吸収合併とはどんなM&A手法?メリット・デメリットや手続きを解説
タグ: #M&A吸収合併とはどのようなM&A手法なのでしょうか?基本的な知識や実施の目的とともに、新設合併との違いについても見ていきましょう。実際に吸収合併するための手順や実施後に必要な手続き、メリット・デメリットについても解説します。
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1.吸収合併はM&A手法の一つ
M&A手法の一つである吸収合併について理解するために、まずは会社法に基づく定義について確認しましょう。合併する企業同士の主従関係が比較的はっきりしているときに用いられやすい方法です。
1-1.吸収合併とは?会社法による定義
会社法第2条27項によると『吸収合併』では、存続する1社がほかの会社を吸収し、吸収された会社は消滅します。このとき消滅会社の権利義務は全て存続する会社に引き継がれるのが特徴です。
会社を丸ごと取り込む方法のため、権利義務について再契約する手間がかかりません。従業員との雇用契約を始め、さまざまな契約をそのまま承継できます。
また存続する会社は、消滅する会社の株主へ対価の支払いが必要です。ただし対価は株式で支払えるため、大きな資金を用意しなくても実施可能な統合方法といえます。
例えば、2007年に『セブン&アイ・フードシステムズ』が『デニーズジャパン』『ファミール』『ヨーク物産』を吸収合併した事例が代表的です。
参考:セブン&アイ・フードシステムズについて|会社情報|株式会社セブン&アイ Food Systems
1-1-1.新設合併や吸収分割との違い
同じ合併でも『新設合併』では合併するどの会社も存続しません。新設した会社が、消滅する全ての会社の持つ権利義務を承継します。グループ企業が組織再編目的で実施するケースが多い手法です。
また『吸収分割』では、会社の特定の事業にまつわる権利義務の全部もしくは一部を分割し、既存の他社へ引き継ぎます。個別に行う移転手続きはありません。吸収合併との違いは、事業を分割した会社がその後も存続する点です。
1-2.どのようなときに吸収合併が選ばれるのか
M&Aの手法として吸収合併が選ばれるのは、主従関係が明確なケースが多い傾向です。資本の大きい企業が小さい企業を吸収する、親会社が子会社を吸収するといったケースが代表的です。
ただし、大きな会社が小さな会社を吸収しなければいけないわけではありません。許認可や免許の必要な事業であれば、規模によらず必要な許認可・免許を持っている会社へ吸収させるケースもあります。
また欠損金が残っている会社へ吸収させれば節税も可能です。赤字会社の繰越欠損金は10年間さかのぼれます。過去の赤字と相殺して利益を減らし、税額を抑えられるのです。
2.吸収合併による対価
吸収合併を実施すると、存続会社は消滅会社の株主へ対価を支払わなければいけません。対価として認められるものや、計算する際の注意点を見ていきましょう。
2-1.現金も対価として認められるようになった
消滅会社の株主への対価は、存続会社の株式というのが原則でした。しかし会社法によって合併対価の柔軟化が実施され、株式以外に現金・社債・新株予約権なども対価として認められています。
対価として現金や社債を交付する場合には、『対価の相当性』を検討した上で決定されます。消滅会社の株式の価値と対価の価値を算定し、つり合いが取れるように対価を交付する方法です。
株式の価値を算定する評価方法は複数あります。どれか一つを選ぶのではなく、複数を組み合わせて算定する場合もあるでしょう。
2-2.知っておきたい合併比率
対価として存続会社の株式を交付する際には『合併比率』を考慮しなければいけません。合併比率とは、消滅会社の株主が保有している消滅会社の株式数と、対価である存続会社の株式数の割合です。
例えば合併比率1:1であれば、保有している消滅会社の株式と同数の存続会社の株式を受け取ります。1:0.8なら、消滅会社の株式2,000株に対し、存続会社の株式1,600株を受け取る計算です。
ただし債務超過に陥っている会社は株式の価値がほぼ0円のため、対価を交付しない『無対価合併』を用います。無対価合併では、税務上のメリットがある『適格合併』ができない点に注意しましょう。
3.吸収合併を行うための手続き
二つの会社を一つにまとめるには、さまざまな手続きを踏む必要があります。それぞれの工程で実施すべきポイントを押さえ、正しく手続きを進めましょう。
3-1.債権者利益の保護をする
まず実施するのは『債権者利益の保護』です。保護せずに吸収合併を実施すると、債権者は知らない間にリスクを背負わされる可能性があります。
例えば資産状態がよいA社の債権者は、A社の経営状況だからこそ金銭を貸与しているのかもしれません。ここでA社が業績の悪いB社を吸収合併すると、A社の資産状態が悪化するでしょう。
場合によっては、債権者は貸付金を回収できない可能性もあります。そこで債権者にはあらかじめ吸収合併について通知し、異議申し立ての機会を作らなければいけません。
この通知では、吸収合併すること・消滅会社の商号や住所・存続会社と消滅会社の計算書類に関する事項・異議申し立てができることなどを記載します。
3-2.取締役会議での承認、吸収合併契約の締結
吸収合併の契約は、単独で結んでよいものではありません。契約締結の前に必ず『取締役会議での承認』を得ます。
取締役会を設置している会社であれば取締役会の承認を、設置していない会社であれば取締役の過半数による決定が必要です。承認を得られたら吸収合併契約を結びます。
会社法749条1項において、このとき必ず定めなければいけない事項が決められています。株主や債権者保護にもつながる契約書を作成するのです。
