個人M&Aの失敗が及ぼす影響は?失敗の原因と対策を解説
タグ: #M&A個人M&Aの案件が増えていますが、中には失敗に終わるケースもあります。どのような理由で個人M&Aは失敗するのでしょうか?また、失敗が会社や関係者に与える影響についても確認しましょう。併せて失敗を回避するポイントも紹介します。
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1.個人M&Aの概要
個人が経営者になる一手段として、『個人M&A』が注目されています。M&A(Mergers and Acquisitions)は、資本の移動を伴う会社の合併や買収を指し、中小企業や小規模事業者の間では、株式譲渡や事業譲渡の手法が多く用いられます。
個人M&Aとは、どのような特徴を持つM&Aなのでしょうか?
1-1.個人M&Aは買い手が個人
個人M&Aの最大の特徴は、買い手が個人であるという点です。起業したい個人が事業に必要な有形・無形の資産を譲り受け、経営者になるケースが増えています。
資金力に限りのある個人が買収するため、取引価格が1,000万円ほどまでの小規模な会社や個人事業が対象となりやすいでしょう。規模の小さなM&Aのため、スモールM&AやマイクロM&Aと呼ばれる場合もあります。
参考:個人による会社買収とは。資金調達や売り手の心構えなどを解説
2.個人M&Aは増えている
M&Aというと、かつては会社同士が行う取引でしたが、近年は会社員などの個人が会社や店舗を買収し、経営者に転身する事例が増えています。個人M&Aが増加する背景には何があるのでしょうか?
2-1.事業承継したい中小企業が増えている
個人M&Aが増えている理由としてまず挙げられるのは、M&Aによる事業承継を希望する中小企業が増えている点です。
中小企業庁の資料では、2025年までに平均引退年齢(70歳)を超える中小企業・小規模事業者の経営者は、約245万人になると推定されています。しかし、そのうち127万人の経営者は後継者が決まっておらず、後継者不在の問題に頭を抱えているのが現状です。
あと数年もすれば、多くの経営者が引退するタイミングを迎えるため、次の世代への引き継ぎは急務です。親族内や社内で適切な後継者が見つからない場合、廃業は避けられません。
個人M&Aを活用し、後継者探しの範囲を広げる中小企業が増えているといえるでしょう。
参考:中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題|中小企業庁
売却先が個人の場合のM&Aについては、以下もご覧ください。
個人M&Aは増加中。第三者承継の売却先が個人の場合のポイント|税理士法人チェスター
2-2.M&Aマッチングサイトが増えている
小規模な案件を扱うM&Aマッチングサイトが増えているのも、個人M&Aが増加している理由です。M&Aマッチングサイトとは、売り手と買い手が直接的に交渉できるオンライン上のプラットフォームです。
M&Aマッチングサイトが現在のように増える前も、買い手が個人のM&Aは存在しましたが、縁故による紹介で買収するケースがほとんどで、一般的にはほとんど行われていませんでした。
売り手と買い手を結びつけるM&A仲介会社も、大規模な案件を扱う場合が多く、費用が高額で、会社を買収したいと希望している個人がいても簡単には利用できません。
比較的安価に利用できるM&Aマッチングサイトの台頭が、個人M&Aの増加を後押ししたといえます。
参考:「中小M&A推進計画」の主な取組状況 〜補足資料〜|経済産業省
M&A仲介業者のサイトについての詳細は、以下もご覧ください。
M&A仲介サイトで小規模な事業の売買も可能。六つのサイトを紹介|税理士法人チェスター
3.個人M&Aが失敗に終わる理由
個人M&Aで会社を売却しても、必ずしも経営がうまくいくとは限りません。場合によっては、M&A後に会社が立ち行かなくなる可能性もあるでしょう。個人M&Aが失敗する代表的な理由を解説します。
3-1.買収後に発覚する簿外債務
