M&A会社への報酬はレーマン方式で計算が一般的。メリットは?

M&A会社の報酬はレーマン方式で計算されるケースが大半です。同じレーマン方式でも取引金額の基準が会社ごとに異なるため、報酬額に大きな差が生じます。計算時に気を付けるべきポイントやM&Aで支払う費用の詳細を解説します。

1.M&A会社に支払う費用を知ろう

M&A会社に支払う費用を知ろう

M&A会社に支払う費用は、会社ごとのルールに基づきます。主な費用には、着手金や中間金、成功報酬などがありますが、会社によっては成功報酬のみのシンプルな料金体系を採用しているところもあります。

1-1.着手金、中間金、成功報酬などが発生

M&A会社に支払う主な費用には、『着手金』『中間金』『成功報酬』があります

『着手金』は案件の依頼時に支払う金銭で、20万~300万円が相場です。取引の成否に関係なく発生し、主に企業評価や概要書の作成、売買先探しなどに使われます。

基本合意契約の締結時には『中間金』を支払います。金額は会社ごとに異なりますが、成功報酬の10~20%を中間報酬として先に支払うケースが多いようです。着手金や中間金が不要なM&A会社もあるため、公式サイトなどで詳細を確認しましょう。

『成功報酬』は、M&Aの最終契約が締結された場合に支払う金銭で、契約が成立しなければ生じません。

これらのほかに、『リテイナーフィー(定額顧問料)』や『デューデリジェンス(財務状況などの詳細調査)費用』などが必要となる場合があります。

1-2.成功報酬の計算はレーマン方式が主流

M&Aでは、専門知識のある『M&Aアドバイザー』が案件をとりまとめるのが一般的です。アドバイザーは立ち位置によって、以下の二つに大別されます。

  • 仲介型:売り手と買い手の間で交渉の仲介を行う
  • FA(フィナンシャルアドバイザー)型:売り手または買い手のどちらか一方側に立ってサポートを行う

仲介型とFA型の成功報酬の計算方法は、取引金額に所定の料率を掛け合わせる『レーマン方式』が一般的です。取引金額の決め方にはいくつかのパターンがあり、どれを基準にするかによって報酬額が大きく変化します。

1-3.成功報酬の支払い方

成功報酬の支払い方は『取引方法(両手取引・片手取引)』によって異なります

『両手取引』とは、同一のM&Aアドバイザー(主に仲介型)が、売り手・買い手の双方と仲介契約を結び、両者の意見を聞きながら交渉や調整を進める方法です。最終契約が締結された際は、売り手と買い手が公平に成功報酬を負担します。

一方『片手取引』では、売り手と買い手が別々のM&Aアドバイザー(主にFA型)にサポートを依頼し、それぞれのアドバイザーに成功報酬を支払います。

2.レーマン方式の特徴と計算例

レーマン方式の特徴と計算例

レーマン方式の特徴と計算方法が分かると、M&Aで支払わなければならない経費の見通しが立ちます。取引金額が5億円を超える場合、計算式がやや複雑になる点に注意しましょう。

2-1.取引金額が高いほど報酬が増える

レーマン方式では、『取引金額(報酬基準額)』に、あらかじめ決められた『手数料率』を乗じて算出します

  • 成功報酬額=取引金額×手数料率

以下は、多くのM&A会社が採用している『標準的な料率テーブル』です。報酬額は取引金額に比例しますが、金額が大きくなればなるほど手数料率が小さくなるという特徴があります。

  • 5億円以下の部分:5%
  • 5億円超~10億円以下の部分:4%
  • 10億円超~50億円以下の部分:3%
  • 50億円超~100億円以下の部分:2%
  • 100億円以上の部分:1%

取引金額が5億円を超える場合は、段階ごとの料率を乗じ、最後に各テーブルの算出額を合算します。

2-2.レーマン方式による報酬額の計算例

レーマン方式では、単に取引金額に手数料率を乗じるわけではありません。金額が12億円の場合、12億円×3%=3,600万円とするのは誤りです。12億円は以下のように分けて計算し、最後に各テーブルの算出額を合計します。

  • 5億円以下の部分(5%):5億円
  • 5億円超~10億円以下の部分(4%):5億円
  • 10億円超~50億円以下の部分(3%):2億円

取引金額12億円に対する報酬額は、(5億円×5%)+(5億円×4%)+(2億円×3%)=5,100万円です。取引金額が6億円の場合は、(5億円×5%)+(1億円×4%)=2,900万円となります。

3.負債がある会社は取引金額の基準が重要

負債がある会社は取引金額の基準が重要

同じレーマン方式を採用していても、『何を取引金額の基準としているか』によって報酬額が大きく変わります。『移動総資産ベース』『株価ベース』『企業価値ベース』の3パータンについて見ていきましょう。

