個人による会社買収とは。資金調達や売り手の心構えなどを解説
タグ: #M&A会社の買収を個人が行うケースが増えています。そのため小規模な会社は個人と取引することもあるでしょう。個人が買い手となるM&Aには、どのような特徴があるのでしょうか?メリットや問題点に加え、個人に事業承継する際の手順も見ていきましょう。
目次 [閉じる]
1.事業承継は企業同士だけではない
M&Aを活用した事業承継というと、企業同士の取引をイメージするかもしれません。しかし昨今は、個人が会社を買収するケースが増えています。なぜ個人による会社買収が行われるのでしょうか?
1-1.個人による企業買収が行われる理由
個人による会社買収が増えているのは、起業を検討している若年層や定年退職者から、M&Aが注目され始めているからです。従業員数名ほどの小さな会社をサラリーマンが買収し、経営者となる取引は増加しています。
また『中小企業の事業承継に関するインターネット調査』によると、後継者が決定している中小企業は約12.5%です。ほとんどの企業は後継者不在のため、今後も個人が買い手となるM&Aは増加するでしょう。
参考:「中小企業のうち後継者が決定している企業は12.5%、廃業を予定している企業は52.6%」|日本政策金融公庫総合研究所
2.個人が企業を買収するメリット
会社員や定年退職者など個人が会社買収を実施するのは、創業のリスクを抑えつつ事業を始められるからです。また経験豊かな従業員を引き継げるのもメリットといえます。自ら起業するより成功しやすいため、企業買収を行う個人は増加中です。
2-1.ゼロから始めるよりもリスクが低い
起業にはリスクがあります。資金を投入し事業を始めたからといって、必ずしも軌道に乗せられるとは限りません。利益の出ない期間が想定より長く続く可能性もあります。
一方、会社買収により経営者になれば、経営が軌道に乗っている会社を手に入れられます。売上を生み出す仕組みは既に完成済みです。
買収直後からすぐに利益を得られるため、リスクを低く抑えつつ経営者になれるメリットがあります。
2-2.ノウハウを持った従業員を引き継ぐ
事業を成功させるには、優秀な従業員が欠かせません。新しく会社を作った場合、従業員を採用し、育てる必要があります。
企業買収であれば、ノウハウを持つ経験豊富な従業員を引き継げます。既に仕事に携わっているため、即戦力として利益を生み出す人材です。
求人や教育にかかる手間やコストを削減できるのも、個人が会社買収を行うメリットといえます。
参考:個人が会社を買うための準備の仕方。候補選びから契約までの流れは?
3.個人によるM&Aの問題点
M&Aの買い手が個人の場合、企業同士のM&Aとは異なる問題点があります。企業と比べ心もとない資金力や、従業員との関係性、簿外債務を引き継いでしまうリスクなどです。
3-1.資金力が乏しい
企業と個人では、資金力に大きな差があります。個人では用意できる現金に限界があり、担保となる資産がないために追加の借入ができないケースも多いでしょう。
そのため買収したとしても、経営に必要な資金を自由に調達できない可能性があり、経営の安定性に欠けます。資金力が乏しい個人に売却した場合、会社の行く末に不安を感じる経営者もいるはずです。
高値で売却できる価値を持つ会社であるほど、資金力が豊かでM&A後の経営も安定しやすい企業に買収してほしいと考えるでしょう。
3-2.従業員が辞めてしまう可能性がある
売却により経営者が変われば、会社の体制もがらりと変化するかもしれません。特に個人が買い手の場合、聞いたこともない人がいきなりやってきて経営者となるため、従業員は大きく動揺します。
特に元の経営者を慕ってついてきていた従業員は、経営者の交代をきっかけに会社への愛着をなくしていく可能性があります。その状態で新しい経営者が指示を出したとしても、反発は大きくなるばかりです。
場合によっては、キーパーソンや多くの従業員が退職する事態も起こり得ます。従業員がいなければ会社は利益を生み出せません。買収した会社の価値が大きく下がる一大事のため、あらかじめ対策が必要です。
参考:ロックアップ条項の例と注意点。キーマン以外の従業員にも配慮を
3-2-1.修業期間を設ける場合も
個人が買い手となるM&Aであれば、『後継者候補』として入社し修業期間を持つとよいでしょう。従業員に経営者として信頼され認められるよう、まずは一緒に働きます。
このときも後継者候補だからと上から指示するのではなく、まずは現場で一緒に働き仕事を教えてもらうことが重要です。特に会社員が企業買収をする場合は、修業期間に経営についても学び、経営者としてのスキルも身に付けましょう。
3-3.簿外債務のリスクがある
会社を買収する買い手には、『簿外債務』を引き継ぐリスクがあります。簿外債務とは帳簿に記載されない債務です。売り手が意図的に隠しているケースもあれば、認識していないけれど実は潜んでいたというケースもあります。
そのため個人が買い手であるごく小規模な買収であっても、買い手が売り手を調査するデューデリジェンスの実施は欠かせません。このとき売り手に求められるのは、誠実な対応です。
必要な資料を用意したり、聞き取り調査に応じたりして、包み隠さず実状を伝えます。
参考:簿外債務の種類や見つけ方。買い手と売り手それぞれの対策は?