『簿外債務』が原因で、個人M&Aが失敗するケースもあります。簿外債務とは、帳簿に記載されない債務のことです。具体的には、未払い残業代・未払い社会保険料・退職一時金・債務保証・訴訟リスクなどが挙げられます。
最終契約を締結する前に、買い手は売り手に対して『デューデリジェンス(買収調査)』を実施し、売り手の実態を調査するのが通例です。
小規模なM&Aではデューデリジェンスを省くケースがありますが、安心して契約するためには必須と考えましょう。買収後に簿外債務が発覚すれば、買い手は大きな損失を被ります。売り手さえも気づいていない債務が潜んでいる可能性もあるのです。
簿外債務の詳細や対策については、以下もご覧ください。
簿外債務の種類や見つけ方。買い手と売り手それぞれの対策は?|税理士法人チェスター
3-2.従業員の退職
売り手企業の従業員にとって、経営者の交代は大きな出来事です。個人M&Aでまったく知らない人物が経営者になると知れば、動揺する従業員も出てくるでしょう。
特に、元の経営者の姿勢や考え方に感銘を受け「ついていきたい」と感じていた従業員は、M&Aをきっかけに退職してしまうかもしれません。退職に至らなくても、現場の士気が下がる可能性があります。
従業員が離職したり、キーパーソンの協力を得られなかったりすれば、企業価値は大きく毀損します。技術や経験のある従業員にこれまで通り働いてもらうために、買い手は従業員との信頼関係を構築する必要があるでしょう。
3-3.ノウハウの引き継ぎが不十分
買い手が必要なノウハウを十分に身につけられない場合も、事業はうまくいきません。買い手にスムーズにバトンタッチするには、売り手から買い手への確かな引き継ぎが重要です。
確実にノウハウを身につけてもらえるよう、一定期間は売り手の経営者が会社に残留し、直接引き継ぎを行うとよいでしょう。このときに伝えるべきノウハウは何か、あらかじめ精査しておくと、必要な項目を漏れなく伝えられます。
事業承継の流れを把握したい場合は、以下もご覧ください。
事業承継に必須のスケジュール作成。いつ、どんなことを実施するのか|税理士法人チェスター
3-4.経営理念や社風の理解不足
会社の買収とは、経営者の思いや経営理念、そこで働く従業員などをすべて含めて譲り受けることです。売り手と買い手は、何度も話し合いを重ね、相互理解を深めなければなりません。
理解不足はM&Aの失敗を招きます。特に、先祖代々引き継がれてきた老舗には、長年守られてきた伝統や組織文化、経営理念が根付いています。新たな経営者が唐突にこれまでと違うやり方を押し通そうとすれば、従業員は強く反発するでしょう。
3-5.買い手に経営者の資質が不足している
会社員と経営者に求められる能力は、まったく異なります。優秀な会社員として十分な経験や実績があるとしても、リーダーシップをはじめとする経営者としての資質を伸ばしていけるとは限りません。
買い手がこれから必要なスキルを身につけられるよう、売り手の経営者はサポートを実施する必要があります。経営者と行動をともにして学ぶ期間を設けるのもおすすめです。
後継者育成の必要性や準備については、以下もご覧ください。
後継者育成にかかる期間や必要な準備は?社内、社外の教育方法も紹介|税理士法人チェスター
3-6.M&A自体が目的になっている
M&Aはあくまでも目的を達成する手段であり、ゴールではありません。M&Aありきでプロセスを進めようとすると、途中で失敗する確率が高くなります。
個人M&Aの買い手によくありがちなのが、表面的な金額だけを見て「自分でも買えそうだ」と思ってしまうことです。「今がお買い得」という業者の言葉を鵜呑みにした結果、問題のある会社を買収してしまう事例も少なくありません。
特に、買い手にとっては『買収後の事業を継続していけるかどうか』という点が重要です。M&Aの目的と計画を明確にした上で、プロセスをスタートさせる必要があります。
4.売り手から見た個人と企業の違い
売り手にとって、M&Aの買い手には『個人』と『企業』の2パターンがあります。それぞれにどのような特徴・違いがあるのでしょうか?
