M&Aのメリットを細かく紹介。M&Aによる相乗効果や節税効果とは
タグ: #M&AM&Aは売り手・買い手ともにメリットがある方法です。売り手であれば後継者がいないことへの対策が可能で、買い手側は事業開始に必要なものをまとめて手に入れられます。ほかにも相乗効果や節税効果など、さまざまなメリットを見ていきましょう。
目次 [閉じる]
1.近年のM&A事情
M&Aというと、かつては『会社の乗っ取り』や『ハゲタカ』といったイメージがありました。しかし近年は、M&Aを成長戦略や事業承継の手段として考える中小企業が増えています。
M&Aのさまざまなメリットを知るために、まずは基本的な知識を解説します。
1-1.M&Aは中小企業や個人でも一般的になった
以前は大企業に対する敵対的買収が話題になったこともありましたが、現在ではM&Aへのネガティブな印象は薄れてきているようです。企業の発展や存続のために積極的に活用する仕組みと認知している人も少なくありません。
中小企業や個人による規模の小さなM&Aも増加傾向です。中小企業基盤整備機構が運営する『事業承継・引継ぎ支援センター』は、中小企業・小規模事業者の円滑な事業承継をサポートするため、M&Aの仲介業務を提供しています。
2021年度には成約件数が1,514件と、過去最高を記録しました。近年は、中小企業や個人の間でもM&Aが一般的になりつつあります。
参考:中小企業のM&Aが増加する理由。第三者への事業承継とは
参考:令和3年度 事業承継・引継ぎ支援事業の実績について|中小企業基盤整備機構
1-2.メリットを得るにはスキーム選定が重要
M&Aを実行すれば必ずメリットを得られるわけではありません。メリットのあるM&Aを行うには、スキームの選択がポイントです。
スキームとはM&Aの手法のことで、『株式譲渡』や『事業譲渡』などが代表的です。どの手法を選ぶかによって、引き継げる範囲・費用・税金などが異なるため、取引する事業や企業の状況に合わせて適切なスキーム選ぶことが重要です。
例えば、売り手が保有する事業資産の一切を引き継ぎたい場合は、会社を丸ごと承継する株式譲渡を検討するのがよいでしょう。設備や技術はもちろん、従業員との雇用契約や取引先、許認可もそのまま引き継げます。
しかし多額の負債がある・不採算事業があるといったケースでは、引き継ぐ対象を選択できる事業譲渡の方がスムーズに契約できる可能性があります。
1-3.身近なM&Aの事例を紹介
M&Aの事例として、生活に密着した身近な企業である『イオン』を紹介します。スーパーが主力事業のイオンは、コンビニの台頭といった影響を受け、1990年代は売上が減少し続けていました。
そこで大手ドラッグストアを運営している『ウエルシアホールディングス』を、M&Aにより子会社化します。ドラッグストア事業との相乗効果を狙ったM&Aです。
例えばイオンの電子マネーや店舗を、ウエルシアの医療・介護事業と組み合わせる展開も考えられています。ドラッグストア事業をイオングループ全体の中核事業と位置づけた結果、売上は増加中です。
ウエルシアホールディングス株式会社(証券コード3141)に対する 公開買付けの開始に関するお知らせ|イオン株式会社
2.代表的なスキームごとのメリット
M&Aには複数のスキームがあります。選択したスキームによって、会社の未来が大きく変わるため、目的や経営戦略に照らし合わせながら、慎重に検討する必要があります。代表的なスキームの特徴・メリットを見ていきましょう。
ここでは、事業を売却する会社を『売り手』、買収する会社や個人を『買い手』と表現します。
2-1.株式譲渡
売り手の株主が株式の過半数を買い手に譲渡し、経営権を移行させるスキームです。買い手は株式を得る対価として、売り手に金銭を支払います。
株式譲渡の特徴は、経営者(株主)が替わるだけで、会社自体には変更がない点です。買い手には、売り手が保有する権利義務の一切が承継されます。
原則的に、許認可の再取得や雇用関係の再契約は必要ありません。取引先との関係性もそのまま続行されます。
株式譲渡は、他のスキームに比べて手続きが簡便です。株式譲渡契約を締結し、対価の支払いと株式名簿の書き換えを行えば、一連のプロセスは完了します。
参考:株式譲渡にはどんな手続きが必要?契約や税金に関する基礎知識
