会社分割とは何かわかりやすく解説。メリット、デメリットは?
会社分割はM&Aの手法の一つで、経営の立て直しや大きくなり過ぎた事業規模を縮小するために用いられる方法です。4種類ある会社分割にはそれぞれどのような特徴があるのでしょうか?メリット・デメリットも含めて解説します。
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1.会社分割とは
4種類ある組織再編手法の一つとされている会社分割は、大幅に会社の組織を変更できる方法です。会社分割の特徴をより深く理解するために基本的な知識を確認しましょう。
1-1.組織再編手法の一つ
会社分割は合併・株式交換・株式移転と並び、会社法で定められている組織再編手法の一つです。
組織再編を実施すると会社の組織が大きく変わります。例えば経営が一元化されることで運営にかかるコストが削減されたり、事業を一つの会社にまとめてノウハウを集結させることで競争力を強化したり、資金力を高めたりする働きを期待できます。
他にも他社へ事業を移転させることで、基幹事業を展開しやすくなるかもしれません。
2.会社分割の特徴
M&Aの手法として用いられる会社分割は、事業の分散に生かせます。M&Aには多額の資金が必要な手法もありますが、会社分割であれば資金は必要ありません。事業承継にも活用可能です。
2-1.部分的なM&Aで事業を分散できる
事業を『分散』できるのも会社分割の特徴です。例えば企業が展開している事業の中に不採算事業があれば、会社分割によって切り離せます。基幹事業に資金や人材を集中させ順調な経営を実施できるでしょう。
不採算事業がなかったとしても、企業が大きくなり過ぎると機動性や柔軟性が失われてしまいます。倒産リスクを低下させるために会社分割で事業を分散するのも有効です。
また一部の事業のみ事業承継させたいというケースでも役立ちます。株式譲渡を実施するときに会社分割を組み合わせるのもケースによっては有効です。
株式譲渡では会社を丸ごと引き継ぎますが、中には買い手が引き継ぎたくない事業もあるかもしれません。不要な事業を会社分割してから株式譲渡を行う手法もあります。
2-2.多額の資金がなくてもM&Aを実現できる
会社分割では対価の支払いに発行した『新株』を使用可能です。多額の買収資金を用意しなくてもM&Aを実施できるのは、会社分割のメリットでしょう。
加えて企業の組織再編とみなされることで、消費税の課税対象外となるのもポイントです。税負担を減らせる点も必要な資金を抑えられる理由といえます。
資金力のない企業が新規事業を始める方法としても有効です。
2-3.事業承継に活用可能
『事業承継』の手法としても会社分割を生かせます。会社分割により一部の事業を子会社化し、後継者候補に代表取締役のポジションを任せる方法です。
経営者としての力を伸ばすには、実際に経営者の立場となり実践の中で学ぶのが効果的です。引き継ぎ前に新設会社の代表取締役を任せれば、スムーズにグループ全体のリーダーへと成長できるでしょう。
加えて大きな裁量のある仕事を任せることでやりがいが向上し、優秀な人材が社外へ流出するのも防げます。
3.会社分割は全部で4種類
会社分割は『分社型新設分割』『分割型新設分割』『分社型吸収分割』『分割型吸収分割』の4種類に分類できます。それぞれの特徴を解説します。
3-1.まずは「新設分割」「吸収分割」を知ろう
4種類に分類できる会社分割は大きく『新設分割』と『吸収分割』に分けられます。新設分割は、新しく作った会社へ切り離す事業を承継させる手法です。
事業を切り出し子会社を作るときや、複数の企業が共同事業を実施する合弁会社を立ち上げるとき、債務超過企業の不良事業を分離する企業再生などで用いられます。またM&Aで一部事業のみを売買するときにも有効です。
ただし管理する法人が増えるため組織構造が複雑化し、管理コストも増大するでしょう。一方、吸収分割はグループ内再編を目的としたケースがほとんどです。
例えば事業を子会社へ移し、親会社は経営戦略のみを担うホールディングス化をするときに用いられます。子会社同士の吸収分割で、グループ企業内の経営資源を再配分するするのにも役立つ手法です。
3-2.「1.分社型新設分割」「2.分割型新設分割」
新設分割は『分社型新設分割』と『分割型新設分割』に分類可能です。分社型・分割型では対価を受け取る人が異なります。
分社型新設分割で対価を受け取るのは『分割元企業』です。分社型では分割元の会社が事業を子会社として分離します。分割された事業を保有する会社の株主は分割元企業のため、対価を受け取れる仕組みです。
一方、分割型新設分割は分割元企業が事業を兄弟会社として分離します。この分離方法では分割する事業を保有する会社の株主は、分割元企業の株主です。
そのため対価は『分割元企業の株主』に支払われます。事業を企業から切り離すスピンオフの手法としても用いられる方法です。
3-3.「3.分社型吸収分割」「4.分割型吸収分割」
吸収分割では新しい会社はできず、対価を受け取り事業を承継会社へ譲り渡します。『分社型吸収分割』では対価の株式や金銭を分割元企業が受け取る仕組みです。
『分割型吸収分割』で対価を受け取るのは分割元企業の株主です。株式で対価を受け取ると、分割元企業と同時に承継企業の株主にもなります。
4.事業譲渡との違い
企業の展開する事業の一部を譲渡する手法には『事業譲渡』もあります。買い手が必要な事業や資産を選択して引き継げる方法です。会社分割と事業譲渡ではどのような点が異なるのでしょうか?
