未分割遺産があるときの相続税申告の注意点

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未分割遺産があるときの相続税申告の注意点

相続税の申告は通常、遺産分割を済ませてから行いますが、相続人どうしでもめている場合は遺産分割がなかなかできません。

遺産が未分割の場合は仮の計算で相続税を申告することができます。ただし、仮の計算で申告すると、遺産分割を済ませて申告する場合に比べて税額が不利になることがあります。

この記事では、未分割の遺産があるときの相続税申告の方法と、未分割で申告するときの問題点をご紹介します。

1.未分割遺産があるときは法定相続分で分割して相続税を申告

相続税の申告期限は、被相続人の死亡から10か月以内です。

この期限までに遺産分割ができない場合は、ひとまず民法の規定による法定相続分で遺産を分割したと仮定して申告します。

その後遺産分割が確定したときに、実際の遺産分割の割合で申告をやり直します。税額が増えて追加で納める場合は修正申告、税額が減って還付を受ける場合は更正の請求をします。

未分割で相続税申告を行う場合の対応

1-1.期日までに申告しなければならない理由

未分割の遺産があるときの相続税の申告は、申告期限までに仮の申告をして、後日修正申告(または更正の請求)をするため、二度手間になってしまいます。

二度手間になってでも期限までに申告しなければならない理由は、以下の二つがあげられます。

  • 申告期限は延長できない
    遺産が未分割であっても、原則として申告期限の延長はできません。制度上は、特殊な事情がある場合に延長が認められることになっていますが、単に相続人どうしでもめているだけでは延長は認められません。
  • 申告期限を過ぎると翌日から税額が加算される
    申告期限までに申告・納税しなかった場合は、翌日から延滞税と無申告加算税が課されます。延滞税は納税が遅れたことに対する課税で、無申告加算税は期日までに申告されなかったことに対する課税です。

1-2.遺産の一部が未分割の場合

遺産の一部が未分割の場合は、分割済みの遺産を含めた遺産の全体を法定相続分に応じて分割するように未分割の遺産を調整します(穴埋め方式)。

未分割の遺産だけを法定相続分で分割して分割済みの遺産に上乗せする考え方(積み上げ方式)もありますが、実務では上記の穴埋め方式が採用されています。

遺産の一部が未分割の場合の相続税申告について詳しい内容は、「積み上げ方式か穴埋め方式か~一部未分割の場合の相続税申告」を参照してください。

〇穴埋め方式〇
【穴埋め方式】分割済みの遺産含めて法定相続分に応じた分割になるように未分割遺産を調整する

〇積み上げ方式〇
【積み上げ方式】未分割の遺産を法定相続分に応じて分割する

2.未分割のまま相続税を申告するときの問題点

遺産分割ができていない状態で相続税を申告すると、遺産分割を済ませて申告する場合に比べて不利になることがあります。

ここでは、遺産が未分割のまま相続税を申告するときの問題点として、以下の五つをとりあげます。

  • 配偶者の税額軽減が受けられない
  • 小規模宅地等の特例が適用できない
  • 農地・非上場株式の納税猶予が受けられない
  • 物納ができない
  • 遺産を納税に充てることができない

2-1.配偶者の税額軽減が受けられない

相続税の配偶者の税額軽減は、相続した財産が法定相続分以下、あるいは1億6,000万円以下である配偶者には相続税がかからないという特例です。

遺産が未分割のままでは、配偶者の税額軽減を受けることができません。ただし、遺産の一部だけが未分割の場合は、分割済みの部分については税額軽減を受けることができます。

期限内の申告のときに「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出すれば、後日遺産分割が決まったときに税額軽減を受けることができます。

配偶者の税額軽減については、「1億6,000万円までなら配偶者の税額軽減で相続税が無税になる!」を参照してください。申告期限までに遺産分割が間に合わない場合の対処法についても詳しく説明しています。

2-2.小規模宅地等の特例が適用できない

小規模宅地等の特例では、相続財産のうち居住や事業のために使っていた宅地について、評価額を最大80%引き下げることができます。

相続財産の評価額を引き下げることで大幅な節税ができる制度ですが、この特例も遺産が未分割のままでは適用することができません。

配偶者の税額軽減と同様に、期限内の申告で「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出すれば、後日特例を適用することができます。

小規模宅地等の特例については、下記の記事で詳しく解説しています。

『特定居住用宅地等』(小規模宅地等の特例)とは。相続税専門税理士が詳しく解説!
賃貸不動産は相続税が下がる!貸付事業用宅地等に該当する場合の小規模宅地等の特例

2-3.農地・非上場株式の納税猶予が受けられない

農地・非上場株式の納税猶予は、相続税の納税によって農業や事業の継続が困難になることを防ぐための制度です。

農地の納税猶予の特例では、農地を相続して農業を継続するとき、一定の要件のもとで農地にかかる相続税の納税が大部分猶予されます。

非上場株式の納税猶予では、非上場株式(オーナー企業の株式)を相続して事業を継続するとき、一定の要件のもとで非上場株式にかかる相続税の納税が猶予されます。

これらの制度では、遺産が未分割のままでは納税の猶予を受けることができません。また、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出して後から猶予を受けることもできません。

農地・非上場株式の納税猶予については、それぞれ下記の記事を参照してください。

農地の納税猶予の特例を税理士が徹底解説
「事業承継税制(相続税の納税猶予)」を簡潔に分かりやすく解説!