2-2.事業譲渡
事業譲渡は、売り手が保有する事業の一部またはすべてを買い手に譲渡するスキームです。
株式譲渡において、買い手は売り手の負債を引き継ぐリスクがあります。事業譲渡では、譲り受けたい対象を選択できるため、負債や不要な資産を引き継ぐリスクが低いのがメリットです。
一方、売り手は会社の経営権を手放さずに済む上、売りたい事業のみを選択して売却できます。不採算部門を他社に売却すれば、採算の取れる事業に経営資源を集中投下できるでしょう。事業譲渡の代金によって、キャッシュフローも安定します。
参考:事業譲渡の目的、主な特徴とは。専門家の知識が欠かせない理由
2-3.合併
合併は、複数の会社を一つの法人格に統合するスキームです。会社法における『組織再編』の一種で、グループ企業内における機能統合や、経営不振の会社に対する救済などを目的に実施されます。
会社買収(株式譲渡)において、売り手は『買い手の子会社』として存続しますが、合併では合併される側の会社が消滅するのが特徴です。
買い手は金銭の代わりに自社の株式を交付できるため、資金が潤沢でない場合でもM&Aを実行できます。
参考:会社合併の種類とメリット・デメリットを解説。手続きの流れも紹介
2-4.会社分割
会社分割とは、事業の一部またはすべてを会社から切り離し、他の会社に移転するスキームです。組織再編の一つで、会社の立て直しやスリム化、不採算事業の切り離しなどを目的に選択されます。
会社分割のメリットの一つとして、事業譲渡よりも手続きが容易な点が挙げられます。分割対象となる事業の資産・負債・契約は、他社に包括的に承継されるため、個別の手続きが必要ありません(一部の許認可を除く)。
事業譲渡では、課税資産を譲渡すると消費税が発生しますが、会社分割は消費税が課税されない不課税取引に該当します。
また、対価として株式を交付できるため、多額の資金を調達しなくてもM&Aを実現できます。
参考:会社分割とは何かわかりやすく解説。メリット、デメリットは?
3.売り手にとってのメリット
M&Aで売り手が得られるメリットには、会社の成長や主力事業への集中が挙げられます。資金力のある買い手に買収されれば、既存の事業が大きく拡大する可能性があるでしょう。
3-1.経営を託し会社を成長させられる
中小企業は資本力が小さく、思ったように成長できないことがあります。『設備投資をしたい』『技術を生かした商品開発をしたい』と計画しても、思うように資金が集められないかもしれません。
そのようなタイミングで資本力のある大手企業の傘下に入るM&Aを実施すれば、成長を妨げていた資本力の問題が解消されます。会社の成長に注力できるため、大きく発展できるでしょう。
現時点で赤字の会社であっても、技術力・顧客・店舗網などの強みがあれば、M&Aが成立する可能性は十分あります。
3-2.事業譲渡の場合、主力事業に集中できる
会社を存続させるための戦略として『選択と集中』が注目されています。多種多様な事業を展開している場合、中には採算の取れていない部門もあるでしょう。
そんなときは会社にとって主力事業であるコア事業に資源を集中させ、それ以外のノンコア事業を切り離す戦略が有効です。ノンコア事業を切り離す手段の一つとして、事業譲渡によるM&Aがあります。
事業譲渡を実施すれば、ノンコア事業にかかっていたコストから解放されます。加えて売却によって得た対価を、コア事業を成長させるための資金として活用できるでしょう。
参考:ノンコア事業の売却で経営を効率化できる。売却の手法も確認
4.廃業と比べた場合のメリット
後継者がいないことで廃業を考えている経営者もいるでしょう。M&Aを利用すれば、廃業にかかる費用が不要になり、従業員の雇用も継続できます。廃業の前に、まずはM&Aを検討するのも手です。
4-1.事業承継問題の解決策になり得る
少子高齢化に伴い、経営者の高齢化が進んでいます。加えて経営者が高齢の会社でも、後継者がいないケースは少なくありません。体調なども考慮し、廃業を考える経営者も多いでしょう。
中には、黒字であるにもかかわらず後継者がいないことを理由に、廃業を余儀なくされる会社もあります。そこで注目されているのが、M&Aによる事業承継です。
