事業承継対策に活用される従業員特殊会。メリット、デメリットを解説

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事業承継では株式の贈与や相続が発生します。このとき活用できるのが『従業員持株会』です。贈与や相続にかかる税金対策として有効な手段と言えます。安定株主の確保にも役立つでしょう。リスクやポイントを押さえた活用の可能性を紹介します。

1.従業員持株会とは

1.従業員持株会とは

従業員が自社株を取得するために設置するのが従業員持株会です。従業員にも会社にもメリットがあるため、導入している企業も多くあります。事業承継対策としての活用法を理解するために、従業員持株会の基本的な知識を確認しましょう。

1-1.従業員の自社株取得を可能とする制度

会社が従業員に自社株の取得を許可する制度を『従業員持株制度』と言います。株式取得の資金として、会社が給与からの控除や奨励金の支給などを実施するケースもあります。

取得をサポートするのは、会社にとっても事業承継対策ができるといったメリットのある制度だからです。日ごろの働きが業績向上につながり株価に影響を及ぼすことから、従業員のモチベーションアップにも役立つでしょう。

従業員持株制度の運用には、民法上の組合である従業員持株会が設置されます。

1-2.制度を利用する会社の割合

従業員持株制度を利用する会社は多く、上場企業ではほとんどが取り入れています。従業員の規模が大きくなるほど導入している企業の割合が高まりますが、中小企業でも規模を問わず1割程度の企業が導入を検討しているとされます

会社にメリットのある従業員持株制度は、従業員にとってもメリットがあり、福利厚生として位置付けられています。従業員は株の取得や保有により、利益が出ると配当を受け取り可能です。

長期的な保有によって効果的な資産形成が期待できます。小規模な会社でも取り入れやすいため、福利厚生に組み込むことで他社との差別化に生かしやすい制度です。

2.事業承継の節税対策になる

2.事業承継の節税対策になる

事業承継を実施するときには株式・資産の贈与や相続が発生します。そのため単に引き継ぐだけでなく税金が発生します。株価や株式の数量によっては、税金が大きな負担になるでしょう。従業員持株制度は事業承継の節税対策としても有効です。

2-1.事業承継で発生する税金

株式や資産の生前贈与には『贈与税』が、相続には『相続税』がかかります。事業譲渡のために株式や資産を引き継ぐと、後継者は多額の税金を負担しなければいけません。

中小企業の事業承継であれば『事業承継税制』の利用で、相続税の猶予を受けられます。しかし制度を利用するためには、会社を経営し続けなければいけません。

経営を取り巻く環境の変化が激しい昨今、現時点で順調な経営ができているとしても、倒産のリスクは常にあります。仮に倒産し事業承継税制が打ち切られると、猶予されていた相続税と合わせて『利子税』の支払いも必要です。

承継時点で相続税を支払うより、納税の負担が大きくなります。

2-2.従業員持株会で相続資産額を減らせる

そこで検討したいのが、従業員持株制度を利用した税金対策です。現時点で経営者が100%株式を保有しているなら、従業員持株会を設置して何割かを譲渡します。

すると譲渡した分の財産を減らせるため、贈与税や相続税の金額を抑えられる仕組みです。特別議決権に影響が出ないよう、2/3以上の株式を経営者が保有する割合で譲渡します。

社外へ株式を流出させることなく相続財産を減らし、税負担を軽減できる方法です。加えて従業員持株会へ譲渡する株式は、売却価格を低く設定できると税法上認められています。

そのため受け取った譲渡対価によって相続財産が増える事態も予防可能です。

3.第三者の経営への介入を防げる

3.第三者の経営への介入を防げる

事業承継時の税負担を抑えるためとはいえ、やみくもに第三者へ株式を売却すると、会社としてのスムーズな意思決定に影響を及ぼしかねません。従業員持株会に株式を譲渡すれば、安定株主を得つつ、相続トラブルの回避も可能です。

ただし経営面でのリスクがあるため、あらかじめ対策しておくと良いでしょう。

3-1.安定株主を確保する

従業員持株会によって従業員が自社の株式を保有すると、従業員の頑張りにより業績が上がるほど、従業員は多くの利益を受け取れます。会社にとって従業員は、利害が一致した『安定株主』になり得る存在です。

働き続けている限り、長く安定して株式を保有してもらえるでしょう。ただし退職後は第三者となるため、株式が分散するリスクが高まります。

このようなリスクには、退職時に自社株式を持株会へ譲渡するよう規定すれば対策できます。また『勤続年数○年以上』『正社員』など、対象者を明確にしておくのも有効です。

3-2.相続トラブルを防ぐ

安定株主を従業員持株会で確保できると、経営者と安定株主の保有する株式の合計数が議決権割合を超えていれば、実質的な経営権を持っていることになります。そのため後継者へ引き継ぐ財産を最小限に抑えられるでしょう。