ただしこの時点では契約書に署名捺印し契約を締結したとしても、まだ効力が発生しない点に注意しましょう。
3-3.株主総会で承認を得る
締結した吸収合併契約の効力が発生するのは、存続会社・消滅会社ともに株主総会で承認を得た後です。総会の開催前には、前提となる契約の内容や対価の相当性などを株主や債権者へ開示しなければいけません。
基本的には法的に定められた手順による、株主総会の開催と承認が必要ですが、吸収合併する会社が完全子会社で株主が1名といったケースでは『書面決議』も可能です。
3-4.2週間の期限内に登記を行う
合併契約には効力発生日も定められています。株主総会の承認を受けると、存続会社は効力発生日から『2週間以内』に本店所在地で変更登記を実施しなければいけません。
また消滅会社も、同じ期日までに解散登記を行います。このとき効力発生日と登記の日が異なるケースもあるでしょう。第三者へ権利関係を主張できるようになるのは、登記が行われてからです。
4.吸収合併後に必要な手続き例
無事に吸収合併の登記が済んだ後にも必要な手続きがあります。スムーズな合併のために忘れず実行すべき手続きです。
4-1.基本的に今までの契約は承継される
吸収合併をすると、存続会社は消滅会社の持つ権利義務を全て引き継ぎます。これまで消滅会社が結んでいた契約を全て承継するため、契約を結び直す必要はありません。
消滅会社が解散登記によりなくなった後や、合併した存続会社が社名変更した場合にも、契約の再締結や覚書の作成は不要です。取引相手の会社にも特別な手続きは求められません。
例えば、吸収合併が行われる前に消滅会社宛ての請求書を発行していたとします。この場合、支払い義務は存続会社が承継しているため、取引先の会社から社名を変更した請求書が送られてくることはありません。
同じ合併でも、新設合併では許認可などの申請が必要な分、手続きが煩雑です。
4-2.従業員の社会保険に関する手続き
さまざまな契約がそのまま引き継がれる吸収合併ですが、従業員の社会保険は手続きが必要です。『健康保険』は、手続きが遅いと保険証の発行が遅れる可能性があります。
スムーズに健康保険の切り替えができるよう、存続会社は事前に消滅会社から従業員の情報を得ておかなければいけません。『雇用保険』では、存続会社と消滅会社で従業員の雇用が継続していることを示す必要があります。
そこで同一事業主の認定手続きを実施しましょう。手続きなしで雇用保険を変更すると、従業員が不利益を被る可能性があるため要注意です。
また雇用保険と労災保険からなる『労働保険』の手続きとして、消滅企業は労働保険料の精算と納付を行いましょう。
5.吸収合併のメリット・デメリット
吸収合併にはさまざまなメリット・デメリットがあります。代表的なものを見ていきましょう。
5-1.会社の規模が拡大
複数の企業や事業を一つの大きな組織にできるという点は大きなメリットです。同じ事業を行っている会社でも、大規模な方が無駄を省いた効率的な経営を実現しやすいでしょう。
会社が一つになるため、スムーズな統合により相乗効果が発揮されることも期待できます。個別にはできなかった、スケールを生かした事業展開の可能性もある手法です。
一方、負債や簿外債務など不要なものも引き継がなければいけない点はデメリットといえるでしょう。資産状態が想定より悪い会社と合併してしまうと、存続会社の経営に大きく影響するリスクもあります。
事前にリスクを精査した上で吸収合併の手続きに入ることが大切です。
5-2.新規事業へ参入しやすくなる
新たな事業への参入で収益アップを目指したい・業績悪化を食い止めたいという会社もあるでしょう。そのような会社にとって、吸収合併は『新規事業』へ比較的簡単に参入するための手段といえます。
参入したい事業のノウハウや技術・設備・取引先などを既に持っている会社を吸収合併すれば、新たに用意するものはほとんどありません。一から新規事業を立ち上げるのと比較して、時間もコストも最小限で済みます。
既に事業が稼働している状態で会社を統合するため、最初から比較的安定した収益を期待できるのもポイントです。
5-3.従業員がリストラ等の不安を抱える
消滅企業の従業員は、吸収合併により待遇の変化やリストラがあるのではないかと不安を感じるかもしれません。法律では消滅会社と従業員の間に結ばれている雇用契約は、吸収合併後も引き継がれるのが基本です。
しかしさまざまな方法で従業員を退職に追い込むケースが存在していると、見聞きしたことがある人も多いでしょう。そのような不安を抱えた従業員が多い状態では、合併後の統合が思うように進まない可能性もあります。
告知なしでリストラできない点や、合併後も雇用が守られる点などについて、事前に従業員へ丁寧に説明しておくとよいでしょう。
6.従業員のケアを怠らず効果を高めよう
吸収合併とは、存続会社が消滅会社を丸ごと吸収し、一つの会社へと統合するM&A手法です。大企業で行われることが多く、中でも主従関係がはっきりしているケースが多いでしょう。
存続会社が消滅会社の持つ権利義務を全て承継する点が特徴です。ただし引き継ぐものを選別できないため、簿外債務や負債も引き継がなければいけません。
吸収合併後に想定外の不利益を被らないようにするには、事前の調査が大切です。税務についての調査であれば『税理士法人チェスター』へ相談してもよいでしょう。
消滅会社では、従業員が雇用や待遇に不安を抱きやすいというリスクもあります。スムーズな統合のためにも、従業員へよく説明し、安心して働ける環境作りをしましょう。
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