M&Aで知っておきたい「のれん」の意味。仕組みや会計処理も解説

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M&Aで企業を買収する際、買収価格にはのれんが加味されます。のれんはどのような性質を持っているのでしょうか?計算方法や会計処理についても見ていきましょう。また、会計上ののれんと扱いの異なる税務上ののれんの損金算入についても解説します。

1.M&Aで発生するのれんとは

1.M&Aで発生するのれんとは

のれんはM&Aの買収価格と企業の純資産額の差を表しています。ただし計上されないケースもあるため注意が必要です。まれに純資産額の方が買収価格より大きくなることで、負ののれんが発生するケースもあります。

1-1.「対象会社の純資産額」と「買収価格」の差

M&Aの買収価格は、対象企業の純資産額と同額になるとは限りません。この差がのれんで『超過収益力』とも呼ばれます。ただし全てのM&Aでのれんが計上されるわけではありません。

企業単体を株式譲渡で買収した場合、買収価格を計上する際には『子会社株式』とします。純資産の金額を計上しないため、買収価格と純資産額の差であるのれんは発生しない仕組みです。

同じ株式譲渡でM&Aを実施した場合でも、連結会計では子会社株式と純資産を比較するため、その差をのれんとします。また事業譲渡によるM&Aも、のれんが発生する取引です。

1-2.買収価格には無形固定資産が含まれる

のれんが発生するのは、買収価格にブランドやノウハウ・取引先との関係性などの『無形固定資産』が含まれるからです。無形固定資産は資産として帳簿に計上されませんが、企業の利益に大きく影響するため買収価格に含まれます。

ユーザーに人気のブランドや、業界随一の技術を持つ企業であれば、たとえ高いのれんを支払っても、将来的には相応の収益を得られるでしょう。将来の収益を見越しているため、買収価格は大きくなります。

そのため一時的に出費が増加しますが、より大きな収益を得るための先行投資といえるでしょう。

1-3.負ののれんとは

M&Aを実施するときには、純資産額より買収価格が低くなるケースもあります。このときの差額が『負ののれん』です

価格が純資産額より低くなるならば、売り手はわざわざM&Aで売却するより廃業した方が合理的でしょう。それでもM&Aを選ぶのは、廃業時には資産を適正価格で売却できないケースが多いからです。加えて、専門家への報酬も用意しなければいけません。

資産のたたき売り状態になることや負担を考えると、負ののれんが発生してもM&Aで売却したいと考える経営者は大勢います。

また訴訟リスクといった将来発生する可能性のあるリスクを見越し、M&A価格が割り引かれることで、負ののれんが発生するケースもあるでしょう。

2.のれんの減損とは

2.のれんの減損とは

高額なのれんを支払うと、将来的にのれん代を回収できない可能性もあります。支払ったのれんに見合う収益を得られない場合には、のれんの価値を正しく修正する処理が必要です。

2-1.のれん代が回収できないときの損失

当初計上したのれん代が回収できない場合は、のれんの価値が減少もしくは失われたと考えられます。資産の価値が減ったり失われたりした際は、正しい価値に修正しなければいけません。

それは減損の状態が目に見えないのれんも同様です。そこで正しい価値に書き直します。このとき元々計上されていたのれんと、書き直したのれんの差額が『のれんの減損』です。

2-2.高値づかみなどが原因

のれんの減損が発生する原因として代表的なのは、『高値づかみ』と『統合の失敗』です。無形固定資産の価値を高く評価していれば、その分のれんは大きく見積もられます。しかしその評価が必ずしも正しいとは限りません。

現時点で毎年コンスタントに1億円の売上があったとしても、今後も同じ売上が毎年続くと判断できるかは難しい点です。売り手にとっては長年大切にしてきた事業のため、できるだけ高く売りたいという心理も働くでしょう。

結果として高値で買収すると、のれんの減損が発生する可能性が高まります。またM&A実施後にうまく組織同士を統合できないと、当初期待していた収益が得られません。その結果として発生するのれんの減損もあります。

3.のれんの価値の計算方法

3.のれんの価値の計算方法

買収価格と純資産の差がのれんです。そのため通常はのれんそのものを単独で計算することはありません。まずは企業価値評価(バリュエーション)によって企業全体の価値を算出します。

