保育園のM&Aは可能?用いるスキームや手続きの注意点を解説
タグ: #M&A, #M&A×業種M&Aを利用することで、保育園も事業承継や経営の安定化が可能です。ただし運営しているのが社会福祉法人の場合、手続きに利用できる手法が限られている点や、制約がある点に注意しましょう。M&A実施時の課題や、その解決策も紹介します。
目次 [閉じる]
1.保育園はM&Aで承継できる
会社や個人事業を引き継ぐ方法にM&Aがあり、保育園もM&Aによる承継が可能です。保育園のM&Aについてくわしく見ていくために、基本的な知識を押さえておきましょう。
1-1.保育園の運営主体は社会福祉法人が多い
厚生労働省による『社会福祉施設等調査』では、保育園を運営しているのは社会福祉法人が最も多いという結果でした。次いで、自治体や広域連合などが運営する公立保育園が多いとされます。
この2種類の運営主体がほとんどを占めている状態です。それぞれの運営主体の保育園数も見てみましょう。
- 公立:8,101
- 社会福祉法人:1万5,692
- 営利法人:2,850
- その他法人:2,640
- 公益法人:62
- 医療法人:19
- その他:110
保育園の総数2万9,474に対し、社会福祉法人は約53%を占めています。
参考:令和2年社会福祉施設等調査 個別表 施設票|厚生労働省
1-2.株式会社なら株式譲渡でM&Aが可能
保育園の運営主体の中には、株式会社のような営利法人もあります。株式会社が運営している保育園であれば、株式譲渡を用いたM&Aが可能です。
買い手に株式を売却することで会社を丸ごと譲り渡す株式譲渡なら、保育園の許認可も含めすべてを承継できます。手続きの手間が少なく比較的簡単な手法です。
これから保育園を始めたいと考えている買い手にとって、保育園の運営に必要なものをまとめて取得できる点がメリットととらえられる場合もあるでしょう。
参考:株式譲渡にはどんな手続きが必要?契約や税金に関する基礎知識
1-2-1.株式譲渡による保育園M&Aの事例
株式譲渡によって保育園のM&Aを実施した事例として、センコーグループホールディングスによるプロケアの買収について紹介します。
センコーグループホールディングスは4事業を展開しており、その中のライフサポート事業で介護サービスを行っていました。ライフサポート事業では地域や社会にさらに貢献するため、子育て事業への参入を検討していたそうです。
一方プロケアは、東京都を中心に54カ所の保育所や学童クラブなどを運営していました。プロケアの買収によって子育て事業に効果的に参入できると考えたセンコーグループホールディングスが、プロケアの株式をすべて取得しグループへ加えた事例です。
1-3.社会福祉法人のM&Aスキーム
社会福祉法人でもM&Aの実施が可能です。ただし株式を発行していないため、株式会社が運営する保育園とは異なり、株式譲渡でのM&Aはできません。
株式を発行していない社会福祉法人が利用できるM&Aスキームは、『合併』か『事業譲渡』です。合併でM&Aを行う場合は、売り手も買い手も社会福祉法人でなければいけません。また事業譲渡では、すべての事業の売却ができない点に注意しましょう。
参考:事業譲渡の目的、主な特徴とは。専門家の知識が欠かせない理由
2.合併の特徴と注意点
合併とはどのような特徴のあるスキームなのでしょうか?スムーズに合併するためのポイントや、合併するときに必要な手続きを解説します。
2-1.合併とは複数の法人が一つになること
複数の法人が一つになることを合併といいます。合併する法人のうちどれか1社を存続させ、ほかの会社を吸収するのが『吸収合併』です。このときに存続する1社を存続会社、吸収されるそのほかの会社を消滅会社と呼びます。
合併するときに新しく存続会社となる法人を立ち上げる『新設合併』を行うケースもあるでしょう。合併する法人はすべて存続会社へ吸収されます。
法人格のなくなる消滅会社が保有していた有形無形の財産は、すべて存続会社が引き継ぎます。保育園の合併であれば、許認可の引き継ぎも可能です。
参考:吸収合併とはどんなM&A手法?メリット・デメリットや手続きを解説
参考:新設合併とはどんなM&A手法?対等合併で好イメージな点がメリット
2-2.スムーズな合併には関係各所への相談が必須
合併によるM&Aをスムーズに行うには、まず行政へ相談しましょう。所轄庁からの認可を受けなければ合併の効力が発生しないため、あらかじめ合併の趣旨や背景などを説明し、疑問点があれば質問して解消します。
また保育園で働いている職員や、利用している園児の保護者などへも説明が必要です。適切なタイミングで合併について説明し、了解を得ておかなければいけません。
加えて保育園の合併について、地域住民に説明する機会も設けるとよいでしょう。
2-3.合併に必要な手続き
手続きは『法人間調整』『法令手続き』『関係者調整等』の3種類に分類されます。法人間調整は売り手と買い手の間のやり取りです。合併に向けて合意を形成し、契約書を作成します。
法令手続きで行うのは、法律で定められている以下の手続きです。
- 合併に関する情報の事前開示
- 評議員会からの承認
- 所轄庁からの認可
- 合併により財産に影響のある債権者に対する保護手続き
- 登記
- 合併に関する情報の事後開示
- 会計や税務処理
関係者調整等では、保育園に関わる人に対して合併について説明しましょう。職員には今後の処遇はもちろん、合併することで変わること・変わらないことなどを伝えます。利用者やその家族・地域住民へも説明が必要です。
3.事業譲渡の特徴と注意点
保育園のM&Aは、事業譲渡でも実施が可能です。事業譲渡の特徴を、注意点とともに見ていきましょう。必要な手続きも紹介します。
