個人が会社を買うための準備の仕方。候補選びから契約までの流れは?

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個人が資金を活用する方法として会社を買うケースが増えています。立ち上げの手間を省略しつつ役員報酬を受け取れる小規模なM&Aは、どのような準備をしておくとスムーズなのでしょうか?売り手の探し方や契約の流れを見ていきましょう。

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1.会社を買う主なメリットとは

会社を買う主なメリットとは

会社経営を始める方法として、会社を買うことが広まってきています。自ら起業するのではなく既存の会社を買うのは、手間と時間をかけずに利益を得られるメリットがあるからです。主なメリットについて詳細をチェックしましょう。

1-1.すでに事業継続中の会社を経営できる

新たに事業を始めるとなると、初期投資が必要です。業種によっては黒字に転じるまでに長い期間がかかるでしょう。3年かけても収益化できないケースや、キャッシュフローが赤字状態の会社も少なくありません。

資金回収の見込みがなければ、撤退せざるを得ないでしょう。会社を買って引き継ぐと、経営開始直後から『黒字経営』ができる場合もあります

売りに出ている会社だからといって、全てが赤字に傾いているわけではないからです。黒字にもかかわらず後継者不在という理由から売りに出ているケースもあります。

どの会社を買うか精査することで、すでに軌道に乗った状態の会社を買い取れる可能性が高まるでしょう。

1-2.会社を立ち上げる費用、手間を省ける

会社を買うと、設備や取引先・ノウハウ・従業員など、経営に必要な全てのものがそろっています。立ち上げの費用や手間を省略して経営を始められる方法です。

買い取る会社を探す手間や買い取り費用は必要ですが、全てがそろっているため、比較的早い段階で投じた資金を回収しやすいでしょう。

1-3.役員報酬を受け取れる

『役員報酬』を受け取れるのも会社を買うメリットです。利益の出ている会社を買えれば、購入直後から報酬を受け取れます。会社員時代よりも多い収益を得られるかもしれません。

報酬の金額は会社の規模によって異なります。小さな会社では役員報酬が少なめですが、経営手腕を発揮し大きく成長させられれば、その分役員報酬を増やすことも可能です。

2.会社や事業を買う主な手法

会社や事業を買う主な手法

会社を買うにあたり、株式譲渡や事業譲渡などの手法から、適したものを選びます。それぞれの手法の特徴を知ることで、状況に合わせた取引が可能です。

2-1.株式譲渡

『株式譲渡』は売り手会社の株式を買い手が購入し、経営権を取得する手法です。会社を丸ごと引き継ぐため、他の手法と比較して手続きがシンプルに済みます。小規模な取引でよく使われる手法です。

ただし設立してから長い期間が経過している会社では、株式の保有者が分散している可能性に注意しましょう。中には相続が発生し、所有者がはっきりしない株式もあるかもしれません。

少数株主がいる場合には、会社を買うことについて説明するステップも必要です。株主の意見が割れ、株主総会の特別決議で可決しなければ、株式譲渡を承認してもらえないおそれもあります。

2-2.事業譲渡

『事業譲渡』を用いるケースもあります。会社の保有する事業の一部や全てを引き継ぐ手法です。引き継ぐ部分を選べる点で株式譲渡とは異なります。

例えば売り手が借入金を抱えている場合、株式譲渡では借入金も全て引き継がなければいけません。一方、事業譲渡を実施すれば、借入金を引き継がない選択肢も出てきます。

ただし全ての資産や契約について、個別に譲渡承認を得なければいけない点はデメリットです。従業員との雇用契約も結び直す必要があります。

また株式譲渡ではかからない消費税が課税される点も、両者の違いです。

3.会社を買うにはまとまった資金が必要

会社を買うにはまとまった資金が必要

株式譲渡や事業譲渡にかかる資金やのれん代のほか、M&Aをサポートする仲介業者の費用など、会社を買うにはまとまった資金を用意しなければいけません。

順調に話が進んでいたとしても、資金を用意できなければ立ち消えてしまう可能性もあります。早めの資金調達が必要です。

3-1.対価、M&Aのサポートへの報酬など

買い物をするときには対価を支払わなければいけません。それは会社を買う際にも同じです。株式譲渡や事業譲渡の価格のほかに、『のれん代』と呼ばれるブランド力やノウハウに対する価額も支払います

