製造業のM&Aを成功させるポイントは?事例とともに紹介
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製造業では、中小企業が大手企業の傘下に入るM&Aが多い傾向があります。どのような企業であれば高額で売却できるのでしょうか?またM&Aを行うメリットもチェックしましょう。製造業で行われたM&Aの成功事例も紹介します。
目次 [閉じる]
1.製造業のM&Aの動向は?
製造業は全体で見ると業績が低下しつつあります。その結果、開発に取り組みたくても資金が不足している企業も多いでしょう。M&Aによって中小企業が大手企業の傘下に入るケースが多い傾向です。
1-1.製造業の現状
日本の製造業は、1980年代までは国際的にも高い競争力を持ち、業績は好調に推移していました。安くて高品質の製品が人気を得て、世界を相手に多くのヒット商品が生まれた時期です。
しかし1990年代以降は、安くて高品質という特性は中国や韓国企業に取って替わられてしまいます。商品間の質の差も以前ほどありません。競争力が低下した日本製品のシェアは下がり、全体の業績も低下中です。
1-2.中小企業の売却が多い傾向
全体の業績が落ち込んでいる製造業では、中小企業が大手企業の傘下に入るM&Aが数多く実施されています。以前ほどのシェアを獲得できなくなった企業は、業績の落ち込みにより、次の商品を開発する体力が残っていないケースも少なくありません。
そこで資金力のある大手企業に自社を売却し、培ってきた技術力を生かした開発や、従業員の雇用継続を目指します。資金力の不足で低迷している中小企業を、ファンドが買収するケースもあります。
2.高額で売却しやすい企業の特徴
製造業の中でも、設備が新しい・高い技術がある・大手企業との取引があるといった特徴を持つ企業は、比較的M&Aの対価が高くなりやすいでしょう。できるだけ高額での売却を目指すために、役立つポイントです。
2-1.設備が整っている
製品作りには設備が欠かせません。必要な設備を適切に更新してきており、新しく整った設備が導入されているなら、売却にあたっての対価は高額になりやすいでしょう。買い手は買収しただけで事業を継続できるためです。
メンテナンスをして使い続けている古い設備は、いつ故障するか分かりません。場合によっては、M&A後すぐに入れ替えなければいけないケースもあります。
買い手は買収にかかった費用に加え、設備投資も必要になり、より大きなコストがかかります。新しい設備の導入に必要なコストを考慮し、価格交渉が行われるかもしれません。
設備が古い場合、新しい設備への入れ替えにいくらかかり、どの程度効率化できるかが、対価を決める上でのポイントです。
2-2.製造技術や生産能力が高い
高い製造技術や生産能力を持っている企業は、売却による対価が高くなりやすいでしょう。技術や生産能力があるのに業績が落ちている企業は、資本力の弱さが原因であるケースが多いためです。
資本力が弱いだけであれば、資本力のある買い手が買収することで、すぐにV字回復する可能性があります。利益につながりやすい買収ができるため、M&Aの対価は高額になりやすいでしょう。
2-3.大手企業との取引がある
どのような取引先があるかも対価に影響します。大手企業のように取引を開始するのが難しい企業が取引先にあると、つながりが評価される可能性があるでしょう。
特に買い手が営業力を強化したいと考えている場合には、取引先が充実していることで、対価が高額になるかもしれません。M&Aを行うときには、自社と関係のある取引先を一覧にし、参照しやすいようにしておくと効果的にアピールできます。
3.製造業を売却するメリット
業績が悪化している製造業の中小企業の中には、このままでは経営が続けられなくなってしまうというケースもあるでしょう。また後継者候補がいないために事業承継が進まない事態も起こり得ます。
売却によって、製造業の中小企業が直面している課題の解消につながるかもしれません。
3-1.事業承継できる
かつては親の会社を子どもが継ぐのは当たり前のことでした。しかし近年は価値観の変化もあり、子どもが必ず事業承継するとは限りません。
社内に優秀な人材がいれば、社内承継による事業承継も選択肢の一つです。ただし、ふさわしい人材がいない場合もあるでしょう。親族にも社内にも後継者となる人材がいない場合、M&Aによる第三者への売却で事業承継が可能です。
また業績が悪く今後も改善する見込みがないため、自分の代で廃業しようと決めている経営者もいるでしょう。この場合にもM&Aを活用すれば、自社の技術や製品に魅力を感じる買い手に売却できるかもしれません。
M&Aによる事業承継のメリット・デメリットを解説している以下もご覧ください。
事業承継M&Aのメリット・デメリットと活用できる補助金を解説 |税理士法人チェスター
3-2.対価を得られる
企業を売却すると対価を得られます。例えば経営者が保有している自社の株式を買い手に売り、経営権を移転する株式譲渡を行うと、経営者は株式の売却により大きな資金を手にできます。規模や技術などによっては、数千万円以上で売れる可能性もあるでしょう。
