合併公告の義務と官報掲載の流れ。公告や個別の通知は省略できる?

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合併公告は、企業が合併を実施するときにその内容を広く知らせるために行うものです。企業には多くの関係者がいます。特に債権者や株主など、合併による影響を受ける人の権利保護に公告は欠かせません。公告が必要なケースやその手続きを解説します。

1.合併についておさらい

合併についておさらい

M&Aや組織再編の手法として知られている合併とは、二つ以上の企業を統合させることです。合併公告について理解するために、まずは合併の種類や経営統合との違いを確認しましょう。

1-1.吸収合併、新設合併とは

複数の会社を一つに統合する合併には『吸収合併』と『新設合併』の2種類があります。吸収合併は合併する全ての会社のうち、1社のみを残しほかは消滅する方法です。

消滅会社の事業や権利義務は、存続する会社が引き継ぎます。一方、新設合併は事業や権利義務を引き継ぐ会社を新しく設立し、合併する全ての会社を消滅させるのが特徴です。

新設合併は新しく会社を立ち上げる性質上、事業に必要な許認可を取得し直さなければいけません。吸収合併と比較して手続きが複雑になりやすいため、実際に行われている合併は吸収合併がほとんどです。

1-2.簡易合併、略式合併とは

多数の株主がいて合併を進めにくい場合に役立つのが『簡易合併』や『略式合併』です。それぞれ特定の要件を満たすことで、株主総会での議決を省略できます。

簡易合併を行うには、消滅会社の株主に交付する株式以外の財産が、存続会社の純資産額の20%より小さい必要があります。ただし交付するのが譲渡制限株式で、存続会社が非公開会社のときには、要件を満たしていても実施できません。

略式合併では、存続会社が消滅会社の特別支配会社になっていることが要件です。消滅会社の議決権の90%以上を存続会社が保有していれば実施できます。

議決権の90%以上を保有していれば、株主総会を開催してもしなくても結果は変わらないためです。

1-3.合併と経営統合は何が違う?

『合併』も『経営統合』も同じように組織再編の手法として用いられます。経営統合では新設の持株会社を設立し、統合する会社は全て新設会社の子会社となる仕組みです。

統合した全ての会社の株式を1社に集めることで、経営を一体化します。会社を新設する点は新設合併と似ていますが、統合した会社が存続するのは異なる点です。会社の法人格がそのまま残るため、統合後も従来のシステムのまま運営できます。

2.合併の際は公告を出す義務がある

合併の際は公告を出す義務がある

企業の体制ががらりと変わる合併では、債権者に大きな影響を与える可能性があります。そのため実施するときには、必ず『公告』を出さなければいけません。会社が負う公告の義務について解説します。

2-1.官報公告と個別通知を行う

合併をするときに行わなければいけないのは『官報公告』です。官報公告とは国立印刷局が発行している国の機関紙『官報』へ掲載する公告を指します。

あわせて会社が知っている債権者へは『個別通知』も欠かせません。二つの方法で広く合併の事実を知らせなかった場合や、知らせても内容に不正があった場合には、100万円以下の過料を科される可能性があります。

さらに不正な公告で第三者が損害を被ると、会社や役員は損害賠償責任を負うケースもあるため注意しなければいけません。正しい情報による官報公告と個別通知が必須です。

2-2.最終の貸借対照表の開示も行う

公告をするときには、最終の『貸借対照表』も開示しなければいけません。公開企業はもちろん、非公開企業も同様です。ただし記載が必要な項目は異なります。

大企業以外の非公開会社であれば『資産の部』『負債および純資産の部』『株式資本』『評価・換算差額』が必要です。同じ大企業以外の会社でも、公開企業では『固定資産やその他の資産』も公告します。

また大企業は公開・非公開に関係なく、貸借対照表と損益計算書の全ての情報を記載しなければいけません。

2-3.債権者に大きな影響を与えるため

内容を正しく知らせることが義務付けられていたり、貸借対照表を開示する決まりになったりしているのは『債権者保護』の目的があるからです。合併すると債権者はリスクを負わされます。

例えば融資先の会社が経営状況の悪い会社と合併した場合、債権の回収ができないかもしれません。債権回収が難しくなるなら、異議申し立てをしたいと考える債権者もいるでしょう。

そこで債権者保護手続きにより、異議申し立ての機会を設ける仕組みです。会社が把握していない債権者への対策としても行われます。

官報公告で『一定期間内に申し出がない場合には清算から除斥される』としておけば、スムーズに清算を終わらせられるでしょう。

3.官報以外の公告方法

官報以外の公告方法

一般に広く知らせるために実施する公告は、官報のほかに『ウェブサイト』や『日刊新聞』でも掲載できます。2種類の公告は合併公告でも利用できるのでしょうか?

