銀行がM&Aで果たす役割は何か?企業との関係で異なる役割を確認
タグ: #M&AM&Aにおいて銀行は三つの役割を担っており、案件によってどの役割で関わるかは異なります。銀行が担う役割のうち、アドバイザリーとしての働きを中心に確認しましょう。M&Aに関する銀行以外の相談先についても紹介します。
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1.M&Aにおける銀行の役割
M&Aを行う上で、銀行は三つの役割を担っています。それぞれの役割について詳しく知る前に、まずはどのような役割があるのか把握しておきましょう。
1-1.三つの役割を持つ
銀行にはさまざまな業務があり、M&Aにおいても以下の異なる3種類の役割があります。
- M&Aアドバイザリー
- 資金調達先
- 債権者
M&Aアドバイザリーとしての窓口を設けている銀行であれば、相談から成約まで一連の流れに対するサポートの依頼が可能です。地域のさまざまな企業が利用する銀行だからこそのネットワークで、取引相手が見つかるかもしれません。
また銀行には預金・融資・為替の三大業務があり、そのうちの融資業務により、資金調達先としての役割もあります。加えて、銀行は企業に融資することで、M&Aを実施する企業の債権者として関わるケースもあるでしょう。
2.M&Aアドバイザリーとしての銀行
M&Aアドバイザリーとしての役割を担う場合、銀行はどのような業務を行うのでしょうか?銀行のサポートを受けながらM&Aを進めていくことで、買い手が得られるメリットも紹介します。
2-1.売り手の約60%が金融機関に依頼している
自社の売却について検討を始めた場合、どこにも相談せずにM&Aを進めるのは難しいでしょう。自社のみで進めようとすると、買い手候補を探すだけで難航するケースも珍しくありません。
中小企業庁による『2022年版中小企業白書』内の『令和3年度(2021年度)の中小企業の動向』によると、売り手としてM&Aの実施を検討している企業のうち、59.9%が金融機関に買い手候補探しを依頼しています。
日ごろから関わりのある銀行は、企業にとってM&Aについて気軽に相談しやすい相手ともいえるでしょう。
参考:2022年版中小企業白書 第1部「令和3年度(2021年度)の中小企業の動向」Ⅰ-103|中小企業庁
2-2.銀行が担う業務
M&Aアドバイザリーとして銀行が担うのは、戦略の策定からクロージングまでのすべての工程です。まずはM&Aの目的をはっきりさせた上で、目的を達成できるような買い手候補を選定します。
候補に挙げた企業との交渉を先に進めると、それまでの交渉内容をもとにした基本合意書を締結します。その後、買い手が実施する売り手企業の詳細な調査である『デューデリジェンス』を実施する流れです。
参考:M&Aにおけるデューデリジェンスの役割。調査項目や進め方を知る
調査の結果を反映した内容で最終契約を締結したら、契約書で定めている日程に合わせ、企業の引き継ぎに必要な手続きを行います。
M&Aの一連の流れについて解説している以下もご覧ください。
2-3.買い手は資金調達の相談ができるメリットも
買い手がM&Aを実施する際、資金調達が課題になるケースもあるでしょう。
アドバイザリー業務を銀行に依頼すれば、同時に資金調達についても相談できる点がメリットです。融資は銀行のメイン業務の一つのため、スムーズに話が進みます。
企業の信用力に応じて行われる通常の融資のほか、将来獲得できる見込みの利益を担保にした融資や資産を証券化して資金を集める手法など、さまざまな資金調達方法があります。
資金面のハードルが高くM&Aを実現できていない企業は、まず銀行に相談してみるとよいかもしれません。
3.銀行によるM&Aアドバイザリーの注意点
近年、M&Aアドバイザリーの窓口を設ける銀行が増えつつあります。ただし、どの銀行でもよいわけではありません。担当者の知識レベルを確認し、利益相反にならないかといった点もチェックしておきましょう。
3-1.担当者に十分な知見があるか
M&Aアドバイザリーとしての役割は、銀行の本業ではありません。中には担当者がM&Aに不慣れなケースもあります。しかしM&Aをスムーズに実施するには、十分な知識や経験が必要です。
例えば『企業概要書』の用意もアドバイザリー業務の一つですが、契約を結んでいる売り手(または買い手)の希望をまとめるだけでなく、相手側のビジネスモデルや在庫管理状況、M&A成立後の設備の取り扱いの調査や想定できるシナジー効果も提案してくれると、具体的にイメージしやすくなります。
