キーマン条項の内容、期間とは。関係のある二つの条項についても解説

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M&Aを実施すると、契約書にキーマン条項が設定されるケースもあります。設定することで高額で売却しやすくなる一方で、デメリットもあるため注意しましょう。キーマン条項と関連する競業禁止条項・アーンアウト条項についても解説します。

1.キーマン条項とは

キーマン条項とは

買い手がM&Aを実施するのは、さまざまな目的があるからです。売り手企業の重要人物がM&A後すぐに退職すると、その目的を果たせなくなる可能性があります。そこで設定されるのが『キーマン条項』です。

1-1.売り手の重要人物に数年残ることを定める

キーマン条項では、売り手企業のキーマン(重要人物)に一定期間企業に残ることを定めます。これにより経営者や優秀や役員、ほかにはない技術を持つ従業員などの重要人物が、M&A後すぐに辞めるのを防止可能です。

買い手のリスクや不利益を回避するために設定される条項のため、売り手にとってはデメリットになるケースもあります。

1-1-1.ロックアップとも呼ばれる

売り手企業の重要人物が退職しないよう定めるキーマン条項は、キーマンの就業を拘束する側面があることから『ロックアップ(Lock up)』とも呼ばれます。固定や施錠を意味する英語表現です。

似た言葉に『ロックアップ条項』があります。こちらはM&A実施時に、当初予定していた買い手との取引が、より有利な契約条件を提示する第三者の出現により取りやめになった場合について定めるものです。

売り手は買い手に、契約が取りやめになったことに対する経済的な補償を行います。キーマン条項を意味するロックアップとは異なるため、注意が必要です。

1-2.キーマン条項の内容と期間

M&Aを実施したとしても、経営者や優秀な技術者が契約直後に辞めてしまうと、事業が回らなくなるかもしれません。買い手は当初予定していた利益を得られない可能性があります。

そこで、特定の人物が一定期間退職するのを避けるために設けるのが、キーマン条項です。期間は一般的に『1~3年』、長くても5年以内に設定されます。ただしこの条項はあくまでも売り手との取り決めです。

キーマンとして経営者以外にも役員や従業員が指定されている場合、該当する役員や従業員に直接義務が発生するわけではありません。退職の阻止も不可能です。

1-3.中小、ベンチャー企業のM&Aでも重要

中小企業やベンチャー企業の場合、業績に大きく貢献しているのが、経営者や特定の社員のみということは少なくありません。また人材獲得目的のM&Aでは、従業員は大切な資産です。

このような状況でキーマンが企業を去れば、企業価値が減少してしまいます。中小企業やベンチャー企業だからこそ、M&Aの契約においてキーマン条項が重要な役割を持つケースもあるでしょう。

2.キーマン条項にはどんなメリットがあるのか

キーマン条項にはどんなメリットがあるのか

キーマン条項は主に買い手のために設定するものです。しかし買い手だけではなく、売り手にも得られるメリットがあります。

2-1.売り手は高い価格で売却できる

売り手にとって最も大きなメリットは『高価格』で売却できる点です。取引の中には、キーマン条項の有無で数億円も価格に差が出るケースもあります。

経営者が強いリーダーシップを発揮していた企業では、その後新しい経営者が就任しても、以前ほどの成果をすぐには出せないかもしれません。このようなリスクを避けられるため、売却額が高くなります。

できるだけ高く企業を売却するには、ほかにも事業が好調なときの売買・売却先の選定・強みと弱みの把握・売却目的の明確化・信頼できるM&A業者選びなどが重要です。

これらの方法とあわせ、キーマン条項を提示されたときには検討します。

2-2.買い手はスムーズな引き継ぎを行える

買い手にとっては『スムーズに引き継ぎ』できるメリットがあります。M&Aを実施すると、売り手企業は体制が変化し、従業員の混乱やトラブルを招くケースがしばしばあります。

混乱状態に陥った事業は、M&A以前のように収益を上げられない可能性があります。経営者が企業を去ることで、長年の取引先が離れていく可能性や、取引条件を変更する可能性もあるでしょう。

