中小企業のM&Aが増加する理由。第三者への事業承継とは
タグ: #M&A近年、中小企業のM&Aは増加傾向です。後継者不在の中小企業が事業承継により成長や雇用を継続でき、経営者は対価を受け取れる方法として注目されています。M&Aによる売却時の企業価値評価とあわせ、M&Aの流れを確認しましょう。
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1.中小企業によるM&Aが増えている
M&Aの件数は以前と比べ増加しています。特に中小企業のM&Aは増加傾向です。さまざまな理由により後継者探しが進まない中小企業が増えていることもあり、解決策としてM&Aが用いられています。
1-1.2019年には4000件を超えた
過去10年ほどの期間において、日本国内のM&A件数は増加傾向です。2019年には4000件を超え、過去最高となりました。M&Aを実施する理由はさまざまですが、以下の三つが代表的です。
- 後継者問題の解消
- 事業規模の拡大
- 経営の立て直し
後継者問題や経営不振などは、すぐに解消するものではありません。そのため今後もM&A件数の増加傾向は続くと考えられています。
参考:2021年版「中小企業白書」 第2節 M&Aを通じた経営資源の有効活用|中小企業庁
1-2.多くの経営者が後継者探しに苦労している
数多くの経営者が後継者問題に直面しています。中小企業庁の調査によると、経営者のうち60代は約5割、70代は約4割、80代は約3割が後継者不在という結果です。
経営者が引退を考え始める年齢になっても、誰が引き継ぐか決まっていないケースは多々あります。子どもなどの親族による承継が難しい場合もあれば、そもそも子どもがいない場合もあるでしょう。
従業員の誰かに引き継がせたいと考えていても、少子化により若手がおらず事業承継がままならない企業もあります。また事業の将来性に関する不安や負債を抱えているため、廃業を決めている経営者もいるでしょう。
このような状況の打開策として、M&Aが注目されています。
参考:後継者不足を理由に廃業はもったいない。M&A検討で可能性は広がる
参考:2020年版「小規模企業白書」 第1部第3章第2節 経営者の高齢化と事業承継|中小企業庁
2.M&A増加の一方で不安を感じる経営者も
M&Aは後継者問題の解決に役立つ方法として、多くの企業に注目されています。しかしすべての経営者が、M&Aで問題解決できるわけではありません。中には不安を感じ、問題を抱えながらもM&Aに一歩を踏み出せずにいる経営者もいます。
2-1.M&Aのことがよく分からない
広く活用されるようになってきているM&Aですが、専門的な知識が必要な取引のため、「よく分からない」と感じている経営者も大勢いるのが現実です。基本的な知識が不足していると、情報を入手してもそれが正しいのか判断できません。
判断材料となる情報がないまま業者に相談しても、提示された費用が妥当なものか分からず不安なため、不信感をぬぐえず取引に進めないでしょう。
よく分からないからとM&Aをためらっているなら、公的な支援の活用がおすすめです。M&Aについて知りたいなら、経済産業省の『中小M&Aガイドライン』や『中小M&Aハンドブック』が役立ちます。
またM&Aの実施を決めたなら、『事業承継・引継ぎ支援センター』『M&A支援機関登録制度』を利用するとよいでしょう。
参考:M&Aのメリットを細かく紹介。M&Aによる相乗効果や節税効果とは
2-2.第三者に売り渡して大丈夫なのか
売却後を心配するあまり、M&Aに不安を感じている経営者もいます。第三者に売却するため、経営方針が大きく変化する可能性はあるでしょう。
そのため、M&Aの買い手は慎重に選ばなければいけません。面談を重ね、できるだけ考え方やものの見方が似ている買い手を選びます。
M&Aによって経営者が変わることによるインパクトは大きなものです。特に中小企業の場合は、魅力ある経営者によってモチベーションが支えられている従業員や、長く付き合いの続いている取引先がいます。
そのため、M&A成立後も一定期間は会社に残り、業務に関わることを希望されるケースも多くあるようです。
