垂直型M&Aの例を紹介。水平型M&Aとの違い、戦略の立て方も
タグ: #M&A垂直型M&Aは同業種の川上や川下の企業を買収するM&A手法です。計画的なM&Aを実施すれば、強みを生かし弱みをカバーする強力なバリューチェーンを構築できます。効果的な戦略の立て方やリスク、業界ごとの具体例も見ていきましょう。
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1.垂直型M&Aとは
垂直型M&Aとは同業種の中で業態の異なる企業を買収するM&A戦略です。計画的に実施すれば、技術力やノウハウを入手し利益率の向上に役立てられるでしょう。基本的な知識や他のM&A戦略との違いを解説します。
1-1.縦のラインを強くするM&A
同じ業種の中でも材料を供給する『川上』の企業と、顧客との距離が近い『川下』の企業があります。アパレルであれば川上に位置するのは原材料を扱う企業です。
川上の次に位置するのがデザインや縫製など製造を担う企業で、さらに川下には卸業者や小売業者があります。例えば洋服を製造するメーカーが川上の原材料を扱う企業を買収すれば、仕入れのコスト削減につながるでしょう。
川下にあたる小売業者を買収すれば、顧客の声を取り入れた製品作りで売上アップがかなうかもしれません。仕入れ・製造・販売という一連の流れにより、バリューチェーンが生まれます。
1-1-1.「バリューチェーンを強化」とは
バリューチェーンでは、事業活動で生まれる価値を一連の流れと捉えます。流れによってより大きな価値が生まれるよう調整するのが、バリューチェーンの『強化』です。
強化するには、まず自社が生み出している価値の出どころを特定します。そのためには事業活動を分解して考えなければいけません。分解の仕方は事業内容ごとに異なりますが、下記を参考にするとよいでしょう。
- 主活動:購買物流・製造・出荷物流・販売・サービスなど
- 支援活動:全般管理・人事労務・技術開発・調達活動など
- マージン:主活動・支援活動の結果得た利益
事業全体を構成する各要素を切り出し、それぞれを競合より強くすれば、結果的に全体としての競争力が上がりバリューチェーンが強化されます。
1-2.他のM&A戦略との違い
垂直型M&Aの特徴は、事業の流れが生み出す価値を高められることです。一方、業種・業態が同じ企業を買収する『水平型M&A』では規模の拡大を目指せます。例えば同業種の小売店を営む企業を各地域で買収すれば、全国規模での展開が可能です。
『新規型M&A』は新しい事業にチャレンジするときに向いています。自社が未経験の分野でもM&Aで買収すれば、短期間のうちに軌道に乗せやすいはずです。
『コングロマリット型M&A』を実施すると、事業の多角化によるリスク分散ができます。異なる業種の事業展開が可能になるため、ある事業が経営の危機に陥っても全体で補い合えるのが特徴です。
2.垂直型M&Aで事業規模を拡大
規模を拡大できるのも垂直型M&Aの魅力といえます。競合に対し優位性を高められ、スケールメリットが生じる可能性もある戦略です。
2-1.スピーディーに競争優位性を高められる
垂直型M&Aによって、製造から販売までの一連の流れを自社のみで構成すれば、競合する他社に対してすぐに優位性を得られるでしょう。例えば製造業を展開している企業が小売業を営む企業を買収すれば、自社製品を直販可能です。
自社で一から小売事業を立ち上げれば、販売チャネルやノウハウを手にするだけでも数年がかりになるかもしれません。小売の分野で活躍する優秀な人材の獲得も必要です。
垂直型M&Aを実施すれば、このような時間と手間を省略できます。
2-2.スケールメリットの発生
『スケールメリット』を生かした事業展開ができる可能性もあります。例えば小売事業を営む企業が卸事業を営む企業を買収すれば、中間マージンを省略できコスト削減が可能です。
「高く売りたい」卸と「安く買いたい」小売の間には牽制関係ができているケースが多いでしょう。買収し一つの企業になれば、牽制関係は解消されます。全体のコスト削減と利益向上を目指せる方法です。
加えてシナジー効果(相乗効果)によるコスト削減も得られるかもしれません。これまで他社へ外注していた業務を自社内で担えるようになれば、その分コスト削減できるからです。
3.垂直型M&Aで効率的に弱点の強化を