またM&Aを仲介する業者を利用すれば、その報酬も必要です。報酬体系は業者により異なりますが、50~100万円が目安といわれています。どちらもまとまった金額のため、あらかじめ資金調達について考えておくと安心です。

3-2.資金不足で破談になることも

取引のための十分な資金が用意できない場合、資金不足により『破談』になるケースもあります。当初は十分な予算があると考えていても、交渉期間の長期化により仲介会社へ支払う料金が膨らみ、足りなくなるかもしれません。

せっかく交渉がまとまっても、資金が不足していると契約は成立しません。資金不足を回避するため、入念な資金計画が必要です。

3-3.資金の調達方法を考えておく

退職金や贈与・相続などで資金が潤沢にあるなら『自己資金』でM&Aを実施可能です。自己資金であれば返済の必要がないため、会社を買収した後の負担になりにくく、財務にも有利に働きます。

自己資金だけで十分な資金を調達できないなら『融資』を検討するのが一般的です。金融機関で会社を買うための資金を借りられないか相談し、審査を受けます。

目安として買収額の30~40%を自己資金でまかなえると、リスクを抑えやすいでしょう。買い取る会社のキャッシュフローをチェックし、想定通り返済できるかも確認します。

例えば日本政策金融公庫の『事業承継・集約・活性化支援資金』を利用するのも一つの方法です。

4.個人でも会社を買うことはできる?

個人でも会社を買うことはできる?

M&Aは大企業が実施するもの、というイメージを抱いている人もいるかもしれません。昨今は小規模な取引も増えており、後継者不足といった背景から、個人による会社の買収にも注目が集まっています。

4-1.小規模なM&Aも盛んになりつつある

大企業によるM&Aでは、数億円単位の取引は当たり前です。しかし全ての取引が大規模なものというわけではありません。近年では数百万円単位の小規模なM&Aも増えています

例えば飲食店や小売店・エステを始めとするサロンなど、規模の小さな会社であれば、300~500万円程度で買収できます。ただし小規模なM&Aの実施時には、デメリットに注意しましょう。

比較的安く買収できる会社には、利益が少ない・簿外債務などのリスクがある・市場環境の変わり目で売上が減少する可能性、などが考えられます。

安いから買うのではなく、その金額で買う価値や成長の可能性がある会社か、精査することが大切です。

4-2.背景には中小企業の後継者不足など

小規模なM&Aが増えている背景には『後継者不足』が潜んでいます。中小企業の経営者は高齢化が進んでおり、後継者不在の会社の数も多いのです。

経営者が70代の会社でも後継者不在の割合は約4割、80代でも約3割というデータもあるほどです。加えて少子化により、親族内や優秀な従業員への承継も難しいケースがあります。

後継者がいなければ、経営自体は黒字でも会社を廃業しなければなりません。そこで後継者不在の状況を解決するために、M&Aを利用し、会社経営に取り組みたい第三者へ会社を売却するケースが増えています。

参考:中小企業庁:2020年版「中小企業白書」 第1部第3章第2節 経営者の高齢化と事業承継

5.会社や事業を買う準備、交渉

会社や事業を買う準備、交渉

M&Aを実施するには、具体的にどのような会社を買いたいか条件をはっきりさせましょう。その上で探し始めることがポイントです。買収候補の会社が決まったら、実際の交渉へ向けて秘密保持契約も交わします。

5-1.目的や条件を明確にする

大切なのは『なぜ買収するのか』目的を明確にすることです。目的がはっきりしていれば、それを満たす『条件』がどのようなものかも分かるでしょう。

目的や条件があいまいなままM&Aを進めると、リスクの高い会社を買収したり、買収後の経営に失敗したりする可能性があります。会社経営を軌道に乗せ成功させるために重要なポイントです。