2-4.物納ができない

相続税は現金で一括して納めることが原則ですが、延納をしてもなお現金で納めることが困難な場合は、一定の要件のもとで相続財産による物納が認められます。

ただし、未分割の相続財産は物納することができません。所有権が確定しておらず、物納の要件の一つである「管理処分不適格財産に該当しないもの」を満たさないからです。

どうしても物納せざるを得ない場合は、少なくとも物納する財産だけでも遺産分割を済ませておく必要があります。

(参考)国税庁 相続税の物納手続(平成18年度改正事項)に関するQ&A
問6 相続財産の協議分割が終わっていないのですが、このままの状態で物納は認められるのでしょうか。

2-5.遺産を納税に充てることができない

遺産が未分割のままで相続税を申告する場合は法定相続分で仮の申告をしますが、そのときに相続税を納めなければなりません。税額を軽減する特例が適用できないため、多額の納税資金が必要になります。

しかし、遺産分割ができていなければ預金を引き出すことができず、預金や不動産を担保に納税資金を借りることもできません。そのため、手持ちの資金から相続税を納税しなければなりません。

納税資金が不足する場合は、遺産分割前の預金を引き出すことができる「仮払い制度」を利用することができます。ただし、相続人ごとに引き出せる金額の割合が定められているうえ、同一金融機関からの引き出しは150万円が上限となっています。

3.「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出した場合の手続き

遺産が未分割のまま相続税を申告するときに「申告期限後3年以内の分割見込書」(分割見込書)を提出すれば、一部の特例は後日遺産分割が確定したときに適用することができます。対象となる特例は次の四つです。

  • 配偶者の税額軽減
  • 小規模宅地等の特例
  • 特定計画山林についての相続税の課税価格の計算の特例
  • 特定事業用資産についての相続税の課税価格の計算の特例

分割見込書を提出しておくと、申告期限から3年以内であれば、遺産分割をしたときに修正申告または更正の請求で特例を適用することができます。更正の請求の期限は、遺産分割をした日の翌日から4か月以内です。

遺産分割をめぐって訴訟などが起こされている場合や、遺言で一定期間の遺産分割が禁止されているような場合では、期限をさらに延長することができます。

期限を延長するには、申告期限から3年を経過した日の翌日から2か月以内に、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を税務署に提出します。

遺産分割できない事由が解消すれば4か月以内に遺産分割を行い、修正申告または更正の請求で特例を適用することができます。この場合も更正の請求の期限は、遺産分割をした日の翌日から4か月以内です。

やむを得ない事由で遺産分割ができない場合に特例が適用可能な期間

4.未分割の遺産から得られる不動産所得はどのように申告するか

相続財産のうちアパートなどの賃貸物件が未分割の場合は、賃貸物件から得られる不動産所得をどのように申告するかも問題になります。

遺産分割が確定するまでは、相続財産は相続人全員の共有となります。そのため、未分割の賃貸物件から得られる不動産所得は、相続人全員が法定相続分で分け合うことになります。

便宜上、特定の相続人が収益を管理していたとしても、不動産所得に関する所得税は相続人の全員が申告しなければなりません。

また、後日遺産分割を行って法定相続分とは異なる割合で賃貸物件を相続することになったとしても、不動産所得の申告をさかのぼって修正することはできません。

5.未分割での相続税申告は税理士に

相続税の申告期限までに遺産分割ができない未分割の状態であれば、ひとまず法定相続分で遺産分割したことにして申告し、分割が決まった後に修正申告や更正の請求を行います。

つまり、実質2回分の申告を行わなければならないということです。

その他の相続手続きを行い、遺産分割協議を続けながら、2回の申告をミスなく行うということは負担の大きな作業となります。

未分割での申告が避けられない場合には、相続税申告を税理士に依頼すると良いでしょう。実質2回分の申告が必要になるためその分費用は少し増すかもしれませんが、事前に手続きすることで適用出来る可能性のある配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を確実に適用するためにも税理士に任せると安心です。

相続税専門の税理士法人チェスターは、未分割での申告実績も多数ございます。
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【参考URL】
国税庁-No.4208 相続財産が分割されていないときの申告
国税庁-[手続名]遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請手続

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