相続の時効取得について知っておきたいこと

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相続された不動産の所有権をめぐって時効取得が問題になるケースがあります。近年は、所有者不明の不動産を有効利用するために時効取得の手続きが取られるケースもあります。

この記事では、相続の時効取得について、時効が成立するための要件と注意しなければならないポイントをお伝えします。

1.相続の時効取得とは?

時効取得とは、他人の物(主に不動産)を一定期間占有していた時に、占有者に所有権が移ることをさします。時効が成立するためには一定の要件があり、さらに裁判で時効が成立することを主張する必要があります。

1-1.相続で時効取得が問題になる場合

相続で時効取得が問題になるのは、主に相続した土地が何代も前から登記されていなかった場合です。

相続人どうしで話し合って誰が不動産を相続するかを決めても、これまで相続登記には期限がなかったことから、相続登記をしないケースがありました。

しかし、将来、不動産を売却するときや担保に差し出すときには本人の名義で登記されている必要があり、亡くなった人の名義のままでは手続きができません。

相続登記では、相続人の全員の実印が押印された遺産分割協議書や相続人全員の戸籍謄本が必要になります。相続から時間が経っていなくて相続人が全員存命の間は大きな問題にはなりません。しかし、相続人が亡くなると相続人の子供に相続権が移り、さらに子供が亡くなると孫に相続権が移ります。孫やひ孫の代まで相続登記が放置されていると相続人が増えて、面識のない遠い親戚と交渉する必要もあります。

このように相続登記の手続きが困難な場合は、時効取得で所有権を明確にすることができます。

1-2.時効が成立するための要件

長期間にわたって不動産を占有したからといって、無条件に所有権が得られるわけではありません。時効の成立には次のような要件があります。

  • 所有の意思があること
  • 平穏かつ公然の占有であること
  • 他人の物を一定期間占有していること

これに加えて、時効が成立することを主張しなければなりません(時効の援用)。

所有の意思があること

時効の成立には、現に使用している(=占有している)不動産を自ら所有しているという意思が求められます。所有しているという意思をもって占有することを「自主占有」といいます。賃貸住宅のように借りているという認識で占有している場合(他主占有)では、時効は成立しません。また、他の相続人にも相続権があることを知りながら占有していた場合は、所有の意思は認められません。

平穏かつ公然の占有であること

脅迫や暴行によって占有したり、占有していることを秘密にしていたりする場合は、「平穏かつ公然」という要件には当てはまりません。

他人の物を一定期間占有していること

通常は20年間占有が継続されていることが要件となります。占有を始めたときに善意、無過失であった場合は、その期間が10年間に短縮されます。善意、無過失とは、簡単に言えば自分に所有権があると信じて疑わないことであり、その過程で過失がない状態をさします。

時効の援用

時効取得によって所有権を得るためには、他の相続人を相手にした訴訟を起こして、時効が成立することを主張します。

時効取得が成立する条件

2.相続の時効取得で注意しなければならないポイント

この章では、相続の時効取得で注意しなければならないポイントについてお伝えします。

2-1.時効取得でも登記は必要

相続の時効取得で不動産の所有権を得たとしても、不動産の登記上の名義が自動的に変わるわけではありません。

時効取得を主張する訴訟では、「被告は、原告に対し、別紙目録記載の土地につき、令和○○年○月○日時効取得を原因とする所有権移転登記手続をせよ」と命じる確定判決を受ける必要があります。

相続登記では相続人全員の同意が必要ですが、登記手続を命じる判決があれば、相続人全員の同意がなくても単独で登記することができます。このとき、登記の原因は「相続」ではなく「時効取得」となります。

2-2.相続税ではなく所得税の課税対象に

相続の時効取得で得た財産は相続税の課税対象になると考えがちですが、一時所得として所得税の課税対象になります。

一時所得は次の計算式で求められます。一時所得の1/2の金額が他の所得に合算され、所得税が課税されます。

一時所得の金額=時効取得した土地等の財産の価額(時価)-時効取得するための費用-特別控除額(最高50万円)
(課税対象となるのは一時所得の1/2の金額です)

参考:国税庁 タックスアンサー No.1493 土地等の財産を時効の援用により取得したとき

3.参考判例から考える相続の時効取得

亡くなった人の遺産は相続人の共有財産となります。しかし、一つの不動産について相続人全員が同時に占有するということはあまりなく、多くの場合は相続人の一人がその不動産を占有することになります。ただし、長期にわたって占有しているというだけで時効取得が認められるわけではありません。

「1-2.時効が成立するための要件」でお伝えしたように、時効の成立には(1)所有の意思があること、(2)平穏かつ公然の占有であること、(3)他人の物を一定期間占有していること、が必要です。過去の裁判では、主として所有の意思があったかどうかが争われています。

過去の判例では、次の事項を要件に自己占有(所有の意思をもって占有すること)が認められています(最高裁昭和47年9月8日)。同様の趣旨で時効取得を認めた判例もあります(最高裁平成8年11月12日)。

  • 相続人の一人が単独で相続したものと信じて疑わない
  • 不動産を現に占有している
  • 不動産から得られる収益を独占している
  • 不動産にかかる公租公課を負担している
  • 他の相続人がそのことについて異議を述べていない

4.具体的に相続の時効取得をする場合

ここまで、相続の時効取得について、時効が成立するための要件と手続きで気をつけるべき点についてお伝えしました。

単に長い期間土地を占有しているというだけでは、時効取得は認められません。時効取得を主張する場合は相続があってから10年または20年以上の期間が経過しているため、その間に相続人が増えて権利関係が複雑になることもあります。

相続の時効取得をお考えの場合は、時効取得の実務に詳しい弁護士や司法書士に相談することをおすすめします。

>>相続手続き専門の司法書士法人チェスター

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