3-1.事業譲渡とは財産の譲渡による事業承継
事業譲渡は、財産を買い手へ売却することで事業を引き継ぐ手法です。事業に必要な財産には、設備や備品などの有形のものはもちろん、ノウハウやブランドといった無形のものも含まれます。また人材の引き継ぎも可能です。
社会福祉法人が事業譲渡を行う目的は、利用者へのサービス提供の継続です。事業譲渡を行ったあとも体制を維持できるよう、財産を譲渡しなければいけません。
また事業譲渡は、すべての事業を譲渡する『全部譲渡』と、事業の一部を譲渡する『一部譲渡』に分けられます。ただし社会福祉法人は社会福祉事業を行うことを目的とする法人のため、行っている事業をすべて売却する全部譲渡はできません。
3-2.買い手による事業継続が可能か確認が必要
保育園を運営するには、都道府県知事へ申請したり認可を受けたりしなければいけません。確実に保育園の事業を継続できるよう、あらかじめ認可を得られるか確認しておく必要があります。
買い手が事業を引き継いだあとも、利用者やその家族が変わらず保育園を利用できることを確認したうえで、事業譲渡の手続きを進めましょう。
3-3.事業譲渡に必要な手続き
事業譲渡の手続きは『法人間調整』『法令手続き』『資産・負債などの移管手続き』『関係者調整等』に分けられます。
法人間調整では買い手に事業譲渡をしたあとも、保育園の運営が問題なくできるかを確認しましょう。継続が可能と分かってから、条件交渉により合意を形成し契約を行います。
次に行うのは、事業に必要な申請や定款の変更などの法令手続きです。会計や税務に関する処理も行います。手続きが完了したら、契約によって譲渡すると定められている財産を買い手に移管しましょう。
また職員が継続して働くには、買い手と新たな雇用契約を結ばなければいけません。人事・労務関連の説明をしたうえで契約します。さらに、利用者や地域住民への説明も必要です。
合併と事業譲渡について解説している以下もぜひご覧ください。
M&Aの代表的な4つの手法|税理士法人チェスター
4.保育園がM&Aを行う理由
保育園のM&Aが行われる理由は主に二つあります。一つは後継者不在の問題を解決するため、もう一つは経営状態を改善するためです。それぞれの理由を解説します。
4-1.後継者がいないため
中小企業の経営者は高齢化が進んでいます。加えて少子化の影響や価値観の変化により、高齢の経営者が引退すると法人を引き継ぐ後継者がいないというケースが少なくありません。この状況は保育園も同様です。
後継者がいなければ保育園は続けられず、廃園となるでしょう。公共性の高い保育園の事業がなくなれば、地域に大きな影響が出てしまいます。
保育園に通っている園児やその保護者への影響はもちろん、これから子どもを生み育てる世代が、保育園がないことを理由にその地域を選ばなくなる可能性も考えられます。M&Aを実施することで、廃園による影響を最小限に抑えられるでしょう。
参考:後継者不足を理由に廃業はもったいない。M&A検討で可能性は広がる
4-2.経営を安定させるため
地域に必要とされている事業であっても、経営状態が悪ければ続けられません。中小規模の保育園の中には、M&Aを利用して大手法人の傘下に入り、経営改善を目指すケースもあります。
経営状況が良好になれば、保育士の労働環境や待遇を改善できるでしょう。保育士の人数を増やし、より質の高い保育サービスを提供できる可能性も高まります。
5.社会福祉法人がM&Aを行う際の課題
保育園を運営しているのは、社会福祉法人が約5割です。社会福祉法人のM&Aは、申請して認可を受けなければならず、手間がかかります。契約締結後の統合や従業員との交渉も課題です。これらの課題についてくわしく見ていきましょう。
5-1.手間がかかる
社会福祉法人は公共性が高い事業を扱っている性質上、株式会社のM&Aとくらべると手間がかかります。例えば株式会社の合併は、売り手・買い手が合意し契約を締結すれば完了です。
一方、社会福祉法人の合併は、法人同士が契約を締結するだけでは効力が発生しません。所轄庁へ申請し認可を受けることで合併の効力が発生するため、その分の手続きが必要です。
また運営する法人が変わることで影響を受ける施設利用者へも、M&Aを実施することや、実施による影響などについて説明しなければいけません。
5-2.M&A後の統合
M&Aを成功させるには統合のプロセスも重要です。実際にM&Aを行った社会福祉法人への調査では、規程や制度の統合に課題を感じたと回答した法人が多くありました。
契約上一つの社会福祉法人になったとしても、それだけでは統合したとはいえません。現場レベルでスムーズな運営を実現するには、細かな部分までルールの調整が必要です。
あらかじめ統合の方法を検討しておかなければ、M&A後の運営がうまくいかず失敗に終わる可能性もあります。
5-3.従業員との交渉や調整
保育園を運営する法人がM&Aにより変わることは、保育士をはじめそこで働く職員にとって大きな出来事です。「仕事のルールが大きく変わるのではないか?」「待遇が悪くなるのではないか?」といった不安から、退職を選ぶ職員が現れる可能性もあるでしょう。
また理事長の人柄や方針に賛同して働いている職員にとって、買い手法人がそれほど魅力的に思えない可能性もあります。職場環境や待遇が改善されるとしても、理事長の不在を理由に辞めてしまうかもしれません。
6.M&Aにおける課題の解決策
社会福祉法人のM&Aは手間がかかり、法人同士の統合プロセスや従業員との交渉も課題であると分かりました。これらの課題を解決するには、どのような方法があるのでしょうか?
