有限会社は相続で引き継ぎできる?出資持分、事業承継税制とは
タグ: #M&A有限会社の事業承継は相続での実施が可能です。具体的にどのような手続きで相続できるのでしょうか?相続時にかかる税金や、税金の負担を抑えるための方法も確認します。また相続人が事業承継しない場合に行う、売却や清算についても見ていきましょう。
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1.特例有限会社の相続とは
会社法の施行により、2006年に有限会社は廃止されました。それ以降、有限会社は手続きにより株式会社へ変更するか、何もせず特例有限会社として存続しています。特例有限会社は、何が相続の対象となるのでしょうか?
1-1.出資持分が相続の対象になる
相続で特例有限会社を引き継ぐ場合、対象となるのは『出資持分』です。会社法の施行により、出資者の社員は株主とみなされ、出資持分は株式会社の株式と考えられることとなりました。
そのため出資持分だとしても、株式を相続して引き継ぐ場合と同じように相続できます。ただし株式を引き継いだ場合のように、自動的に経営権を獲得できるわけではありません。
1-2.遺産分割協議を行う
出資持分を相続する際には、相続人全員で誰がどの財産を引き継ぐか話し合う『遺産分割協議』を実施します。出資持分以外の預金や不動産なども含め、財産の分割割合を決定しましょう。
ここで注意が必要なのは、出資持分の分散です。後継者以外に相続人がいるにもかかわらず、出資持分以外に相続財産がほとんどない状態では、経営に携わらない相続人からも出資持分の相続を求められるかもしれません。
確実に後継者が出資持分を引き継ぐには、『遺言書』や『生前贈与』による対策が必要です。また『経営承継円滑化法』の遺留分に関する民法の特例を活用し、遺留分の計算に出資持分を含めないよう合意しておくとよいでしょう。
参考:有限会社の相続税は株式が対象-税金を抑えるコツは生前贈与の活用
2.有限会社の株式と経営権を相続する手続き
有限会社の出資持分は株式とみなされ、相続で後継者へ引き継げます。ただし出資持分を引き継いだとしても、株式会社の株式のように経営権を得られるものではありません。有限会社の出資持分と経営権の相続手続きを、それぞれ紹介します。
2-1.出資持分名義の変更
相続によって取得した出資持分は、有限会社の譲渡承認を得ることなく、相続人である後継者の保有となります。ただしこのままでは、出資持分の承継が発生したことを関係者や第三者へ主張できず、権利行使もできません。
そこで『持分証書』『名義書換請求書』を会社へ提出し、出資持分名義を後継者へ変更します。
2-2.株主総会の決議で経営権を得る
経営権を取得するには、会社の意思決定機関である『社員総会(株主総会)』によって、経営者(取締役)に選任されなければいけません。先代の経営者が出資持分100%であれば、後継者も出資持分100%による引き継ぎが可能です。
そのためスムーズに経営権の引き継ぎも完了するでしょう。また定款を変更すれば、代表取締役単独による経営者の選任も可能です。
3.事業の相続にかかる税金
出資持分を相続すると相続税が課されます。どのように計算するのか見ていきましょう。相続税額を計算するのに用いる出資持分の評価方法も確認します。
3-1.相続税の計算方法
相続税額を計算するには、まず相続人ごとに相続税が課される遺産の金額の計算が必要です。この金額を相続人分足し合わせたら、『3,000万円+(600万円×相続人の人数)』で算出できる『基礎控除額』を差し引きます。
この金額が課税遺産総額です。課税遺産総額を法定相続分で各相続人に案分し、以下の速算表へ当てはめて相続人ごとの税額を求めます。その税額の全員分の合計を各相続人が取得する財産の割合に応じて案分すると、各相続人の相続税額が分かります。
相続財産の取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
参考:【相続税の基礎控除】計算式・相続税申告の要否・注意点も解説
3-2.出資持分の評価方法は?