経営者は取得した対価を引退後の生活費にあててもよいですし、新しく取り組みたい事業の資金にもできます。売却すれば創業時にかかったコストの回収も可能です。
3-3.廃業を避けられる
経営者が引退するときに後継者がおらず事業承継できなければ、廃業しなければいけません。廃業するには登記や官報公告などが必要で、そのための費用がかかります。弁護士や司法書士に手続きを依頼すれば、その報酬も必要です。
設備や在庫・原材料なども処分しなければいけません。中には売れるものもありますが、すべてを売り切るために、仕入れにかかった金額より安く売らなければいけない場合もあるでしょう。
また廃業すれば従業員は仕事を失うことになり、取引先へも迷惑をかけてしまいます。売却し第三者が会社を引き継げば、廃業によって生じるコストや手間、迷惑をかける事態などを避けられるでしょう。
3-4.選択と集中による経営改善の可能性
経営改善にも売却が役立ちます。選択と集中によって、会社の保有する事業から不採算事業を切り離して売却すれば、資金も人材もメイン事業に集中させられます。
業績が改善すれば、設備投資や開発に適切な投資ができるでしょう。魅力ある会社へと成長させられれば、親族や社内で後継者として会社を引き継ぎたいと希望する人も出てくるはずです。
また親族内承継や社内承継は難しくても、より好条件で売却できる可能性が高まります。
参考:ノンコア事業の売却で経営を効率化できる。売却の手法も確認
4.製造業を買収するメリット
製造業のM&Aは、買い手にもメリットがあります。新しい事業を立ち上げてから利益が出るようになるまでには、多くの時間や手間が必要です。現存する企業を買収すれば、買い手はスピーディーな事業展開ができる可能性があります。
4-1.スピーディーな事業の立ち上げ・拡大が可能
事業の立ち上げには時間や手間がかかります。しかも製造業では設備が必要不可欠です。製品の製造に適切な設備を作るには時間がかかるでしょう。設備を設置する工場を作るためには土地を探す必要もあり、建物も建てなければいけません。
市場で必要とされている製品を作るのに5年かかると、その間に陳腐化しているおそれもあるでしょう。かつては十分なニーズのあった製品も、時期が過ぎれば期待ほど売れなくなってしまいます。
M&Aで企業や事業を買収すれば、必要なものはすべてそろった状態です。事業の立ち上げは既に終わったも同然で、すぐに利益を上げることもできるでしょう。スムーズな拡大に役立つ方法です。
4-2.事業に必要な人材や設備を獲得できる
人材を採用して育成する手間やコストが不要なのも、買収のメリットです。従業員も一緒に引き継ぐ契約にすれば、十分な経験や技術のある人材をすぐに獲得できます。指導しなくても、すぐに自走できる現場の構築が可能です。
また必要な設備もあります。適切な更新とメンテナンスを行っている企業を買収すれば、買収後もそのままで設備を使い続けられるでしょう。
事業を始めるために必要なすべてがそろっているため、買収するだけで事業拡大を実現できます。
参考:中小企業のM&Aが増加する理由。第三者への事業承継とは
5.M&A成功のポイント
M&Aを成功させるには、相乗効果を意識して買い手を選定しましょう。また適切な時期になるまで、従業員や取引先など関係者に情報が漏れないよう注意が必要です。必要に応じて専門家の活用も検討します。
5-1.相乗効果を期待できる買い手へ売却する
相乗効果を発揮できれば、買い手はより大きな利益を獲得できるでしょう。利益を期待できる分、M&Aが成立しやすく、高額で売却できる可能性があります。
自社の買収によって相乗効果を期待できる買い手へアピールするには、まず自社の強み・弱みを明確にしなければいけません。その上で強みを生かせる買い手候補をリストにし、アプローチする際の優先順位をつけます。
アプローチの結果、自社の価値が十分に伝わり理解してもらえれば、より高額で売却できるでしょう。
参考:M&Aのメリットを細かく紹介。M&Aによる相乗効果や節税効果とは
5-2.M&Aに関する情報漏えいに注意する
M&Aを進める上では、情報漏えいに注意が必要です。M&Aを検討しているという事実自体、関係者に漏れると混乱を引き起こしかねません。
中小企業にとって経営者の交替は大きな変化です。従業員の中には経営者の考え方や姿勢に魅力を感じて働いている人もいるため、M&Aが行われるタイミングで退職する人が出てくるかもしれません。
M&Aを実施するかもしれないという情報が取引先に漏れると、取引量の縮小や契約終了も起こり得ます。適切なタイミングで関係者に伝えられるよう、検討段階で情報が漏れないよう注意しましょう。
参考:5.情報漏えいに注意
5-3.専門家を活用する
自社を売却するときには、強みや弱みを把握し相乗効果が生まれそうな買い手候補にアプローチします。買い手候補となる企業とのつながりがなければいけません。また交渉を行い条件をすり合わせ、契約書を締結するまでには、法律の知識も必要です。
