M&Aで子会社化する目的やメリットは?知っておきたい注意点も解説

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M&Aによる子会社化を実施すると、どのようなメリットがあるのでしょうか?子会社の基本的な知識と併せ、使用する手法や実施する際の流れを確認します。また子会社化には注意点もあるため、M&A実施前に押さえておきましょう。

1. M&Aによる子会社化とは

1. M&Aによる子会社化とは

対象会社の経営権を獲得し、自社の傘下とすることを子会社化といいます。経営権を獲得するのは合併と同様ですが、対象会社が子会社として存続し続ける点が特徴です。

1-1. 他の会社を買収し自社の傘下とすること

子会社化は株式の買収や増資・株式分割などの方法で、対象となる会社の経営権を得ることです。以下のいずれかの条件を満たすと子会社化できます。対象会社を子会社化した場合、自社が親会社です。

  • 買収対象の会社の株式を50%を超えて保有する
  • 買収対象の会社の株式を40%以上を保有し、役員構成の半数以上が親会社の役員や使用人であるといった一定の条件を満たしている

どちらの条件であっても、株主総会における『決算の承認』『配当金の金額』『役員報酬』などの決議を、親会社の方針によって決められる状態を作れます。

参考:会社分割とは何かわかりやすく解説。メリット、デメリットは?

1-2. 合併との違い

買収・増資・株式分割などによって対象会社を子会社化したとしても、対象会社は子会社として存続を続けるため消滅しません。

一方『合併』は、対象会社を買い手企業へ統合する手続きです。そのため合併すると、対象会社は吸収され消滅します

実務的には、段階的に統合を目指すプロセスとして、子会社化を用いるケースが多いでしょう。対象会社の株式を100%保有し完全子会社化した後、しばらくしてから合併が実施される流れです。

参考:新設合併とはどんなM&A手法?対等合併で好イメージな点がメリット
参考:吸収合併とはどんなM&A手法?メリット・デメリットや手続きを解説

2. 子会社の定義と種類

2. 子会社の定義と種類

『関係会社』の一種である子会社は、『関連会社』や『グループ会社』とどのように異なるのでしょうか?それぞれの特徴を見ていきましょう。子会社の種類も確認します。

2-1. 関連会社やグループ会社との違い

関連会社は子会社と同様、関係会社に含まれる法人です。子会社のように親会社がいますが、親会社による株式の保有割合は20%以上50%未満です。そのため親会社の影響を受けますが、子会社のように大きな影響ではありません

一方グループ会社は、親子関係のある企業グループの総称です。そのためグループ会社内には、子会社や関連会社が含まれます。

2-2. 子会社の種類は三つ

子会社は以下の通り3種類に分類できます。

子会社の種類特徴
完全子会社
  • 親会社による株式保有率100%
  • 株主総会において親会社が単独決議できる
連結子会社
  • 親会社による株式保有率50%超もしくは40%以上+一定条件
  • 親会社の方針に合わせた経営が可能、連結財務諸表の対象
非連結子会社
  • 支配が一時的などの理由によって親会社への影響が少なく連結財務諸表の対象外
  • 親会社による株式保有率20~50%の場合は持分法適用会社

 

対象会社の子会社化を検討している場合、今後の方針やM&Aの目的に合わせ、3種類から適した方法を選びましょう。まずは議決権保有比率を高め主要株主となり、連結子会社化した上で完全子会社化する方法があります。

3. 子会社化に使われるスキームの例

3. 子会社化に使われるスキームの例

M&Aに用いられるスキームはさまざまです。子会社化の場合によく用いられる『株式譲渡』『株式交換』『株式移転』『株式交付制度』について見ていきましょう。どのスキームでも親会社は議決権のある子会社の株式を取得し、経営権を獲得します。

3-1. 株式譲渡

対象となる会社の子会社化を目指すには、議決権のある株式の過半数を取得するのが基本です。議決権の過半数を保有していれば、株主総会で単独決議できます。その状態を目指し株式を買収するのが株式譲渡です。

中小企業では株式を上場していないケースが多いため、買い手は株主とじかに交渉する『相対取引』で株式を取得します。この場合、企業価値評価を行った上で、売り手・買い手が交渉し価格が決まる仕組みです。

株式が上場しているなら、証券取引所で購入する『市場買い付け』ができます。また市場を通さず、買取価格・株数・期間を明らかにして購入する『株式公開買い付け(TOB)』も可能です。