企業が生み出す価値を向上させるには、バリューチェーンの強化が欠かせません。そのときに必要なのが弱点の強化です。垂直型M&Aを活用すれば、不足している部分を補い弱点を強化できます。
3-1.優秀な人材の獲得、ノウハウの蓄積が可能
計画的にM&Aを実施すれば、優秀な人材やノウハウを獲得できます。現時点で自社に足りない部分を補うようなM&Aを実施すると効果的です。
バリューチェーンを構成する事業活動の中で、インターネット販売の規模が小さい点が弱みだと判断したなら、既にネットショップを運営している企業を買収します。
自社にないノウハウやインターネット販売に精通した人材により、弱みを強みに変えられるでしょう。自社のノウハウや人材のみで取り組むよりもスピーディーに結果を出しやすい方法でもあります。
3-2.リスクを抑えられるだけでなく、品質向上も
垂直型M&Aの実施により、低リスクと品質向上を両立できます。他社との競争に勝つには独自の技術が必要です。ただし獲得には時間がかかりますし、必ずしも競争に勝てるわけではありません。
多大な時間と資金をかけて失敗するリスクもあります。M&Aであれば技術の取得に必要な時間や資金を最小限に抑えやすいでしょう。加えて獲得した技術は他の事業へも生かせる可能性があります。
汎用性のある技術であれば、企業内のさまざまな事業に生かせるでしょう。全体の品質が高まることで、収益アップにも役立つ方法です。
4.川上、川下それぞれのM&Aの特徴
川上の企業と川下の企業、どちらとM&Aを実施するかによって、同じ垂直型M&Aでも期待できる働きは異なります。同業種の川上・川下にあたる企業は顧客であるケースも多いでしょう。M&Aを実施するとき、顧客との関係で注意すべき点も解説します。
4-1.川上の企業との統合
垂直型M&Aで川上の企業を買収すると『差別化』しやすくなるのが特徴です。例えば特殊な原材料を入手できる企業との統合によって、同様の製品を作っている他社との差別化につながるでしょう。
『情報漏えい』が起こりにくいのも特徴といえます。技術・アイデア・ノウハウなどを自社内から出さずに製品開発ができるからです。
競合他社へ自社の機密情報が漏れるリスクが小さくなるため、製品が陳腐化するのを防げます。
4-2.川下の企業との統合
川下にあたる企業とのM&Aでは『ニーズ』の把握がしやすくなるでしょう。メーカーもマーケティングを実施していますが、イメージや思い込みを反映した解釈をしているケースもあるものです。
顧客の声を直接聞いている小売業者であれば、市場が何を求めているかじかに知っています。マーケティングと顧客の声、両方を取り入れた改良や開発で、多くの人が求める製品作りが可能です。
また市場にある潜在的なリスクの察知にも役立ちます。
4-3.既存顧客とのM&Aの注意点
垂直型M&Aを実施するときに注意したいのが『既存顧客』との関係です。川下の企業とM&Aを実施すると、顧客と競合してしまう可能性があります。
また「顧客だから」という理由でM&Aを実施してしまい、失敗に終わるケースもあるでしょう。顧客として良好な関係を築いてきた相手が、必ずしもM&Aにおいてもよい相手であるとは限りません。
買収を検討するときには、自社の事業にどのような影響があるか論理的に考えた上での決定が重要です。
5.垂直型M&Aのリスクを把握しておこう
リスクを抑えながら人材やノウハウを得られる点や、他社との差別化がしやすい点など、垂直型M&Aにはさまざまなメリットがあります。ただし意思決定やコスト面にはリスクもあるため、あらかじめ知っておきましょう。
5-1.事業拡大により迅速な意思決定が難しくなる
企業の規模が大きくなれば、運営にはその分たくさんの資源が必要です。しかし企業が持っている資源は有限です。優秀な人材が不足し手薄な部分が出てくれば、企業としての『意思決定』が遅くなります。
迅速な意思決定をするには、経営者が今後の運営方針や市場の動向を適切に見定め、限られた資源を適切に配分しなければいけません。
5-2.M&A前よりコストが増える可能性がある
M&A実施前より全体の『コスト』が増える可能性があります。コスト削減を目的としてM&Aを実施するなら、事前の分析や計画が欠かせません。
シナジー効果を期待できるか、ビジネスモデルに関連性はあるか、統合できる機能はあるか、などを検討しましょう。特にシナジー効果を発揮できるM&Aでは、従来より多くの利益を得てコスト削減できる可能性があります。
