不動産M&Aによる節税の仕組み。メリット、デメリットを解説

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不動産M&Aは、会社が持っている不動産を目的に実施されるM&Aです。活用することで節税につながり、より多くの現金を手元に残しやすいでしょう。売り手はもちろん、買い手にもメリットがありますが、同時にデメリットや注意点もあるため解説します。

1.不動産M&Aとは

1.不動産M&Aとは

M&Aはどのような目的で実施されるのでしょうか?通常のM&Aと不動産M&Aの目的の違いを見ていきましょう。不動産M&Aに向いている会社の特徴も紹介します。

1-1.M&Aの目的

買い手企業がM&Aを実施する目的は『経営資源』の獲得です。例えば優秀な人材が必要な場合、採用した人を教育していたのでは、求める水準に達するまでに時間がかかります。一方M&Aであれば、即戦力の獲得が可能です。

既に機能しているチームをそのまま活用できるため、期待する成果をほぼ確実に得られます。今後ますます難しくなっていくと予想される人材確保手段として、M&Aを活用する方法です。

加えて、必要な設備や技術などもひと通りそろっているため、すぐに事業を始められます。また、買い手の既存事業との相乗効果を目的としたM&Aも行われています。

1-2.不動産M&Aの目的

M&Aはさまざまな経営資源の獲得を目的として実施されると分かりました。一方、不動産M&Aの目的は文字通り『不動産』の獲得です。

不動産を目的とした取引は、売買で行われるのが一般的です。売買では売り手が不動産を譲渡するのに対し、買い手は対価として現金を支払います。

不動産M&Aの場合、買い手が対価として現金を支払うのは売買と同じです。異なるのは、対価を受け取ったときに売り手が譲渡するものが、不動産ではなく不動産を保有している会社の株式という点です。

株式の所有権を買い手に譲渡することで、会社が保有する不動産も買い手のものとなります。

1-2-1.不動産M&Aを選択する会社の特徴

事業の採算は取れていないけれど魅力的な不動産を保有している会社は、不動産M&Aを検討するのに向いているでしょう。M&Aで会社そのものを譲渡できるため、廃業に必要なさまざまな手間や費用をかけずに済みます。

また、評価額が高額な好条件の不動産を保有している場合、オーナー社長の相続が発生すると、相続税を納税するための資金が必要です。

しかし非上場企業では株式が市場で流通していないため現金化できず、必要な資金を用意できないケースもあります。

この場合も不動産M&Aを実施すれば、納税資金を用意できない不動産を相続する必要がありません。

2.株式譲渡を用いたM&Aの仕組み

2.株式譲渡を用いたM&Aの仕組み

不動産M&Aを実施するときには、株式譲渡の手法を用いるのが一般的です。株式譲渡を通して不動産の所有権を移転させる仕組みを見ていきましょう。

2-1.不動産を会社ごと売却

株式譲渡を活用した不動産M&Aでは、不動産を保有している会社ごと売却します。M&Aの手法の中でも、株式譲渡は会社を丸ごとすべて譲渡するのが特徴です。

そのため本来の目的である不動産はもちろん、そのほかに会社が持っている資産や設備・取引先・従業員なども引き継ぎます。行う手続きは株式の譲渡のみと、シンプルな手続きで売却可能です。

株式譲渡については次の記事を参考にしてください。
株式譲渡にはどんな手続きが必要?契約や税金に関する基礎知識

2-2.オーナー社長に現金が入る

不動産M&Aでは会社の株式を売却します。そのため株式を保有しているオーナー社長には、対価の現金が支払われる仕組みです。手元にできるだけ現金を残したいと考えている場合に有効な手段といえます。

通常の方法で不動産を売却した場合、対価は会社へ支払われるため、オーナー社長は役員報酬か配当として受け取らなければいけません。

また不動産を売却後に会社を廃業する場合には、負債の返済も必要です。返済しきれない場合はオーナー社長の個人資産から返済しなければならず、資金面で窮地に陥る可能性があります。