4.個人が企業を買収するには
企業買収には多額の資金が必要です。規模の小さな会社であっても、十分な収益を上げており将来性があるなら高額になるケースも少なくありません。自己資金が不足していても買収に必要な資金を調達できるよう、買収者は融資を受ける準備も必要です。
4-1.資金調達をする
潤沢な自己資金があるなら、それだけで企業買収ができるかもしれません。しかし個人が買い手の場合、そこまで多くの現金を用意できるケースはまれです。
高額な買収費用を現金で用意できない場合には、借入ができないか金融機関に打診します。条件を満たしているなら補助金も活用しましょう。
借入とともに補助金も使えれば、資金力で企業に劣る個人でも企業買収を成功させられます。
4-1-1.日本政策金融公庫による融資
『日本政策金融公庫』では、個人も買収資金の融資を受けられます。ただし利用するには、経営承継円滑化法に基づき認定を受けていなければいけません。
加えて、認定を受けるには、事業を営んでいない個人であることが条件です。条件を満たしていると確認した上で、都道府県の問い合わせ先へ連絡しましょう。
認定を受けている人であれば、運転資金・設備資金の融資に申し込めます。実際に融資を活用している個人は、運転資金も設備資金も小口資金として利用しているケースが過半数です。
参考:5.融資を受けるには
4-1-2.ビジネスローン
銀行はもちろん信用金庫やクレジットカード会社など、さまざまな金融機関で取り扱っているのが『ビジネスローン』です。利用目的が事業資金の場合に利用できます。
ビジネスローンは担保を設定しなくても契約可能です。加えて、保証人が不要のケースも少なくありません。そのため利用のハードルが比較的低い融資です。
ただし金利が高いため、総返済額が大きくなりやすいデメリットがあります。綿密な返済計画を立てた上で利用しましょう。
5.どこで買収先を探すのか
売却によって自社の事業承継を考えているなら、まずは買収先を探さなければいけません。規模が小さな会社の売却であれば、『M&Aマッチングサイト』『事業承継マッチング支援』『後継者人材バンク』『商工会議所』の利用が向いています。
5-1.民間のM&Aマッチングサイト
手軽に買収先を探すには『M&Aマッチングサイト』へ登録するのがおすすめです。買い手はM&Aが成功するまで無料で利用できるサイトもあります。
安価に取引先を探せるため、個人でも利用しやすいサービスです。利用するには、まず会員登録をしましょう。企業情報や取引先の条件など、必要な情報を入力します。
登録が完了したら、買い手は売却案件情報をチェックし、条件を満たす相手へ交渉をリクエストするのが一般的です。交渉のリクエストに相手が応じれば、マッチング成立です。
サポート面の充実度は低いですが、低予算でも利用しやすいサービスといえます。
参考:M&A仲介サイトで小規模な事業の売買も可能。六つのサイトを紹介
5-2.事業承継マッチング支援
日本政策金融公庫の『事業承継マッチング支援』なら、無料で買収先とのマッチングができるかもしれません。2019年に東京都内で開始してから2021年9月までに、178件のマッチングが成立しており、利用者は増加中です。
利用するにはまず支援申込書へ記入してから、条件に合う相手を探します。売り手・買い手ともに了承すればマッチングの成立です。その後は秘密保持契約を結び、M&Aの手続きへ入ります。
書類の書き方や申し込み方法がホームページに詳しく記載されているため、初めての利用でも分かりやすい点がポイントです。
5-3.後継者人材バンク
事業承継・引継ぎ支援センターが運営している『後継者人材バンク』を利用してもよいでしょう。創業を目指す個人起業家や、第三者への事業承継を検討している中小企業をマッチングするサービスです。
利用や相談が無料のため、個人が登録しやすいサービスといえます。条件に合う個人の買い手が見つかるかもしれません。
利用するにはまず事業承継・引継ぎ支援センターへ申し込みましょう。申し込み後は事業承継の専門家と面談を実施し、後継者人材バンクへ登録されます。
