経営権を譲渡する方法とは。事業承継対策の時期や税金などに注意

タグ:

会社の経営権の譲渡は、株式の生前贈与・相続・売却といった方法で行われます。後継者が引き継ぐ、議決権のある株式の保有割合によって、経営権や支配権に影響を与える点に要注意です。また事業承継の流れや、何を引き継ぐかも見ていきましょう。

1.事業承継では何を引き継ぐのか

事業承継は、会社の保有している物理的な資産を引き継ぐだけではありません。不動産や設備・運転資金など会社経営に必要なもの以外に、経営権や知的資産も引き継ぎます。

中でも経営権とはどのような権利なのでしょうか。支配権との違いにも注目しつつ確認します。

1-1.経営権と資産、知的資産を引き継ぐ

会社を事業承継するとき、後継者が引き継ぐものは『経営権』『資産』『知的資産』の3種類に分類できます。それぞれの特徴を見ていきましょう。

経営権は、議決権のある株式を引き継ぐことで得られる権利です。経営権を持っていれば、株主総会において単独で決議できるため、素早い経営判断に重要です。

加えて、会社の保有するあらゆる資産も引き継がれます。不動産・設備・棚卸資産・運転資金・許認可などです。

引き継がれる対象となるのは、有形の資産だけではありません。経営理念・ノウハウ・技術・人脈など、形のない知的資産の承継も求められます。

1-2.経営権とは

事業承継で後継者が引き継ぐ経営権とは、会社を経営できる権利です。株主総会の普通決議を単独でできることを意味するため、議決権のある株式の保有割合が基準として用いられます

普通決議であれば、議決権の過半数があれば単独で決議可能です。そのため議決権のある発行済株式のうち半数超を承継できれば、後継者は会社の経営権を取得したといえるでしょう。

1-2-1.支配権との違い

ただし議決権のある株式を過半数保有し、経営権を取得したとしても、会社の重要な決定事項について、全て単独で決定できるわけではありません。

定款変更や取締役の解任・事業譲渡など、会社にとって最重要事項の決定は、株主総会の『特別決議』で行われるからです。特別決議を単独で決議するには、議決権の2/3以上を持っていなければいけません。

議決権のある株式の2/3以上を保有していれば『支配権』を持っている状態といえます。支配権を持っていれば、会社に関するほぼ全ての決定を単独で実施可能です。

2.事業承継の流れ

2.事業承継の流れ

後継者が会社を引き継ぐ事業承継は、どのような流れで行われるのでしょうか?現状把握・後継者選び・後継者育成の各段階について解説します。

2-1.現状把握

まず行うのは、会社・経営者・後継者などの現状を知ることです。会社の財政状況はどうでしょうか?

現時点のキャッシュフローと、そこから導かれる将来の展望の把握が必要です。負債や他社との競争力など、今後の経営が難しくなりそうな経営リスクも確認します。

中小企業の場合、事業で利用している資産が経営者の個人名義になっているケースは珍しくありません。経営者がどのような資産を保有しているか見返しましょう。

経営者が個人名義で保有している事業用資産について、この時点で対策しておけば、事業承継時のトラブル予防に役立ちます。また誰を後継者候補にするのかも確認が必要です。

2-2.後継者の選定

現状把握ができたら後継者を選びます。後継者候補がいないなら、まずは探さなければいけません。経営者の子どもといった『親族』や、会社についてよく知っている『従業員』に引き継いでもよいでしょう。

身近に事業承継できる人物がいないなら、第三者への引き継ぎを検討するのが一般的です。『事業引継ぎ支援センター』『マッチングサイト』『M&A仲介会社』を利用して探すという選択肢があります。

参考:M&A仲介サイトで小規模な事業の売買も可能。六つのサイトを紹介

また後継者に必要な力は、『リーダーシップ』と『組織運営能力』です。ただし、会社の成長段階によっても必要な力は異なるため、承継後の状況に合った人物を後継者にする必要があります。

