事業承継ガイドラインとは?内容や改訂について詳細を確認
タグ: #M&A事業承継ガイドラインは、専門知識を必要とする事業承継の説明書です。ひと通り読んでおくと基本的な知識を押さえられます。2022年3月に行われた改訂や、『事業承継ガイドライン20問20答』『中小PMIガイドライン』についても確認しましょう。
目次 [閉じる]
1.事業承継ガイドラインとは何か
会社を後継者へ引き継ぐ際には、入念な準備をした上で手続きする必要があります。そのとき参考になるのが事業承継ガイドラインです。
1-1.事業承継の説明書
中小企業庁によって2006年度に作成された『事業承継ガイドライン』は、2016年、2022年3月の改訂をへて現在の内容となりました。経営者の高齢化により事業承継を必要とする企業が増加することから、策定されたガイドラインです。
後継者へのバトンタッチの進め方を解説することで、スムーズな手続きをサポートします。また起こりがちな課題への解決策や、専門家によるアドバイスも提示されているため、あらかじめ読んでおけば対策を行う上で役立つでしょう。
1-2.事業承継ガイドライン策定の背景
事業承継ガイドラインが策定されたのは、課題を把握し事業承継を促進するためです。日本企業の99.7%は中小企業で、経営者の高齢化が進んでいます。何もしなければ、経営者の引退により廃業する企業も多いでしょう。
中小企業は多くの雇用を創出しており、独自の技術やノウハウを蓄積しているケースも少なくありません。地域経済に対して大きな役割を果たしている存在です。特に人口の少ない地域では、中小企業の果たす役割は大きいでしょう。
事業承継の実施により中小企業の廃業を避け、事業やノウハウなどを次世代へ引き継ぎ活性化するには、円滑な手続きが不可欠です。準備が不十分なまま後継者への引き継ぎを始め、不本意な結果となるのを防ぐ目的で、事業承継ガイドラインが策定されました。
2.事業承継ガイドラインの利用法
スムーズな事業承継によって中小企業の価値や役割を次の世代へ引き継ぐために策定された事業承継ガイドラインは、どのような内容から構成されているのでしょうか?全体の内容を知っておくと、読み解く際に理解しやすいでしょう。
2-1.全6章で構成されている
事業承継ガイドラインは、以下の全6章で構成されています。全体の流れやこれからすべき項目がひと通り分かる内容です。
- 事業承継の重要性
- 事業承継に向けた準備の進め方
- 事業承継の類型ごとの課題と対応策
- 事業承継の円滑化に資する手法
- 個人事業主の事業承継
- 中小企業の事業承継をサポートする仕組み
後継者へ会社を引き継ぎたいと考え始めたときに役立つ内容といえるでしょう。
2-2.事業承継の検討を始めたらまず読むとよい
会社を後継者へ引き継ぐ際には、やるべきことがたくさんあります。中には何から始めればよいか分からないという人もいるでしょう。
事業承継についてひと通りの知識を得たいと考えているなら、事業承継ガイドラインを読むのがおすすめです。必要な知識が網羅されており、全体像を理解できるでしょう。
3.ガイドラインの内容を詳しく解説
ここからは、ガイドラインの概要とポイントを章ごとに解説します。事業承継を検討している中小企業・個人事業主はもちろん、後継者候補やM&Aの買い手にとっても役立つ内容です。
3-1.事業承継の重要性
ガイドラインの第1章では、『事業承継の重要性』を説いています。中小企業の事業承継の現状は、以下の2点に集約されるでしょう。
- 後継者確保が困難化している
- 親族外承継が増加傾向にある
かつては子ども・孫などの親族が家業を継ぐのが当たり前でしたが、近年は職業選択の自由が尊重される風潮があります。
先行きが見えない状況下で、事業承継に伴うリスクを考えると、家業を前向きに継ぎたいという人は少ないのが現状です。
親族内承継が減少する一方、従業員承継(内部昇格)やM&Aといった親族外承継が増加傾向にあります。承継には一定の期間を要するため、早期に事業承継の計画を立て、後継者を確保する必要があるでしょう。
参考:中小企業のM&Aが増加する理由。第三者への事業承継とは
3-2.事業承継に向けた準備の進め方
第2章は『事業承継に向けた準備の進め方』がテーマです。事業承継は一朝一夕でできるものではなく、いくつもの手順を踏む必要があります。
