優先株でスムーズな事業承継を。相続トラブル対策への活用方法
タグ: #M&A優先株は、どのような特徴を持つ株式なのでしょうか?優先株の種類とともに、基本的な知識を解説します。優先株は事業承継時のトラブル対策に役立つ株式です。優先株を使った対策方法を、その他の相続対策と併せて見ていきましょう。
目次 [閉じる]
1.優先株とは
株式には種類があります。その中でも優先株は、何らかの優先的な権利が付与されているのが特徴です。普通株との違いや優先株の種類を確認します。
1-1.単に株式というと「普通株」
一般的に株式と表現する場合、それは普通株のことです。例えば証券取引所で売買されている株式は普通株式に当たります。普通株式の保有により得られる権利は、以下の通りです。
- 議決権
- 配当金の受け取り
- 残余財産の分配
議決権を持っている株主は、会社の意思決定を行う場である株主総会へ参加し、1株につき1議決権を行使できます。普通株を多く保有するほど議決権も多く保有できる仕組みです。
そのため普通株をたくさん持っているほど、会社の経営に与える影響が大きくなります。
1-2.優先的な権利がある「優先株」
優先株は普通株とは異なり、優先的な権利が与えられた株式です。例えば配当金や、会社が解散するときに分配する財産を、優先的に受け取れる権利が付与されています。
ただし議決権は制限するのが一般的です。議決権がない代わり、利益を優先的に得られる株式と考えるとよいでしょう。
会社の経営に影響を及ぼす議決権を付与することなく株式を交付できるため、相続時のトラブル対策に役立てられます。
1-3.優先株の種類
単に優先株というだけでは、何の権利を優先的に受けられるのか分かりません。そこで優先株は3種類に分けられます。それぞれ以下の権利を得られる株式です。
- 完全参加型優先株式:優先配当に加え普通株の配当を受けられる
- 非参加型優先株式:優先配当を受けられる
- 制限参加型優先株式:優先配当額支払い後に制限つきで配当金を受け取れる
2.相続による事業承継で起こりやすいトラブル
経営者が死亡し相続が発生すると、後継者とそれ以外の非後継者との間でトラブルが発生する可能性があります。発生しやすい2種類のトラブルを確認しましょう。
2-1.遺留分の侵害
後継者は、経営者から会社の経営に必要な自社株などの資産を相続します。このとき、自社株の価格が上がっており、個人資産の大部分を占めているケースも珍しくありません。
そのため他の相続人の『遺留分』を侵害する場合もあるでしょう。遺留分とは、相続人が最低限引き継げる資産として認められている割合です。
経営者が生前に遺言書で相続財産の分配方法を指定していても、遺留分については否定できません。非後継者の相続人が遺留分侵害額請求を行えば、後継者はその分を支払う必要があります。
現金による支払いができなければ、自社株や事業に必要な他の資産を渡す必要も生じるでしょう。
遺留分侵害額請求について詳しく解説している以下もぜひご覧ください。
遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)とは?計算方法・時効・手続きの流れ – 相続税専門【税理士法人チェスター】
2-2.非後継者の経営への介入
遺留分の支払いを求められ現金で用意できない場合には、自社株を非後継者へ渡さなければいけないケースもあります。議決権のある普通株式を非後継者へ渡すことで、会社の経営に介入される可能性があるでしょう。
また、遺留分として渡した株式を買い取るよう、会社に求めるかもしれません。大量の株式を買い取るには資金が必要です。仮に買い取れたとしても、その後のキャッシュフローに悪影響を与えかねません。会社の経営に大きな打撃を与える事態です。
参考:会社の相続をスムーズに進めるには。必要な対策と準備を整理
3.優先株によるトラブル対策
相続によって事業承継を行う際には、優先株を利用したトラブル対策が有効です。後継者が普通株式を、非後継者が優先株式を引き継げば、遺留分や経営への介入でもめるケースを避けやすくなります。
