経営資源集約化税制とは。対象者、申請方法、税務処理などを解説

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経営資源集約化税制は三つの政策で構成されています。中でも、M&A取得価額の最大7割を損金にできる、中小企業事業再編投資損失準備金に注目して見ていきましょう。また、制度の対象となる企業の要件や、制度活用の手順も紹介します。

1.経営資源集約化税制の内容は?

1.経営資源集約化税制の内容は?

生産性向上を目指すM&Aを促すために役立つ経営資源集約化税制は、三つの政策により成り立っています。制度の概要や対象となる中小企業の要件を確認しましょう。

1-1.3種の政策で構成されている

要件を満たす中小企業が、計画に従いM&Aを実施するとき、経営資源集約化税制に含まれる以下の3種類の政策の活用が可能です。

  • 中小企業経営強化税制
  • 所得拡大促進税制
  • 中小企業事業再編投資損失準備金

『中小企業経営強化税制』では、経営力向上計画に従い設備を取得すると、投資額の10%(資本金3,000万円超なら7%)の税額控除が可能です。

また、従業員の待遇改善に活用できる『所得拡大促進税制』では、経営力向上報告書を提出し、給与等支給総額を前年から2.5%以上上げた場合、増加額の25%を税額控除できます。

さらに『中小企業事業再編投資損失準備金』を利用すれば、計画に従いM&Aを実施した場合に、取得価額の最大7割を準備金として積み立て、損金算入が可能です。

1-2.制度スタートの背景

M&Aを後押しする優遇措置として経営資源集約化税制が設けられたのは、M&Aによる生産性向上の重要性が高まっているからです。M&Aを実施したからといって、必ずしも成果が出るわけではありません。

成果を出すには、M&A後の設備投資や従業員の確保などが重要です。そこで積極的な投資ができるよう、関連する費用の控除や損金算入を可能としています

1-3.対象となる中小企業の要件は?

中小企業だからといって、すべての企業が経営資源集約化税制の対象になるわけではありません。対象となるのは、『経営力向上計画』の認定を受け、常時使用の従業員が2,000人以下の『特定事業者等』です。

併せて以下の条件を満たす、租税特別措置法上の『中小企業者等』であることも満たしている必要があります。

  • 資本金または出資金の額が1億円以下の法人
  • 資本または出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人以下の法人または個人
  • 協同組合等

また中小企業事業再編投資損失準備金の場合、『青色申告書』の提出や、『グループ内』『親族内』のM&Aでないこと、売り手が『外国法人』ではないことなども必要な要件です。

2.中小企業事業再編投資損失準備金制度とは

2.中小企業事業再編投資損失準備金制度とは

経営資源集約化税制に含まれる3種類の政策の中でも、M&Aの取得価額の最大7割を損金算入できる、中小企業事業再編投資損失準備金制度について見ていきましょう。

制度を活用することで、簿外債務を始めとする、M&A実施後に発覚する可能性のあるリスクに備えられます。

2-1.制度の概要

M&Aを株式譲渡で実施した場合、買い手は売り手の株式を取得します。帳簿上は対象企業に問題がなくても、簿外債務を抱えていてM&A実施後に発覚するケースもあるでしょう。この損失に備えられるのが、中小企業事業再編投資損失準備金制度です。

以下を満たしている場合、株式取得価額の7割以下の金額を準備金として積み立て『損金算入』できます

  • 青色申告書を提出している
  • 経営力向上計画の認定を受けている
  • 経営力向上計画に従いM&Aを実施している
  • M&Aにより対象企業を取得した日を含む事業年度終了時まで保有している

損金算入した積立金は、処理した事業年度の翌日から5年間の経過後、5年間かけて均等に取り崩し益金に算入します。

2-2.譲受企業は簿外債務等のリスクに備えられる

中小企業事業再編投資損失準備金制度を利用すると、対象企業を買収する譲受企業は、簿外債務を始めとしたM&A実施後のリスクに備えられます。

税制改正前、株式の取得価額は資産に計上され、M&A実施後に株価が低下した場合も費用にはできませんでした。このような状況で簿外債務が発生すれば、損害賠償請求されるなどして、大きな費用が必要になるかもしれません。

制度を利用すれば、取得価額の7割以下を準備金として積み立てておけます。万が一のときには準備金を取り崩し、支払いにあてられるため、リスクに対策できる制度です。

参考:簿外債務の種類や見つけ方。買い手と売り手それぞれの対策は?

