M&Aのクロージングで行う手続きや、取引が中止になる条件を解説

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M&Aは契約成立後のクロージングも重要です。正しく手続きを進めないと法的に無効になる可能性もあります。またクロージングで行う手続きは、スキームごとに異なる点に注意しましょう。クロージング前後で行うことや、その後のPMIについても解説します。

1.クロージングはM&Aの最終手続き

1.クロージングはM&Aの最終手続き

M&Aの手続きはクロージングによって完了します。契約書に定めた内容を履行し、売却した会社や事業を買い手のものにするための手続きです。

正しく手続きを進めなければ、法的に無効になる可能性があるでしょう。M&Aスキームや会社の状態によっては、完了までに1年間ほどかかる場合もあります。

1-1.法的に有効な手続きが必須

法的に有効な手続きが必要なクロージングでは、必要な書類を確実にそろえ、正確に手続きを進めなければいけません。書類や手続きに漏れがあると、株式や資産の移転が法的に有効なものでなくなるおそれがあります

トラブルに発展する可能性もある事態です。スムーズなM&Aのためには、確実なクロージングの実施に向けて、入念に準備しましょう。

1-2.クロージングに要する期間

クロージングは最終契約を締結した後、一定期間経過後に実施するのが一般的です。契約締結後から実際にクロージングをするまでの間に、デューデリジェンスで見つかった不具合の改善といった必要な準備を行います。

M&Aに採用したスキームや会社の抱える課題の程度によって、クロージングの準備や実施にかかる期間はさまざまです。1カ月で完了する場合もあれば、1年間かけて取り組まなければいけないケースもあります。

2.株式譲渡のクロージング

2.株式譲渡のクロージング

株式を売却することで、会社を丸ごと買い手のものとするのが株式譲渡です。株式譲渡のクロージングで必要な手続きは、株式を上場しているか否か、非上場であれば株券を発行しているか否かにより異なります。

2-1.非上場株券発行会社

非上場会社で株券を発行している場合は、まず『株券の交付』が必要です。あわせて買い手が株式の所有権を第三者に対して主張するには、株主名簿の書き換えをしなければなりません。

売り手・買い手の共同で『株主名簿記載事項書換請求書』を会社へ提出し、書き換えましょう。

加えて、対象会社が株式の譲渡を制限している場合には、取締役会や株主総会で譲渡に関する承認を受けなければいけません。承認の請求は買い手でも売り手でも可能です。また株式を取得した買い手は対価を支払います。

2-2.非上場株券不発行会社

同じ非上場会社でも、株券を発行していなければ株券の交付は不要です。売り手と買い手が合意すれば譲渡できるため、『株式譲渡契約』を締結すれば株式譲渡は成立します

第三者に対して株式の所有について対抗するために、株主名簿の書き換えが必要な点や、譲渡制限がある場合に会社の承認が必要な点は、株券発行会社と同じです。

2-3.上場会社

上場会社の株式譲渡を行う際には、株主の権利の移転は証券保管振替機構や証券会社の口座を通して行われます。『社債、株式等の振替に関する法律』第140条によって、クロージングにおいて、売り手は振替申請をしなければいけないと定められています

また売り手の振替申請後、株式が買い手のものとして法的に認められるのは、買い手口座の保有欄に増加について記載されたタイミングです。

参考:社債、株式等の振替に関する法律 | e-Gov法令検索
参考:M&Aで株式譲渡が選ばれる理由は?株式譲渡契約の内容などを解説

3.事業譲渡のクロージング

3.事業譲渡のクロージング

事業譲渡は、会社が保有する事業の一部もしくは全部を選択し、売却するM&Aスキームです。資産や契約を一つずつ移転する必要があるため、クロージングでは個別に手続きを行わなければいけません。また特別決議が必要な場合もあります。

3-1.条件に当てはまる場合は特別決議が必要

保有する事業の売却は、会社の経営に大きな影響を与える可能性があります。例えば会社の保有する事業のすべてを売却するケースや、売却する事業の価値が総資産の1/5以上になるような重要なものである場合には、特別決議が必要です。

特別決議は、議決権の過半数を持つ株主が出席する株主総会で行われます。出席した株主の議決権のうち、2/3以上の賛成を得なければいけません。

3-2.資産や契約を移管する手続き

事業を個別に売却する事業譲渡では、資産や契約の移転手続きを個別に行います。例えば譲渡する資産に不動産が含まれている場合には、法務局で所有者変更の登記をしなければいけません。

従業員の引き継ぎを行う場合には、雇用契約も個々の従業員と締結し直します。またすべての移転手続きは、第三者へ対抗するための条件を満たしているものである点も条件です。

個別の手続きは量が多く煩雑になりやすいでしょう。抜けや漏れがないように手続きを進めるには、手間もコストもかかります

参考:事業譲渡の目的、主な特徴とは。専門家の知識が欠かせない理由

4.合併や会社分割のクロージング

4.合併や会社分割のクロージング

複数の会社を一つにする『合併』には、合併する会社の権利義務を新しく設立した法人に引き継がせる『新設合併』と、一つの会社に合併するその他の会社の権利義務を引き継がせる『吸収合併』の2種類があります。