3.事業承継に悩む会社がM&Aを選ぶメリット
事業承継のめどが立っていないなら、M&Aを活用するとよいでしょう。会社の成長にプラスの影響が出るかもしれないことに加え、従業員の雇用を守れます。また会社を売ると、その対価を得られる点もメリットです。
3-1.会社を成長させるチャンス
M&Aは会社を大きく成長させるきっかけとなる可能性があります。親族や従業員を後継者にしたいと経営者が望んでいても、必要な能力を満たす後継者候補がいるとは限りません。
また十分な能力があったとしても、承継を希望しないケースもあるでしょう。このような場合、M&Aによる事業承継によって選択肢が広がります。
M&Aで他社の買収を検討している会社は、財務状況が安定していて、拡大途中のケースが多いでしょう。そのため買収されることで自社の財政面も安定し、事業への投資も十分に行われると期待できます。
その結果、M&A前より成長する会社も珍しくありません。
3-2.従業員の雇用を守れる
中小企業にとって従業員は財産といえます。独自の技術を持った従業員や会社のキーパーソンもいるため、M&Aの買い手の82.1%は、従業員をそのまま雇用し続けるという調査結果もあります。
後継者問題が解決せず廃業した場合、従業員は無職になってしまいます。M&Aを行えば、従業員の雇用を守れるでしょう。
買い手によっては、従業員にとってメリットとなるケースもあります。例えば異業種や規模の大きな買い手による買収であれば、新たな仕事に挑戦できるかもしれません。
ただしM&A以前より雇用条件が悪くなる場合は、従業員が会社を離れてしまうケースもあるでしょう。
参考:買収された会社の末路。考えられる社員や買い手企業とのトラブルは?
3-3.対価を受け取れる
M&Aにより会社を売却すると、経営者は対価を受け取れます。魅力ある事業を展開している会社や、規模が大きめの会社であれば、数億円という金額を受け取れるかもしれません。
経営者の対価の受け取り方は、M&Aの手法によって異なります。一般的に経営者が多額の対価を受け取りやすいのは『株式譲渡』です。所得税がかかりますが、他の手法より税額の負担が小さく、手取り額が増える傾向にあります。
まとまった資金があれば、引退後の生活資金として利用できるのはもちろん、相続発生時の対策にも活用可能です。
参考:M&Aで株式譲渡が選ばれる理由は?株式譲渡契約の内容などを解説
4.自社はいくらで売れるのか
もしM&Aで会社を売却できるとしたら、自社の価格はいくらくらいなのでしょうか?中小企業の価格を算出するための企業価値評価と、売却しにくい会社の特徴を確認します。
4-1.中小企業の企業価値評価
バリュエーションとも呼ばれる企業価値評価には、さまざまな計算方法があります。中でも中小企業のM&Aでよく用いられるのが『時価純資産+営業権法』です。
時価純資産とは、会社の持つ資産と負債を時価評価し、資産額から負債額を差し引いた金額を指します。一方、営業権とは帳簿上には現れない超過収益力のことで、ノウハウやブランドなどです。
時価純資産と営業権を足すだけで計算できるため比較的簡単な上、客観性も高い算出方法といえます。ただし企業価値評価で算出した金額が、そのままM&Aの取引価格になるわけではありません。
企業価値評価の結果をもとに、売り手・買い手の話し合いにより最終的な金額が決まります。
参考:企業価値の計算方法と注意点。企業の価値を決める要素とは
4-2.売りにくい会社の特徴は?
ほかにはないノウハウを持っている、買い手が入手したい販路を確保しているなど、何かしらの魅力を持つ会社であれば、比較的高額でもM&Aの契約が成立する可能性があります。
しかし魅力の薄い会社にはなかなか買い手が付きません。買い手が付いたとしても、高い金額では売却しにくいでしょう。
例えば赤字が3期連続で続いている会社や、多額の借入金がある会社は、売却しにくいかもしれません。また黒字の会社であっても、経営者の魅力で成り立っていると再現性が低いため、売却しにくいでしょう。
5.中小企業M&Aはどのように行われる?