2-3.後継者育成の方法

後継者として選んだ人物が、最初から必要な能力を全て備えているとは限りません。そのため教育を施します。教育として実際に行われているのは『社内教育』です。

会社のさまざまな部署で実際に働きながら、技術やノウハウを身に付けていきます。経営者とともに働くことで、経営判断の基準となる経営理念に対する理解も進むでしょう。

親族への承継の場合には、同業他社で仕事をしながら教育を実施するケースも多々あります

3.後継者に引き継ぐもの

3.後継者に引き継ぐもの

事業承継を実施すると、後継者は経営権・資産・知的資産などを引き継ぎます。その中でも特に『経営理念』や『経営ノウハウ』、『取引先』や『従業員』との関係、『取締役』の地位に注目し、どのような資産なのか確認しましょう。

3-1.経営理念や経営ノウハウ

後継者が引き継ぐものの中でも、経営理念や経営ノウハウは、会社の根幹に関わる重要な知的資産です。しかし目に見えないもののため、教えようと思ってもうまく伝わらない場合もあります。

そこで事前準備として『社史』を作成するとよいでしょう。文字にすることで、経営理念がなぜ生まれたのかをはっきり意識でき、後継者に伝えやすくなるはずです

3-2.取引先や従業員との関係

会社に関係する人とのつながりも、後継者が引き継ぐ重要な資産です。取引先や従業員と良好な関係が構築できているからこそ、商品やサービスの販売、仕入れなどがスムーズにでき、会社は利益を得られます。

しかし事業承継をした会社で、取引先との関係維持が問題になったケースが多いのも実情です。良好な関係を承継後も維持するには、できるだけ早いタイミングで後継者を取引先に紹介しましょう。

加えて、従業員にもあらかじめ後継者として紹介し理解を得ておけば、事業承継後に社内でトラブルが発生するリスクを抑えられるでしょう

社内外から後継者として認められれば、承継後に取引先や従業員が離れていく事態を防げるはずです。

3-3.取締役の地位

次の経営者になる後継者は、将来的に会社の代表取締役となるでしょう。ただし代表取締役は後継者として指名されただけでなれるものではありません。取締役の中から選ばれるため、まずは取締役への就任が必要です。

そこで後継者を株主総会で取締役に選任し、後継者が承諾する必要があります。取締役の選任は株主総会の普通決議で行われるため、経営者が議決権の過半数を保有していれば単独で決定可能です。

4.株式を後継者に承継する方法

4.株式を後継者に承継する方法

経営権や支配権を後継者へ引き継ぎ事業承継をするには、経営者の持っている議決権のある株式を後継者へ承継させます。代表的な方法として『株式譲渡』の手法を紹介します。

4-1.株式譲渡とは

株式譲渡はM&Aでよく用いられる手法です。会社の株式を後継者に譲渡することで、保有するあらゆる資産や負債を含め、会社を丸ごと譲り渡します

あらかじめ議決権のある株式を経営者のもとに集約させていれば、後継者は株式譲渡により会社の株式を100%取得し、会社の支配権を取得可能です。

第三者へのM&Aだけでなく、親族内承継でも用いられる手法です。

4-2.譲渡には時間的余裕を見て臨む

実際に株式譲渡によって事業承継を行うには、手続きに時間がかかります。また後継者の育成もすぐにできるわけではありません。そのためできるだけ早いタイミングで、後継者が経営に携われる体制を作ります。

参考:株式譲渡にはどんな手続きが必要?契約や税金に関する基礎知識

経営者の持つ広範囲の経営権を引き継ぐには、単にノウハウを知るだけでは不十分です。センスや素質までも承継するには時間がかかるため、経営者が主体となって会社を経営しているうちは育ちにくいでしょう。

後継者が経営の主体となっていけるよう、十分な期間をかけて育成していく必要があります。

5.株式を承継する方法

5.株式を承継する方法

会社の株式を承継するのが親族であれば、『生前贈与』や『相続』が代表的な承継方法です。また従業員や第三者が承継する場合には、『売却』による承継が行われます。

5-1.生前贈与

経営者が生きている間に株式を引き継ぐ方法が生前贈与です。生前贈与によって株式を承継すれば、後継者としての地位が安定しますし、安定的な事業承継を実施できます。

ただし贈与を受けると贈与税を負担しなければいけない点に注意しましょう。そこで暦年課税制度の控除額の上限である『年110万円』を利用します。毎年110万円の範囲内で贈与すれば、贈与税の負担を抑えられるでしょう。