3-1.自社のウェブサイトに掲載する電子公告

インターネットの広まりによって、自社のウェブサイトへ公告を掲載する『電子公告』が認められています。利害関係者は官報や日刊新聞紙を見なくても、インターネット上で公告を確認できる仕組みです。

『法務省電子公告システム』を利用すれば、公告を掲載している会社の検索もできます。会社の公告を電子公告で行うには、あらかじめ定款にその旨を記載しておかなければいけません。

ただし定款に記載があったとしても、合併する際の債権者保護公告では官報公告が必須です。

法務省電子公告システム

3-1-1.電子公告の例

電子公告で合併公告を掲載する場合には、合併をする旨のほか、合併する日を意味する効力発生日・株主総会の承認決議の日・異議申し立ての期日を記載します

あわせて最終の貸借対照表を確認できるURLや、公告が記載されている官報の情報も載せましょう。債権者に必要な情報を記し、法定最低公告期間の1カ月間はいつでも見られる状態にしておかなければいけません。

3-2.日刊新聞紙による公告も可能

『日刊新聞紙』でも公告できます。全国紙はもちろん地方紙も可能ですが、スポーツ新聞や企業内新聞では公告として認められません。

掲載費用は官報と比べて高額で、日本経済新聞全国版なら50万~数百万円といわれています。コストがかかるため、公告方法として採用している企業はごく少数です。

合併公告を掲載するときには、電子公告と同様で官報公告とあわせて実施します。

4.債権者への個別催告

債権者への個別催告

定款の内容次第では、官報公告とともに債権者への『個別催告』が必要です。一般的な個別催告の方法や、個別催告を省略できる条件を紹介します。

4-1.一般的には書面で個別に郵送する

公告を官報で実施すると定めている会社の場合、合併をするときには債権者への個別催告が欠かせません。公告を書面にし『郵送』するのが一般的な方法です。

書面を作成するための費用に加え、郵送料もかかります。債権者の数が多い企業の場合には、まとまった費用がかかるかもしれません。

4-2.省略できるかは定款による

個別催告を省略できるのは、定款で公告媒体をウェブサイトや日刊新聞紙と規定している会社です。『官報公告+電子公告』もしくは『官報公告+日刊新聞紙』の組み合わせで、個別催告は不要になります。

債権者が多く個別催告に費用がかかる会社では、定款を変更するとよいかもしれません。公告媒体を電子公告や日刊新聞紙と規定することで、個別催告を省略する方法です。

ただし公告方法の変更は必ず合併公告前に実施し、変更登記申請もしなければいけません。また定款の変更が効力を発揮するには、株主総会の特別決議が必要です。

5.公告を出す時期と期間

公告を出す時期と期間

公告は掲載の仕方はもちろん、掲載し始める時期や期間も、決められています。申し込みをしてから実際に掲載されるまで時間がかかる点にも注意して、スケジュールを組むことが大切です。

5-1.合併の効力発生日の1カ月以上前

合併公告は、法律で定められている時期や期間に沿って公開しなければいけません。吸収合併では『効力発生日の1カ月以上前』までの公告が定められています。

新設合併では『1カ月以上の債権者異議申立期間』を設けるルールです。合併の効力発生日が9月15日なら、8月15日には掲載を開始します。

1カ月は月の日数の違いを考慮しません。1カ月間の日数が少ない2月に公告を掲載しても、翌月の同日には掲載終了日を迎えます。

5-2.申し込みから掲載まで数週間かかる場合も

官報公告は申し込んですぐに掲載されるわけではありません。公告の種類や文面・原稿料で異なりますが、早くても1週間ほどはかかり、場合によっては数週間かかることもあり得ます。

そこで『官報公告申し込み日程の目安』で、掲載日を確認しましょう。効力発生日に合わせ、必要な掲載期間を確実に確保するのに役立つはずです。

官報公告申し込み日程の目安

6.合併公告に掲載する内容

合併公告に掲載する内容

単に公告を掲載しただけでは、合併公告をしたことにはなりません。定められた掲載内容を満たす必要があります。効力発生日に変更が生じた場合の対処法も確認しましょう。

6-1.存続や解散について、日付、住所など

合併公告には会社の存続や解散について掲載します。吸収合併の消滅会社が出す公告なら『権利義務を承継させ解散することとなりました』、存続会社なら『権利義務を全て承継することにいたしました』という内容です。