担当者がM&Aの業務に精通しているか見極めるには、これまでのM&Aの実績を確認するとよいでしょう。また、経験数では、M&Aアドバイザリーを専門に行っている企業が勝ります。
3-2.利益相反にならないか
銀行の本来の業務は融資です。銀行にとってM&Aは、買い手に対する新たな融資機会を得るためのチャンスでもあります。そのため、譲渡金額を下げて買い手に有利にM&Aを進めるケースもあるでしょう。これでは、売り手が不利益をこうむる利益相反の状態です。
反対に、売り手の株式を投資目的で銀行が保有している場合、譲渡金額を上げて譲渡益を増やそうとする動きもあるかもしれません。
なお、銀行法第13条の3の2では、顧客の不利益にならないように、情報の管理と実施状況の監視体制を整えるように定められています。
ただ、万が一の事態を防ぐために、契約時に専任条項(契約中にほかの企業とのアドバイザリー契約を結ばない)を設けるほか、融資部門や投資部門との内通が起きないような情報管理体制が敷かれているかの確認も必要です。
4.M&Aアドバイザリーを依頼する銀行の選び方
銀行は規模によって得意な案件が異なります。メガバンクだから、メインバンクとしていつも利用しているから、という理由だけで選ぶと、スムーズなM&Aが実現しないかもしれません。自社の規模に合った銀行選びが重要です。
4-1.大規模な案件ならメガバンク
規模の大きなM&Aや専門性の高いM&Aを実施する予定なら、メガバンクに依頼するとよいでしょう。例えば海外企業とのM&Aである『クロスボーダーM&A』を視野に入れているなら、メガバンクに相談してもよいかもしれません。
ただし、メガバンクでは小規模なM&Aを引き受けていないことも多く、中小企業がメガバンクに依頼しようとしても断られる可能性があります。
4-2.小規模な案件なら地方銀行
中小企業がM&Aアドバイザリーを依頼するなら、地方銀行が向いているでしょう。地元企業とのネットワークを生かしたマッチングの実施によるサポートを受けられます。
近年では後継者不足の解決策として、中小企業でもM&Aを実施するケースが増加傾向です。中小企業のM&Aは地元経済にも影響を与えるため、アドバイザリー業務に力を入れる銀行は増えてきています。
5.銀行のM&Aアドバイザリーに対する報酬
M&Aアドバイザリーを選ぶ際には、費用も重要です。銀行に依頼すると、どのくらいの報酬が発生するのでしょうか?必要な費用や成功報酬の計算方法を解説します。
5-1.費用はM&A仲介会社より高め
銀行にM&Aアドバイザリーを依頼すると、専門の仲介会社よりも費用の相場は高めです。特にメガバンクをはじめ、大手銀行は高くなりやすい傾向があります。
ただし、費用は依頼する銀行や案件によって異なる上、費用の具体的な金額を公開している銀行はほとんどありません。まずは案件ごとに問い合わせが必要です。
5-2.M&Aアドバイザリーに必要な主な費用
M&Aアドバイザリーを銀行に依頼すると、以下の費用が必要になるケースが多いでしょう。
- 着手金:アドバイザリー契約締結時に支払う手数料
- リテイナーフィー:契約期間中に毎月支払う費用
- 中間成功報酬:基本合意締結時といった、交渉がある程度まとまった段階で支払う報酬
- 成功報酬:最終契約締結時に支払う報酬
ただし、必ず4種類すべての費用が請求されるわけではありません。銀行によって請求される費用が異なるため、何が必要なのかについては確認が必要です。
5-3.成功報酬はレーマン方式による計算が一般的
成功報酬の計算には、一般的に『レーマン方式』という計算方法が用いられます。取引金額に応じて決められた料率を乗じて計算する仕組みです。以下のように、取引金額が大きくなるほど料率が低く設定されます。
- 5億円まで:5%
- 5億円を超え10億円まで:4%
- 10億円を超え50億円まで:3%
- 50億円を超え100億円まで:2%
- 100億円より多い部分:1%
例えば取引金額が14億円の場合で計算すると、以下の通りです。
- 5億円までの部分:5億円×5%=2,500万円
- 5億円を超え10億円までの部分:5億円×4%=2,000万円
- 10億円を超え50億円までの部分:4億円×3%=1,200万円
- 合計5,700万円
また報酬を計算する元となる取引金額も確認しましょう。株式譲渡対価の場合もあれば移動総資産の場合もあり、料金に違いが生じるためです。
参考:M&A会社への報酬はレーマン方式で計算が一般的。メリットは?
