会社の相続までに準備すること。推定相続人の理解、後継者育成など

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会社の株式を相続する後継者は、相続税を負担しなければいけません。またスムーズな引き継ぎのために、会社の支配権を得る必要があります。これらに向けた準備には時間が必要です。後継者へ会社を引き継ぐために、経営者が実施すべき準備を解説します。

1.会社のリーダーが突然いなくなったら?

1.会社のリーダーが突然いなくなったら?

万が一の事態が起こり、会社のリーダーが不在になる可能性はゼロではありません。急にリーダーがいなくなった場合、会社では何を実施すべきなのでしょうか?

1-1.会社は早急に経営体制を整える必要がある

リーダーがいなくなったとしても、会社は続きます。そこで早急に新しい代表を決め、社内・社外へ知らせなければいけません。

新たな経営体制をスピーディーに整えられなければ、従業員や取引先など関係者の間に不安が広がる心配があります。その後の経営を安定させるためにも、早い段階で新しい経営体制を構築し周知しましょう。

1-2.株式の相続、取締役選任が必要

あらかじめ後継者が決まっているなら、後継者がリーダーの保有していた株式を相続し、会社の経営権を獲得します。このときに重要なのが『株主名簿』の書き換えです。

相続によって会社の株式を取得したとしても、株主名簿に名前が記載されていなければ、第三者へ相続した事実を主張できません。そのため忘れずに名簿の書き換えを行いましょう

併せて『取締役』への就任も必要です。取締役を選任するには、臨時株主総会を開き、議決権の過半数を持つ株主が出席した上で、その議決権の過半数を得なければいけません。

後継者は相続によって議決権付きの株式を引き継いでいるため、株主総会で議決権を行使することにより取締役への就任が可能です。

参考:会社の相続をスムーズに進めるには。必要な対策と準備を整理

2.後継者に相続税の負担がのしかかる

2.後継者に相続税の負担がのしかかる

経営者から自社株や経営に必要な資産を相続した後継者は、相続税を納めなければいけません。自社株はもちろん会社の経営に必要な資産は高額のケースが多く、相続税の負担が大きくなりがちです。

2-1.相続税は原則として10カ月以内に一括納付

相続税の申告と納付期限は経営者の死亡を後継者が知った日から『10カ月』以内と定められています。この期間内の一括納付が原則です。

ただし全ての相続財産に課税されるわけではありません。『3,000万円+(600万円×法定相続人の数)』で算出した基礎控除額を差し引いた金額に課されます。

例えば法定相続人が3人いるなら、基礎控除額は『3,000万円+(600万円×3)=4,800万円』です。相続財産が1億円なら、基礎控除額を超える部分の5,200万円に対し税金がかかります。

相続対策を何も行っていない場合、相続が発生してから慌てて納税資金を調達しなければいけません。

参考:「相続税いつ払う?」具体的な日付もこれで完璧!専門家が徹底解説!

2-2.相続税額の目安は?

自社株の相続対策が不十分な場合、株の価値が想定より上がっている可能性があります。株価が高ければその分、相続税も高額です。また経営者の個人資産が多い場合にも、税額は高額になります。

相続税額の目安を知るには『税理士』に依頼するとよいでしょう。相続税は法定相続分を元に税額を算出するといったルールがあり、中小企業の株価を算出する取引相場のない株式の税務上の評価方式は複雑です。

自力では正しく相続税額の目安を算出するのは難しいでしょう。税理士に依頼すれば、納税額の目安を正しく把握できます。

参考:相続税を早見表で簡単チェック!見方や計算方法も解説

2-2-1.相続税の相談先を選ぶポイント

相続税について相談するなら、相続税を専門的に扱っている税理士を選ぶとよいでしょう。専門の税理士であれば、相続税に対する十分な知識があり、安心して任せられます。

専門の税理士であるか確認するには、相続税申告の実績を確認しましょう。また税理士事務所に関してだけでなく、担当者自身も相続税に詳しい税理士でなければいけません。

相続税に特化している『税理士法人チェスター』へ相談するのもおすすめです。
参考:相続税に強い税理士の選び方

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3.後継者が確実に経営支配権を得るために

スムーズに会社の相続を実施するには、後継者が経営支配権を得られるよう対策が必要です。経営支配権は議決権付きの株式の保有割合によって決まります。そのため、経営者の持つ会社の株式を後継者が確実に引き継げるよう、生前贈与や遺言書を活用しましょう。

3-1.生前贈与を行う

後継者が経営支配権を確実に得るには『生前贈与』が役立ちます。計画的な生前贈与によって経営者の持つ自社株を後継者へ渡していけば、経営支配権を持った状態で相続に臨めるからです。

後継者が経営権を獲得するには、発行済みの議決権付き株式のうち1/2(50%)超を、支配権を獲得するには2/3超を保有する必要があります。

3-1-1.贈与税はいくらかかる?