企業価値評価の手法はさまざまで、インカムアプローチやコストアプローチが代表的です。

3-1.全体の価値を算定する

のれんの価格は買収金額から純資産の価値を差し引いて計算します。そのため、まずは企業全体の価格を把握しなければいけません。

企業の価格を知るために実施するのが企業価値評価です。評価方法は『インカムアプローチ』『コストアプローチ』『マーケットアプローチ』など複数あるため、企業の状況に合わせて適切な方法を選びます

1種類の方法だけで評価する『単独法』のほか、複数の方法を組み合わせる『併用法』や『折衷法』を用いる場合もあります。

参考:M&Aのバリュエーションとは。目的やタイミング、手法を解説

3-1-1.インカムアプローチ

企業価値評価の方法としてよく用いられているのが『インカムアプローチ』です。経営計画をもとに、将来得られる見込みの利益を加味して評価します。

現時点ではそれほど大きな成果が出ていない企業でも、これから期待できる収益をもとに価値を評価できる方法です。そのため今後の成長が見込めるベンチャー企業の価値評価に向いています。

インカムアプローチの中でも代表的な『DCF法』には、営業利益・支払利息・税金など複数の要素が盛り込まれており、総合的な評価が可能です。

参考:ターミナルバリューをわかりやすく解説。DCF法も把握しよう

3-1-2.コストアプローチ

客観的に評価しやすいのは『コストアプローチ』です。純資産をもとに企業価値を計算します。将来の収益を考慮しないため、事業予測が立てづらい企業の価値評価に向いているでしょう。

コストアプローチは2種類に分けられます。帳簿上の資産額をもとに算出する『簿価純資産法』は、含み益や含み損により、実態と異なる価格が算出されやすいため一般的にはあまり利用されません。

資産の時価から営業債務や有利子負債を差し引いて算出する、『時価純資産法』がよく用いられます。

3-1-3.マーケットアプローチ

対象企業と似た企業を参考に価値評価するのが『マーケットアプローチ』です。参考にした類似企業の売上高・営業利益・EBITDAなどの指標をもとに計算します。

類似企業が対象企業に似ているほど、価値評価の精度が高まるのがポイントです。類似企業の選び方によって結果が異なるため、通常は複数の類似企業を用意します。

上場している類似企業の株価を参考にする『マルチプル法』が代表的です。

参考:マーケットアプローチの特徴。マルチプル法の計算方法、指標など

3-2.年買法での算出方法

年買法は企業価値の算出方法の一つで、『純資産+利益の1~5年分』で計算します。複雑な計算をしなくても企業価値を求められるため、中小企業のM&Aでよく用いられています。

超過収益力として利益の1~5年分を加えており、これをのれんと考える方法です。利益は直近数年分の平均値を計算して求めますが、どの期間の平均値を計算するかは明確に決まっているわけではありません。

4.のれんの会計処理

4.のれんの会計処理

M&Aを実施すると、株式譲渡を行い単体会計で処理したときを除き、のれんが発生します。発生したのれんは資産として扱わなければいけません。また消費税の課税対象でもあります。

4-1.資産として計上する

まずはのれんの価格を計算しましょう。そのために必要なのが企業価値評価です。年買法やその他の評価方法で、買収する対象会社の価値を算出します。

算出した企業価値を、買収価格から差し引いた金額がのれんです。のれんの金額が分かったら、『のれん』として借方へ記載し資産とします。貸方にはのれんの支払いに使った『預金』『借入金』『買掛金』などを計上しましょう。

4-2.消費税の課税対象

のれんは固定資産のため、消費税の課税対象です。そのため借方へ『仮払消費税』、貸方へ『現金』や『預金』などとして計上します。

企業によっては、ブランド力を売りにしており、資産のほとんどをのれんが占めるケースもあります。この場合、買い手には消費税の負担が重くのしかかるでしょう。

消費税の負担を避けるには、不課税取引に分類され消費税がかからない『会社分割』でM&Aを実施するのも一つの方法です。

参考:会社分割とは何かわかりやすく解説。メリット、デメリットは?