引き継ぐ財産が少なくなれば、後継者の納税負担が軽減されるため、株式を非後継者の相続人へ承継させる事態を避けられます。また『遺留分』を侵害する割合も減るため、その点の負担も減らせるはずです。

遺留分とは相続人が最低限請求できる遺産取得分です。事業用資産は評価額が高くなりがちなため、後継者以外の相続人の遺留分を侵害しやすいでしょう。

他の相続人が遺留分を主張できないよう『経営承継円滑化法』を活用する方法もあります。あらかじめ相続人の合意を得ていれば、後継者へ贈与や相続された株式・資産などは、遺留分の請求対象外として扱われる制度です。

3-3.従業員持株会にはリスクもある

会社にメリットのある従業員持株会は、リスクにつながる可能性もあります。従業員持株会は少数株主として『帳簿閲覧権』『代表訴訟提起権』『提案権』などを保有しているからです。

これらの権利の行使で、即座に経営に影響が出ることはまずありません。しかし安定した経営が滞る事態は考えられるでしょう。

リスクを取り除くには、従業員持株会へ売却する株式を『配当優先株式』や『議決権制限株式』へ転換します。議決権が制限される株式であれば、想定されるリスクを回避可能です。

経営者が100%株式を保有することで後継者が負う重い税負担を避けつつ、株式が第三者へ分散していくのも防げます。

4.従業員持株会スキームのポイント

4.従業員持株会スキームのポイント

事業承継の税金対策を従業員持株会で行う手法には、押さえておくべきポイントがあります。自社株の評価方法や、従業員の株式取得資金、組織再編の計画などに関係する部分です。

4-1.自社株は配当還元方式で評価する

従業員持株会が保有する自社株の評価は『配当還元方式』で行います。現時点で株主に出せる配当金額を評価額として計算する方法です。

主に同族株主に適用される『原則的評価額』と比較して、低い評価額になると想定されています。計算式は『配当還元価額=その株式にかかる年配当額/10%×その株式の1株当たりの資本金等の額/50円』です。

ただしこの計算式では、利益や配当がない会社の配当還元価額が0円を下回ってしまいます。そのため1株2.5円の下限が設定されています。

4-2.従業員の株式取得資金はどうするのか

株式の取得には資金が必要です。従業員持株会に加入し自社株を購入する従業員も、株式取得資金を用意しなければいけません。ただしまとまった資金を用意するのは従業員にとって大きな負担です。

そこで考えられる方法として、給与からの『天引き』があります。積み立て貯金のように自社株を購入できる仕組みです。また資金の一部を『特別賞与』として支給する方法もあります。

従業員個人や従業員持株会へ資金の融資をしても良いでしょう。この方法では金銭消費貸借契約を作成し、会社による自己株式の取得ではないと証明できなければいけません。

また自社株を取得した従業員に贈与税がかからないよう、売却は必ず配当還元方式で求めた価格以上で実施します。

4-3.将来的に組織再編を行う可能性がある場合

組織再編の可能性があるなら、完全子会社の『株主数』により株式の取得価額の求め方が変わる点に注意しましょう。株主数が50人未満であれば、組織再編直前の帳簿価額相当の合計額で求められます。

株主が50人以上いるなら、法人税法上の簿価純資産価額相当の金額です。経営者が発行済み株式のほとんどを保有している中小企業では、従業員持株会を何人の株主とカウントするかで扱いが変わります。

この違いは『的確組織再編』の要件の一つである『株式継続保有要件』に関わる点です。的確組織再編と認められれば節税につながるため、大きな違いが生じます。

5.従業員持株会は事業承継対策に効果的な制度

5.従業員持株会は事業承継対策に効果的な制度

株式や資産の贈与・相続によって実施される事業承継は、贈与税や相続税の対象です。中小企業の経営者は事業用の資産を個人で保有しているケースも多く、後継者は重い課税を負担しなければいけません。

節税に有効なのが『従業員持株会』です。従業員持株会へ経営者の保有する株式を売却すれば、引き継ぐ財産を減らし、税金の負担が軽くなります。

従業員持株会へ売却した株式は、従業員が取得・保有し、資産形成に役立てられるでしょう。従業員は頑張りが配当金に結び付くため、会社と利害が一致した安定株主になります。

事業承継の税金対策では、自社の状況を把握した税理士からのアドバイスが重要です。まずは実績豊富な『税理法人チェスター』へ相談しましょう。

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『事業承継対策』について詳しく知るには、下記もご覧ください。

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