贈与税の課税方法には『暦年課税制度』と『相続時精算課税制度』の2種類があります。暦年課税制度を利用すると、1年間に基礎控除110万円以下の贈与には贈与税がかかりません。

例えば500万円分の自社株を暦年課税制度で贈与すると、課税対象は基礎控除110万円を引いた390万円のみです。後継者が18歳以上の子や孫(特例税率を適用)であれば、税額は『(390万円×15%)−10万円=48万5,000円』と算出できます。

相続時精算課税制度は、生前贈与に対する贈与税を軽減するものの、贈与者の死亡で相続が発生したタイミングで相続税を課税する制度です。評価額は贈与時のものを用いるため、自社株の値上がりが予想される場合には有利に働きます。

参考:No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)|国税庁

3-1-2.相続開始前3年(※改正後7年)以内の贈与に注意

生前贈与で自社株を後継者に渡していても、相続開始前3年以内(※)に贈与された財産は、相続税の持ち戻しの対象です。贈与税の課税の有無は関係なく、相続開始前3年以内(※)に贈与された全ての財産が相続財産に含められ相続税の課税対象になります

(※)この「3年以内」という期間は税制改正により、2027年(令和9年)以降段階的に延長されます。2031年(令和13年)以降は、相続開始前7年以内に贈与された財産が持ち戻しの対象となります。

参考:暦年課税とは?相続時課税制度との違い・ポイントや注意点も解説

3-2.遺言書の作成

自社株や会社経営に必要な資産の引き継ぎによる相続トラブルを回避するには、遺言書の作成が効果的です。遺言書には『自筆証書遺言』、『公正証書遺言』、『秘密証書遺言』の3種類があります。

中でも正確に遺言内容を伝えられ、相続開始後、遺言の検認の手続きが不要ですぐに執行できる『公正証書遺言』は、相続で事業承継する場合に向いています。ただし遺言に記載されている内容自体が他の相続人の遺留分を侵害しているなどの問題があると、後継者へ自社株を集中させられないかもしれません。

そこで後継者以外の相続人には、他の資産や議決権制限株式を渡すといった方法で対策すると、トラブルを避けやすいでしょう。

公正証書遺言について詳しく解説している以下の記事もぜひご覧ください。

参考:公正証書遺言とは?法的効力・作成方法・費用・必要書類を解説

4.後継者以外の相続人への配慮も必要

4.後継者以外の相続人への配慮も必要

後継者に自社株をはじめとする経営に必要な資産を引き継がせることと同時に、他の相続人との間にトラブルが発生しないよう対策することも重要です。相続人の間で不平等が起こらないよう配慮が求められます。

4-1.相続人の確認方法

不平等が起こらないようにするには、誰が法定相続人になるか確認が必要です。法定相続人になれるのは『配偶者』と『血族』で、血族は以下のとおり順位が決まっています。

  • 第一順位:子(子が死亡している場合は孫)
  • 第二順位:直系尊属
  • 第三順位:兄弟姉妹(兄弟姉妹が死亡している場合は甥・姪)

経営者の子どもは法定相続人に含まれます。さらにその中には、離婚した相手との子どもも入る点に注意しましょう。

第三順位の兄弟姉妹以外の法定相続人には、最低限受け取れる『遺留分』が認められています。株式や事業用の資産を後継者に集中させるには、遺留分に相当する代償金や同等の価値のある他の資産を用意し対策しましょう。

参考:一親等とは?一等親との違いは?親族の関係性や数え方【図解】

4-2.遺留分に関する民法特例の活用

遺留分に関する民法特例』も活用できます。特例によって『除外合意』もしくは『固定合意』を後継者以外の推定相続人から得られれば、後継者に自社株をはじめとする会社経営に必要な資産を集中させやすくなります

  • 除外合意:自社株式を遺留分の算定基礎財産に含めないことへの合意
  • 固定合意:自社株式の評価額を合意時点の価格に固定することへの合意

推定相続人の全員から合意を得るには、預貯金や不動産などによる代償が必要となることがあります。

参考:4.親族内承継の対策「遺留分に関する民法の特例」を活用する|親族外承継と親族内承継におけるメリット・デメリット

5.代償分割や相続税納付に備える方法

5.代償分割や相続税納付に備える方法

自社株や会社経営に必要な資産を引き継ぐ後継者は、スムーズな事業承継のために相続財産の大部分を引き継がなければいけないケースもあります。この場合、他の相続人の相続分として、後継者が代わりに現金などを支払う代償分割の検討が必要となることがあります。