円満なリタイアのためにも、不動産M&Aが役立ちます。

3.売り手にはどのようなメリットがあるのか

3.売り手にはどのようなメリットがあるのか

売り手にとって不動産M&Aは、手取り額が多くなり、廃業費用がかからないといったメリットがある取引です。それぞれのメリットについて詳しく解説します。

3-1.オーナー社長の手取り額が多くなる

より多くの現金をオーナー社長の手元に残したいと考えるなら、不動産M&Aを実施するのがよいでしょう。不動産M&Aの利益に課される税率の方が、不動産を単体で売却するより低く、手取り額が多くなるからです

不動産M&Aでは株式を売却し対価を受け取るため、かかる税金は所得税を始めとする約『20%』です。

不動産売却で同じ5億円の売却益が発生すると、まず法人税を始めとする税金約『35%』を納めなければいけません。オーナー社長が受け取るために剰余金を分配すれば、約『50%』の所得税を始めとする税金が差し引かれます。

3-2.廃業の手間やコストがかからない

不動産を売却してから廃業する場合、さまざまな準備が必要です。例えば『解散決議』『社会保険関係の廃止届』『財務調査』『資産の現金化』『確定申告』などをしなければいけません

すべての準備や手続きを終えるには時間がかかる上、専門家への依頼が必要でコストがかかるものもあります。不動産M&Aで会社を買い手が引き継げば、このような手間やコストは不要です。

廃業を検討しているなら、まずは不動産M&Aを試してみましょう。

4.新設分割を活用する場合も

4.新設分割を活用する場合も

複数の事業を会社が営んでいる場合、不動産やそれにまつわる事業は売却したいけれど、メインの事業は残したいというケースもあるでしょう。そのようなときに役立つのが『新設分割』です。新設分割の基本的な知識と取引の流れを確認しましょう。

4-1.新設分割とは

新設分割は会社分割の一つで、新しく設立した会社に、事業の一部もしくは全部を引き継がせる手法です。事業を引き継がせた新設会社を、株式譲渡で売却もできます。

会社分割については次の記事を参考にしてください。
会社分割とは何かわかりやすく解説。メリット、デメリットは?

また新設分割をする際に『適格要件』を満たしていれば、法人税や所得税が課されません。加えて以下の条件を満たしていれば『不動産取得税』も非課税になります。

  • 事業の主要資産を新設会社へ移転する
  • 新設会社での事業継続が見込まれる
  • 事業に従事している従業員の約8割以上が新設会社の業務に携わる

4-2.本業を残しての売却が可能

本業を残して不動産や不動産にまつわる事業だけを新設会社へ移転することも、新設分割なら可能です。このとき、新設法人の株式をもとの法人が取得する『分割型分割』も活用できます。

こうして売却する事業や資産をあらかじめ本業と分けておけば、本業を残しつつ株式譲渡の手法で不動産の売却が可能です。

ただし税負担の軽減が目的の合理性がない組織再編と判断されると、新設分割実施後の株式譲渡は税務調査で否認されてしまいます。行き過ぎた節税行為とみなされないために、専門家に相談の上、実施しましょう。

4-3.取引成立までの流れ

株式譲渡で行う不動産M&Aは、比較的シンプルな手続きで実施可能です。しかし新設分割を活用する場合には、株式譲渡を実施する前に新設分割の手続きをしなければいけません。その分、手続きに時間と手間がかかります。

まずは『新設分割計画』を作成しましょう。その上で必要書面を設置し、『株主総会』で決議を行います。株主や債権者に対し公告や異議申述の受付を実施したら、担保の提供や財産の信託を行います。

その後、新設会社を登記し事後措置を行えば完了です。

5.不動産M&Aの注意点

5.不動産M&Aの注意点

オーナー社長の手取りが増える、廃業のコストがかからないなどのメリットがある不動産M&Aですが、実施する際には注意点もあります。注意点を押さえた上で実施を検討しましょう。

5-1.すぐに売却できるとは限らない

M&Aは売り手と買い手の双方が納得しなければ成立しません。それは不動産M&Aも同じです。そして売り手と買い手の意向がぴたりと合うような相手を見つけるのは簡単なことではありません。

