M&A時の借入金の扱いを解説。連帯保証の解除についても確認を
企業の借入金には、金融機関からの借入金と役員借入金の2種類があります。M&Aを行うとき、売り手企業の借入金はどのように扱われるのでしょうか?また金融機関からの借入金に設定されている、経営者の個人保証の扱いについても見ていきましょう。
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1. 金融機関からの借入金
事業を行うには多額の資金が必要なケースがあります。例えば工場の設備投資に数千万円かかる場合、自己資金のみで支払うのは難しいでしょう。そこで利用するのが、金融機関からの借入金です。多くの場合、借入時に経営者が個人保証を負っています。
1-1. 事業活動のための負債
設備を新しいものに入れ替えて業務効率を高めたい、規模を拡大するために新しい事業に挑戦したいなど、事業活動のために資金が必要になった場合、金融機関から資金を調達する企業が多いでしょう。
借入金というと、マイナスのイメージを持つ人もいるかもしれません。しかし事業活動のための負債は、事業を拡大していくための前向きな意味合いを含んでいるケースも多々あります。
1-2. 経営者が個人保証を負う
金融機関からの借入金の特徴に、経営者が『個人保証』を負う点が挙げられます。万が一会社の経営が立ち行かなくなると、経営者は借入金を返済しなければいけません。
個人保証は連帯保証のケースが多いため、債務者である会社と同じ責任を負います。そのため債権者である金融機関から「返済してほしい」と請求されたら、債務者に代わり返済しなければいけません。
まず債務者へ請求するよう主張する『催告の抗弁権』や、債務者の財産を先に差し押さえるよう求める『検索の抗弁権』がないのも特徴です。そのため個人保証を負う経営者は、非常に重い責任のある立場といえます。
2. 役員借入金
企業が資金を調達するに当たり、自社の役員から借り入れるケースもあります。これが役員借入金です。利息の発生が任意であり、返済の時期も決められていない点で、金融機関からの借入金と異なります。
2-1. 役員の自己資金からの負債
役員が企業に貸している自己資金を役員借入金といいます。役員借入金の利用シーンとして代表的なのは、開業費用や資本金の立て替えです。
また企業に資金がなく、金融機関からの借入金も利用できない場合に、個人資産を企業に貸す経営者もいるでしょう。
ただし役員借入金が膨らみ過ぎると、経営者が死亡し相続が発生した際に相続財産となり、金融機関からの評価を下げる原因にもなりかねません。デメリットがあるため多用には要注意です。
2-2. 利息の負担を抑えられる
金融機関からの借入金には利息が付きます。一方、役員借入金の利息は任意です。利息を設定してもよいですが、無利息でも構いません。そのため利息の負担を抑え、企業の返済額を少なくできます。
また返済時期も自由に設定が可能です。同じ金額を返済するにしても、資金繰りに余裕がないタイミングでは経営に悪影響を与えてしまいます。
役員借入金であれば、資金繰りに余裕があるタイミングを見計らい返済できるのが特徴です。
3. M&A実施時の借入金の扱い
企業の借入金には2種類あると分かりました。これらの借入金は、M&Aを行うときにどのように扱われるのでしょうか?M&Aの手法ごとに異なる扱いを見ていきましょう。
3-1. 株式譲渡では買い手が引き継ぐ
M&A手法の一種である『株式譲渡』は、手続きが比較的シンプルなこともあり、中小企業でよく用いられる手法です。議決権のある株式を買い手が買収し所有することで、経営権が買い手へ移動します。
株式譲渡によるM&Aを実施した場合、借入金もそのまま引き継がれます。株式譲渡は経営権の移動によって、企業を丸ごと売却する手続きのためです。
買い手にとって不要な借入金があったとしても、その借入金も企業の一部として引き継がれます。
参考:株式譲渡にはどんな手続きが必要?契約や税金に関する基礎知識
3-2. 事業譲渡では引き継がないのが一般的
『事業譲渡』でM&Aを実施する場合、借入金は一般的に引き継ぎません。株式譲渡と異なり、事業の一部もしくは全部を選んで引き継ぐ手法である事業譲渡では、買い手は買収対象の事業のみを引き継ぐからです。
仮に借入金を買い手が引き継ぐとなると、売り手と買い手の間で事業譲渡契約を結ぶだけでなく、買い手と債権者の間でも契約をし直さなければいけません。債権者の同意も得なければならず、手間がかかります。
参考:事業譲渡の目的、主な特徴とは。専門家の知識が欠かせない理由
4. M&A実施時の個人保証の扱い
金融機関からの借入金の場合、個人保証を負っている経営者がほとんどです。株式譲渡によって買い手が借入金を引き継ぐ場合、個人保証はどのように扱われるのでしょうか?