3-1.総資産を基準とする場合

売り手が株式譲渡した際の価格は『株式譲渡価格』と呼ばれます。『移動総資産』は、この株式譲渡価格に、借入金などの『負債』を合算します

例えば、総資産が7億円、負債額が5億円(買掛金3億円・借入金2億円)、株式譲渡価格が6億円の場合、基準となる取引金額は、株式譲渡価格(6億円)+負債額(5億円)=11億円です。

レーマン方式で計算すると、成功報酬額は(5億×5%)+(5億×4%)+(1億×3%)=4,800万円となります。

移動総資産基準には、借入金・買掛金・前受金も含まれるため、負債総額が大きい会社は注意が必要です。

3-2.株価を基準とする場合

『株価ベース』では、『株式譲渡価格』で成功報酬が決まります

総資産が7億円、負債額が5億円(買掛金3億円・借入金2億円)、株式譲渡価格が6億円の場合、基準となる取引金額は6億円です。レーマン方式で計算をすると、報酬額は(5億円×5%)+(1億円×4%)=2,900万円です。

『移動総資産』をベースにした場合と比べると、1,900万円(4,800万円-2,900万円)という大きな差になります。

株価ベースはコストが最も低くなりますが、レーマン方式で算出された報酬額とは別に『最低報酬額』を設定しているM&A会社も少なくありません。

3-3.企業価値を基準とする場合

『企業価値ベース』では、『株式譲渡価格+有利子負債』を取引金額とします。『有利子負債』とは、利子を付けて返さなければならない負債のことで、主に『銀行からの借入金』や『社債』を指します。

株式譲渡価格が6億円、銀行借入金が2億円、役員借入金が1億円あった場合、計算の基準となる取引金額は9億円(6億円+2億円+1億円)です。レーマン方式で計算すると、成功報酬額は、(5億円×5%)+(4億円×4%)=4,100万円となります。

負債を多く抱える企業は、企業価値ベースや移動総資産ベースでコストが大きく膨らんでしまう恐れがあるでしょう。

4.レーマン方式のメリット

レーマン方式のメリット

M&Aのレーマン方式には、『成功報酬金額が分かりやすい』『取引金額が大きくなればなるほど手数料率が優遇される』という二つの大きなメリットがあります。

4-1.成功報酬がいくらになるか予想しやすい

レーマン方式の一つ目のメリットは、『成功報酬の計算がしやすい』という点です。大きな金額が動くM&Aにおいて、オーナーは成功報酬や各種手数料を算出した上で綿密な事業計画を立てる必要があります。

レーマン方式は手数料率が固定されているため、『取引金額』の基準さえ分かれば、比較的簡単に成功報酬額を算出できます。

算出した報酬額に『着手金』や『中間金』を加えれば、M&A会社に支払うべき総額の目星が付くでしょう。

着手金や中間金を必要としない『完全成功報酬制』の場合は、さらに計算が容易です。契約が成立しなければ報酬は発生しないため、依頼するオーナーのハードルはグッと低くなります。

4-2.5億円超の取引では手数料率で有利

標準的なレーマン方式において、5億円以下の手数料率は5%です

5億円超になると、取引金額に比例して支払わなければならない報酬額も多くなりますが、手数料率が段階的に下がっていくのが特徴です。手数料率に関しては『高額で売買されるほど有利』と言えるでしょう。

M&A会社の中には、一定額以上の高額取引に『独自の割引』を設けたり、『報酬上限』を設定したりするところもあるようです。逆に、5億円以下の小規模取引は手数料率の恩恵が受けられず、割高になる傾向があります。

5.レーマン方式の注意点

レーマン方式の注意点

ほとんどのM&A会社がレーマン方式を採用していますが、報酬体系にはいくつかの相違点も見られます。レーマン方式の弱点や注意点を踏まえた上で依頼先を決めましょう。

5-1.M&A会社によって料率が異なる場合がある

レーマン方式で使用される『料率テーブル』は、M&A会社ごとに異なります。先に紹介した標準的な料率テーブルを採用している会社もあれば、標準をベースにして独自に調整を加えているところもあります。

M&Aでは、小さな比率の違いが大きな金額の差を生むため、手数料率の詳細は必ず確認しておきましょう。

例えば、標準的な料率テーブルでは、『5億円以下の部分は5%』『100億円以上は1%』と決められていますが、M&A会社によっては、5億円以下や100億円以上の部分に細かい料率を加えているケースがあります。

5-2.小規模のM&Aでは手数料の負担が大きい

レーマン方式では、取引金額が5億円以下の部分には5%の手数料率が適用されます。

5億円超の大規模取引の場合、金額が大きくなるほど手数料率が逓減しますが、小規模なM&Aでは手数料の負担が大きく、コストがかさむ恐れがあるでしょう。中小企業であれば、ほとんどが5億円以下の取引です。