参考:株式譲渡にはどんな手続きが必要?契約や税金に関する基礎知識

3-2. 株式交換

子会社の株式を100%取得する完全子会社化を目指しているなら、株式交換が有効です。対象会社の全ての株式を、親会社となる買い手の株式と交換することで、買い手は強制的に対象会社を完全子会社化できます

ただし最初から完全子会社化を行うのは難しいでしょう。そのためまずは株式譲渡によって子会社化し、残りを株式交換で取得する方法が用いられるケースもあります。

株式交換について解説している以下も、ぜひご覧ください。

株式交換や株価への影響をわかりやすく-具体的な事例もチェック – 相続税の申告相談なら【税理士法人チェスター】

3-3. 株式移転

株式移転によるM&Aの特徴は、『株式移転完全親会社』が設立される点です。また株式移転は以下の通り2種類あります。

  • 単独株式移転:単独の会社で実施する
  • 共同株式移転:複数の会社で実施する

M&Aでは、共同株式移転が行われるケースがほとんどです。例えばA社とB社でM&Aを実施するとき、株式交換ではどちらかが親会社、もう一方が子会社となります。株式移転ではどちらも株式移転完全親会社の子会社です。

新設する株式移転完全親会社は、A社・B社の株式を全て保有して完全子会社化し、A社・B社はそれぞれ親会社の株式を保有します。これによりホールディングス化が可能です。

参考:2-4.完全子会社化する「株式移転」|組織再編の種類、手続きを解説。株式交換や株式移転の違いは?

3-4. 株式交付制度を利用する

子会社化を実施するとき、買い手は対象会社へ対価を支払わなければいけません。この対価として自社株を交付できるのが株式交付です。

株式交換でも自社株の交付によって対価を支払えます。ただし株式交換は完全子会社化を行うとき以外は使えません。そのため株式交付制度ができるまでは、対象会社の株式を100%取得しないなら、対価として自社株の交付はできませんでした。

しかし株式交付であれば、完全子会社化を目指さない場合にも利用できます。対象会社の株式を子会社化を目的として買う場合、購入後の保有割合が100%に満たなくても使えるスキームです。

4. 子会社化のメリット

4. 子会社化のメリット

既にある事業会社を子会社化すると、一から事業を立ち上げるより素早く会社を成長させられる可能性があります。また完全子会社化を実施すれば、グループとしての意思決定がスムーズです。

4-1. 事業の拡大や多角化が容易

事業の拡大や多角化を実施するには、数年単位で計画を立て実施しなければいけません。多額の費用がかかるものの、必ずしもコストを回収できるとは限らず、リスクの高い方法といえるでしょう。

一方、同業の会社や参入したい事業を展開している会社を子会社化すれば、ノウハウ・技術・市場のシェア・人材など、必要なものが全てそろっている状態です。既に成果が出ているため、失敗のリスクもほぼありません

低コストで短期間のうちに結果を出せる方法といえます。

4-2. 完全子会社化により意思決定を迅速に行える

対象会社の株式を100%取得し完全子会社化できれば、意思決定のスピードを上げられます。完全親会社は完全子会社の経営権を掌握しており、株主総会を単独で決議可能です。

そのため他の株主の意見に左右されることなく、経営判断を行えます。重要な判断を下すときにタイミングを逃さずに済み、トラブル発生時にも迅速に対応できるでしょう。

5. 子会社化の注意点

5. 子会社化の注意点

親会社になると子会社の経営に影響を及ぼすこととなります。そのため子会社の動向には十分に注意が必要です。子会社の不祥事が親会社へ波及する可能性や、子会社の財務状況の悪化がグループ全体の財務状況へ影響を及ぼす可能性があります。

5-1. ブランド価値や信用が下がるリスクがある

子会社でトラブルが発生した場合、問題は子会社のみでは終わりません。親会社による子会社の管理責任が問われるケースもあるでしょう。実際に親会社の指示が不十分なことから、不祥事に発展する場合もあり得ます。

トラブルの内容次第では、これまで築いてきたブランドや信用をなくす可能性もあるでしょう。マイナスの影響が出る状況も想定し、指示系統の統一や監査役の設置などによる事前対策が重要です。

5-2. 子会社の財務状況の維持が必要

財務状況の管理もポイントといえます。子会社の事業がうまくいかず赤字になると、親会社が赤字分を補填しなければいけないからです。

また子会社の財務状況が悪化し、グループ全体が赤字というケースもあるでしょう。このような場合、完全子会社化していないと、グループ内の黒字の企業には法人税が課されてしまいます