3.中小企業事業再編投資損失準備金の税務処理

3.中小企業事業再編投資損失準備金の税務処理

制度を利用し準備金を用意する場合、ルールに従い税務処理を行わなければいけません。準備金を積み立てた年度・5年間の据置期間後・リスクが発覚したときの、処理の仕方を見ていきましょう。

3-1.準備金を積み立てた事業年度、損金に算入

準備金としてM&A実施年度に積み立てできる金額は、M&Aで株式を取得したときの金額の7割以下です。取得価額1億円であれば、7,000万円まで準備金として積み立てられます。

先の例で税務処理をするときは、以下のように仕訳しましょう。

  • 借方:事業再編投資損失7,000万円
  • 貸方:中小企業事業再編投資損失準備金7,000万円

3-2.5年間の据置期間後、益金に算入

損金算入した準備金には5年間の据置期間があります。その間は簿外債務といったリスクが発覚しなければ、特に税務処理の必要はありません。

据置期間が終了した後は、損金へ算入していた準備金を、5年間かけて益金へ算入します。先の例では7,000万円の準備金を用意したため、毎年1,400万円ずつ以下の通り益金算入の仕訳が必要です。

  • 借方:中小企業事業再編投資損失準備金1,400万円
  • 貸方:投資損失準備金取崩益1,400万円

制度により5年間は税金がかかりませんが、6年目以降は税金が課されます

3-3.リスクが顕在化した場合

M&A後リスクが判明したときは、準備金から相当額を取り崩すため、益金算入の税務処理が必要です。どのようなときに税務処理が必要なのか分かるよう、代表的な簿外債務をチェックしましょう。

  • 未払い残業代
  • 買掛金
  • 債務保証
  • リース債務
  • 未払いの社会保険金
  • 賞与引当金
  • 退職給付引当金
  • 訴訟リスク

簿外債務は帳簿上に記載されない債務のため、M&A実施前に詳細な調査であるデューデリジェンス(DD)を行っても見つからない可能性があります。労働基準監督署の立ち入り調査で発覚する場合もあるリスクです

参考:M&Aにおけるデューデリジェンスの役割。調査項目や進め方を知る

4.制度を活用するには

4.制度を活用するには

M&Aのリスクに備えられる制度を利用するには、経営力向上計画の認定を受け、事後報告も行わなければいけません。それぞれのタイミングで必要な手順を紹介します。

4-1.経営力向上計画の認定を受ける

M&Aの対象企業と基本合意を締結したら、経営力向上計画の認定を受けましょう。『経営力向上計画に係る認定申請書』とともに『事業承継等事前調査チェックシート』も提出します。

提出は郵送のほか、電子申請でも可能です。電子申請をする場合には、『GビズIDプライム』を事前に取得し、経営力向上計画申請プラットフォームから手続きしましょう。認定までにかかる標準的な処理期間は30日です。

4-2.M&Aを実施し株式を取得、事後に報告

実際にM&Aを実施し株式を取得したら、事後報告が必要です。M&Aの実施に加え、事業承継等事前調査チェックシートの財務・税務DD、法務DDの項目についても、実施状況を報告します。

また経営力向上計画の計画期間内3~5年間は、事業承継等事前調査の内容を記した上で、毎年事業年度終了後に事業の状況についての報告書も提出しなければいけません

5.中小企業のM&Aでのリスクヘッジに有効

5.中小企業のM&Aでのリスクヘッジに有効

経営資源集約化税制に含まれる3種類の政策の中でも、中小企業事業再編投資損失準備金制度を活用すると、M&A実施後に発覚するリスクへの対策が可能です。

M&A実施時に支払う株式の取得価額の、最大7割までを準備金として積み立てることで、万が一の事態に備えられます。利用するには経営力向上計画の認定を受けている、租税特別措置法上の中小企業者等でなければいけません。

そのほかにも要件があるため、よく確認した上で申請しましょう。制度を使い準備金を損金算入する際には、税務処理が発生します。税務処理についての相談は『税理士法人チェスター』へ行いましょう。

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