4-1.契約、許認可の引き継ぎがスムーズ
必要なものだけを選んで引き継ぐ事業譲渡では契約や許認可の手続きを一つずつやり直さなければいけません。会社分割を利用すれば原則として契約や許認可はそのまま引き継がれます。
例えばテナントの賃貸借契約を結んでいるならその契約ごと引き渡されるため、契約書の作成や締結は不要です。
ただし許認可の種類によっては再取得が必要なものもあるため注意しましょう。例えば会社分割で引き継ぐ事業が貸金業の場合には、許認可を取得し直す必要があります。
4-2.従業員と契約し直す必要がない
従業員との『雇用契約』もその他の契約と同様です。事業譲渡では契約を結び直さなければいけませんが、会社分割ではそのまま承継できます。個別の手続きが生じないのは会社分割のメリットです。
企業の組織が大きく変わる会社分割は従業員にも影響を与えます。そのため会社分割時に従業員は『労働契約承継法』で保護される決まりです。
例えば、労働者や労働組合へ会社分割について『通知』することが定められています。
4-3.事業譲渡とどのように使い分けるか
事業を限定して譲り渡す会社分割と事業譲渡のどちらを選ぶかはケースバイケースです。事業譲渡は契約や許認可の手続きが限定されている、比較的小規模な事業のやりとりに向いています。
また売り手が現金を受け取りたいときや、買い手が債務を引き継ぐといったリスクを避けたい場合に適しているでしょう。
一方会社分割が向いているのは、事業規模がある程度大きいときです。
丸ごと引き継げる会社分割であれば契約や許認可の引き継ぎにかかる手間を軽減できます。また買い手の買収コストを下げたいときにも有効です。
会社分割では一定期間同業種の会社を設立できない競業避止義務が課せられないため、今後の事業展開によって手法を選択してもよいでしょう。
5.税制上の優遇を受けるには専門知識が必要
会社分割を実施するとき、条件を満たせば『適格分割』と認められ税制上の優遇を受けられます。ただし適格分割と認められる条件は複雑で、専門知識が欠かせません。
5-1.適格分割の場合は税負担を軽減できる
実施した会社分割が適格分割に該当するなら、税負担を抑えられます。会社分割で買い手が引き継ぐ資産は売り手からの譲渡とみなされ、時価で譲渡損益を計上しなければいけません。利益が出ていれば法人税が課されます。
分社型分割では分割元企業のみが税金を負担しますが、分割型分割では分割元企業とその株主が税金を負担しなければならず株主にも影響が出る方法です。
適格分割であれば譲渡処理に簿価を用います。譲渡損益は計上されませんので、法人税がかからない仕組みです。適格分割に該当するかどうかで納める税金には大きな差が生じます。事前に確認しておくと安心です。
5-2.分割対価など細かい要件が定められている
適格分割には細かな要件があります。この要件は分割元企業と承継する企業の支配関係によって異なるのが特徴です。
例えば支配率100%であれば『分割対価要件』に当てはまることが求められます。分割元企業やその株主に、会社分割する企業の株式以外を交付しないルールです。
支配率50%超~100%未満であれば、加えて『主要資産等引継要件』や『従業者引継要件』『移転事業継続要件』を満たしていないといけません。さらに支配率50%未満であれば下記も必要です。
- 事業関連要件
- 事業規模要件
- 経営参画要件
- 株式継続保有要件(共同事業の場合)
また支配関係になければ『非支配関係継続要件』も満たす必要があります。
6.会社分割のリスク
事業譲渡と比較して手続きの手間を削減しやすく買い手のコストが低い一方で、会社分割にはリスクもあります。事業に関わる全てを承継するため『簿外債務』を引き継いだり、『反対株主』の対応に追われたりするかもしれません。
6-1.簿外債務を引き継ぐ可能性がある
切り離した事業をそのまま引き継ぐと、簿外債務を承継する可能性があります。簿外債務は帳簿に記載されていない債務のことで下記が代表的です。
- 未払給与
- 未払賞与
- 未払残業代
- 退職給付引当金
- リース債務
- 債務保証損失引当金
事業を詳しく調査した結果これらの簿外債務の可能性が判明したら、会社分割より事業譲渡を検討した方がよいかもしれません。
6-2.反対株主がいる場合は対応に追われる
企業が会社分割を決定するには、株主総会の『特別決議』が必要です。株主全体の承認を得られれば省略もできますが、反対株主がいるときには省略できません。
そこで株主総会の招集と同時に、反対株主への通知も実施します。この通知日から『20日間』を申立て期間として設け、この間に反対株主から『株式買取請求』があれば公正な価格で買い取らなければいけません。
場合によっては通知や請求への対応に追われる可能性もあります。
7.会社分割が適しているか慎重に判断しよう
会社分割はM&Aの手法の一つです。企業の一部の事業を切り離して引き継げます。子会社化や共同事業を進める合弁会社の設立にも利用されます。
手法として会社分割が適しているかはケースバイケースです。例えば買い手のコストを抑えたいときや、契約や許認可の手続きを省略したいとき、適格分割で節税に役立てたいときには会社分割が向いているかもしれません。
ただし、簿外債務のリスクや反対株主の対応に追われる可能性がある点も把握しておきましょう。自社のケースではどの手法が向いているのか、よく検討した上での判断が必要です。
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