双方の条件が合う相手が見つかるとマッチングが成立し、買収に向けた交渉や調査が始まる流れです。
5-4.商工会議所
『商工会議所』も無料で利用できるため、企業の買収を検討している個人が利用しやすいでしょう。地域に根ざしているため、自社の所在地付近で企業買収を検討している個人を探したいときに向いています。
事業承継に関する無料セミナーもひんぱんに開催されているため、会社員から経営者を目指す個人に役立つ情報を学べる場でもあります。
6.個人への事業承継に必要な準備
事業承継をするときには、まず意思をはっきりさせなければいけません。加えて自社の価値を客観的な方法で評価し、ノウハウや資産などをどのように引き継ぐかも考えて準備が必要です。
6-1.事業承継の意思を固める
小規模な会社だとしても、売却によって事業承継を行うには、およそ1年間はかかります。お互いに条件の合う相手と出会うまでや、その後の交渉に長くかかれば、もっと時間が必要なケースもあるでしょう。
そのため第三者へ事業承継をするなら、早めに意思をはっきりさせることです。「いつかは引き継ぐときが来る」というような認識では、いつまで経っても事業承継は進みません。
引退ぎりぎりになってから、慌てて探さなければいけない可能性もあります。できるだけ早めに意思を固め動き出せば、余裕を持って事業承継に取り組めるためおすすめです。
参考:事業承継が進まない理由とは。主な五つの理由と対処法を紹介
6-2.自社の価値を適切に評価する
買い手が買収したいと思っても、価格の基準が分からなければ買収の検討ができません。そこで自社の価値評価を実施し、基準として買い手へ提示します。
このとき重要なのは、客観的で適切な価値評価です。経営者が自ら価値評価を行うと、どうしても高めに評価する傾向があります。
客観的な価値評価を実施するには、M&Aに関する知見のある税理士や会計士に依頼しましょう。複数の価値評価手法から自社に合う計算方法を選び、客観的な価値の算出が可能です。
参考:企業価値の計算方法と注意点。企業の価値を決める要素とは
6-3.引き継ぎの準備
個人へ事業を売却するときには、引き継ぎがスムーズにできるよう準備しておくとよいでしょう。例えばノウハウや人脈の引き継ぎをどのように行うのか、具体的な手順も考えておきます。
そのためには、経営者が自社の強みを正確に把握していなければいけません。自社ならではの価値がどこにあるのかも含め、後継者へ伝えましょう。
資産の引き継ぎでは、手順に加えて税負担を考慮し手法を決定します。引き継ぎ方を誤ると、税額の負担が大きくなる可能性があるため要注意です。
参考:M&Aの流れを知ってスムーズに進めよう。契約の種類や必要な手続き
7.熱意ある後継者候補に引き継ごう
起業を目指す個人が企業買収を行うケースが増えています。そのため小規模な会社が第三者への事業承継を実施しようとすると、個人が買い手として名乗りを上げる場合もあるでしょう。
個人による買収には、資金力では企業に及ばない点に加え、従業員の退職といったリスクもあります。しかし融資や補助金を利用すれば、自己資金が不足していても買収でき、修業期間を設け従業員と関係性を築くことも可能です。
買収先を探せるサービスには、M&Aマッチングサイトや後継者人材バンクなどがあります。複数のサービスへ登録してもよいでしょう。
同時に、経営者も事業承継へ向けた準備を進めなければいけません。早めに準備を始めることで、熱意を持った個人へ自社を任せられます。
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事業承継の基礎知識についてより詳しく知るには、ぜひ以下もご覧ください。
事業承継とは|経営者が知っておきたい事業承継の基礎知識 – 相続税の申告相談なら【税理士法人チェスター】
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