ホテル業界におけるM&Aのメリットは?近年の事例も解説

タグ: ,

ホテル業界のM&Aは、経営状況の改善や従業員の雇用継続・創業者利益の獲得に役立ちます。ただしスムーズにM&Aを実施するには注意が必要です。買い手がホテルのM&Aを行う目的や、ホテルM&Aの事例を紹介します。

1.ホテル業界の動向

1.ホテル業界の動向

ホテル業界のM&Aについて理解するために、まずはホテル業界の近年の動向を確認しましょう。コロナ禍の影響を大きく受けたホテル業界は、全体的に縮小傾向です。生産性やデジタル化にも課題が見られます。

1-1.コロナ禍の影響で縮小傾向

観光庁の発表する『令和4年版観光白書について(概要版)』によると、ホテル業界はコロナ禍の影響を大きく受けていることが分かります。コロナ禍以前は3,000万人を超えていた訪日外国人旅行者は、2021年には25万人にとどまりました。

インバウンド需要が期待できる場合、各国の休暇時期が異なり、通年の稼働率を高い状態で維持しやすいという特徴があります。訪日外国人旅行者の数が激減している状態の中、インバウンド需要による稼働率の維持は期待できません。

あわせて国内の宿泊旅行や日帰り旅行も減少しています。2019年には全体で延べ5億8,710万人の旅行者がいましたが、2021年は2億6,821万人でした。

国内の需要も減退している中、稼働率をキープするために閑散期向けのプランの考案や提供が必要な状況です。

参考:令和4年版観光白書について(概要版)|観光庁

1-2.生産性の低さやデジタル化の遅れが課題

ホテル業界が抱える課題は、コロナ禍による需要の縮小だけではありません。全産業の平均とくらべ、低い水準で推移している労働生産性も課題の一つです。

コロナ禍の影響を受けた2020年の労働生産性は特に低く、全産業平均が688万円であるのに対し、宿泊業は242万円でした。

デジタル化の遅れも顕著で、必要性に対する認識が薄く本腰を入れた取り組みができていません。デジタル化を推進できる知識やスキルのある人材が不足しているのも、遅れの理由です

参考:令和4年版観光白書について(概要版)|観光庁

2.ホテルを売却するメリット

2.ホテルを売却するメリット

M&Aでホテルを売却すると、売り手は経営状況の改善に役立てられるかもしれません。また従業員の雇用を守れるのもポイントです。事業承継を検討している場合には、創業者利益の獲得も期待できます。

2-1.経営状況の改善が可能

利益の出ていないホテルを売却すれば、M&Aによって経営状況の改善を目指せるかもしれません。不採算事業を売却すれば、獲得した対価を利益が出ているホテルへの投資に回せる上、資金や人材も集中させられます。

主力事業でより多くの利益を得られるよう改善していけるでしょう。また売却したホテルと買い手との間でシナジー効果が発揮されれば、経営効率化が実現し、自社で所有している場合よりも、ホテル事業が長く続く可能性があります

参考:シナジー効果を発揮するためのPMI|M&Aで重要なPMIとは。経営、業務、意識の三つの統合について

2-2.従業員の雇用を守れる

ホテルを売却すれば、買い手の下でホテル事業が継続するため、従業員の雇用を守れます。採算が取れていないホテルであれば、自社で引き続き運営しているだけでは再生できず、廃業に至るかもしれません。

また経営者の引退が迫っているにもかかわらず、後継者が決まっていない場合にも廃業せざるを得ません。資金力やホテルとのシナジーを期待できる買い手への売却は、雇用の維持にもつながる方策です。

2-3.創業者利益の獲得

経営者はホテルの売却により、まとまった資金を得られます。会社やホテルを設立したときに出資した金額を回収でき、創業者利益を獲得できる可能性があるでしょう

対価は引退後の生活費に充てられます。十分な金額で売却できれば、アーリーリタイアや趣味を満喫できる充実した暮らしも夢ではありません。また新たな事業を始める資金にもできます。

3.買い手がホテルを買収する目的

3.買い手がホテルを買収する目的

買い手がホテルを買収するのは、不動産投資が目的かもしれません。優秀な人材を獲得する目的で買収するケースもあります。また異業種からホテル事業へ参入するため、M&Aを活用している買い手もいます。