4-1. 経営者の個人保証は解消されるのが一般的
株式譲渡では借入金も含め、買い手は企業を丸ごと引き継ぎます。もともと売り手のものであった経営権は、完全に買い手へ移動している状態です。
売り手である経営者が個人保証を負うのは、企業の経営に責任があるからです。M&Aによって経営権を失うと、それ以降は経営に関与できません。
その状態で、売り手である経営者が個人保証を負い続けるのは不合理と考えられます。そのため経営者の個人保証は、解消されるのが一般的です。
4-2. 買い手と金融機関の合意は必須
経営者の個人保証を解消するときには、買い手と金融機関にそれぞれ合意を得なければいけません。買い手には個人保証の引き継ぎについて合意を得ます。
また金融機関には、売り手である経営者の個人保証を解除するよう合意を得ます。買い手が引き継ぐと決まっている状態であれば、基本的に解除してもらえるはずです。
4-3. 個人保証を外せるのは代表者の変更登記後
売り手である経営者の個人保証を外し、買い手へ名義変更できるのは、M&Aの手続きを実施し代表者の変更登記を行った後です。金融機関が個人保証を設定するのは企業の代表者のため、登記事項証明書で買い手が代表者であると証明しなければいけません。
このとき売り手は、M&A実施後から実際に個人保証が外れるまで、「責任を負うのではないか」と不安を抱える場合もあるでしょう。そこで個人保証の引き継ぎについて買い手と合意した内容は、契約書に記載しておくと安心です。
5. 経営者保証ガイドラインで個人保証解除
スムーズな事業承継を後押しするため、個人保証を解除する流れも出てきています。解除するときに利用するのが経営者保証ガイドラインです。
5-1. 経営者保証ガイドラインとは
経営者保証ガイドラインで定められているのは、金融機関が中小企業へ融資をするときの個人保証や、保証履行時の整理手続きなどについてです。
企業と個人保証を負う経営者個人の資産が明確に区別されていることといった、一定の条件を満たしている場合、融資に個人保証を付けない可能性が示されています。
そのため経営者保証ガイドラインを活用することで、個人保証を解除できるかもしれません。
5-2. 経営者保証ガイドラインを利用するには
個人保証の解除に向け、経営者保証ガイドラインを利用するときには、まずは相談が必要です。以下に挙げる相談先のいずれかへ連絡しましょう。
- 中小企業基盤整備機構の地域本部
- 最寄りの商工会
- 商工会議所
- 認定支援機関(経営革新等支援機関)
相談窓口から専門家の派遣を申し込み、各種手続きを行う流れです。
6. M&Aでは借入金や個人保証の扱いに要注意
M&Aを実施するとき、借入金や個人保証の扱いは手法ごとに異なります。企業を丸ごと買い手に売却する株式譲渡では、借入金や個人保証も買い手が引き継ぐのが一般的です。
一方、引き継ぐ内容を選べる事業譲渡では、借入金や個人保証は買い手に引き継がれません。ただし経営者保証ガイドラインの定める条件を満たしていれば、個人保証を解除できる可能性があります。まずは相談窓口へ連絡してみましょう。
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