事業譲渡の目的、主な特徴とは。専門家の知識が欠かせない理由

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事業譲渡の目的、主な特徴とは。専門家の知識が欠かせない理由

会社の事業を売却する事業譲渡は、どのような目的で実施するのでしょうか?基礎的な知識や目的について理解を深めていきましょう。事業承継との違いやデメリットのほか、事業譲渡に関わる税金や法律についても解説します。

1.事業承継と事業譲渡は何が違うのか

事業承継と事業譲渡は何が違うのか

事業譲渡について詳しく知るために、まずは事業承継との違いを詳しく見ていきましょう。似た印象のある言葉ですが、どのような違いがあるのでしょうか?

1-1.事業承継は後継者に会社を引き渡す

事業承継とは現在の経営者から次の代へ会社を受け渡すことです。誰が後継者となり引き継ぐかによって、大きく分けて下記の3種類に分けられます。

  • 親族内事業承継:子どもなど親族のいずれかが引き継ぐ
  • 社内事業承継:従業員が引き継ぐ
  • M&Aによる事業承継:会社の事業を買い取った他社が引き継ぐ

どの方法で事業承継をするにも、関係者の理解・株式や財産の分配を実施する点は同じです。加えて社内事業承継では、個人保証や担保について引き継ぐ従業員の了承を得なければいけません

1-2.事業譲渡は第三者に事業を売却する

一方、事業譲渡とは、親族や従業員以外の第三者へ事業を売却することです。事業を全部売却するケースはもちろん、希望する一部の事業のみの売却もできます。

第三者への譲渡には、ほかにも株式譲渡や合併などがあります。これらの方法との違いは、契約により引き継ぐ事業を比較的自由に選べる点です。

また会社を売却すれば、後継者を一から育成する必要がありません。既に経営者として活躍している人へ託せるため、不安な点も少ないでしょう。時間や手間をかけずに事業を継続させられます。

2.事業譲渡の特徴

事業譲渡の特徴

事業譲渡は第三者へ事業を売却することだと分かりました。では具体的にどのような点が他の手法と異なるのでしょうか?事業譲渡の特徴を紹介します。

2-1.部分的な譲渡ができる

まず挙げられるのは『一部のみ譲渡できる』という点です。選んだ事業のみ譲渡できる特徴は、売り手にも買い手にもメリットといえます。

売り手側の会社では、不要な事業を売却して資金を作りつつ、自社の中心的な事業はその後も継続可能です。負債の返済・当面の運転資金の確保・新事業への投資など、必要な資金の調達方法としても使えます。

買い手側にとっても、欲しい事業だけ引き継げるのは大きなメリットです。全てを包括的に引き継がなければいけない契約では、引き継ぎたくない負債を背負うこともあります。部分的に事業を引き継げば、不要な負債を負わず必要な事業だけ買い取れるのです。

2-1-1.会社分割との違いは?

事業譲渡も会社分割も、事業を分割して引き継げる点では共通しています。異なるのは事業譲渡が『個別承継』で、会社分割が『包括承継』である点です。

先にも紹介した通り、事業譲渡では不要な負債は契約により引き継がなくても構いません。一方、会社分割は事業にまつわる全てを丸ごと引き継がなければならず、そこに負債も含まれます。

また事業譲渡は事業の売買ですが、会社分割は株式の取引です。会社法上の扱いとして、会社分割は組織再編行為とされます。

そのため事業を現金化したいときや特定の事業に集中したいときには事業譲渡が、事業をまとめて承継してほしいときには会社分割が適切です。

2-2.従業員の雇用を守れる

事業譲渡を検討すると際には、従業員の雇用が心配なケースもあるでしょう。事業譲渡では雇用契約が引き継がれないため、改めて買い手の会社と雇用契約を結ばなければいけないからです。

しかし事業譲渡では従業員も引き継がれるケースが一般的でしょう。十分な経験やスキルを持っている従業員は、事業の価値の一部でもあるからです。ベテラン従業員が抜けると事業が立ち行かなくなる恐れさえあります。