6-1.行政との連携
都道府県知事へ申請したり認可を受けたりしなければいけない保育園のM&Aは、売り手と買い手のみでは完結しません。できるだけ早いタイミングで行政と連携し、こまめに相談しながら手続きを行うと、比較的スムーズに進めやすいでしょう。
行政ではM&Aを支援するサービスを提供しており、状況に合わせて協議も行います。相談しながら進めれば、余計な手間がかかりません。
6-2.話し合いの場を設ける
M&Aに関係する相手との話し合いの場を設けることも、課題解決のポイントです。M&Aの買い手となる法人との話し合いでは、M&Aの条件や契約後の運営方針などについて理解を深められます。保育園を承継するのにふさわしい法人か、見極めるのにも役立つでしょう。
職員との話し合いも必要です。適切なタイミングを見計らい、M&Aによってどのように保育園が変わるのか、変わらない部分はどこかなどを丁寧に説明しましょう。
M&Aの条件として、職員の引き継ぎを求められる場合もあります。職員の理解を十分に得ることで、離職を防ぐことも期待できるでしょう。
保育園の利用者への説明も欠かせません。M&Aを行えば運営方針が変わり影響を受ける可能性があるためです。丁寧な説明によって交渉や調整が進みやすくなります。
6-3.専門家の活用
スムーズなM&Aには、専門的な知識が必要です。売り手と買い手のみで行おうとすると、手続きがうまく進まない場合もあるでしょう。M&Aの実績がある弁護士や司法書士・税理士などへの相談がおすすめです。
例えばM&Aによって発生する税金は、法人を取り巻く状況や利用するスキームによって金額が異なります。専門的な知識を持つ税理士のアドバイスなしでM&Aを実施すると、税額に大きな違いが出る可能性もあるでしょう。
税金についてよく知ったうえでM&Aを行うなら『税理士法人チェスター』への相談がおすすめです。
7.保育園を取り巻く環境
M&Aは保育園の運営に役立つ方策といえます。児童数は近い将来ピークを迎え減少に向かう予想となっており、今後ますますその傾向は強まるでしょう。
7-1.児童数のピークは2025年の予想
国内では少子化が年々進んでいますが、保育園の利用者数は増えています。女性の就業率が高まり共働きの夫婦が増えた結果、日中の育児を家庭ですべて行うのが難しくなったためです。
ただし、利用者が増えるのは2025年までといわれています。2025年に保育園の児童数はピークを迎え、その後は減少していく見込みです。
7-2.人口が減少している地域ではM&Aが役立つ
人口の減少が特に著しい地域では、すでに保育園のM&Aが実施されていたり、現在もM&Aが検討されていたりするケースが多く見られます。人口が減り子どもが少なくなっている結果、定員割れにより運営が立ち行かない保育園が増えているためです。
保育園の運営を続けるには、十分な児童数の確保が欠かせません。人口が減少している地域では、運営を継続できるだけの児童数を確保する目的で、保育園のM&Aが行われています。
現在は一部に限られている人口減少の著しい地域は、少子化による人口減少に伴い今後増えていくと予想されます。それに伴い、保育園のM&Aも増えていくでしょう。
8.保育園のM&Aは今後増えていく見込み
保育園も後継者問題の解消や経営状況の改善を目指し、M&Aを行うケースがあります。利用するスキームは、保育園を運営する法人の種類によって異なる点に注意しましょう。
全体の約5割を占める社会福祉法人が運営している保育園では、M&Aは合併か事業譲渡で行われます。合併の場合は行政への申請と認可が必要な点に、事業譲渡では全部譲渡ができない点に注意が必要です。
手続きに手間がかかる課題もある保育園のM&Aですが、少子化による人口減少に伴い、今後増えていくと考えられています。十分な児童数が確保できなければ保育園の運営は立ち行かなくなるため、M&Aにより統合し、十分な児童数を確保する狙いです。
スムーズなM&Aには専門家のサポートも必要です。税務については『税理士法人チェスター』に相談しましょう。税理士法人チェスターでは相続事業承継コンサルティング部の実務経験豊富な専任税理士が、お客様にとって最適な方法をご提案いたします。
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