4-1.資金力やノウハウが魅力【企業】
個人と企業では、資金力に大きな差があります。企業は個人に比べて資金が潤沢なので、取引価格が引き上げられる可能性があるでしょう。
買収後は多額の資金投入により、大幅な経営改善が実施される見込みがあります。場合によっては、従業員の待遇が今よりもよくなるかもしれません。
また、個人の買い手には必ずしも経営経験があるとは限りませんが、引き継ぐ先が企業であれば、安心して経営を任せられます。自社と同業種なら、業界の情報やノウハウが蓄積しているので、引き継ぎもスムーズに進むでしょう。
4-2.資金力を上回る魅力が必要【個人】
個人が買い手の場合、企業ほどの資金力は見込めません。経営に携わった経験があればよいですが、経営経験がゼロの会社員が買収を試みるケースもあります。
個人が買い手になる場合、企業の資金力や経営力を上回るような魅力があるかどうかが重要です。経営者として会社・事業を引き継ぐ覚悟と熱意があり、かつ本業や私生活で培った何らかの強みが生かせる場合は、買い手候補になり得るでしょう。
5.個人M&Aの失敗が与える影響
買い手が経営者としての手腕を発揮できないと、売り手経営者が手塩にかけて育ててきた会社や事業を廃業に追い込んでしまう恐れがあります。個人M&Aが失敗した場合、周りにどのような影響が及ぶのでしょうか?
5-1.従業員が仕事を失う
買い手が会社経営に失敗して廃業を選択すると、従業員は仕事を失います。年齢や社会情勢によっては、なかなか次の就職先が決まらないケースもあるでしょう。仕事を見つけられず日々の暮らしに困る事態も起こり得ます。
買い手が会社をうまく引き継げない場合には、会社のために長年尽力してくれた従業員が窮地に陥る可能性もあるのです。
5-2.取引先に迷惑がかかる
影響は取引先にも及びます。会社が廃業すると取引先の売上が減るためです。取引量によっては、一気に売上が減り業績の悪化を招くでしょう。場合によっては、廃業の連鎖が起こるかもしれません。
また自社から仕入れていた会社は、同等の製品を仕入れられる会社を新たに探す必要が生じます。製品によっては、代替品がなかなか見つからない可能性もあるでしょう。
5-3.会社や事業がなくなる
会社や事業の継続は、個人M&Aの目的の一つです。しかし個人M&Aが失敗に終わると、会社も事業もなくなってしまいます。
同時に、築き上げてきた技術やノウハウも失われてしまうでしょう。中には他社にはないオリジナルの技術を持っている会社もありますが、廃業となると、それも失われてしまいます。独自の技術がなくなるのは、社会的にも損失なのです。
会社の廃業について解説している以下も、ぜひご覧ください。
6.個人M&Aの魅力も確認
個人M&Aの失敗は大きな損失を招きますが、成功すればさまざまな恩恵が得られます。買い手にとって、個人M&Aにはどのようなメリットがあるのでしょうか?
6-1.投資回収までの時間を短縮できる
ゼロから起業する場合、許認可の取得や設備の購入、顧客の開拓などに多大な時間とコストがかかります。利益が出るまでに時間を要する上、新規事業が必ずしも成功するとは限りません。経営経験の浅い人にとっては大きなリスクが伴うでしょう。
M&Aは、会社立ち上げに要する時間・コストを大幅に短縮できるのが特徴です。株式譲渡の場合、事業を営む上で必要な有形・無形の財産をそのまま引き継げます。許認可の再取得も不要なので、M&Aの成立後すぐに事業をスタートできるでしょう。
買収先が黒字会社であれば、M&Aの成立後から収益が得られ、その後も堅調な売上が続く可能性が高いといえます。
6-2.役員報酬を確保できる
株式譲渡で会社の経営権を取得すると、買い手は会社の代表者や役員に就任するケースがほとんどです。代表者や役員になった場合、『役員報酬』を得られる可能性があり、会社員時代よりも収入が大きく増えることが見込まれます。
役員報酬とは、会社の取締役や執行役などの役員に対して支払われる報酬で、金額は会社の定款や株主総会で決定します。会社経営が軌道に乗って、売上と利益が増えれば、役員報酬の増額を検討できるかもしれません。
6-3.不労所得を得られる可能性
まったく働かずに利益を得るのは難しいかもしれませんが、毎日あくせく働かずとも、不労所得に近い形で利益が得られる可能性があります。