さらに高額な相続税の納付もあります。これらに備える代表的な方法を確認しましょう。

5-1.生命保険

後継者が代償分割や相続税の納税に備える資金として『生命保険』を利用できます。経営者が自ら保険料を支払っていた場合、相続税の計算において保険金は相続財産とみなされますが、非課税枠が設けられており、全てに課税されるわけではありません

非課税枠は『500万円×法定相続人の数』で算出します。法定相続人が3人いる場合1,500万円が非課税枠です。受け取った保険金が3,500万円なら、非課税枠1,500万円を引いた2,000万円が相続税の課税対象とされます。

参考:生命保険に相続税はかかる?死亡保険金を受け取った場合を解説

5-2.金庫株(自己株式)

自社株を会社へ売却し資金を作る方法もあります。『金庫株特例(相続により取得した非上場株式を発行会社に譲渡した場合の課税の特例)』と呼ばれ、自社株の売却により獲得する対価にかかる所得税などの課税が大幅に緩和される特例です。

通常であれば出資金以上の自社株の売却益は『みなし配当課税』として総合課税の扱いを受けます。税率は最大で約55%(超過累進税率)です。一方、特例を利用すると『株式譲渡益課税』とされ、税率約20%の分離課税が適用されます。

会社が株式を買収する資金を調達可能なら有効な方法です。

5-3.不動産売却などによる現金化

不動産をはじめ不要な資産を売却し現金化しておくのもよいでしょう。相続後にも現金化できますが、それでは納税の期限までに希望の条件で売却できない可能性があります。

そのため経営者の生前から計画的に売却するのがおすすめです。ただし事業用資産は会社の経営に必要なため、現金化できません。

また資産を売却すると、対価に税金がかかります。経営者の個人資産と会社の資産で課される税金は以下のとおりです。

  • 個人資産:所得税・住民税など
  • 法人資産:法人税・法人住民税・法人事業税など

5-4.事業承継税制を利用する

贈与税や相続税の納税猶予を受けられる『事業承継税制』の利用も検討しましょう。都道府県知事から『経営承継円滑化法』の認定を受けることで利用できます。

対象の株式数や納税猶予の割合に制限がない『特例措置』を利用するには、『特例承継計画』を提出しなければいけません。提出期限は、2026年3月31日まで延長されています

ただし満たすべき要件は多岐にわたり、かつ複雑です。利用する場合には、税理士をはじめとする専門家に相談しながら手続きを進めるとスムーズでしょう。

参考:事業承継税制とは何か。活用できる人や納税猶予を受けるまでの流れ

6.スムーズに承継するために検討すること

6.スムーズに承継するために検討すること

相続税の納税や後継者以外の相続人へ支払う代償分割のほかにも、スムーズな事業承継に必要な備えがあります。例えば後継者の育成計画や保証債務の処理です。

6-1.後継者の育成計画を策定する

会社経営に必要な資源は、ヒト・モノ・カネ・情報・知的資産の5種類に分類されます。事業承継は自社株や経営に必要な資産の引き継ぎのみでは不完全です。経営者の持つノウハウや企業理念なども伝えることで、引き継ぎが完了します

事前に会社の有形・無形の資産を整理し、後継者へ何を引き継ぐかはっきり決めておきましょう。その上で育成計画を立てて順番に伝えていきます。

参考:事業承継に必須のスケジュール作成。いつ、どんなことを実施するのか

6-2.保証債務の処理、圧縮

後継者が引き継ぐのは会社の財産の全てです。その中には、会社の借入金に関する『保証債務』も含まれます。中には債務の引き継ぎが妨げとなり、後継者が決まらない場合もあるでしょう。

そこで『経営者保証のガイドライン』に基づき、保証債務の解除に向けた相談や交渉への取り組みが必要です。また保証債務の負担を減らすために、借入金の返済にも取り組むとよいでしょう。

参考:経営者保証に関するガイドラインとは|中小企業庁

7.事業承継対策を施して大切な会社を守ろう

後継者が会社を相続する際には、生前贈与や遺言書を利用し、確実に自社株を引き継がなければいけません。そのためには、相続税の納税や他の相続人へ支払う代償分割への対策が必要です。

生命保険や金庫株・不動産売却・事業承継税制などを活用しましょう。対策を講じるに当たり、相続税に詳しい税理士への相談もおすすめです。

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