6.垂直型M&A戦略の立て方
垂直型M&Aは、戦略を立てて実行しなければうまくいきにくいでしょう。自社の強みと弱みを把握した上で、目的を達成するための対象企業を選ばなければいけません。
6-1.自社の強み、弱みなどを分析する
目的をはっきりさせずにM&Aを実施すると、思うような効果を発揮しきれません。まずは目的を明確にするために現状を把握しましょう。例えば下記4種類を客観的に見つめ直す『SWOT分析』が効果的です。
- Strengh(強み)
- Weakness(弱み)
- Opportunity(機会)
- Threat(脅威)
4種類の項目を分析するときには、バリューチェーンを構成する事業内容ごとに見ていきましょう。各事業の強みや弱みを理解したら、自社だけで努力しても解決できない課題が何か分かるはずです。
改善したい課題がはっきりしたら、それがM&Aの目的になります。
6-2.目的に合った対象会社を選定
自社を分析して目的が定まったら『対象会社』を選びましょう。選定時は最初から1社のみ選ぶのではなく、目的に合う企業を広範囲にリストアップしてから詳細な条件に合わせて絞り込みます。
このときM&Aによって課題を解決できるかという点はもちろん、シナジー効果を得られるかも考慮が必要です。どのような企業を買収すれば、強みを生かし弱みをカバーできるでしょうか?
目的達成に向けた経営戦略を立て、最適な対象会社を選びます。
7.業界別に縦のラインを強化している例を紹介
実際に垂直型M&Aで縦のラインを強化している事例を見ていきましょう。各業界の事例をチェックすれば、垂直型M&Aをどのように活用できるかイメージしやすくなるはずです。
7-1.半導体業界
『半導体業界』はもともと垂直型の事業モデルで運営している企業が一般的でした。ほとんどの企業が自社製品や自社システムに利用する半導体を内製していたそうです。
大企業は垂直型の事業モデルから、半導体部門を切り離す戦略を選びました。しかし現在は再び内製化する企業が増加中です。
また中小企業はニッチな分野の市場確保がポイントといえます。専門分野の確保によって強みを強化し、適した市場を開拓していく方向性です。
7-2.アパレル業界
M&Aが活発な『アパレル業界』では、メーカー・卸売業・小売業の垂直型M&Aが行われるケースが多くあります。さらに企画や製造まで一手に担うSPAという業態もあるのが特徴です。
製品の企画から販売までを全て自社内で実施し、効率的に大量生産できます。世界中に展開している店舗に効率的に製品を振り分けることで、需要に合わせた適切な供給ができるのも特徴です。
中間に他社をはさまないため余計なコストがかからず、安価に高品質なアイテムを提供できる点は、顧客にとっても魅力といえます。
7-3.自動車業界
垂直型の事業モデルは『自動車業界』にも多く見られます。川上にあたる部品メーカーを子会社化すれば仕入れコストを低く抑えられますし、川下の販売店を子会社化すれば直販体制を作れるからです。
必要な部品が多い従来の自動車業界では、垂直型が効率的な方法でした。ただし電気自動車が主流になると、これまでより必要な部品が減少することから、事業モデルが変わっていくと予想されています。
今後はファブレスメーカーという製品製造をアウトソーシングするメーカーが増えるかもしれません。
8.機能補完などに利用されるM&A戦略
垂直型M&Aは、自社の川上や川下に位置する事業を展開している企業を買収する戦略です。自社にない人材やノウハウを獲得することで、より効果的な運営を目指します。
リスクを抑えつつ品質の向上を目指せる方法ですが、意思決定のスピードやコスト面にリスクがある点には注意が必要です。M&Aを実施するとどのような影響が出るのか、よく検討してから実施しましょう。
自社の強みや弱みを把握した上で、目的に合わせた対象会社を選定することもポイントです。M&Aにあたり税務面の疑問があるなら『税理士法人チェスター』へ相談するとよいでしょう。
事業承継・M&Aを検討の企業オーナー様は
事業承継やM&Aを検討されている場合は事業承継専門のプロの税理士にご相談されることをお勧め致します。
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