメリットがあります。
3-3.契約内容は登記が不要
株主間契約で取り決めた内容は、当事者である株主同士の契約です。どのような契約内容なのかを登記する必要はありません。定款を変更する場合のように登記のための手続きが不要なので、手間も費用も発生しません。
また、取り決めの内容を第三者に知られることもありません。当事者間のみで締結内容を共有し、第三者には秘密にしておけるのもメリットです。
3-4.少数株主の意見も反映できる
会社経営に意見を反映するには議決権が必要なため、保有している議決権の少ない少数株主の意見は反映されにくいでしょう。しかし少数株主でもリスクを背負っている点は大株主と変わりません。
リスクを取っている分、経営に介入したいと考えるのは当然といえるでしょう。株主間契約を活用すれば、重要事項の決定を大株主のみで行える通常の仕組みとは異なる、少数株主の意見を反映しやすい仕組みを作れます。
4.株主間契約のデメリット
自由度の高い規定を定められる株主間契約ですが、違反が無効にならない点や、複数の契約が同時に存在すると複雑になりがちな点はデメリットです。二つのデメリットをくわしく見ていきましょう。
4-1.違反があっても無効にならない
株主間契約が有効なのは、契約を締結した当事者である株主同士のみです。契約内容に違反する行為をしたとしても、法的拘束力はありませんし、第三者への対抗もできません。
例えば、株主総会では反対票を入れないという内容の契約が締結されている場合でも、反対票を入れることは可能です。その結果として議決が否決されたとしても、その否決が無効になることはありません。
契約違反への救済措置が、損害賠償しかない点には注意しましょう。
4-2.複数の契約があると複雑になりがち
会社や株主の状況に合わせ、柔軟にルールを決められるのは株主間契約の良い点です。しかし株主ごとに異なる内容の契約を結び、複数の契約が存在する状態になると、さまざまな条件が共存し、複雑で分かりにくくなってしまいます。
株主の人数が増えて契約本数も増加すると、運営に必要な処理が複雑になり、扱いにくくなる可能性もある点に注意が必要です。
5.代表的な締結のタイミング
当事者間の契約である株主間契約は、必要性を感じたらいつでも締結できます。特に締結されやすいのは、創業時・資金調達時・M&A実施時・合弁会社設立時など、会社の節目となるタイミングです。
それぞれのタイミングで締結される株主間契約について、確認しましょう。
5-1.創業時
仲間と共同で会社を立ち上げるときには、共同経営者として複数人が株主になるケースがあります。株主が2人以上になる予定なら、創業時に株主間契約を締結しておくと、トラブルを避けやすいでしょう。
創業直後は方針が同じであっても、数年経つうちに考え方が変化するかもしれません。担当する仕事の違いから考え方にずれが生じてきた場合、意見が真っ向から対立して事態が動かなくなる可能性もあります。
また株主が退職するタイミングで、株式の買収を会社へ請求するかもしれません。あらかじめ株主間契約を締結してあれば、いずれの場合にも契約に基づいてスムーズに対応できます。
5-2.スタートアップの資金調達時
スタートアップの資金調達時には、慣例として株主間契約が締結されます。資金調達を株式発行により行うケースが多く、資金調達後の権利義務関係についての規定が必要になるためです。
新たに株主となる投資家は、最終的に株式を売却し利益を得ることを目的としているため、イグジットに関する条項が設けられます。
資金調達によって新たに株主になる投資家はもちろん、創業者をはじめとする既存株主も含め、株主全員で株主間契約を締結するのが一般的です。またスタートアップ時には株主間契約とあわせ、株式取得の条件を定める株式引受契約も締結されます。
参考:M&Aによるイグジットとは。IPOやバイアウトとの違い、注意点も
5-3.M&A実施時
M&Aを行うときにも、株主間契約を締結するケースがあります。例えば株式を100%保有していた経営者が、保有している株式のうち60%を第三者に売却すると、複数の株主が同時に存在する状態です。
第三者への売却のため、これまで何も関わりがなかった相手とともに会社経営を行うケースもあるでしょう。この場合、信頼関係に頼った経営ではトラブルに発展するおそれがあります。
株主間契約により経営上のルールが具体的に設定されていると、会社経営をスムーズに行いやすいでしょう。
5-4.合弁会社の設立時
2社以上が集まり特定の事業を行う合弁会社を設立する際にも、株主間契約が役立ちます。複数の異なる会社が資本を出し合って事業を行う合弁会社は、細かなルールが必要です。
ルールのないままに経営をスタートすると、トラブルに発展しやすいでしょう。口頭で確認している内容もあらためて書面にし、関係する全社が確認した上で契約を締結します。
6.契約書を作成するポイント
株主間契約を締結するには、契約書の作成が欠かせません。作成するときには雛形を参考にしつつ、自社の状況に合う内容に変更しましょう。また法的にリスク回避に役立つ内容になっているか、リーガルチェックを受けるのもポイントです。
6-1.雛形をベースにアレンジする
契約書を作成する際には、雛形をベースにすると作りやすいでしょう。『株主A・株主Bは、保有する株式会社○○の株式に対し、以下の株主間契約を締結する』といった冒頭文を記載し、目的・保有株式の譲渡・契約の終了など必要な条項を設定するのが一般的です。
契約内容は会社の状況や株主の構成によって異なるため、雛形をそのまま使ってはいけません。書き方や形式を参考とするにとどめ、内容はアレンジする必要があります。
例えばデッドロックを回避するには、意見が対立し議決権が割れ、事態が膠着状態に陥ったときの決定方法を盛り込みます。
6-2.リーガルチェックを受ける
作成した契約書は必ずリーガルチェックを受けましょう。一見問題がない契約書でも、弁護士がチェックすると、期待する効果が得られない可能性や、思いもよらないリスクが洗い出されるケースもあります。
契約を締結していても、実際に問題が発生したときに契約が無効になる内容では意味をなしません。弁護士に契約書のチェックを依頼すれば、不利になる可能性のある条項や抜け漏れのある部分が指摘され、会社や株主の状況に応じた内容になるよう提案を受けられます。
リーガルチェックを受けるときには、企業の法務にくわしい弁護士に依頼するとよいでしょう。
7.株主間契約はスムーズな経営に役立つ
複数の株主で会社を経営する場合には、株主間契約を締結するのがおすすめです。信頼できる相手との共同経営であれば、問題は発生しないかもしれません。しかし、信頼関係になんらかの理由でひびが入った場合はどうでしょうか?
第三者に株式を売却すると、これまで関わったことのない相手とともに経営にあたらなければいけない事態も起こり得ます。あらかじめ具体的なルールがあった方が、スムーズに経営しやすいでしょう。
また株主間契約を締結する上で、作成した契約書のリーガルチェックを受けると思わぬリスクを回避できます。問題がないように見えたとしても、弁護士に依頼しチェックを受ければ、抜けや漏れがある部分を修正した、隙のない契約書の作成が可能です。
株主間契約を結ぶ代表的なシーンに、M&Aの実施時があります。M&Aでは税務に関する調査も必要になるでしょう。税理士法人チェスターでは、相続事業承継コンサルティング部の実務経験豊富な専任税理士が、お客様にとって最適な方法をご提案いたします。
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