親族や従業員の中で後継者が見つからなくても、第三者へ会社を売却することで、引き継いでもらえる可能性があります。国としても後押ししている対策です。
引き継ぐときの税金を猶予する『事業承継税制』といった特例も設けられています。
参考:後継者不足を理由に廃業はもったいない。M&A検討で可能性は広がる
4-2.廃業コストがかからずに済む
M&Aによる事業承継を実施すれば廃業を免れるため『廃業コスト』がかかりません。会社を消滅させる手続きには、最低でも下記のような費用がかかります。
- 解散の登記費用:3万円
- 清算人の登記費用:9,000円
- 清算結了の登記費用:2,000円
- 官報公告の費用:3万3,000円
加えて事業用の店舗や事務所を借りているなら、原状回復費用が必要です。会社に債務があるなら、清算もしなければいけません。廃業手続きを専門家へ任せるならその費用も必要です。
廃業した結果、手元に残る資金はほとんどないというケースや、借入金の返済が残るケースもあります。
4-3.従業員の雇用を継続できる
廃業すると従業員は職場を失います。会社で働き続けたいと考えている従業員に、転職を強いることになるでしょう。
M&Aを株式譲渡で行う場合には、従業員の『雇用』を継続できます。経営者が買い手になったとしても、会社と従業員が交わした雇用契約は引き継がれるからです。
加えて中小企業のM&Aでは、従業員を技術やノウハウを持った重要な資産の一つと考えます。そのため従業員が働き続けることは、買い手にとってもメリットのあることなのです。
さらに最終的な契約書で、従業員の雇用継続に関する条項を設けておけば、M&A成立とともに解雇されることはありません。
5.M&Aで事業承継する社長にとっての利点
事業承継をM&Aで行うと、社長はまとまった資金を手にしながら退職できるでしょう。個人保証から解放されれば、悠々自適に引退後の暮らしを楽しめるかもしれません。
5-1.まとまったお金が手に入る
株式譲渡でM&Aを実施すると、株式の売却による利益である『キャピタルゲイン』を得られます。社長個人が保有する株式を売却する手法のため、得られる利益はすべて社長本人のものです。
売却益から株式の取得費用を差し引いた譲渡所得に課税されます。所得税15%・住民税5%の合計20%です。
まとまった現金を得られるため、社長の老後資金として用いるのもよいでしょう。十分な資金があれば、退職後の暮らしを充実させられます。
5-2.できるだけ現金を多く残せる
在庫を持つ事業を展開している場合、廃業よりもM&Aを選ぶ方が現金を多く残せます。廃業するときには在庫を安く買いたたかれるケースが多いからです。
会社がなくなると、商品購入後のメンテナンスや返品・交換などのアフターフォローもなくなるでしょう。その分、消費者の安心感が低下し売れない可能性があります。場合によっては、原価より安い価格でしか買い取ってもらえないこともあるでしょう。
一方、M&Aで会社や事業が存続する場合には、これまで同様のアフターフォローが可能です。そのため適正価格で買い取ってもらいやすく、その分、多くの現金を残せます。
5-3.個人保証と担保から解放され引退できる
中小企業が金融機関から借り入れるときには、社長や家族が連帯保証人になるのが一般的です。社長の自宅や土地など個人資産を担保にするケースも多いでしょう。
株式譲渡によるM&Aで買い手が会社を引き継ぐと、負債も買い手に引き継がれます。社長やその家族が負っていた個人保証や担保保証は解除される仕組みです。
引退後に万が一会社が借入金を返済できなくなったとしても、社長が責任を負う必要はありません。
参考:M&A時の借入金の扱いを解説。連帯保証の解除についても確認を
5-4.役員退職金の活用で節税も
株式譲渡をすると、社長は対価として現金を受け取れます。しかし合計20%の所得税と住民税が課税されるため、実際に受け取れるのは税額を差し引いた分のみです。
ここで、対価の一部を『役員退職金』として受け取る方法を活用します。役員退職金の支給であれば、退職所得控除を利用できることに加え、所得を半分にして計算する制度もあります。
株式の譲渡所得への課税と比較して、税務面でのメリットが大きい方法です。売却価格によっては数百万円の節税につながります。
参考:M&Aに関わる税金と計算方法。退職金を対価としたM&Aとは?