後継者の育成期間を含めると5~10年の期間を要するケースがあるため、経営者の体力があるうちに早めにスタートすることが肝心です。ガイドラインでは、以下の『事業承継に向けた5つのステップ』を紹介しています。
- 事業承継に向けた準備の必要性を認識する
- 経営状況・経営課題を把握する(見える化)
- 事業承継に向けた経営改善を行う(磨き上げ)
- 事業承継計画の策定またはM&Aマッチングを実施する
- 事業承継・M&Aを実行する
参考:後継者育成にかかる期間や必要な準備は?社内、社外の教育方法も紹介
3-3.事業承継の類型ごとの課題と対応策
事業承継の類型は『親族内承継』『従業員承継』『社外への引き継ぎ(M&A)』の三つに区分されます。第3章では、各類型の実務上の課題とその対応策について解説しています。
例えば親族内承継では、贈与税・相続税などの税負担が後継者に重くのしかかるケースが少なくありません。親族内で株式が分散していれば、後継者が経営権を掌握できない恐れがあるでしょう。
従業員承継の場合、株式・事業用資産を取得する資金をいかに調達するかが課題とされます。後継者の家族が承継に反対する可能性もあり、とんとん拍子で話が進むとは限りません。
社外への引き継ぎ(M&A)では、秘密保持を徹底し、情報漏えいの流出を防ぐことが重要です。企業価値を高めるための『磨き上げ』にも力を入れる必要があるでしょう。
3-4.事業承継の円滑化に資する手法
事業承継では、『後継者に株式を集約できない』『多額の納税負担で承継後の経営が難しい』などの課題が生じる場合があります。
第4章『事業承継の円滑化に資する手法』では、承継を円滑に進めるために、以下の四つの方法を取り上げています。
- 種類株式の活用
- 信託の活用
- 生命保険の活用
- 持株会社の活用
『種類株式』とは、定款で特別な条件を付与した株式です。代表的な種類株式には、議決権制限種類株式や配当優先種類株式、拒否権付種類株式などがあります。うまく活用すれば、後継者以外に株式が分散するのを防げるでしょう。
相続時、株式・資産を確実に後継者へ引き継ぎたい場合は、信託の一種である『遺言代用信託』を活用する手があります。
また、先代経営者が死亡した際に支払われる生命保険の『死亡保険金』には、一定の非課税枠があるため、納税資金の確保や遺留分などの課題を解決する手段になり得るでしょう。
遺産分割対策や株式の分散防止対策として、持株会社を設立するケースもあります。
3-5.個人事業主の事業承継
形式上は開業届や廃業届を出すだけですが、人の承継・資産の承継は一筋縄ではいきません。第5章では、『個人事業主の事業承継』において留意すべきポイントをまとめています。
例えば、個人事業主が保有する事業用資産は、経営者個人に属します。個人名義である以上、事業用資産が相続人の共有物になる恐れがあり、生前贈与や遺言の作成といった対策が欠かせません。
従業員や取引先との関係性は信頼の上に成り立っており、経営者が替わった途端、人が離れるケースも多々見られます。法人同様、後継者の育成にはある程度の時間を必要とするため、早めの準備が必要でしょう。
参考:個人事業主『事業承継』手続きの流れ。後継者選びや税金対策は早めに
3-6.中小企業の事業承継をサポートする仕組み
第6章の『中小企業の事業承継をサポートする仕組み』では、中小企業が事業承継時に利用できる支援機関について紹介しています。
支援機関といっても種類は多様で、無料相談が可能な公的機関もあれば、プロセスを全面的にサポートしてくれるM&A仲介会社もあります。代表的な相談先は以下の通りです。
- 商工会議所・商工会の経営指導員
- 金融機関
- 士業(弁護士・公認会計士・税理士など)
- 事業承継・引継ぎ支援センター
- M&A仲介者
- M&Aプラットフォーマー
- ファイナンシャル・アドバイザー(FA)
全国で中小企業・小規模事業者の事業承継が増える中、国の公的窓口である『事業承継・引継ぎ支援センター』を中心とした事業承継ネットワークが構築されています。支援機関の連絡先も記載されているため、困ったときは遠慮せず相談しましょう。
参考:事業承継の相談はどこでできる?主な相談先と選び方を確認
4.2022年3月の改訂で何が変わった?
