小規模宅地等の特例の「同居要件」とは? 住民票を移すだけではNG・単身赴任はOK
タグ: #小規模宅地等の特例, #相続税評価相続税の小規模宅地等の特例は節税効果が大きいので、使えるのであればぜひ使いたい特例です。自宅の敷地に適用する場合は、宅地を相続する人が「配偶者」、「同居していた親族」、「持ち家のない親族」であることが必要です。
ここでは「同居していた親族」が相続する場合に着目して、どのような場合に同居していたと認められるのか、さまざまな例をもとにチェックします。
亡くなった被相続人と相続人が同じ家に住んでいたのでなければ、小規模宅地等の特例は適用できないと思われるかもしれません。しかし、老人ホームへの入居や単身赴任など一定の事情があれば同居していたと認められ、小規模宅地等の特例が適用できます。
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1.小規模宅地等の特例の適用に必要な「同居」とはどのような状態をいうか
小規模宅地等の特例は、自宅や事業用の宅地を相続したときに一定の要件のもとで相続税評価額を減額できる制度です。
亡くなった被相続人等が居住していた宅地(特定居住用宅地等)に適用する場合は、330㎡を上限に評価額を80%減額することができます。ただし、宅地を相続する人が「配偶者」、「同居していた親族」、「持ち家のない親族」のいずれかであることが必要です。
「同居していた親族」が相続する場合は、さらに以下の要件を両方満たす必要があります。
- 居住継続要件:被相続人が亡くなる前から相続税の申告期限まで引き続きそこに居住すること
- 保有継続要件:その宅地等を相続税の申告期限まで保有していること
(相続税の申告期限とは、通常、被相続人が亡くなった日の翌日から10か月以内です)
なお、配偶者が相続する場合はこれらの要件はありません。持ち家のない親族が相続する場合は、被相続人に配偶者や同居の相続人がいないなど、さまざまな要件があります。
特定居住用宅地等の小規模宅地等の特例についての詳しい内容は、「『特定居住用宅地等』(小規模宅地等の特例)とは。相続税専門税理士が詳しく解説!」を参照してください。
2.こんな場合は同居と認められる? ケース別に解説
被相続人と同居していた親族が宅地を相続して小規模宅地等の特例を適用する場合は、どのような場合に同居と認められるのかがポイントになります。
同居とは被相続人と親族が同じ家で寝食を共にしていることをいいますが、同居していたかどうかは以下の4つの観点から判断します。
- 日常の生活の状況
- 家へ入居した目的
- 家の構造や設備の状況
- 親族が他に生活の拠点となる家を持っているかどうか
同居と認められるかどうかで相続税が大きく変わることになるため、判断の基準を知っておくことは重要です。思い込みで判断してしまうと、小規模宅地等の特例が適用できずに後で多額の税金を追徴される可能性もあるので十分に注意しましょう。
この章では、親と子供のさまざまな生活状況について同居と認められるかどうかをチェックします。よくあるケースを網羅しているので参考にしてください。
以下の具体例では、被相続人と相続人の関係をイメージしやすいように、「被相続人=親」、「相続人=子供」と置き換えて解説します。
2-1.【OK】親と子供が一つの家で寝食を共にしていた
親と子供が一つの家で寝食を共にしていたケースでは、問題なく同居していたと認められます。
2-2.【NG】平日は別居していて週末に子供が親元に帰る
この場合、親と子供は一週間の大半を別々に過ごしていて、生活の拠点も別々になっていると考えられます。親と子供の生活の拠点が別々であれば、たまに子供が親元に帰ったとしても同居していたことにはなりません。
ただし、もともと親子が同居していて子供の単身赴任で別居することになった場合は、次項でお伝えするように同居していたと認められます。
2-3.【OK】親と同居していた子供が家族を残して単身赴任した
この場合は、親と子供は一週間の大半を別々に過ごしているものの、家族を残していることから、子供は赴任が終わると帰ってくることが見込まれます。そのため、子供の生活の拠点は引き続き親元にあると考えられ、同居していたと認められます。
2-4.【場合によってNG】親と同居していた子供が親の死亡後に転勤した
親と同居していた子供が親の死亡後に転勤した場合は、同居要件は満たしています。親が死亡した時点では、一つの家で寝食を共にしていたからです。
ただし、同居の子供が自宅に小規模宅地等の特例を適用するときは、相続税の申告期限までその自宅に居住していなければなりません。この居住継続要件を満たすかどうかで、小規模宅地等の特例を適用できるかどうかが変わります。