6.買い手にとってどんなメリットがある?
メリットを得られるのは売り手だけではありません。買い手にも相乗効果や節税などのメリットがあります。売り手にとっても買い手にとってもよい面があるWin-Winの取引です。
6-1.事業の相乗効果が得られる
代表的なメリットは『相乗効果(シナジー効果)』を得られる点です。異なる企業や事業が一つになると、それまでになかった効果を得られる可能性があります。
最近では相乗効果を得るために実施されるM&Aが増えているほど、期待されている動きです。特に調剤薬局やIT・物流・ビルメンテナンス・不動産管理などは相乗効果を得やすい分野といえます。
代表的な相乗効果は下記の4種類です。
- 販売シナジー:ブランドイメージによる売上アップや流通の仕組みによるコスト削減など
- 生産シナジー:大量購入・工場の稼働率アップによるコスト削減など
- 投資シナジー:投資面での相乗効果
- 経営シナジー:経営ノウハウの共有による相乗効果
6-2.結果として節税になる場合もある
選択したスキームによっては、買収企業の繰越欠損金を引き継ぐことで『節税』できる可能性があります。繰越欠損金は7年間にわたり繰り越され、黒字と相殺可能です。そのため法人税額を抑えられます。
買い手企業の利益が多ければ、繰越欠損金を抱える企業とのM&Aは大きなメリットです。ただし税金逃れにならないよう、適用されるスキームは限定されています。
節税目的でM&Aを実施するのではなく、結果的に節税になる可能性があると考えるとよいでしょう。
参考:M&Aの際に行われる税金対策。株式譲渡、事業譲渡、会社分割を解説
6-3.余剰資金を活用できる
買い手が上場企業の場合には、余剰資金を持っている場合があります。使い道の決まっていない資金のことで、ただ手元に置いてあるだけの状態です。
M&Aは余剰資金を活用した投資にもなり得ます。高度な技術やノウハウを持つ小規模な企業を買収することで、将来的に大きな利益を得られるかもしれません。余剰資金を活用して、企業をさらに成長させられます。
7.売り手・買い手に共通の成功ポイント
M&Aを成功させるためには、売り手・買い手ともにどのような点を意識すればよいのでしょうか?M&Aのプロセスの中で、特に重視したいポイントを解説します。
7-1.M&Aの目的を明確にする
『何のためにM&Aを行うのか』『M&Aでなければならない理由は何か』を明確にすることが重要です。M&Aは手段であり、ゴールではない点に留意しましょう。
M&Aの実行は、組織全体に大きな影響を与えます。目的やビジョンが曖昧だと、取引先や従業員、株主などのステークホルダーに対して、M&Aの正当性・妥当性を論理的に説明できません。
さらに、自社に見合った相手が選定できなかったり、スキームの選択を誤ったりといった失敗にもつながります。
参考:M&Aとはどんなものか分かりやすく解説。行う目的や成功のポイント
7-2.双方ともに信頼できる相手を選ぶ
M&Aの成功は、信頼できる相手を見極められるかどうかにかかっています。特に売り手は、大切に育ててきた会社や事業を手放すため、新たな経営者となる人物の人柄や考え方に注意を向ける必要があります。
本格的な交渉に入る前に、双方の代表者による『トップ面談』を行うのが通例です。以下の点をチェックし、価値あるM&Aが実現するかを見極めましょう。
- 経営者同士の相性はどうか(経営理念やビジョンの一致度)
- 組織文化の相性はよいか
- 互いに歩み寄る姿勢があるか
参考:M&Aで重要とされるソーシングとは。交渉までの進め方を知ろう
7-3.デューデリジェンスの徹底
デューデリジェンスとは、買い手が売り手の実態を把握するために行う事前調査です。主な目的は、M&A実行の可否や買収価格の妥当性を判断することで、公認会計士や税理士、弁護士などの協力を得て、財務面・税務面・法務面などを精査します。
法的に義務付けられているわけではないものの、プロセスを疎かにすると、思わぬリスクを抱える恐れがあります。
特に、簿外債務や偶発債務を引き継ぐと、買収後に多額の損失を被るでしょう。企業価値を見誤れば、想定するシナジーを創出できず、投資資金の回収が困難になる可能性があります。