買い手の会社は、売り手より経営に余裕があるケースも多いでしょう。雇用を守れるのはもちろん、事業譲渡前より待遇が改善するかもしれません。

2-3.買い手は税金を軽減できる

買い手のメリットとして『節税につながりやすい』点が挙げられます。事業譲渡の価格には、ブランド力やノウハウを意味する『のれん』が含まれているのが一般的です。

事業譲渡ではこの『のれん』の費用を『資産調整勘定』として扱い、一定期間で償却します。さらに損金への算入も可能です。株式譲渡では実施できないこの処理により、法人税の対象となる利益を減少させられるのです。

この処理により法人税の対象となる所得は減少しますが、消費税の課税は資産に対して行われます。税金の支払いがゼロになるわけではない点に注意しましょう。

3.事業の売却を行う理由とメリット

事業の売却を行う理由とメリット

会社が事業の売却を検討する理由はさまざまです。ここでは代表的な理由や目的を紹介します。売却を検討するときには、どのような目的で実施するか明らかにしてから臨みましょう。

3-1.継承する者がいない

代々親族で承継してきた会社の経営者は、当然のように子どもが事業を引き継ぐものと考えているかもしれません。しかし子どもには既に自身の仕事があり、会社を継ぐ意思がないケースもあります。

また承継の意思を持つ親族がいるとしても、従業員との相性や本人の資質を考えると、安心して任せられないという場合もあるでしょう。後継者がいないため、事業存続の方法として売却を選ぶのです。

3-2.経営を再生させるため

会社の経営再生を目的に、採算の取れていない事業の売却を検討する会社もあるでしょう。自力での再生が難しくても、事業の売却により資金を得られれば、再生の可能性があります。

特に資産になる不動産・動産・ノウハウなどを持っている事業であれば、自社で事業を続けるよりも現金化した方が活用できるかもしれません。廃業せず経営再生を目指す道筋をつけやすいでしょう

3-3.メインの事業に注力したい

複数の事業を展開していると、採算の取れる主力事業と赤字が出る事業が出てきます。ときには赤字事業にテコ入れするよりも、そこからは撤退し主力事業に注力した方が会社として成長できる場合もあるでしょう。

そこでメインの事業に注力するために、事業譲渡を実施するケースもあります。売却により得た現金を主力事業の資金に使用できますし、シンプルな組織になるため事務処理といった雑務にかかるコストも削減可能です。

資金はもちろんその他のあらゆる資源をメイン事業へ集中させられるため、売却前より収益性の向上が期待できます。

4.事業譲渡のデメリット

事業譲渡のデメリット

売り手にも買い手にもメリットがある事業譲渡ですが、デメリットもある点に注意しましょう。あらかじめデメリットを知り、把握した上での検討が大切です。

4-1.株式譲渡と比べて手続きが煩雑

事業譲渡を進めるには、株主総会を始めさまざまな場で承認を得なければいけません。その分、手続きは株式譲渡よりも煩雑です。

また債務の譲渡も発生する場合には、株主総会のほかに債権者にも個別に承諾を得なければいけません。規模が大きい事業であれば、関係する人も多いでしょう。その分、手続きの負担は重くなっていきます。

4-2.負債の問題が残る場合がある

会社には資産やノウハウだけでなく負債もあります。事業譲渡では引き継ぐものを選べるため、契約書に記載のない負債は買い手に引き継がれません

しかし事業譲渡の契約内容は第三者からは見えにくいものです。そのため買い手が売り手の商号を使用するにあたり、買い手は原則として譲り受けた事業の負債に対する責任も負います。

ただし『売り手の負債に対する返済の責任を負わないこと』を、登記もしくは個別に通知していれば、買い手は負債に対する責任を免れます。資金作りや不採算部門の処分ができても、負債までは片付かないかもしれません。

5.事業の売却益と税金

事業の売却益と税金

商品を販売したとき、仕入れにかかった費用より販売価格の方が大きければ利益が出ます。この仕組みは事業譲渡でも同じです。売却益が出たときにはどのような税金を納めるのでしょうか?