また相続時精算課税制度を利用すれば、2,500万円までの贈与には、税金がかかりません。ほかに、贈与税の猶予や免除の制度を受けられる、事業承継税制を活用する方法もあります。

参考:自社株式の生前贈与・相続税が無税になる事業承継税制の特例を徹底解説

5-2.相続

相続で株式を引き継ぐ場合、承継のタイミングは経営者の死亡後です。確実に後継者へ株式を引き継がせるには、経営者が生前に法的に有効な『遺言書』を作成しておくとよいでしょう。

『遺産分割協議』による相続では、株式を含め法定相続人で分割しなければいけません。会社に関わらない相続人が経営に必要な資産を相続することで、経営に支障をきたす可能性もあるでしょう。

ただし法的に有効な遺言書があっても、相続人が最低限受け取れる『遺留分』には対策できません。スムーズに相続し会社経営を続けられるよう、弁護士や司法書士などの専門家に相談しておくと安心です。

参考:3.事業承継の争族対策の具体的な方法

また毎年増え続ける自社株の財産により、相続税は大きな金額になりがちです。相続税を支払うための資金も用意しましょう。

5-3.従業員や第三者への売却

従業員や第三者を後継者とするときには、株式を売却します。この場合には、後継者の『資金不足』に注意しましょう。能力や意欲が十分であっても、資金が不足していては売却できません。

資金不足が問題となるのであれば、『日本金融政策公庫』の融資や『事業承継税制』の活用を検討しましょう。資金の不足分を補ったり、贈与税の負担を抑えたりできます。

売却によって株式を承継すると、経営者は売却益の受け取りが可能です。経営者にとっては、引退後の生活資金を確保できる方法でもあります。

6.経営権の譲渡は早めの準備と対策を

6.経営権の譲渡は早めの準備と対策を

事業譲渡を実施するときに、後継者が経営者から引き継ぐものの一つが経営権です。会社の経営に関する決定権を指し、議決権のある株式の保有数が半数以上の場合に認められます。

加えて経営理念や取引先・従業員・取締役の地位なども、後継者が引き継ぐ資産です。全てをスムーズに承継するには、早めの準備が欠かせません。相続発生時を見越した対策も重要です。

生前贈与・相続・売却のどの方法で株式を承継したとしても、税金への対策は避けられません。事業承継にまつわる税金については『税理士法人チェスター』に相談しましょう。

相続税の申告相談なら【税理士法人チェスター】

スムーズな事業承継については、以下もご覧ください。

【経営者必読】会社を後継者にスムーズに事業継承する方法と相続対策 – 相続税の申告相談なら【税理士法人チェスター】

事業承継・M&Aを検討の企業オーナー様は

事業承継やM&Aを検討されている場合は事業承継専門のプロの税理士にご相談されることをお勧め致します。

【お勧めな理由①】
公平中立な立場でオーナー様にとって最良な方法をご提案致します。
特定の商品へ誘導するようなことが無いため、安心してご相談頂けます。

【お勧めな理由②】
相続・事業承継専門のコンサルタントがオーナー様専用のフルオーダーメイドで事業対策プランをご提供します。税理士法人チェスターは創業より資産税専門の税理士事務所として活動をしており、資産税の知識や経験値、ノウハウは日本トップクラスと自負しております。

その実力が確かなのかご判断頂くためにも無料の初回面談でぜひ実感してください。
全国対応可能です。どのエリアの企業オーナー様も全力で最良なご提案をさせていただきます。

詳しくは事業承継対策のサービスページをご覧頂き、お気軽にお問い合わせください。

※この記事は専門家監修のもと慎重に執筆を行っておりますが、万が一記事内容に誤りがあり読者に損害が生じた場合でも当法人は一切責任を負いません。なお、ご指摘がある場合にはお手数おかけ致しますが、「お問合せフォーム→掲載記事に関するご指摘等」よりお問合せ下さい。但し、記事内容に関するご質問にはお答えできませんので予めご了承下さい。

【面談予約受付時間】
9時~20時(土日祝も対応可)