買い手はデューデリジェンスを徹底し、リスクの洗い出しに努めましょう。リスク発覚時は、価格調整やスキームの変更、M&Aの中止などが選択できます。
参考:M&Aにおけるデューデリジェンスの役割。調査項目や進め方を知る
8.さらなる事業の発展に向けた活用
M&Aを事業の発展のために活用する方法もあります。顧客や知名度・技術などを使いシナジー効果を起こすことで、1社のみの体制ではなし得なかった発展が可能になるかもしれません。
8-1.顧客の共有
売り手も買い手も、ともに顧客を抱えています。買収企業はどちらの顧客にも商品やサービスを提供可能です。
売り手A社の商品と買い手B社の商品を合わせて顧客に販売すれば、『クロスセリング』という相乗効果を見込めます。例えば車用品を扱う会社が整備工場の会社を買収すれば、整備の顧客に対して車用品を販売できる可能性が高いでしょう。
また『アップセリング』という方法を利用することで、より単価が高い製品やサービスの購入につなげることも可能です。同ジャンルで異なる価格帯のアイテムを扱う会社を買収すれば、顧客へ提案できる幅が広がります。
8-2.知名度を活用できる
知名度の高い『ブランド』を活用することでも、シナジー効果が発生します。買い手企業のブランドを生かし、異業種のさまざまな事業を展開してもいいでしょう。例えば楽天が保有する『楽天〇〇』という多くの子会社が、この手法を活用しています。
また魅力的なブランドを持っている企業を買収し、買い手企業がそのブランドを使うケースもあります。ブランドを築くには戦略はもちろん時間が必要です。
M&Aを活用すれば、既に知名度があり販路も確保できているブランドを保有できるため効率的です。
8-3.優れた技術を取り入れ弱点を解消
買収した企業の技術を取り入れることで、会社の弱みを改善できます。これまでは考えられなかった新規開発も進められるかもしれません。
例えばIT技術のない製造業の企業がIT関連の企業を買収すれば、これまでにないIoT製品を作れるでしょう。社内になかった技術を取り入れられれば、シナジー効果によって開発が促進されるはずです。
売り手・買い手が別々に取り組んでいたのでは不可能なスピードや質を実現することで、新しい商品やサービスの誕生が期待できます。
9.人的資源を買い成長させる目的のM&A
人材獲得の難易度はますます高まりつつあります。労働力が不足している企業や、優秀な従業員を求めている企業では、人的資源のためにM&Aを実行するケースも増加傾向です。
9-1.労働力不足の解消
労働力はさまざまな業界で不足しています。例えば建設業では人手が足りず、労働者が高齢化しているのが現状です。給与水準の見直しや処遇の改善・教育訓練の充実など、さまざまな取り組みが必要といわれています。
同様に人手が足りない企業では、労働力確保のためにM&Aを実施するケースが増えています。買収によって、ある程度の技術力や経験を持った人材を自社に取り込む方法です。
一から採用活動や新人教育を施す手間・コストを考えると、M&Aによる人材確保の方が効率的な状況も考えられるでしょう。
9-2.優秀な従業員の獲得
人材の育成には長い時間がかかります。社会人としての基本的なマナーという程度であれば、数カ月で済むかもしれません。しかし専門性の高い高度な技術や知識を身に付けた従業員の育成となると、数年がかりです。
その技術を持った優秀な従業員をすぐに獲得したいと考えているなら、採用後に教育するよりも、M&Aで優秀な従業員のいる企業を買収する方が近道といえます。時間をかけることなく優秀な人材の確保が可能です。
9-3.自社の社員を成長させる
社員を成長させるには、成長度合いに見合った活躍の場が必要です。しかし大企業の多くは既に事業が安定しており、急成長していく段階を経験できません。
そこでM&Aで今まさに成長中の企業を買収し、そこへ今後の活躍が期待される社員を投入します。買収した事業を成長させると同時に、社員もどんどん成長していくでしょう。
成長の場として企業を買収する場合には、取得する事業の持つ実績や課題をあらかじめよく分析しておくことが大切です。