5-1.譲渡金額の算出方法

他社へ事業譲渡をするにあたり、譲渡金額を定める必要があります。適正価格は『譲渡資産時価+営業権』に当てはめて計算しましょう。

営業権は事業の正常収益2~3年分で算出するのが一般的です。ただし何年分と評価するかは業界により異なります。参入障壁の難易度が高い事業では、正常収益5年分と計算するケースもあるのです。

また損益計算書に記載されている正常収益をそのまま使うわけではありません。一時的な損益・役員報酬・地代家賃などを調整して求めた数値を使います。

ほかに買い手のニーズや事業規模・安定性も、譲渡金額を左右する要素です。

5-2.利益が出た場合

事業譲渡で売却益が出たときは法人所得として扱われ、売り手の会社に法人税が課されます。法人税の税率は、目安としておおよそ30%前後を想定しておくとよいでしょう。

売り手の会社に繰越欠損金や役員退職慰労金があれば、売却益が出たとしても所得を圧縮できます。法人税の対象となる所得が減るため、株式譲渡よりも税金を抑えられるかもしれません。

また売却益の中でも、棚卸資産や固定資産の売却で得た部分には消費税が課される点に注意しましょう。

5-3.消費税はどちらが負担する?

売却する資産のうち、土地以外の有形固定資産・無形固定資産・棚卸資産・営業権などには消費税がかかります。これらの税額を負担するのは買い手です。ただし税務署への納税は売り手が行います

消費税は売り手が徴収し納税する仕組みの税金だからです。資産に対して課税される消費税は、事業譲渡による売却益に関係なく課税されます。

仮に事業譲渡の売却益がなく法人税が課税されないケースでも、資産に対しては課税される点に注意しましょう。

6.事業譲渡の法律上の注意点

事業譲渡の法律上の注意点

売り手と買い手で事業譲渡を進めるときには、法律で定められているルールに注意しなければいけません。定められている手続きを確実に実行し、不備のないようにしましょう。

6-1.株主総会や取締役会が必要

事業譲渡は売り手にとっても買い手にとっても、重要な財産を処分する行為です。そのため双方とも代表者単独では判断せず、取締役会で承認を得る必要があります。その際、譲渡を実施するのは個々の資産なのか、組織ごとなのかはっきりさせておきましょう。

売り手の会社では、取締役会での決議のほか、株主総会の特別決議による承認が必要です。株主総会を実施するのは、全ての事業を譲渡する場合か、株式の全部もしくは1/5を超えて譲渡する場合です。

買い手も取締役会での決議が必要ですが、売り手と異なり株主総会の特別決議は要りません。全ての事業を引き継ぐ場合でも、その資産規模が売り手の1/5を超えない場合や、買い手が特別支配会社なら株主総会は不要です。

6-2.買い手保護のため競業避止義務が存在する

買い手へ事業を譲渡した会社は、同じ事業を20年間できません。『競業避止義務』といい、法律で定められています。

事業に関する資産を手放していても、一度実施した事業なら会社にはノウハウの蓄積があります。そのような状態で売却した事業を再開すれば、買い手の会社と競合するでしょう。

買い手が不利益を被らないよう、保護のために設けられているルールです。ただし20年間は絶対に参入できない、というわけではありません。同じ市町村内か隣接する区域内では禁止ですが、地域を移動すれば再開できます。

インターネットを利用したビジネスは場所にとらわれないため、このルールでは買い手の保護につながらない可能性も指摘されています。

7.成功の秘訣は目的の明確化と仕組みの理解

成功の秘訣は目的の明確化と仕組みの理解

事業譲渡を実施する際には、何を目的として行うかはっきりさせましょう。目的として代表的なのは、事業承継・経営再生・主力事業への集中です。

会社分割と異なり引き継ぐ資産を選べる点や、それにより負債が解消しない可能性といったデメリットも含め、仕組みの理解もポイントといえます。また課される税金についてもあらかじめ確認が必要です。

売却益が出たら法人税を納税します。また利益が出ていない場合でも、資産に課された消費税を納めなければいけません。法人税は売り手が負担しますが、消費税は買い手が負担した分を売り手が納める点に注意しましょう。

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