専門知識が必要なM&Aは、中小企業が自社だけで進めるのは難しい取引です。専門家へ依頼すると、スムーズに進めやすいでしょう。加えて中小企業のM&Aで活用されるケースの多い手法も紹介します。
5-1.専門家の力を借りて進める
自力でM&Aに関するすべての取引を行うのは、現実的ではありません。そこで専門家に相談しますが、相談はできるだけ早いタイミングに行いましょう。
M&Aで会社を売却するまでには多くの工程があり、長い期間が必要なためです。引退直前になってから相談すると、希望していた時期までに引退できないかもしれません。
早い時期に相談するメリットとして、選択肢の幅が広がりやすい点が挙げられます。M&Aを意識したタイミングで、できるだけ早めに専門家に相談しましょう。
相談は無料で受けられ、その後M&Aが成功したら成功報酬を支払うという専門家も多いものです。無料なら相談しやすいでしょう。
参考:M&Aアドバイザリーとは?サポート内容や契約時の確認ポイント
5-2.よく使われるM&A手法
中小企業のM&Aでよく使われるのは『株式譲渡』『事業譲渡』『会社分割』です。3種類の手法の特徴を確認しましょう。
- 株式譲渡:会社を丸ごと売却する手法で、会社の株式を売却し経営権を買い手へ移す
- 事業譲渡:事業の一部もしくは全部を売却する手法で、買い手は契約を個別に結び直す
- 会社分割:事業の一部もしくは全部を分割し売却する手法で、買い手は事業を丸ごと承継する
手法ごとに特徴があるため、M&Aの目的を考慮した使い分けが重要です。例えば借入金も含め事業承継してほしいと考えているなら、資産も負債もまとめて引き継ぐ株式譲渡が向いています。
参考:M&Aの際に行われる税金対策。株式譲渡、事業譲渡、会社分割を解説
6.買い手が見つかったら?
自社を購入希望の買い手が見つかった場合、まずはお互いの条件の確認と交渉が必要です。この段階で合意できたら、買い手は売り手の調査であるデューデリジェンスを実施します。その後、最終契約へ進む流れです。
6-1.条件の確認、交渉
買い手が見つかったなら、まずは『トップ面談』を行い、条件を確認し交渉を実施します。十分に自社の魅力を伝えるために、トップ面談を何回も行うケースもあるでしょう。
加えて、価格を始めとする売却の条件や売却後の経営方針についても、入念な確認が必要です。トップ面談の段階で疑問点がなくなるよう話し合います。
参考:M&Aで重要とされるソーシングとは。交渉までの進め方を知ろう
6-2.買い手による調査を実施
次に行われるのは、買い手による詳細な調査である『デューデリジェンス』です。トップ面談で十分に話し合いをしたとしても、売り手会社に不備がないとは言い切れません。
買収後に不備が判明した場合、買い手は大きな損失を被ります。そこで適切な価格で買収するための調査が必要です。
調査範囲は法務・税務・財務などあらゆる分野にわたります。詳しい調査には専門知識が必要なため、弁護士や税理士などの専門家に依頼するとよいでしょう。
調査の結果、帳簿上に記載されない簿外債務が判明し、価格交渉が行われる場合もあります。
参考:M&Aにおけるデューデリジェンスの役割。調査項目や進め方を知る
6-3.最終契約を締結
調査実施後、必要に応じて価格の交渉を行い、売り手・買い手が合意したら『最終契約』です。このとき締結する契約書では、価格のほかにも表明保証やクロージングの条件など、さまざまな項目が記載されます。
契約書の内容を確認し締結したら『クロージング』の段階です。クロージングでは、買い手から対価の支払いが行われる代わりに、売り手は取引先からの合意を取り付けたり、会社名義の個人資産を経営者が買い取ったりします。
参考:5.M&Aの成立へ進む
7.M&Aを理解して売却を成功させよう
中小企業のM&Aは、後継者問題に悩む会社の増加や、社会情勢の変化に伴い、増えている傾向にあります。会社が抱えている問題を解決し、従業員の雇用を守りつつ、会社を成長させられる可能性のあるM&Aを活用しましょう。
また経営者にとっては、対価を得られる点もM&Aのメリットです。場合によっては数億円といった大金を受け取れるかもしれません。
税金対策をはじめ、後継者問題やM&Aにお悩みなら、事業承継対策の専門家に相談するのがおすすめです。相談対応実績が豊富で、税理士・会計士・弁護士が多数在籍する『税理士法人チェスター』にご相談ください。
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M&Aの流れについてより詳しく知りたい人は、以下もご覧ください。
事業承継・M&Aを検討の企業オーナー様は
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