10.スムーズな新規事業への参入
新しく事業を立ち上げるには、長い時間と大きなコストがかかります。投資した資金を回収するまで数年間は利益が出ないどころか、マイナスというケースもあるでしょう。
既にある事業を買い取れば、利益を出すまでの時間を短縮でき、リスクを最小限に抑えた展開が可能です。
10-1.立ち上げまでの時間を買う
一から新規事業を開始するには、必要なものをすべてそろえなければいけません。工場や店舗・オフィスなどの場所や、必要な機材のほか、そこで働く従業員も必要です。
M&Aで事業を取得すれば、買い手は事業を始めるのに必要なものをすべて取得できます。販路や顧客が既にいる状態で、最初から利益を得られる場合もあるでしょう。
買収企業の選定や条件の交渉、M&A成立後の統合に向けた準備など、一から始めるのとは異なる大変さもあります。しかし少しでも早く事業を開始することにメリットがある状況なら、有効な手段です。
10-2.リスクを軽減する
異業種へのチャレンジは、一般的にリスクが高いと考えられています。ノウハウがなく、業界についても知識・経験がないからです。しかしM&Aを実施すれば、異業種への進出も比較的『低リスク』で叶います。
既にその分野で事業を展開している企業を買収すれば、必要なものがすべてある状態が手に入るのです。買い手企業が資本さえ投入すればよい結果が出る、といったケースもあるでしょう。
自社の持つ資源を把握し、それを的確に投下できれば、順調に拡大させられます。失敗するリスクを最小限に抑えつつ、新たな展開を目指せる方法です。
10-3.勝ち残りを賭けた海外進出も
市場で長期的に勝ち残るためには『海外進出』が不可欠といわれています。現時点では日本国内のみをターゲットとしているとしても、経営リソースが豊富な海外企業が市場へ参入すると競争に負ける可能性があるからです。
海外進出するとはいっても、現地で事業の立ち上げから実施するのは現実的ではありません。時間も手間もかかり、また日本とは異なる商習慣により競争に敗れる場合もしばしばです。
進出先で地域に合わせた事業を展開するには、海外企業のM&Aが有効といわれています。ただし単に買収するだけでなく、その後の統合プランまで綿密に立てることが重要です。
参考:クロスボーダーM&Aで海外進出!メリットや注意点を確認
11.さまざまなコストを削減し、資金を生む
M&Aを実施すると、企業の規模が大きくなります。大きな企業はコストを削減しやすいのが特徴です。機能を集約することで営業所をまとめることもでき、大量仕入れによるコストカットもできるでしょう。
11-1.製品の製造単価を下げられる
製造業を営む企業がM&Aで規模を拡大すると、生産の規模が大きくなります。生産性がこれまでの2倍・3倍になれば、その分、製品一つあたりの価格は下げられるでしょう。
これは材料の仕入れコストが低下し、生産ラインが効率的になっているからです。大量に出荷できるとなれば、輸送にかかる費用も抑えられる可能性があります。
11-2.大量取引ができるようになり仕入価格が低下
企業を買収すると、仕入れを共通化できます。例えばスーパーを展開している企業がコンビニを買収すれば、扱う商品は似たようなものばかりです。そのため、これまでと同じ商品でも大量に発注できるようになります。
大量発注をすると『ボリューム・ディスカウント』が効き、割引価格で仕入れられます。その結果、仕入れにかかるコストを削減し、利益を増やすことにつながる方法です。
11-3.重複の解消、営業所の統合などでコスト削減
買収直後の統合が進んでいない状態では、人事・労務・経理など重複している部門が存在しています。管理システムや制度なども同様です。これらを一つに合わせることで、コストを削減できます。
またオフィスを統合すれば、賃料を減らせるでしょう。移転にコストがかかるものの、立地によっては数年かからず回収できる程度です。
オフィスが一つにまとまれば、事務機器や備品などを共有でき、電気代やメンテナンスにかかる費用も削減できます。すべてを実施できれば、シンプルで無駄のない組織運営が可能です。
12.M&Aによる影響やリスクは?