3-1.後継者は普通株式を引き継ぐ
相続トラブル対策に優先株を活用するためには、後継者は議決権のある普通株式を引き継ぎます。議決権のある普通株式を100%保有すれば、会社の経営権を完全に掌握可能です。
議決権の保有割合によって、以下の通り単独決議できる内容が異なりますが、少なくとも1/2超を後継者が保有するように引き継ぐ点が重要です。
- 議決権1/2超:取締役や監査役の選任・役員報酬・剰余金の配当・準備金の減少など
- 議決権2/3以上:定款の変更・合併や会社分割などの承認・合意した株主からの自己株式の取得など
議決権のある普通株式を経営者から後継者が引き継げれば、経営に関する意思決定をスムーズに実施でき、運営に支障をきたす危険がありません。
3-2.非後継者は優先株式を引き継ぐ
一方で、非後継者は優先株式を引き継ぎます。優先株式には議決権がないため、非後継者が高い割合で相続したとしても、会社の経営に影響を及ぼすことはありません。後継者は、経営の意思決定をスムーズに行いやすい状況を維持できます。
優先的に配当を受け取れる権利を得られるため、非後継者にとってもメリットのある方法です。
4.ほかにも実施すべき相続対策
事業承継を相続によって実施する計画であれば、ほかにも相続対策をしておきましょう。何も対策を施していない場合、資金不足で後継者が相続税を納税できない事態も起こり得ます。
4-1.自社株の評価を下げる自社株対策
自社株の価格は、思いのほか高くなっている可能性もあります。相続時に納める相続税額は資産の評価額に応じて決まるため、経営者の保有する自社株が高額であれば、その分税額も高くなります。
そこで重要なのが自社株対策です。中小企業の株価は業績や純資産によって決まるため、定期的に保有している資産を見直し、対策を実施しましょう。
例えば役員退職金の支払いや、活用できていない資産の売却、記念配当や特別配当の実施などが代表的です。
参考:事業承継で株式を引き継ぐには?三つの主な方法と注意点を解説
4-2.遺留分に関する民法の特例の活用
非後継者の相続人による遺留分侵害額請求を回避するには、優先株の相続とともに『遺留分に関する民法の特例』を活用するとよいでしょう。事業承継をスムーズに実施し、事業運営に支障をきたさないための特例です。
あらかじめ相続人全員の同意を得ていれば、以下に紹介する『除外合意』もしくは『固定合意』のいずれかが可能です。
- 除外合意:自社株式を遺留分算定の対象外とする
- 固定合意:自社株式の評価額を合意時点に固定する
特例を活用するには、経営者から相続人に対して十分な説明を行いましょう。
参考:3-3.遺留分問題を解決する「除外合意」と「固定合意」
4-3.納税資金の確保
自社株をはじめ事業用の資産は、高額になりやすい傾向があります。そのため経営者が死亡し後継者が必要な資産を相続すると、相続税が数千万~数億円かかるケースもあるでしょう。
これだけの金額を相続時に全額用意するのは難しいはずです。十分な資金が用意されていなければ、納税のために事業用の資産を手放したり、融資を受けたりしなければいけません。
納税資金を確保するには『生命保険』を活用する方法が代表的です。保険金は契約者と被保険者が同一人物であれば、受取人固有の財産と考えられます。相続財産には含まれないため、遺留分として請求される心配もありません。
参考:4-2.納税資金の準備
5.相続対策には優先株が役立つ
優先株には、優先的な権利が付与される代わりに議決権がありません。この性質を生かすことで、相続による事業承継に役立てられます。
具体的には、後継者が議決権のある普通株式を引き継ぎ、非後継者は議決権のない優先株式を引き継ぐことで対策が可能です。
後継者は会社の意思決定に必要な議決権を保有し続けられ、非後継者は配当を受け取れる金銭的なメリットを得られます。加えて、相続税を支払う資金の用意や、相続税額を抑えるための対策も実施しましょう。
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