M&A会社の工数は取引規模にほとんど左右されないため、小規模な案件ばかりを受けていると、十分な報酬が得られず赤字になってしまいます。そのため、5億円以下に高めの手数料率を設定したり、最低報酬額を設けたりして利益を確保しているのです。

少数派ではありますが、取引金額が大きくなるにつれて手数料率も上がる『逆レーマン方式』を採用するM&A会社も存在します。小規模のM&Aでは、レーマン方式よりも成功報酬が安くなる可能性が高いでしょう。

6.M&A会社の成功報酬における確認ポイント

M&A会社の成功報酬における確認ポイント

成功報酬には、オーナーが支払わなければならない『最低報酬額』が設定されている場合があります。また、成約時は『既に支払い済みの着手金』や『中間金』が成功報酬から差し引かれるケースが多いでしょう。

6-1.最低報酬はいくらか

レーマン方式の成功報酬とは別に『最低報酬額』が設けられている場合があります。小規模な案件にレーマン方式を適用した場合、5%の報酬のみでは事業としての採算が取れない可能性があるためです。

料金体系のページなどに『売買価格が〇〇万円以下の場合は、〇〇万円を最低報酬額とする』といった記載がないか確認しておきましょう。

最低報酬額はM&A会社によって異なりますが、500万~2,500万円の間で設定されることが多いようです。契約が成立しなかった場合は最低報酬額も発生しません。

6-2.着手金、中間金などの充当はあるか

着手金や中間金の支払いがある場合は、『M&A成立時の成功報酬に充当されるかどうか』を確認しておく必要があります

M&Aが成立しなかった場合でも返金されないのが通常ですが、成立した場合は、成功報酬額に充てられるケースがあります。つまり、オーナーは着手金や中間金を差し引いた残りの額を報酬として支払えばよいのです。

M&A会社の料金ページに、『アレンジメント・フィーは、成功報酬金額に充当される』『成約した場合、成功報酬に含め充当するものとする』『着手金分は手数料に充当され、〇〇より控除する』といった記載がないか確認しましょう。

7.細かい部分を確認し概算金額を見積もる

細かい部分を確認し概算金額を見積もる

完全成功報酬のみのシンプルなプランに統一する会社も増えていますが、『実費』と『消費税』が別途かかる場合があります。取引の規模が大きければ、消費税額も高額になるため、必ず『消費税込み』で見積もっておきましょう。

7-1.実費の取り扱いはどうなるか

M&Aでは、着手金や中間金、成功報酬のほかに、業務遂行に関わるさまざまな『実費』が発生します。以下は実費の一例です。

  • 各種契約書の印刷代・印紙代
  • 店舗や工場を担当者が視察する際の出張代
  • 登記申請手続きに関する費用
  • 外部専門家(弁護士・会計士など)に助言を求めた際の相談料

『いつ・誰が実費を負担するか』を担当者と話し合っておきましょう。依頼側が全て負担しなければならないケースもあれば、着手金や成功報酬の中に含まれているケースもあります。

7-2.消費税も忘れずに

『成功報酬に消費税が含まれているか』も必ず確認しておきたいポイントです。2019年10月以降の消費税率は10%です。数億、数千万円単位の金額が動くM&Aでは、消費税だけで数百万円にのぼることも珍しくありません。

例えば、成功報酬額が4,000万円のケースでは、400万円もの消費税がかかります。消費税分を含めて考えていなかった場合には、M&Aの資金計画が大きく狂ってしまうでしょう。

消費税がかかる場合、料金プランの詳細に『消費税は別途請求します』『上記全ての金額は税別の表示です』といった記載があります。

8.計算方法を理解して必要な費用を把握しよう

計算方法を理解して必要な費用を把握しよう

レーマン方式は多くのM&A会社で採用されているスタンダードな成功報酬体系です。取引金額が上がれば報酬金額も上がりますが、取引金額が5億円を超えると、料率が逓減していくのが特徴です。

同じレーマン方式を採用していても、M&A会社ごとに見積もりに差が生じるのは、『取引金額の基準』が異なるためです。成功報酬のほかに実費・着手金・中間費用などが別途かかるケースも多いため、M&Aに必要な全ての費用をリスト化するところから始めましょう。

『レーマン方式の計算方法が分からない』『費用に関するアドバイスが欲しい』というときは、事業承継のプロである『税理士法人チェスター』に相談することをおすすめします。

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『M&Aの費用』についての詳細は下記もご覧ください。

M&Aにかかる仲介手数料の目安。費用項目や計算方法、節約法も

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