6.銀行以外の相談先
企業がM&Aについて相談できる相手は、銀行以外にもあります。例えばM&A仲介会社や事業承継・引継ぎ支援センター、税理士などが代表的です。それぞれの相談先の特徴を確認しましょう。
6-1.M&A仲介会社
M&A仲介会社は、M&Aの業務に特化しているのが特徴です。幅広いネットワークの中から、自社に合う相手候補の提案を受けられます。仲介会社ごとに得意な規模やジャンルが異なるため、過去の実績を参考に、自社に合う仲介会社を選びましょう。
銀行と比べると、アドバイザリーにかかる費用が安く設定されている傾向があるのも特徴です。
参考:M&Aにかかる仲介手数料の目安。費用項目や計算方法、節約法も
6-2.事業承継・引継ぎ支援センター
事業承継・引継ぎ支援センターは、中小機構が運営している相談窓口です。国により各都道府県に設置されており、相談は無料で利用できます。M&Aのセカンドオピニオンとして活用してもよいでしょう。
2021年度にM&Aが成立した売り手のうち、約70%が小規模事業者というのも特徴です。中小企業診断士や公認会計士などが在籍しており、中小企業のM&Aをサポートしています。
事業承継・引継ぎ支援センターには、企業や事業の買収を希望している買い手候補からも相談が寄せられます。その中からマッチングが行われるケースもあれば、民間の仲介会社の紹介を受けることも可能です。
6-3.税理士、弁護士などの士業
税理士や弁護士などの士業に相談するのもよいでしょう。例えば税理士であれば、税務面の状況を確認し、税務リスクを把握するのに役立ちます。利用できる税制はないか、どの買収スキームを利用するのがよいかなどを検討できるのもポイントです。
自社に顧問税理士や顧問弁護士がいるなら、まずは相談してみるとよいでしょう。会社の現状を知っている顧問の士業であれば、適切なアドバイスも期待できます。
ただし、すべての士業がM&Aの専門知識を持ち合わせているとは限りません。M&Aについての知識や経験が豊富な士業に依頼するには、『税理士法人チェスター』がおすすめです。
7.銀行の役割はほかにも
銀行が担う役割は、M&Aアドバイザリーのほかにもあります。買い手からすると資金調達先になる可能性があり、M&Aの売り手や買い手が銀行から融資を受けていれば債権者として関わるケースもあるでしょう。
7-1.資金調達先としての銀行
銀行には資金調達先としての役割もあります。M&Aを検討しているけれど資金に不安があるなら、まずは銀行に相談してみましょう。
現時点で企業が十分な利益を上げていない状態だとしても、事業計画がしっかり作り込まれており合理的な買収であると判断され、信用や資産の価値が十分であれば、融資を受けられる可能性があります。
仮に一般的な融資を受けられなかったとしても、将来の利益を担保にする『プロジェクト・ファイナンス』や、資産を証券化して資金を集める『ストラクチャード・ファイナンス』なども案内してもらえるかもしれません。
7-2.債権者としての銀行
融資は銀行のメイン業務であり、多くの企業が利用しています。M&Aを検討している企業が銀行から融資を受けていれば、銀行は債権者としてM&Aに関わる場合もあるでしょう。
M&Aの実施前後で、会社の組織は大きく変化します。場合によっては、債権者が融資した時点では考慮していなかったリスクが発生する可能性もあるでしょう。
そのため会社法では、企業の行うM&Aに対し、債権者に異議申し立ての権利を認めています。また債権者の権利はM&A成立後も保護されます。
例えば、債務超過の企業が債権者への返済が難しくなると分かっていながら優良事業のみを売却するケースは、債権者保護のため規制の対象です。銀行に融資を受けている企業は、債権者としての銀行に配慮しつつM&Aを進める必要があります。
8.銀行はM&Aに深く関わる存在
銀行はM&Aアドバイザリーとしてだけでなく、資金調達先や債権者としてもM&Aに関わる存在です。お金の授受や融資のため、日ごろからやり取りのある身近な存在でもあります。
M&Aによる売却の検討を始めたら、身近で関わりのある銀行に相談する企業が約60%です。ただしM&Aは銀行の本来の業務ではないため、十分な知識や経験があるかを確認した上で依頼する必要があります。
銀行の規模によって、得意な案件が異なる点にも要注意です。中小企業であれば、小規模な案件が得意な地方銀行に相談するとよいでしょう。
また銀行以外に、M&A仲介会社や士業などへ相談する方法もあります。例えば顧問税理士に相談すれば、税務面のリスクを把握しやすいでしょう。ただし顧問税理士が必ずしもM&Aに詳しいとは限りません。
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