実際に売り手としてM&Aを実施した会社は、自社で買い手を探したほかに、M&A仲介会社を利用したケースもあります。また中には、買い手から声がかかるケースもあります。

できるだけ早いタイミングで売却するには、さまざまな方法での買い手探しが必須です

5-2.短期所有土地の譲渡とみなされるケースも

不動産M&Aによる株式譲渡は、『短期所有土地の譲渡』とみなされ約40%の税金が課される可能性もあるため注意しましょう。以下を満たす不動産M&Aは、短期所有土地の譲渡とみなされるかもしれません。

  • 土地の所有期間が5年以下
  • 所有資産の70%以上が不動産

そのため条件に当てはまっていないことを確認した上で、不動産M&Aを実施しましょう。

5-3.M&A仲介会社に支払う手数料がかかる

買い手とのマッチングのためにM&A仲介会社を利用すると『手数料』が発生します。発生する手数料の種類は会社ごとに異なりますが、以下が代表的です。

  • 相談料
  • 着手金
  • 中間金
  • リテイナーフィー
  • 成功報酬

中でもM&A成立後に仕払う成功報酬は、『レーマン方式』という金額によって料率が変わる仕組みで計算されます。一例を以下で確認しましょう。

時価総額資産料率
5億円以下の部分5%
5億円超10億円以下の部分4%
10億円超50億円以下の部分3%
50億円超100億円以下の部分2%
100億円超の部分1%

これらの料金は会社ごとに定められています。M&A仲介会社を利用するときには、料金形態をよく確認した上で契約しましょう。

レーマン方式については次の記事を参考にしてください。
M&A会社への報酬はレーマン方式で計算が一般的。メリットは?

6.清算等における不動産取引の場合

仮に不動産M&Aを実施せず会社の清算を行うとき、不動産取引はどのように扱われるのでしょうか?課される税金や、発生する手数料を確認します。

6-1.法人税、消費税が課税

売却した不動産から得た利益には『法人税』が課されます。不動産の売却で得た利益は、法人の行う他の事業から得られる利益と同じように扱われ、合算した上で法人税を計算する仕組みです。

また売却した不動産が建物なら『消費税』の納税も行わなければいけません。消費税を負担するのは買い手ですが、支払うのは売り手のため、忘れず手続きしましょう。

6-2.株主に還元する場合は所得税も

不動産の売却益を株主であるオーナー社長が受け取る場合には、法人税に加え所得税を始めとする税金を最高で約50%負担しなければいけません。例えば5億円の利益を得た場合で計算しましょう。

株式譲渡で不動産M&Aを行い株式譲渡益5億円を受け取った場合、オーナー社長が利益を受け取るために支払う税金は約20%の所得税等のみです。そのため約1億円を納税すれば、残り約4億円を受け取れます。

一方、不動産を売却した場合は、法人税等約30%に加え、所得税等が最高50%差し引かれる決まりです。同じ5億円の売却益があったとしても、約3億2,500万円は税金として納めなければならず、受け取れるのは約1億7,500万円です。

6-3.不動産会社に仲介手数料を支払う

不動産の買い手を見つけてもらうには、不動産会社へ依頼するのが一般的です。紹介してもらった買い手との間で契約が成立すると、不動産会社には『仲介手数料』を支払います。

仲介手数料の金額は不動産会社ごとに設定されており一律ではありません。ただし宅地建物取引業法により以下の通り上限が定められているため、定められた上限以下になっていることを確認しておくと安心です。

取引物件価格仲介手数料の上限
200万円以下取引物件価格(税抜)×5%+消費税
200万円超400万円以下取引物件価格(税抜)×4%+2万円+消費税
400万円超取引物件価格(税抜)×3%+6万円+消費税

例えば500万円の不動産を売却した場合、手数料の上限は『(500万円×3%+6万円)×1.10=23万1,000円』と算出できます。

不動産の売却は、株式会社チェスターにご相談ください。

7.不動産M&Aは買い手にもメリットが

7.不動産M&Aは買い手にもメリットが

ここまで紹介してきたのは売り手のメリットでした。しかし不動産M&Aは買い手にもメリットがある手法です。魅力的な不動産を購入できる点と、不動産取得税が不要な点を見ていきましょう。