3-1.不動産の獲得

ホテルのM&Aでは、土地や建物などの不動産を獲得可能です。効果的な投資ができる魅力的な不動産と判断し、買収することもあるでしょう。

投資ファンドがホテルを買収するケースもあります。コロナ禍で制限されていた外国人観光客の受け入れが緩和され、日本へ大勢の観光客がやってきて、ホテルの稼働率が高まるのを期待した投資です。

3-2.人材の確保

人材の確保を目的としたM&Aも行われています。ホテルで働く従業員は高度な接客マナーを身につけていなければいけません。新たに採用して教育するとなると、多大なコストと時間がかかります。

買収によって人材を獲得すれば、スキルのある従業員をそのまま獲得できるため、採用や教育の手間を省けます。また、ホテルが築き上げてきた運営ノウハウの獲得も可能です。

3-3.ホテル事業への参入

異業種の会社が、ホテル事業へ参入する目的でM&Aを実施するケースもあります。ホテル業に新規参入するにあたり、新たにホテルを建設し、従業員を採用・教育し、体制を整えオープンするのはコストと時間がかかります。

最初は顧客がいないため、宣伝するための費用も必要です。営業しても赤字が続く可能性もあるでしょう。一方、M&Aでホテルを買収すれば、すでに営業していて顧客もついています。

買収直後から利益を得られる可能性もあるでしょう。ノウハウもあるため、事業がうまく回りやすい素地が整っています。新規事業に効率的に参入でき、シナジー効果によって経営や事業の強化にも役立つ方法です。

4.ホテルM&Aの注意点

4.ホテルM&Aの注意点

売り手にも買い手にもプラスに働くホテルM&Aですが、実施する上では注意点もあります。特に許認可や情報漏えいはトラブルに発展しやすいため、気をつけなければいけません。

4-1.許認可の引き継ぎ

ホテルの営業には『ホテル営業許可』の取得が必要です。ほかにも必要に応じて、食事や飲み物を提供するための『飲食店営業許可』、お酒を提供するための『酒類販売業許可』などを申請しなければいけません。

宿泊客以外も入浴できる大浴場を設置するなら『公衆浴場許可』も必要です。ホテルを運営している会社を丸ごと売却する株式譲渡であれば、許認可も含めて買い手に売却できます

しかし事業の一部や全部を選択し売却する事業売却では、許認可の引き継ぎができません。買い手は営業に必要な許認可の手続きを計画的に行わなければ、一時休業を強いられる可能性もあるでしょう。

スケジュールをよく確認し、不備のないよう進めなければいけません。

4-2.情報漏えい

M&Aを検討していること自体が重要な情報です。社内で「ホテルを売却するらしい」とうわさが広がれば、不安に思う従業員が出てくるかもしれません。

従業員の不安は、顧客や取引先にも伝わる可能性があります。いつもと様子が違うと感じ、不信感から離れていく顧客や取引先もいるかもしれません。

M&Aについての情報は、適切な時期での開示が重要です。従業員が不安に思わないよう、経営者から丁寧に説明します。質疑応答の機会も設けるとよいでしょう

5.ホテルM&Aの事例

5.ホテルM&Aの事例

縮小傾向が続いているホテル業界では、経営状況の改善や従業員の雇用継続を目的としたM&Aが行われるケースがあります。ホテルM&Aの具体的な事例を紹介します。

5-1.三菱地所によるロイヤルパークホテルの完全子会社化

三菱地所は、ホテル運営客室数の拡大を目指し、ロイヤルパークホテルを完全子会社化しました。ホテル業界を取り巻く急激な変化に対応できるよう、運営を一元化し、チェーン力の強化・運営力の強化・経営資源の効果的な配分の実現を目指すM&Aです。

完全子会社化により、スピーディーな意思決定が可能な体制も整え、グループホテル全体の強化や拡大に取り組んでいます。

5-2.ベルーナによる定山渓ビューホテルの取得

通販事業や店舗販売事業を手掛けるベルーナは、今後国内外の旅行者が増える見込みである北海道の定山渓ビューホテルを買収しました。ベルーナの完全子会社であるグレースでは、ホテルの宿泊予約サービス『ゆめやど』を展開しています。