社会情勢の変化に合わせ、事業承継ガイドラインは改訂されています。2022年3月に行われた改訂では、長期化しているコロナ禍の影響で事業承継を先送りしている企業が、早い段階で円滑に手続きできるよう、説明や情報がより充実した内容になりました。
4-1.従業員承継やM&Aに関する説明の充実
これまで事業承継の中心は親族内承継でした。しかし仕事に対する価値観や業界を取り巻く状況の変化により、親族内承継の割合は徐々に減ってきています。
代わりに増加しているのが、自社の従業員を後継者とする従業員承継や、第三者へ会社を売却するM&Aです。件数が増えてきていることから、従業員承継やM&Aについて、より詳細に説明する内容に改訂されています。
参考:中小企業のM&Aが増加する理由。第三者への事業承継とは
4-1-1.後継者側が知るべき説明を補充
事業承継は、現経営者だけの問題ではありません。承継後の事業運営を担うのは後継者であるため、事業承継の進め方から課題への対応策までしっかり把握する必要があります。
改定前のガイドラインにも後継者向けの内容がなかったわけではありませんが、改定後は後継者側が知るべき説明がより充実しました。
一例を挙げると、事業承継は後継者にとって最適な時期を考慮する必要があるため、第1章には『事業を引き継いだきっかけ』や『事業を引き継いだ年齢別にみた事業承継のタイミングの評価』などの調査結果が示されています。
4-2.支援措置や支援策の情報を更新、追加
事業承継の促進をサポートするため『事業承継税制』や『所在不明株の整理にかかる特例』など、さまざまな支援措置や支援策が設けられています。これらを効果的に活用できるよう、改訂では詳細な情報が更新されました。
加えて支援措置や支援策を一覧にした『事業承継に関する主な支援策』が、別冊で用意されています。親族内承継・従業員承継・M&Aといった種類別に、利用できる支援策が記載されているのもポイントです。
希望している事業承継の形態から、自社で使える支援策を探せます。
5.事業承継ガイドラインへの理解を深めるには
網羅的に事業承継に必要な知識が記載されている事業承継ガイドラインは、初めて読むと難しいと感じる人もいるでしょう。そこで役立つのが『事業承継ガイドライン20問20答』です。イラストを使用した説明で理解しやすいでしょう。
5-1.「事業承継ガイドライン20問20答」を活用
専門知識が多く、なじみのない人も多い事業承継についての知識は、事業承継ガイドラインを読むだけでは理解しにくいかもしれません。難しく感じる場合は、まず『事業承継ガイドライン20問20答』を読むとよいでしょう。
初めて事業承継について調べ始めた人でも分かりやすいよう、問答形式になっているのが特徴です。図やイラスト・まんがで解説されている箇所も多く、理解しやすいでしょう。
5-2.悩み別に解決策が提示され分かりやすい
悩み別に質問と回答が掲載されているのもポイントです。さらに最初に事業承継のステップが説明され、流れに沿ってQ&Aが提示されているのも、理解のしやすさにつながっています。20問の質問を分類すると、以下の7種類です。
- 事業承継対策の大切さ
- 事業承継計画とは
- 親族内の事業承継
- 従業員への事業承継
- M&A
- 事業承継計画の作成
- 社会的に経営者をサポートする仕組み
ただし記載されているのは、2006年に公表された事業承継ガイドラインに沿った内容です。制度の概要については変更されている可能性があるため、個別に詳細を確認しましょう。
6.新たに策定された中小PMIガイドライン
2022年3月の改訂では、新たに『中小PMIガイドライン』が策定されました。M&A実施後に行われる統合プロセスは、M&Aの成否に大きく影響するプロセスです。
6-1.PMIがM&Aの成否を握る
PMI(Post Merger Integration)は、M&A後に行われる統合プロセスを意味します。M&Aの効果を最大限に発揮するには、統合プロセスの成功が欠かせません。
M&Aが成立したとしても、統合がうまくいかなければ期待していたほどの利益は得られないでしょう。それどころか、売り手側・買い手側に二分した内部対立の発生や、商品やサービスの質の低下を招く恐れもあります。
その結果が、顧客離れや業績悪化という形で表れるかもしれません。
参考:M&Aで重要なPMIとは。経営、業務、意識の三つの統合について
6-2.適切にPMIを進めるためのガイドライン
新たに策定された中小PMIガイドラインは、統合プロセスについて理解しM&Aを成功に導くことを目的としています。PMIは重要なプロセスであるにもかかわらず、理解もサポートも不足しがちです。
時系列でPMIの手順を解説しているガイドラインを活用すれば、望ましい統合プロセスを実現できるでしょう。中小企業向けの基礎編と、より高度な発展編の2種類の内容があるため、自社の状況に合わせて活用できるのもポイントです。
7.事業承継ガイドラインでスムーズな承継を
事業承継ガイドラインは、事業承継に必要な知識がひと通り網羅されたガイドラインです。2022年3月の改訂では、従業員承継やM&Aについての説明がより充実しました。
理解しやすいよう問答形式で解説されている『事業承継ガイドライン20問20答』や、PMIについて理解できる『中小PMIガイドライン』も参考にしつつ、自社の事業承継に生かしましょう。
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