また『会社分割』も、分割した事業を新設した会社に引き継がせる『新設分割』と、すでにある会社へ引き継がせる『吸収分割』の2種類です。合併と会社分割は会社組織が大きく変わるスキームのため、特別決議に加えて債権者保護手続も行います。

4-1.特別決議を行う

それまで別々の会社が一つになる合併や、一つだった会社を分ける会社分割は、実施の前後で大きく会社組織が変わるのが特徴です。そのため、クロージングにあたり特別決議を実施しなければいけません。

議決権の過半数を持つ株主が出席した株主総会で、出席した株主の2/3以上の賛成を得ることで決議します

参考:会社分割とは何かわかりやすく解説。メリット、デメリットは?
参考:新設合併とはどんなM&A手法?対等合併で好イメージな点がメリット
参考:吸収合併とはどんなM&A手法?メリット・デメリットや手続きを解説

4-2.債権者保護手続が必要

組織に大きな変更のある合併や会社分割を行う際には、債権者保護手続も必要です。債権者が会社への貸付などを決めたのは、M&A前の状況なら債権を回収できると判断したためであり、M&A実施後は「債権回収の目処が立ちそうにない」と考える債権者もいるでしょう。

そこで、合併や会社分割を実施することを、官報での公告や直接の通知であらかじめ債権者へ告知し、異議申し立てできる期間を1カ月設けます。債権者から異議申し立てがあれば、債務を履行し債権を消滅させるか、相応の担保を提供しなければいけません

参考:事業譲渡における債権者保護の必要性。手続きを省略できるケースとは

5.クロージング条件を定めている場合も

5.クロージング条件を定めている場合も

M&Aの最終契約書では、クロージング条件を設けるケースもあります。満たしていない場合はクロージングせず、M&Aを実施しないよう定める条項です。

買い手にとって「この条件を満たさないならM&Aをする意味がない」というくらい、重大な事項に関して定めるのが一般的です。

5-1.表明保証

表明保証が設けられている場合、定めた時点で表明し保証した内容が正しいものであることがクロージングの前提条件です。対象会社の情報を、買い手は売り手ほど詳細まで知りません。

そこで、買収後にリスクが発覚し損失が出るといった結果にならないよう、デューデリジェンスという詳細な調査を実施します。ただしデューデリジェンスを行ったからといって、リスクをすべて回避するのは不可能です

中には、売り手が故意にリスクにつながる情報を隠すケースもあるでしょう。デューデリジェンス時点で表明した内容が正しいものだと表明する条項を設ければ、万が一後から不備が見つかった場合クロージングは行われず、買い手はリスクを避けられます。

参考:M&Aにおけるデューデリジェンスの役割。調査項目や進め方を知る

5-2.キーマンの雇用継続の同意

対象会社で重要な働きをする役員や従業員(キーマン)の存在は、M&Aの成否を左右します。キーマンが離職することでこれまでの成果を生み出せない事態や、他の従業員の離職を招くおそれがあるためです

M&A後にスムーズな統合と相乗効果を発揮するため、キーマンの雇用継続についての同意を、クロージング条件に設定するケースもあるでしょう。この場合、売り手はキーマンから雇用継続に関する同意をあらかじめ得ておかなければいけません。

参考:キーマン条項の内容、期間とは。関係のある二つの条項についても解説

5-3.取引先による取引継続への同意

買い手が対象会社と契約している取引先に魅力を感じ、M&Aを実施するケースもあります。重要な取引先との契約がM&Aをきっかけに途絶えると、その後の収益が見込めない可能性もあるでしょう。

このような場合には、クロージング条件として、取引先との間に取引継続の同意を得るよう求められるケースもあります。取引先と交わした契約書に、経営者の変更に伴い契約解除できる旨を定める『COC条項』が設けられている場合には、対応が必要です。

参考:チェンジオブコントロール条項の内容とは?M&Aにおける注意点

5-4.許認可の届出の実施

M&Aで買い手が引き継ぐ事業によっては、許認可が必要な場合があります。許認可の種類や用いるM&Aスキームによっては、M&Aを行う際に届出が必要なケースもあるでしょう。

正しく手続きが行われなければ、M&A完了後に休業期間を設けなければいけない事態も起こり得ます。スムーズに事業の引き継ぎを実施するため、許認可の届出の実施をクロージング条件とする場合もあります

5-5.MAC条項

一般的に、最終契約締結からクロージングまでには期間があります。この間に会社の状況が大きく変化し、価値が大きく目減りする可能性もあるでしょう。重大な悪化が起こった場合に、買い手が取引を中止できるのがMAC条項です

ただし、実際にMAC条項が争点となっている裁判はほとんどありません。東京地裁平成22年3月8日判決は、MAC事由を争点とした数少ないケースです。

このケースでは、売り手・買い手の公平性を念頭に、重大な悪化を限定的に解釈しています。営業利益が予測と大きく異なり、引き継いだ土地の価格が下落し、あるはずだった無形固定資産がなく、退職引当金が不足していましたが、MAC事由には該当しないと判断されました。