M&A後も引き続きキーマンが在籍していれば、このようなリスクを避け安定した運営状態を維持しやすくなります。買い手企業の人材がその間に経営を引き継げば、スムーズに新体制へ移行しやすいはずです。

3.キーマン条項を盛り込むデメリット

キーマン条項を盛り込むデメリット

売り手にも買い手にもメリットがあるキーマン条項ですが、売り手にはデメリットもあります。契約書にキーマン条項を盛り込むか否かは、慎重に検討しなければいけません。

3-1.一定期間、拘束されるため自由がない

売却価格が高額になりやすいキーマン条項ですが、一定期間『拘束』される点には注意しましょう。期間を3年間と決めた場合、その間は事業に携わり続けなければいけません。

特に事業を売却して引退しようと考えていた経営者にとっては、拘束期間が設定されているのは大きなデメリットです。加えて期間が長過ぎるケースでは、精神的な疲労が積み重なることも考えられます。

疲労感からモチベーションが低下すれば、周りに悪い影響を与えるかもしれません。また企業のトップとして長年仕事をしてきた経営者は、買い手企業の下で働く状況にやりにくさを感じる場合もあります。

自由がない状態が一定期間続くことによる影響を、あらかじめよく考えなければいけません。

3-2.途中で辞めると賠償金が発生する場合も

キーマン条項が定められた場合、特定の人物が期間内に企業を去ると『賠償金』を請求される可能性があります。契約書に盛り込まれた内容について、売り手は買い手へ表明し保証している状態です。

3年間は経営者として事業の運営に携わると契約書に盛り込んでいるなら、3年間事業に携わることの表明と保証をしています。それを覆し途中で辞めた場合、保証された内容に反しています。

表明保証違反による賠償金の請求は、買い手のリスク回避を目的としており、売り手にとっては規制が増えるケースがほとんどです。

4.キーマン条項とともに盛り込まれる内容

キーマン条項とともに盛り込まれる内容

契約書にはキーマン条項以外にも、盛り込まれる条項があります。代表的な『競業禁止条項』と『アーンアウト条項』について、内容を見ていきましょう。

4-1.競業禁止条項

買い手は安定した事業運営のために、契約書で『競業禁止条項』を設けるケースが一般的です。事業を軌道に乗せてきた実績のある売り手企業の経営者には、M&A後もノウハウや技術・業界の人脈などが残ります。

この状況で売り手企業の経営者が類似の事業を始めた場合、買い手企業のライバルとなり買収した事業の運営がうまくいかないかもしれません。そこで対象となる事業やエリア・期間を定め、その間の活動を制限します。

そのためM&A後に関わる予定の事業や活動が、競業禁止条項に触れないか確認しておかなければいけません。中には競業禁止条項が設けられていなくても、損害賠償が認められたケースもあります。

条項が設けられていてもそうでなくても、活動内容や範囲に注意が必要です。

4-2.アーンアウト条項

キーマン条項で一定期間、経営者や役員などが事業に携わると決まったとき『アーンアウト条項』を設ける場合もあります。期間内にあらかじめ定めた業績を達成した場合、売り手が追加代金を受け取れる取り決めです。

取り組み次第で追加代金を受け取れる点は、売り手にとってメリットといえます。ただし期間が長過ぎると、事業を取り巻く環境が変化し、評価されないかもしれません。適切な期間設定がポイントといえます。

5.キーマン条項の設定や期間は慎重な検討を

キーマン条項の設定や期間は慎重な検討を

M&Aを実施するとき、安定した事業運営のために買い手からキーマン条項の設定を求められるかもしれません。売り手企業のキーマンである経営者や役員などが、一定期間退職しないよう定める条項です。

売り手は定められた期間中は事業に携わる必要があり、期間内に退職すると損害賠償を求められかねません。売却額が高額になりやすいメリットもありますが、デメリットと比較検討した決定が大切です。

条項を設定する場合、期間には注意しましょう。長過ぎるとモチベーションの低下につながるかもしれません。

M&Aの契約では、税務についての項目もあります。不明点があるなら『税理士法人チェスター』へ相談し、明確にしてから交渉に臨むのもよい方法です。

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