7-1.優れた不動産を購入できる

廃業を検討している企業の中には、ほかでは手に入らない優れた不動産を保有しているケースがあります。例えば東京23区内の老舗企業は、地価の高い良好な立地にビルや店舗を持っているかもしれません。

人気の立地にある不動産は、通常の売買では見つけられないケースも多いでしょう。不動産M&Aは高い資産価値のある不動産を購入できるチャンスです。

売り手は通常の売買で不動産を売却するより、不動産M&Aの方が税率が低く、手元に現金を残しやすい仕組みとなっています。そのため価格交渉をしやすく、取得費用を抑えやすいのもメリットです

7-2.不動産取得税等がかからない

不動産を売買し所有者が変更すると、所有者移転登記を行わなければいけません。この手続きにかかる費用や『不動産取得税』は、買い手が負担するのが一般的です。

しかし不動産M&Aでは、不動産は会社名義のまま変わりません。買い手が購入したのは株式のため、不動産取得税の納税は不要です。また通常は買い手が負担する費用のうち、不動産M&Aでは以下もかかりません。

  • 印紙税
  • 登録免許税
  • 登記申請費用

不動産移転登記にまつわる手続きがないため、司法書士といった専門家へ依頼する際にかかる報酬も不要です。

8.買い手のデメリットを理解しておこう

8.買い手のデメリットを理解しておこう

買い手にもメリットがあると分かりましたが、その反面デメリットもあります。不動産M&Aでは会社を丸ごと引き継ぐ株式譲渡を実施するため、簿外債務のリスクには注意しましょう。デューデリジェンスを実施するための費用が必要なのもデメリットの一つです。

8-1.簿外債務を引き継ぐリスク

不動産M&Aで実施する株式譲渡は、会社のすべてを引き継ぐ手法です。そのため資産はもちろん負債も同時に引き継ぎます。

負債は帳簿に記載されているものばかりではありません。記載されていないけれど債務になり得る『簿外債務』も引き継ぎます。例えば以下のような費用が簿外債務です。

  • 未払い残業代
  • 買掛金
  • 債務保証
  • リース債務
  • 未払いの社会保険料
  • 賞与引当金
  • 退職給付引当金
  • 損害賠償に発展する可能性のある訴訟リスク

簿外債務については次の記事を参考にしてください。
簿外債務の種類や見つけ方。買い手と売り手それぞれの対策は?

8-2.デューデリジェンス実施の費用が発生

魅力的な不動産や不動産にまつわる事業を引き継ぐのと同時に、負債や簿外債務も引き継がなければいけない点は、不動産M&Aのデメリットです。負債や簿外債務による思わぬリスクを避けるには、デューデリジェンスが欠かせません。

デューデリジェンスとは、買い手が売り手に対して実施する詳細な調査です。書類の確認やヒアリングを通して、会計・税務・財務・法務などさまざまな観点からリスクがないか洗い出します。

デューデリジェンスについては次の記事を参考にしてください。
M&Aにおけるデューデリジェンスの役割。調査項目や進め方を知る

調査には専門知識が必要なため、弁護士・社労士・税理士などへ依頼しましょう。外注すると、中小企業のM&Aであっても数十万~数百万円の費用が必要です。

9.清算の前に不動産M&Aを視野に入れよう

9.清算の前に不動産M&Aを視野に入れよう

会社を清算しようと考えているなら、不動産M&Aを検討するのもいいでしょう。魅力的な不動産を保有している会社であれば、不動産を目的として株式譲渡が成立するかもしれません。

株式譲渡を実施できれば、オーナー社長は多額の現金を受け取れ、清算のために必要な手間やコストは不要です。ただし売却に時間がかかる点や、短期所有土地の譲渡とみなされかねない点などは注意しなければいけません

株式譲渡を実施するときには、買い手によるデューデリジェンスの前に自社でも調査を実施するとよいでしょう。税務に関する調査は『税理士法人チェスター』へ問い合わせるのがおすすめです。

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