M&Aで独占交渉権を設定する効果とは。メリットと注意点を解説

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M&Aを行う際には、売り手と買い手候補との間で独占交渉権が設定される場合があります。設定されると、M&Aの交渉にどのような影響を及ぼすのでしょうか?独占交渉権の特徴に加え、設定の仕方を確認しましょう。売り手にとっての注意点も解説します。

1.M&Aにおける独占交渉権とは

1.M&Aにおける独占交渉権とは

独占交渉権を設定すると、売り手は一定期間、特定の買い手とのみ交渉します。法的拘束力を設ける場合もあるため、売り手が他の買い手と交渉すると、損害賠償請求されるかもしれません。似た権利である優先交渉権との違いも確認しましょう。

1-1.一定期間独占的にM&Aの交渉ができる権利

特定の買い手が売り手と独占的にM&Aの交渉を実施できる権利を、独占交渉権といいます。独占交渉権の認められている期間中は、他の買い手との交渉は一切禁止です。

売り手が他社と交渉するのを禁止する権利が設けられるのは、M&Aが売り手市場であることと関係しています。1社の売り手に多数の買い手候補が集まる場合も多く、ときには最終合意に至ってから、より好条件の買い手に横取りされるケースもあります。

他社に邪魔されることなくM&Aを進められる点で、買い手にとって役立つ条件が独占交渉権です。

1-2.法的拘束力を持たせるのが一般的

買い手との交渉が進み、売り手に対する詳細な調査であるデューデリジェンスを実施する場合、数十万~数百万円の費用が必要です。多額の費用をつぎ込んだにもかかわらず売り手が交渉を中止すれば、その費用は無駄になってしまうでしょう。

参考:M&Aにおけるデューデリジェンスの役割。調査項目や進め方を知る

買い手の損害を避けるため、独占交渉権には法的拘束力を持たせるのが一般的です。条件が魅力的だからと後から現れた別の買い手と交渉を始めれば、損害賠償や違約金を請求される可能性があります。

独占交渉権が設定されており、その条項に対して『第○条は法的拘束力を有する』という内容の条項が設けられているのであれば、法的拘束力のある状態です。

1-3.優先交渉権との違い

独占交渉権と似た権利に『優先交渉権』があります。ただし優先交渉権では、他の買い手との交渉を禁止できません。あくまでも優先的に交渉できるだけです。そのため、売り手は複数の買い手との交渉を並行して行えます。

買い手にとって、売り手が他社とも交渉できる状況は、デメリットといえるでしょう。売り手が他の買い手と交渉するのを禁止するには、損害賠償や違約金といったペナルティのある独占交渉権が適しています。

2.独占交渉権の設定方法

2.独占交渉権の設定方法

独占交渉権を設定するのは、基本合意書を締結するタイミングが一般的です。合意書内に条項を盛り込むことで、売り手は基本合意書を取り交わした買い手以外の者との交渉が禁止されます。また覚書の締結による設定も可能です。

2-1.基本合意書に記載し権利を付与

売り手と買い手の間で独占交渉権を設定する場合、専用の契約書は作成しません。一般的には基本合意書に条項を盛り込みます

基本合意書は、最初の交渉である程度合意した内容を文書にしたものです。合意した内容に食い違いはないか、確認する意味を持つ文書といえます。

最終的な契約書ではないため、基本合意書そのものに法的拘束力はありません。

2-2.基本合意書を結ぶタイミング

基本合意書を取り交わすタイミングは、売り手と買い手の意思決定者同士による『トップ面談』と『条件交渉』の後です。双方の希望について話し合い、交渉によって合意した点を明らかにした上で締結します。

このタイミングで独占交渉権を設定するのは、この後に買い手がデューデリジェンスを実施し、最終交渉に入るためです。このタイミングで売り手が他社と交渉を始めると、買い手は大きな損失を被る可能性があります。