会社や店舗を買収した場合、そこで働く優秀なスタッフや取引先、顧客がそのまま引き継がれます。利益の出るビジネスモデルと組織体制が確立されていれば、自分は現場に直接関与せずに、経営のみに集中ができるでしょう。
レンタルスペース事業やゲームアプリ事業、学習塾などは、手間や労力を抑えながら安定した収入源を得たい人に選ばれる傾向があります。
7.失敗を避けるためのポイント
従業員や取引先に迷惑をかけるのはもちろん、社会的な損失につながる可能性もあるのが個人M&Aの失敗です。そのため個人M&Aに取り組む際には、失敗を避けられるようポイントを押さえておきましょう。
7-1.信頼関係を築ける相手を探す
M&Aの成功の可否は、売り手と買い手の相性にかかっているといっても過言ではありません。契約書を締結したら終わりではなく、お互いに信頼関係を大切しながら、M&A実行後の引き継ぎを進めていくことが肝要です。
買い手が従業員から次期経営者として受け入れられない限り、会社経営はうまくいきません。売却先を選定する段階において、売り手は、経営理念や組織風土に理解を示し、かつ従業員を大切にしてくれる買い手を探す必要があります。
一方、買い手は後継者として、売り手経営者の思いをしっかりと引き継ぐ覚悟を持ちましょう。
7-2.将来のビジョンを共有する
売り手の経営者は「自社の思いを継いでくれるよい買い手を探したい」と感じています。「既存事業をこの先も続けてほしい」「従業員をこれまでと同等の条件で雇用し続けてほしい」など、具体的な希望を持っているケースも少なくありません。
交渉をスタートさせる前に、売り手と買い手でトップ面談を行うのが通例です。面談を重ね、ビジョンの共有と相互理解に努めましょう。
なお、経営者としての考え方やビジョンに共通点が多いほど、M&A成立後の会社経営や引き継ぎがスムーズに進む可能性があります。
参考:M&Aで重要とされるソーシングとは。交渉までの進め方を知ろう
7-3.修行期間を設ける
買い手の経営経験が浅い場合は、経営者としての資質と能力を育成するために『修行期間』を設けるのもよいでしょう。まずは後継者候補として、買い手が会社に入社します。
配属先は現場の仕事を経験できる部署です。2~3年間にわたり会社の各部署を順番に経験すると、事業への理解が深まり、従業員との関係性も築けるでしょう。
その後、売り手の経営者と一緒に行動し、経営に必要なノウハウを学びます。企業理念や社風を働きながら理解していけるため、会社についてよく知った上で経営者になれる方法といえます。
参考:後継者育成にかかる期間や必要な準備は?社内、社外の教育方法も紹介
7-4.専門家にしっかり相談する
M&Aを成功させるポイントは、M&Aに精通した専門家のサポートを受けることです。取引規模が小さいとはいえ、M&Aにはリスクが伴います。素人が安易に手を出せば、失敗する可能性が高いでしょう。
M&Aの専門家というと、M&A仲介会社やファイナンシャルプランナー、その他の専門家(公認会計士・税理士など)が一般的です。「手数料を抑えたい」「もっと気軽に相談したい」という人は、以下のような支援機関を活用しましょう。
- 後継者人材バンク(事業承継・引継ぎ支援センター)
- 事業承継マッチング支援(日本政策金融公庫)
- 商工会議所
8.ポイントを押さえ事業承継を成功させよう
M&Aを活用して事業承継したい中小企業が増えたことや、M&Aマッチングサイトが広まったことで、個人M&Aは増えています。
ただし、すべての個人M&Aが成功するわけではありません。従業員の退職や買い手の資質不足などにより、失敗に終わるケースもあります。
個人M&Aを成功させるためには、さまざまな事例から失敗の原因を探り、リスクやデメリットを回避するための対策を立てることが重要です。
また専門家のサポートを受けることも、M&Aを成功に導くために役立ちます。税務に関するサポートは『税理士法人チェスター』に相談するのがおすすめです。
税理士法人チェスターでは、相続事業承継コンサルティング部の実務経験豊富な専任税理士が、お客様にとって最適な方法をご提案いたします。
事業承継・M&Aを検討の企業オーナー様は
事業承継やM&Aを検討されている場合は事業承継専門のプロの税理士にご相談されることをお勧め致します。
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