幅広い分野の専門知識が必要なため、M&Aの専門家に依頼するとよいでしょう。製造業の技術や業界の動向を正しく理解している専門家であれば、スムーズに話を進める上で貢献してくれるはずです。
M&Aは税務にも関係します。買い手による調査の前に自社の税務の状況を確認したい、できるだけ税額を抑えたいという場合には、税理士法人チェスターに相談するとよいでしょう。
6.製造業M&Aの成功事例
実際に製造業の企業が行ったM&Aの成功事例を紹介します。どのような企業が何を目的にM&Aを行い、どのような結果を得られたのか見ていきましょう。
6-1.たから抜型工業と大創の資本提携
たから抜型工業と大創は、どちらも抜型で知られている企業です。たから抜型工業は親族内承継による事業承継も行っていましたが、今後の会社の発展や社会貢献を意識し、大創への売却を決断しました。
どちらも抜型を扱っていますが、手掛けている製品は異なります。お互いの得意分野をかけ合わせることで、M&Aによって高いシナジー効果を期待できると判断したそうです。
またM&A後は大創の営業力とたから抜型工業の技術力によって、これまでカバーできなかった分野への進出も期待できます。
6-2.中央自動車工業によるABTの子会社化
中央自動車工業はボディーコーティングやオイル添加剤など、自社開発製品を中心に取り扱っている企業です。損害保険会社から全損認定を受けた車両の処分に関わるABTの買収を実施したのは、シナジー効果を得る目的でした。
ABTのネットワークを生かし、新しい商品の開発を目指した取引です。またこれまで事業の柱であったカー用品の卸売や部品販売から撤退していたため、新たな事業の柱を獲得したいという思いもあり実施されました。
6-3.商栄機材とJRCのM&A
全国の自治体に自社の環境プラントが導入されている商栄機材は、1976年の創業から少しずつ着実に拡大してきた企業です。環境問題への意識の高まりもあり、業績も安定していました。
しかし親族内承継も社内承継もうまくいかず、いつの間にか経営者は70代を迎えていたそうです。M&Aを実施し会社を売却した話を周りから聞いたことから、M&Aが最適と考え、JRCへの売却を決定しました。
M&Aにより新しく大きな工場が便利な立地に建設され、より多くの人材が集まり成長が期待できる見込みだそうです。
6-4.日本電産による三菱重工工作機械の株式取得
三菱重工のグループ会社として、ものづくりに携わってきた三菱重工工作機械は、ギヤに関する高い技術力や優れた人材を保有している点が強みです。同社の強みである技術や人材を獲得するため、日本電産は株式を買収し子会社化しました。
技術開発・製造・営業でシナジー効果が期待できるのはもちろん、資金を投入することで三菱重工工作機械が展開していた工作機械事業の拡大や発展も期待されたM&Aです。
両社のブランド力や顧客基盤の活用で、グローバルな活躍が見込まれています。
6-5.ヤマシナによる山添製作所の子会社化
ヤマシナは山添製作所の株式を取得し子会社化しました。2社はどちらも自動車部品をメインにネジを作るメーカーです。中でも山添製作所は、品質管理水準の高さを強みとしています。
山添製作所を買収するM&Aによって、ヤマシナは生産拠点の分割や物流コストの低減が期待できると考えました。同業だからこそ経営改善に取り組みやすい点もポイントだそうです。
また営業面・開発面での相乗効果も期待できることから、M&Aが行われました。
6-6.シェアリングテクノロジーによる電子プリント工業の子会社化
シェアリングテクノロジーは企業価値の拡大を目指し、電子プリント工業の株式を取得し子会社化しました。電子プリントは白物家電や照明器具のプリント配線板を製造している会社です。
取引先には大手電気メーカーもあり、ここ数年の業績は安定しています。買収によりシェアリングテクノロジーでは、電子プリント工業の持つ取引先も獲得が可能です。
大手電気メーカーとのつながりを生かした、新たな営業戦略も実施できるでしょう。
7.M&Aで製造業の事業継続に活路が
製造業は、1980年代くらいまでに築いていた業績を近年では上げられていません。その結果、適切な投資ができず、行き詰まりを感じている企業も数多くあります。
経営状況が厳しいままでは後継者候補が現れにくく、事業承継できずに廃業していく企業も少なくありません。
M&Aにより会社を売却すると、親族や社内に後継者がいない場合にも事業を引き継げます。廃業の手間やコストがかからず、従業員の雇用も維持できます。取引先へも迷惑をかけずに済むでしょう。
買い手にとっても、スピーディーに新しい事業を立ち上げられるメリットがあります。ただしM&Aを成功させるには、相乗効果を期待できる買い手を見つけなければいけませんし、情報漏えいへの注意も必要です。
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