子会社の赤字によってグループ全体に悪影響が及ぶ可能性があるため、財務状況をよく確認し、状況に応じて介入が必要です。

6. M&Aによる子会社化の流れ

6. M&Aによる子会社化の流れ

M&Aで対象会社を子会社化する場合、どのような手続きが必要なのでしょうか?対象会社の選定から成約まで、順を追って見ていきましょう。流れを理解しておくことで、スムーズに子会社化を進めやすいはずです。

6-1. 買収先企業の選定

最初に行うのは買収する企業の選定です。子会社化の目的を明確にした上で、買収したいのはどのような企業かはっきりさせましょう。

例えば現在、自社で取り組んでいる事業の規模を拡大するのが目的なら、同業の中から統合しやすい仕組みや風土の企業を選ばなければいけません。

買収したい企業の特徴がはっきりしたら、専門業者へ相談し該当する企業の『ノンネームシート』を閲覧します。ノンネームシートとは、社名や社名の特定につながる情報が伏せられた状態の企業概要書です。

参考:ノンネームシートの役割とは。記載内容や作成上の注意点を解説

6-2. 基本合意書の締結

目的達成がかなう企業が見つかったら、秘密保持契約を結び、さらに詳しい情報の開示を求めます。その結果M&Aを進める場合には、両社の意思決定者による『トップ面談』によって、お互いのM&Aの意向を確認します。

トップ面談をへて、本格的にM&Aを進めることに決まったら、この時点で合意している内容を書面にした『基本合意書(LOI)』を取り交わす段階です。

最終的な契約書の元になる書類のため、作成時にはM&Aアドバイザーや弁護士など専門家のアドバイスを受けるとよいでしょう。基本合意書には法的拘束力がありませんが、独占交渉権といった特定の条項にのみ法的拘束力を持たせる場合もあります。

参考:基本合意書の意味と内容。独占交渉権の付与など重要なポイント

6-3. デューデリジェンスと条件交渉

子会社化した後、財務・法務・税務などの各分野で大きな問題があると判明すると、M&Aにより損失を被るかもしれません。そこで買い手は『デューデリジェンス』を実施します。

各専門分野に詳しい弁護士や税理士などへ依頼し、対象会社に不備がないか詳しく調べます。中には簿外債務のように書類に記載されないものもあるため、書類と併せて聞き取り調査も実施するとよいでしょう。

対象会社の状況を正しく把握したら、必要に応じて『最終交渉』を実施します。例えばデューデリジェンスの結果、対象会社でも把握しきれていなかった簿外債務が見つかったなら、その対処にかかる費用を見越し、対価の値引きを求めるケースもあります。

税務に関する調査は、『税理士法人チェスター』へ相談するとよいでしょう。

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参考:M&Aにおけるデューデリジェンスの役割。調査項目や進め方を知る

6-4. 契約書の締結

交渉が合意に至ったら、基本合意書に最終交渉の内容を盛り込み、最終契約書を作成しましょう。契約書に記載する内容について法律による規定はありません。そのため案件ごとに必要な条項は異なります。

一般的には対象会社の事業・M&A価格・スキームなどが記載されます。またデューデリジェンスの結果や提出した資料に誤りがないことを示す、表明保証条項が追加されるケースも珍しくありません。

万が一誤りがあった場合には、損害賠償の支払いを命じるよう規定することもあります。最終契約書を締結すると『クロージング』です。

最終契約書で規定したスケジュールにのっとり、定められた方法で株式の移転や対価の支払いなどを行います。

7. M&Aによる子会社化にはメリットが多い

7. M&Aによる子会社化にはメリットが多い

M&Aで子会社化を実施すると、少ない時間や費用で事業拡大や多角化を目指せます。さらに株式を100%取得する完全子会社化であれば、完全親会社は単独で株主総会の議決が可能です。そのため意思決定のスピードを速められます。

完全子会社化を目指すなら、対価として株式を交付できる株式交換を利用するケースが多いでしょう。しかし最初から株式を100%取得するのは難しいため、まずは株式譲渡で子会社化できるよう50%を超える株式を取得します。

対価として株式を用いるには、株式交付を利用する方法も有効です。また株式移転完全親会社を新しく設立する株式移転を使えば、ホールディングス化できます。

M&Aを実際に行うには、買い手による調査であるデューデリジェンスの実施も欠かせません。専門分野の調査には、各分野に精通した専門家への依頼が向いています。

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