具体的にどのくらいの相続税がかかるかを調べるには、出資持分の評価額が分からなければいけません。有限会社の企業価値評価ができれば、評価額の算出が可能です。評価の仕方は会社の規模により異なります。
規模の大きな会社は、同業種の株価を参考にする『類似業種比準方式』を、規模がそれほど大きくない会社は、類似業種比準方式と『純資産価額方式』の併用か、純資産価額方式のみを用いる場合もあります。
ただしこれは、経営者の子どもといった親族が相続した場合に適用される評価方法です。親族以外の従業員や第三者への承継の場合には、異なる評価方法を用います。
参考:相続税の計算で株式はどのように評価する? 上場株式と非上場株式の評価方法を解説
出資持分の価値評価は複雑なため、事業承継の実績が豊富な『税理士法人チェスター』への相談がおすすめです。
4.事業承継税制の適用が受けられる場合も
相続税は最大55%もの税率が課されます。後継者によっては納税に必要な資金を用意するのが難しいケースもあるでしょう。相続税の負担を抑えるには『事業承継税制』を活用するのも一つの方法です。
参考:事業承継税制とは何か。活用できる人や納税猶予を受けるまでの流れ
4-1.後継者の税負担を軽減する制度
通常であれば、相続税は相続の発生を知ってから10カ月以内に納めなければいけません。さらに資金が手元になく納税が遅れると、延滞税が発生します。納税のために借入が必要なケースもあり、事業承継が進まない原因でもありました。
事業承継税制を活用すると、相続税の負担を抑えられます。納税資金を工面できず事業承継を断念するケースや、納税によってその後の経営に支障をきたすケースを減らせるでしょう。
4-2.相続税が猶予され、最終的に免除になる
要件を満たし事業承継税制を活用できると、相続税の納税を『猶予』されます。加えて後継者が死亡したときや、次の後継者へ事業承継税制を用いて出資持分を贈与した場合は、納税の『免除』も可能です。
うまく利用すると、相続税の負担ゼロで事業承継を実現できるでしょう。ただし満たすべき要件が多く複雑なため、自社のみで対応するのは難しいはずです。
スムーズに利用の手続きを行うには、事業承継に関する実績が豊富な『税理士法人チェスター』へ相談するとよいでしょう。
『事業承継税制』について詳しくは、以下の記事もぜひご覧ください。
自社株式の生前贈与・相続税が無税になる事業承継税制の特例を徹底解説
5.相続人の中に後継者がいない場合は?
経営者の子どもなどの法定相続人にあたる人物の中に後継者がいれば、相続によって事業承継できます。しかし相続による事業承継ができないという状況もあるでしょう。その場合、売却による引き継ぎや、会社の清算を検討しなければいけません。
5-1.第三者への売却
出資持分は株式と同じように売却できます。そのため相続人の中で後継者が決まらなければ、第三者へ売却する『第三者承継』を用いるのもよいでしょう。
特例有限会社の出資持分の売却は、株式譲渡に制限を設けている株式会社の株式譲渡と同じ手順で行われます。株式会社では取締役会の決議で決定されますが、特例有限会社では原則として取締役会を設置できません。
そのため出資持分譲渡の承認は、株主総会の普通決議で行われます。また売却価格は『時価純資産額+2~5年分の営業利益』で算出されるケースが多いでしょう。
参考:中小企業に注目される第三者承継。会社売却で得られるものとは
5-2.会社を清算する
相続人が後継者にならず、第三者への承継も行われない場合には、『会社清算』の手続きを行い有限会社を解散します。ただし会社清算の手続きは多岐にわたるため、これまで事業に携わっていなかった相続人が行う場合、難易度が高いでしょう。
また、他の相続財産も含め、引き継ぐ権利を放棄する『相続放棄』を行う方法もあります。相続放棄し相続人がいなくなったとしても、財産債務の管理は必要です。
そこで検察官や会社の債権者といった利害関係者の申立により、家庭裁判所が『相続財産清算人』を選び、清算手続きを行います。
参考:会社売却の主な手法や会社清算との違い。メリット、デメリットも紹介
6.事業承継の方法を十分に検討しよう
有限会社の出資持分は、株式会社の株式と同じものとみなされています。そのため出資持分の譲渡による事業承継が可能です。経営者の子どもといった相続人が後継者であれば、相続によって承継できます。
ただし相続税がかかる点に注意しましょう。場合によっては多額の納税資金の用意が難しく、事業承継が進まない可能性もあります。資金を用意しておくことに加え、事業承継税制の活用を検討し、準備を進めておくとよいでしょう。
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