そのため、基本合意書を作成するタイミングで、独占交渉権についても設定するのが一般的です。

参考:2-3.基本合意書の作成

2-3.覚書の締結でも代替が可能

一般的には基本合意書に盛り込まれる場合の多い独占交渉権ですが、ケースによっては基本合意書の作成と異なるタイミングで設定されることもあります。その場合に用いられるのが『覚書』です。

合意書はその名の通り、当事者同士がその時点で同意した内容を明文化した書類です。一方、覚書は契約内容が固まってきたタイミングで、その時点の合意内容を確認する目的や、契約内容の不備を補うために作成されます。

基本合意書を作るタイミングでは不要であっても、その後に独占交渉権が必要になるかもしれません。そのような場合は覚書の締結によって対応できます

3.独占交渉権の期間

3.独占交渉権の期間

M&Aの交渉を行っている全期間にわたり、独占交渉権が設定され続けるわけではありません。スケジュールに合わせ、適切な期間で設定されるのが一般的です。また必要があれば期間の延長もできます。

3-1.2〜3カ月程度が一般的

独占交渉権を設定する期間に特別な定めはありません。そのため売り手と買い手候補の間で合意すれば、自由に設定できます。長い期間にもできますが、長くなればなるほど売り手にとって不利な内容です。

一般的には『2~3カ月』で設定されるケースが多いでしょう。これは、デューデリジェンスから最終契約書の締結までに必要なおおよその期間と同程度です。

会社の規模や調査対象などによっては、もっと長い期間が必要かもしれない一方で、短い期間で十分なケースもあります。それぞれのスケジュールに適した期間を設定するのが重要です。

3-2.有効期限は延長も可能

基本合意書で独占交渉権の期間を設定していても、必要があれば延長できます。期限延長の可能性を想定し、基本合意書に売り手・買い手の合意で期限延長が可能という内容を記載しておくとスムーズでしょう。

期限延長について基本合意書に記載がない場合でも、売り手・買い手の双方が合意すれば延長は可能です。また延長する際には『延長覚書』を作成するケースもあります。

4.独占交渉権を与える注意点

4.独占交渉権を与える注意点

売り手にとって条件が悪くなる可能性のある独占交渉権は、慎重に設定しなければいけません。場合によっては『Fiduciary Out(フィデュシャリー・アウト)条項』の追加も必要です。

4-1.買い手側にメリットが大きい

独占交渉権を設定することでメリットを得られるのは買い手です。売り手は特定の買い手以外とは交渉できないため、魅力ある売り手企業を他者に横取りされる心配がなくなります。

一方で売り手は、独占交渉権によって得られる利益が小さくなるかもしれません。よりよい条件の買い手候補がいても一定期間は交渉できないため、デメリットが大きいでしょう

売り手は独占交渉権の設定によりどのような影響があるか考えた上で、慎重に設定を検討しなければいけません。

4-2.「Fiduciary Out条項」の追加も検討

独占交渉権のデメリットを抑えるには、『Fiduciary Out条項』を追加するとよいでしょう。独占交渉権を設定すると、経営者は会社法上の『善管注意義務』『忠実義務』と同時に、独占交渉権による契約上の義務を負います。

Fiduciary Out条項では、二つの義務が相反して同時に全うできない場合、会社法上の善管注意義務が優先されると定めるものです。経営者にとっての善管注意義務とは、法令や定款などを守り、会社の利益を最大化するよう忠実に職務を実行することです。

独占交渉権で定められている通り、特定の買い手とのみ交渉することで会社に不利益をもたらす場合、独占交渉権を放棄できます

5.独占交渉権の目的と効果を理解しよう

5.独占交渉権の目的と効果を理解しよう

M&Aで売り手と買い手候補が交渉するにあたり、独占交渉権が設定されるケースがあります。売り手に対し、特定の買い手以外の者との交渉を禁止する内容です。

基本合意書に盛り込まれる場合の多い独占交渉権は、買い手にとってはメリットとなりますが、売り手にとってはデメリットといえます

設定する上で、会社法上の善管注意義務と相反する場合には独占交渉権を放棄できるFiduciary Out条項の追加も含め、慎重に検討しましょう。

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