定山渓ビューホテルの魅力をアピールするにあたり、ゆめやどとのシナジーも期待できるでしょう。

5-3.小野写真館による桐のかほり咲楽の取得

小野写真館は伊豆の河津町にある旅館、桐のかほり咲楽を取得し、異業種からホテル業界へ新規参入しました。旅館とのM&Aに至ったのは、写真で提供してきた笑顔や幸せ・感動を、宿泊サービスとかけ合わせて提供できると考えたためです。

宿泊と写真をかけ合わせることで、これまでよりさらに質の高いサービスを提案できるようになったそうです。

5-4.サンフロンティア不動産によるホテル大佐渡の取得

佐渡島にサンフロンティア佐渡を設立し、交通インフラの整備や観光業・旅館業などによる地方創生に取り組んでいるサンフロンティア不動産は、島内にあるホテル大佐渡の株式を100%取得し買収しました。

この買収も地方創生策の一環として行われたものです。グループで以前より所有していた佐渡リゾート ホテル吾妻と連携し、運営していく計画を立てています。

6.専門家も活用してホテルM&Aを成功させよう

6.専門家も活用してホテルM&Aを成功させよう

ホテル業界が置かれている環境は厳しく、課題を抱えているケースも少なくありません。悪化した経営状況の改善や、長年働いている従業員の雇用を守るためにM&Aが役立ちます。

買い手にとっても、効率的な投資ができる可能性がある点や、新規参入のハードルが下がる点はM&Aのメリットです。ただし採用するスキームによっては複数の許認可の申請が必要な上、情報漏えいによってM&Aがうまくいかないリスクもあります。

スムーズにM&Aを実施するには、専門家の活用も検討しましょう。M&Aは税金も関わる取引のため、税理士への相談もポイントです。

税理士法人チェスターでは、相続事業承継のコンサルティングに特化した専門税理士が、お客様にとって最適な方法をご提案いたします。

事業承継コンサルティングなら税理士法人チェスター

その他の業界別×M&Aについては下記記事もご覧ください。

▼飲食店がM&Aで事業承継する方法。閉店コ…

▼居酒屋・飲食業界の動向とM&Aのメリット…

▼保育園のM&Aは可能?用いるスキームや手…

▼製造業のM&Aを成功させるポイントは?事…

▼医療法人のM&Aの特徴。手法の選び方、税…

▼介護業界のM&Aの動向と特徴。売却の方法…

▼建設業がM&Aを行うメリットは?成功のポ…

▼キャンプ場の経営を跡継ぎに任せたい!跡継ぎを探す三…

▼M&Aで調剤薬局の事業承継は可能?今後の…

▼金融業界でM&Aが行われる目的とは?最新…

▼出版社はM&Aで活路を見出せる?可能性と…

▼クリニックの後継者不足は事業承継で解決。使用できる…


事業承継・M&Aを検討の企業オーナー様は

事業承継やM&Aを検討されている場合は事業承継専門のプロの税理士にご相談されることをお勧め致します。

【お勧めな理由①】
公平中立な立場でオーナー様にとって最良な方法をご提案致します。
特定の商品へ誘導するようなことが無いため、安心してご相談頂けます。

【お勧めな理由②】
相続・事業承継専門のコンサルタントがオーナー様専用のフルオーダーメイドで事業対策プランをご提供します。税理士法人チェスターは創業より資産税専門の税理士事務所として活動をしており、資産税の知識や経験値、ノウハウは日本トップクラスと自負しております。

その実力が確かなのかご判断頂くためにも無料の初回面談でぜひ実感してください。
全国対応可能です。どのエリアの企業オーナー様も全力で最良なご提案をさせていただきます。

詳しくは事業承継対策のサービスページをご覧頂き、お気軽にお問い合わせください。

※この記事は専門家監修のもと慎重に執筆を行っておりますが、万が一記事内容に誤りがあり読者に損害が生じた場合でも当法人は一切責任を負いません。なお、ご指摘がある場合にはお手数おかけ致しますが、「お問合せフォーム→掲載記事に関するご指摘等」よりお問合せ下さい。但し、記事内容に関するご質問にはお答えできませんので予めご了承下さい。

【面談予約受付時間】
9時~20時(土日祝も対応可)