5-2.候補を探し、アプローチを開始

具体的な目的と条件をはっきりさせたら、買収する候補の会社を探しましょう。心当たりの会社があるなら、直接アプローチするとスムーズに取引できる可能性があります。

元から知り合い同士であれば、大切な情報の共有もしてもらいやすいはずです。より多くの売り手会社から探したい場合には、M&A仲介会社を利用すると探しやすいでしょう。

このとき大切なのは、候補を複数リストアップすることです。最初から1社に絞ると、途中で交渉がうまくいかなくなった際に、一から探し直さなければいけません。

5-3.秘密保持契約を交わす

リストアップした候補の中から、交渉を始める会社を選んだら『秘密保持契約(NDA)』を締結します。M&Aの交渉中、売り手は買い手へ会社の機密事項を開示しなければいけません。

重要な情報が外部へ漏れると、それをきっかけに経営が傾く可能性もあります。そのため情報を第三者へ開示しないことや、責任の所在を確認し合う目的で、秘密保持契約を結びます。

会社の内部情報はもちろんですが、M&Aを検討していること自体も、秘密保持契約で守られる重要な情報です。

6.どのように買収を進めるのか

どのように買収を進めるのか

買収を進めるにあたり、一気に契約するわけではありません。交渉を繰り返す中で条件を詰めていきます。またお互いに納得のいく条件を決めるため、トップ面談でのプレゼンや、財務・税務の詳細な調査であるデューデリジェンスも必要です。

6-1.譲渡価格等の条件決定で最終合意へ進む

最終的な契約を結びM&Aが成立するのは、さまざまな調査をしてお互いが条件に合意してからです。金額はもちろんその他の取り決めについても、全てにおいて合意が形成されてから『最終合意』へ進みます。

そして契約を結んだら、株式譲渡や事業譲渡など、あらかじめ決めていた手法で実際の手続きを進める流れです。買い手が期日に対価を振り込むことで、買収が成立します。

6-2.トップ面談ではしっかりプレゼンする

より具体的な交渉に入るときには『トップ面談』が行われます。M&Aの決定権を持つ人同士による面談です。

個人が会社を買うときには、トップ面談での『プレゼン』が重要です。売り手の経営者に『安心して任せられそうだ』と感じてもらうためにも、資料を作成し自己PRしましょう。

これまでの経歴はもちろん、買収後にどのような方針で経営していくつもりかという計画も説明します。また予算や買収の時期についても、この時点で合意しているとスムーズです。売り手の経営者と信頼関係を築くことを目標にプレゼンしましょう。

6-3.デューデリジェンスとは

基本合意の後には『デューデリジェンス』の実施も欠かせません。財務や税務・労務などについての詳細な調査で、それぞれの分野の専門家に依頼して行います。

一見問題のない会社に見えても、資料だけでは分からない問題を抱えているケースもあるものです。例えば簿外債務や労務問題・法令違反などが代表的です。これらを知らずに買収すると、思わぬ損失を被るかもしれません。

知らないうちに抱えるリスクを回避するために、詳細な調査を実施します。結果的に基本合意で取り決めた価格では高過ぎると判明する可能性があります。

専門家へ依頼するため費用は高額ですが、安心して買収するには必須の調査です。

7.会社の買収で考えられる失敗

会社の買収で考えられる失敗

買収によって会社の経営を始める方法は、起業よりリスクが少ないといわれています。しかしそれでも失敗の可能性がある点に注意しましょう。場合によっては、想定外の事態が起こり、かかった費用を回収できないかもしれません。

7-1.買収にかかった費用が回収できない

M&Aを実施するときには、自分以外にも売り手会社を買収したいと考えているライバルがいる状況と考えましょう。ライバルがよりよい条件を提示すれば、買収できないかもしれません。