5.のれんは減価償却が必要

5.のれんは減価償却が必要

資産は、使用しているうちに少しずつ価値が減っていくものと考えられています。そのため減価償却が必要です。無形固定資産ののれんも減価償却を行います。処理する際のルールを確認しましょう。

5-1.定額法を使って償却

減価償却には『定額法』と『定率法』の2種類があります。

  • 定額法:毎年一定金額を費用計上するため計画を立てやすい
  • 定率法:毎年一定割合ずつ費用計上するため購入直後の利益を下げやすい

2種類の減価償却方法のうち、無形固定資産に適用されるのは定額法です。そのため、のれんの減価償却は定額法で行います。

例えばのれんが1,000万円で減価償却期間が10年間なら、毎年100万円ずつ『のれん償却費』として費用計上する仕組みです。

5-2.償却期間は20年以内で設定

固定資産は耐用年数が定められており、それに基づいて減価償却を実施します。のれんの場合は『20年以内』と定められているため、期間の範囲内で妥当な年数を設定し償却期間を決めましょう。

償却期間を設定する際、まず考慮するのが『投資回収期間』です。買収にかかった資金の回収にかかる期間を基準に、償却期間を設定するとよいでしょう。

例えば5,000万円で買収した企業が1年間で1,000万円のキャッシュフローを生み出すなら、回収までにかかるのは5年間のため、償却期間を5年間とします。償却期間が回収期間より短いと、資金繰りがうまくいかないかもしれません。

また、のれんの重要性も考慮します。例えば重要性の低いのれんは、5年間で償却するという会計方針を定め、方針に合わせ処理するケースです。

6.税務上のれんは損金算入できる?

6.税務上のれんは損金算入できる?

のれんには会計上ののれんのほかに、税務上ののれんもあります。税務上ののれんと認められた場合は損金算入が可能です。ただし損金算入できるのは、事業譲渡や非適格再編でM&Aを実施した場合に限られます。

6-1.資産調整勘定として処理する場合がある

会計処理上でのれんと呼ばれる費用は、税務上では『資産調整勘定』に該当します。ただし会計上ののれんだからといって、全てが資産調整勘定となるわけではありません。

資産調整勘定として計上できる税務上ののれんとして扱うには、法人税法で定められている手法でM&Aを実施している必要があります

特定の手法で行われた取引で発生したのれんであれば、『資産調整勘定の当初計上額×事業年度の月数÷60カ月』に当てはめ損金額の計算が可能です。

6-2.資産調整勘定が発生するM&Aスキーム

資産調整勘定を用い税務上ののれんとして計上できるのは、『事業譲渡』や『非適格再編』によるM&Aを実施した場合に限定されます。非適格再編とは、組織再編するときに用いられる合併・分割・株式移転などのうち、適格要件を満たさない行為です。

そのため、中小企業のM&Aでよく実施される株式譲渡を用いたケースは、資産調整勘定として税務上ののれんを計上できる取引の対象外です。

また事業譲渡や非適格再編を用いたM&Aであっても、全ての事業を買収した場合には当てはまりません。税務上ののれんと認められるのは、事業の一部のみを買い取る場合に限られます。

参考:組織再編税制の適格要件と注意点。「知らなかった」でペナルティも

7.対象会社の価値を見極めて交渉を進めよう

7.対象会社の価値を見極めて交渉を進めよう

M&Aを実施すると、対象企業の資産価値と買収価格の間に差が生じる可能性があります。この差がのれんです。のれんは資産価値を超える超過収益力とも言い表せます

対象企業の持つブランド力やノウハウ・技術力・従業員の経験・取引先との関係性など、無形固定資産が含まれているのが特徴です。のれんはあくまでも差のため、計算するにはまず、企業の純資産額を算出しなければいけません。

算出した純資産額を買収価格から差し引くことで、のれんが分かります。計算したのれんは資産として会計処理し、20年以内の設定した期間において減価償却を行います。

また消費税の課税対象のため、場合によっては税額の負担が大きくなるケースもあるでしょう。税金対策をはじめ、後継者問題やM&Aについてお悩みなら、事業承継対策の専門家に相談するのがおすすめです。

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