6.クロージング前後で行うこと

6.クロージング前後で行うこと

スムーズにクロージングを行うには、事前準備が欠かせません。また義務づけられた手続きの実施も必要です。クロージング前後で行うことについても確認しましょう。

6-1.実施内容を確認するプレクロージング

クロージングで実施する作業は多岐にわたり、どれも抜け漏れが許されないものばかりです。確実に実施するには、クロージングに必要な内容を確認するプレクロージングを、数日前から前日までに行いましょう

このときチェックリストを用意しておくと、クロージング実施時の確認がしやすくなり、よりスムーズです。

6-2.ポストクロージングで義務を履行

買い手に事業を引き継ぐために必要な手続きは、クロージングだけではありません。クロージングに付随し実施が必要な、ポストクロージングもあります。

代表的な手続きは、買い手から派遣される取締役を選任するための臨時株主総会や、新たな代表取締役を選ぶ取締役会の開催、クロージング時における財務諸表の確定などです。

7.クロージング後はPMIを実施

クロージングを行えば、対象会社は名実ともに買い手のものとなります。ただし必要な手続きを行ったからといって、即座に別々の会社が一つになりスムーズに稼働するわけではありません。

相乗効果を生み出し、投資費用を回収するため、買い手はPMI(経営統合)を行います。

7-1.PMIがM&Aの成否を決める

デューデリジェンスや交渉をへて契約を締結し、無事にクロージングしたとしても、M&Aが成功したとは言い切れません。PMIが順調に進まなければ、見込んだほどの利益が出ないためです。準備が不十分なままPMIに進めば、損失につながる可能性もあります

例えば2社が異なるシステムを使い業務を管理している場合、システムの統合が必要です。万全の体制を整えてシステムを移行しなければ、システム障害で業務に支障をきたす可能性があるでしょう。

システム障害に起因する重大なミスにより商品やサービスに影響が出れば、顧客離れの可能性もあります。ただし、早急に統合を進めなければと急ぎすぎると、従業員がついてこられず退職につながる可能性もあるでしょう。

7-2.コミュニケーションがポイント

PMIの成功には、コミュニケーションが重要です。どちらか一方のルールに当てはめるだけではうまく進まないでしょう。これからの経営ビジョンにふさわしい体制作りに向け、変化の方向性を共有するコミュニケーションが必要です。

経営幹部同士のコミュニケーションで共通認識を形成できたら、従業員にも説明しましょう。従業員の納得を得られるよう、丁寧なコミュニケーションが必要です。

7-3.PMIの手順

M&Aの成否を決めるPMIには、本格的な交渉に入る基本合意締結前から取り組みましょう。早い段階で方向性やおおまかな計画を立てておくことで、スムーズに実行に移しやすくなります。

より詳細な計画は、デューデリジェンスの結果を受けて作成した方が、精度の高いものになるでしょう。次にクロージング後の3~6カ月で何を実施するか決定します。人事・労務・経理・業務など、分野ごとに必要な取り組みをリストアップしましょう。

中でも早急に取り組むべき内容は、クロージング後の100日間の計画である『100日プラン』へと落とし込みます。緊急度の高い作業を早い段階で実施することで、その後の統合もスムーズに進みやすくなるでしょう。

7-4.PMIにおける売り手経営者の役割

買い手主導で実施するケースの多いPMIですが、売り手の経営者にも重要な役割があります。それは、スムーズに統合が進むよう、事前に従業員の理解を得ることです

M&Aにより経営者が替わることに、不安を感じている従業員もいるでしょう。なぜ今M&Aを実施しなければいけないのか、これからどのような変化があるのか、従業員に分かりやすく伝えることで不安を和らげられます。

その上で、今後のPMIに協力してほしいと伝えるとよいでしょう。買い手によるPMIで起こる変化がプラスに働くものであると分かれば、従業員の積極的な取り組みによるスムーズな進行が期待できます。

参考:M&Aで重要なPMIとは。経営、業務、意識の三つの統合について

8.確実なクロージングでスムーズなM&Aを

M&Aは契約が成立しただけでは終わりません。その後のクロージングがスムーズに進まなければ、失敗に終わる可能性もあります。法的に有効な手続きを確実に実施するには、事前にチェックリストを作成するとよいでしょう。

このとき、M&Aに用いるスキームによって、必要な手続きが異なる点に注意が必要です。同じ株式譲渡でM&Aを行う場合でも、会社が上場しているか非上場か、株券を発行しているかどうかで異なるため、注意しながら進めなければいけません。

クロージングには条件が定められるケースもある点に注意しましょう。契約書に定められる内容については、弁護士やアドバイザリーなど専門家のサポートを受けつつ確認すると確実です

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クロージングにいたるまでのM&Aの流れを解説している以下も、ぜひご覧ください。
事業・会社をM&Aで売却する基本的な流れ|税理士法人チェスター

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