競争する心理に火がつくと、実際の価値以上に買収に必要な価格がはね上がる可能性があります。実際の価値より高い価格で買収すると、かかった費用を回収しきるまでの期間が長くなる点がデメリットです。

事業がうまくいき経営自体は軌道に乗っていたとしても、投資としての効果を実感できないでしょう。ブランド力がある・シナジー効果を期待できるなど、高くても買収する理由はいくらでもあります。その理由は本当に妥当なのか、冷静に考えることが大切です。

7-2.隠れ債務を引き継いでしまう

会社を丸ごと引き継ぐ株式譲渡で注意したいのは、簿外債務といった『隠れ債務』です。帳簿に記載されている債務は確認すればすぐに分かるため、比較的簡単に対応できます。

問題は帳簿だけでは確認できない場合です。例えば賞与引当金・未払残業代・支払い期限が過ぎている未払費用・運用の含み損・債務保証額などが当てはまります。

簿外債務を考慮すると、会社の実際の価値は買収価格より低い場合もあるでしょう。デューデリジェンスを実施し、事前にリスクを明確にすることが欠かせません。

7-3.前の社長ありきの事業だった

社長の人柄や人脈によって成り立っている事業もあります。名物社長・名物店長などと呼ばれるようなタイプのリーダーがいる会社です。

このような会社を引き継ぐと、これまでの顧客が離れていくリスクや、取引先から仕入れ値の変更を言い渡されるおそれがあるでしょう。会社は買収できたとしても、社長の人柄や人脈は簡単には引き継げないからです。

そのため、社長の交代が事業に与える影響をよく考えておかなければいけません。またスムーズに経営を軌道に乗せるには、社長に依存しない事業スタイルの会社を選びます。

3カ月~1年の引き継ぎ期間を設けてもらい、時間をかけて教えてもらえると安心です。

8.従業員が流出するリスクもある

従業員が流出するリスクもある

急に経営者が変わると、従業員は変化についていけないかもしれません。これまでとの違いを受け入れられず、退職する人も出てくるでしょう。

中小企業にとって従業員は大切な資産でもあります。従業員の流出を防ぐためにできる対策を見ていきましょう。

8-1.方向性の違いや労働環境の変化で退職

M&Aを実施した後の経営方針は、買収した人が決定できます。しかし方針をがらりと変えてしまうと、従業員は不安を覚えるかもしれません。新しい経営者に不信感を抱く従業員がいれば、衝突の可能性もあるでしょう

ノウハウや技術を持った優秀な人材が退職するきっかけになることも考えられます。人材の流出を防ぐには、給与・働き方・昇進の条件・福利厚生といった待遇面を慎重に検討しましょう。

8-2.急な買収ではなく、まずは後継者候補に

急にやってきた新しい経営者が受け入れられるのは、簡単なことではありません。そこで有効なのは『後継者候補』として会社へ入る方法です。

経営者としての仕事を教わりながら、社内での人間関係の構築や、取引先との関係作りができれば、引き継いだ後もスムーズに進みやすいでしょう。現経営者からの信頼も得やすいはずです。

サラリーマンでこれまで経営の経験がない場合には、後継者候補として働く中で経営者マインドも身に付けられます。一見遠回りのようですが、受け入れてもらいやすい方法です。

9.会社を買う際には丁寧に準備をしよう

会社を買う際には丁寧に準備をしよう

中小企業の後継者不足や少子化などの背景もあり、個人が会社を買収して引き継ぐケースが増えています。比較的経営を軌道に乗せやすい買収ですが、成功のためには丁寧な準備が欠かせません。

目的と条件をはっきりさせた上で、候補となる会社を複数ピックアップしましょう。その中から交渉する会社を決めたら、秘密保持契約を結びトップ面談の場を設けます。

最終合意前に実施するデューデリジェンスも重要です。財務や税務の詳細な調査は、リスク回避のために欠かせない手順です。税務に関する調査であれば『税理士法人チェスター』へ依頼しましょう。

準備を重ね慎重にステップを踏むことで、買収を成功に導けます。

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