売り手にも買い手にもたくさんのメリットがあるM&Aですが、決してよい面ばかりではありません。実施する際には、リスクやデメリットを十分考慮することが大切です。
12-1.売り手における影響・リスク
M&Aの実施後は、組織体制が変化するため、新たな環境になじめない従業員の離職が相次いだり、急激な業績低下が引き起こされたりする恐れがあります。
企業価値が大きく毀損すれば、買い手とのトラブルに発展する可能性もゼロではありません。不測の事態を回避するには、トップ面談や条件交渉で納得いくまで話し合い、双方で決定した事項を漏れなく盛り込むことが重要です。
経営者の高齢化による後継者不在に悩む会社は、一刻も早く買い手を見つけたいのが本音ですが、タイミングよく買い手が見つかるとは限りません。買い手候補が決まったとしても、スケジュール通りに進まない可能性があります。
12-2.買い手における影響・リスク
買い手のリスクとして代表的なのは『簿外債務』です。帳簿上に記載されない債務のため、デューデリジェンスで詳細な調査を行う必要があります。
調査が不十分なままM&Aが成立すると、大きな損失を被る可能性があります。専門家に調査を依頼した上で、契約書には『表明保証』や『補償条項』を盛り込みましょう。
表明保証とは、契約の当事者(売り手)の一方が、もう一方の当事者(買い手)に対し、契約目的物に記載された一定時点における事項が真実かつ正確であることを表明・保証するものです。違反が判明した場合、補償条項に応じた補償請求が行えます。
また期待していたシナジー効果が得られず、『アナジー効果』により経営状況が悪化する可能性もあります。主なアナジー効果は、多角化経営の失敗・優秀な人材の流出・顧客離れなどです。
参考:簿外債務の種類や見つけ方。買い手と売り手それぞれの対策は?
13.メリットを最大化できる方法を考えよう
M&Aは、売り手にも買い手にもメリットがある取引という認識が広まってきています。中小企業や個人など小規模なM&Aも増加傾向です。
例えば後継者のいない中小企業であれば、M&Aによって後継者問題を解消できます。株式譲渡を実施すれば、社長は対価によりまとまった現金を受け取れるでしょう。
得られるメリットは、企業の置かれた状況や使用するスキームごとに異なります。自社に合う取引の実施が大切です。
チェスターでは、事業承継・相続対策に特化したM&Aサービスを提供しています。税理士や公認会計士、弁護士などの各分野の専門家と連携し、初めてのM&Aをサポートします。
事業承継・相続対策に特化した売主オーナー様目線のM&A支援サービス|事業承継M&Aならチェスター
事業承継・M&Aを検討の企業オーナー様は
事業承継やM&Aを検討されている場合は事業承継専門のプロの税理士にご相談されることをお勧め致します。
【お勧めな理由①】
公平中立な立場でオーナー様にとって最良な方法をご提案致します。
特定の商品へ誘導するようなことが無いため、安心してご相談頂けます。
【お勧めな理由②】
相続・事業承継専門のコンサルタントがオーナー様専用のフルオーダーメイドで事業対策プランをご提供します。税理士法人チェスターは創業より資産税専門の税理士事務所として活動をしており、資産税の知識や経験値、ノウハウは日本トップクラスと自負しております。
その実力が確かなのかご判断頂くためにも無料の初回面談でぜひ実感してください。
全国対応可能です。どのエリアの企業オーナー様も全力で最良なご提案をさせていただきます。
詳しくは事業承継対策のサービスページをご覧頂き、お気軽にお問い合わせください。
※この記事は専門家監修のもと慎重に執筆を行っておりますが、万が一記事内容に誤りがあり読者に損害が生じた場合でも当法人は一切責任を負いません。なお、ご指摘がある場合にはお手数おかけ致しますが、「お問合せフォーム→掲載記事に関するご指摘等」よりお問合せ下さい。但し、記事内容に関するご質問にはお答えできませんので予めご了承下さい。