- 申告期限までに家族を伴って転居した場合:居住継続要件を満たしていないため小規模宅地等の特例は適用できません。
- 家族を残して単身赴任した場合:生活の拠点が引き続き相続した自宅にあるため小規模宅地等の特例が適用できます。
2-5.【場合によってNG】親と子供が二世帯住宅に住んでいる
二世帯住宅は、親と子供の両方の世帯のプライバシーを保ちながら同じ家で暮らすことができる利点があります。かつては、世帯ごとの区画が完全に分離されているなど同居要件を満たさない場合もありましたが、平成26年以降は二世帯住宅の構造については問われなくなっています。
二世帯住宅で同居要件を満たすかどうかは、住宅の構造よりもどのように登記されているかで判断されます。
- 共有登記:同居要件を満たす
- 区分所有登記:同居要件を満たさない
共有登記とは、一棟の建物について割合を定めて複数人で共有する形態の登記です。区分所有登記とは、一棟の建物を複数の区分に区切る形態の登記です。二世帯住宅を区分所有登記していた場合は、親と子供が同じ家に住んでいたとしても同居していたとは認められません。
2-6.【OK】子供と同居していた親が老人ホームに入居した
親に介護が必要になって老人ホームなど介護施設に入居した場合も、自宅は小規模宅地等の特例の対象になります。
親と同居していた子供が引き続きその家に住んでいれば同居要件を満たします。一方、親と子供が別々に暮らしていて、親が老人ホームに入居するのと入れ替わりで子供が親の自宅に住み始めた場合は、同居していたことにはなりません。
このほか、空いた自宅を賃貸に出すなど他の用途に利用した場合は、特定居住用宅地等の小規模宅地等の特例は適用できません。
親が老人ホームに入居した場合の小規模宅地等の特例については、「要注意!老人ホームへの入居で小規模宅地の特例が使用できない場合も」も参照してください。
2-7.【NG】子供が自宅に家族を残して泊まり込みで親を介護していた
子供と親は別々に暮らしていたものの、親に介護が必要になって子供が一人で親の家に泊まり込んでいた場合では、同居していたとは認められません。
子供が自宅に家族を残している以上、生活の拠点は家族がいる自宅にあると考えられます。このケースは介護のために一時的に親と暮らしていたにすぎず、親と生活の拠点が同じであったとは認められません。
2-8.【NG】子供がとりあえず住民票だけを親の住所に移した
親と子供が同居するといっても、生活環境が大きく変わることから、相続税対策のためだけに実行することは困難です。そこで、子供が住民票を移して、形式的にでも同居要件を満たしておこうという考えが浮かんできます。
しかし、子供が住民票を親の住所に移したとしても、実際に転居して寝食を共にしていないのであれば同居していたとは認められません。
住民票を移してさえいれば、生活の実態までは問われないのではないかと思われますが、税務署は郵便物の配達状況や水道光熱費を誰が負担していたかなど、日常の生活の状況を丹念に調べます。
3.小規模宅地等の特例を使った相続税対策や申告は税理士に相談しよう
小規模宅地等の特例を適用するときの同居要件では、相続人の生活の実態がどのようであったかが問われます。単身赴任や老人ホームへの入所などの事情がある場合は同居していたと認められます。一方、一時的に一緒に暮らしていた場合や住民票だけ移すなど表面的な対策では同居と認められないので注意しましょう。小規模宅地等の特例を適用するためにどのようにすればよいかについては、相続税専門の税理士に相談するとよいでしょう。
また、小規模宅地等の特例を適用して相続税申告をする場合も同様です。小規模宅地等の特例は税額へのインパクトが大きいため、適用できるはずの特例を適用しなかったり、逆に適用できないのに適用した税額で申告してしまうと、過大申告や税務調査に繋がって余分な税金を払うことになってしまいます。小規模宅地等の特例を適用できるか微妙なケースでは、税理士に依頼した方が確実といえるでしょう。
年間2,373件以上の相続税申告実績がある税理士法人チェスターでは、ほとんどの相続税申告で土地の相続税評価を行っており小規模宅地等の特例の適用可否の検討も必ず行っております。
相続税申告プランのほかに生前の相続対策プランもご用意しておりますので、相続税申告や対策で小規模宅地等の特例を検討されている方はお気軽にご相談ください。
>>小規模宅地等の特例は適用できるか必ず検討します!相続税申告プラン
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