連名で公告を出すなら『合併し甲は乙の権利義務を承継して存続し、乙は解散することにいたしました』とすればいいでしょう。新設合併では、新しく作る存続会社の名称や住所も記載します。

さらに合併の効力が生じる日付や、債権者の異議申立期間についても明示しましょう。貸借対照表の掲載やその後の保存も必要です。貸借対照表を始め計算書類は、作成から10年間保存しなければいけません。

消滅会社の書類は、一般的に存続会社が保存を引き継ぎます。

6-2.効力発生日変更の場合

スケジュールを調整する中で、合併公告を掲載した後に効力発生日が変更になるケースもあるでしょう。そのようなときには、変更後の効力発生日を別途公告するよう定められています。

『当法人は〇年〇月〇日を予定していた吸収合併の効力を、△年△月△日に変更いたしましたので公告します。』という内容での掲載が必要です。追加で官報公告を出すため、その分の費用もかかります。

7.株主に対する公告

株主に対する公告

ここまでは債権者に対して行う公告について解説しました。会社の利害関係者には、株式を保有している株主も含まれます。合併すれば株主にも影響が出るため、当然株主に対しても合併に関する通知が必要です。

7-1.反対株主、株式買取請求について

株主の中には、会社の合併に反対する『反対株主』もいるでしょう。反対株主は会社に対して『株式買取請求権』があります。会社が存続会社であっても消滅会社であっても、株主であれば持っている権利です。

会社は株主が持つ権利を正当に行使できるよう、効力発生の20日前までに合併について知らせます。基本は通知で行いますが、公開会社や株主総会で合併契約の承認を受けた場合には、公告により通知を省略可能です。

公告の文面に、債権者へ向けた内容をあわせて記載しても構いません。株主は通知や公告を受け、株式買取請求をするなら期限内に必要な手続きを取ります。

7-2.吸収合併消滅会社で公告が必要なケース

合併で特に大きな影響を受けるのは、吸収合併消滅会社の株主です。大きな変化により影響を受けるときには、公告によって事前に知らせなければいけません。

例えば株主の持つ合併前の株式の代わりに、合併後の会社の株式が発行されるケースです。消滅会社の株主には、資産が変化しないよう合併後の会社の株式が交付される決まりです。

等しい資産になるよう交付されるため、株式の価値自体に変化はありません。しかし株価が異なれば、保有する株式数は減少する可能性があります。

株式を保有する割合が低下するため、合併前には株主総会で一定の発言力を持っていた株主でも、合併後には発言力が低下するかもしれない状態です。

7-3.株券等提出公告に記載する内容

株券や新株予約権証券・新株予約権付社債券を発行している消滅会社は、期日までにこれらの回収を行います。そこで『株券等提出公告』の掲載が必要です

公告で知らせる内容は『合併により解散すること』『株券を提出してほしいこと』『株券提出日』『会社情報(社名・代表者名・住所)』です。

ただし株券発行会社とされていても、実際には株券等を発行していないケースもあります。その場合には公告掲載の必要はありません。

8.公告掲載を申し込む方法

公告掲載を申し込む方法

官報公告へ掲載を申し込むには、取次店への依頼が必要です。流れや費用などを把握しておくと、比較的スムーズに手続きを進められるでしょう。

8-1.取次店に依頼する

会社が官報に公告を掲載する際、一般的には『取次店』へ依頼します。取次店であれば、料金は全国一律のため、どこへ依頼しても金額は同じです。

このとき掲載する公告は自社で作成できます。ただし自社で作成した結果、掲載後に間違いが発覚すると、訂正公告が必要になるかもしれません。追加で費用が発生する可能性があるため、専門家へ依頼すると安心です。

合併公告の原稿は、合併登記を行う法律事務所で、登記の依頼に含めて頼めるケースもあります。

8-2.申し込みの流れ

取次店へ申し込むときには、まず原稿を作成し提出しましょう。インターネット・FAX・郵送・来店での提出が可能です。原稿を受け取った取次店からは、掲載日や原稿の内容について連絡がきます。

その後校正紙の作成に入り、仕上がったら送られてくるため、誤字脱字などをチェックしましょう。校正が完了したら取次店へ戻し、官報へ掲載されます。

8-3.公告を出すのにかかる費用

官報公告を出すには費用がかかります。会社関係の各種公告は、1行3,589円(税込)です。例えば23行で掲載した場合には、8万2,553円(税込)かかります。

掲載されるときに枠が付くタイプなら、1枠3万7,165円(税込)です。6枠で掲載する場合には22万2,994円(税込)の費用が発生します。

9.法令、公告方法を確認しスケジュール設定を

法令、公告方法を確認しスケジュール設定を

合併公告は会社が合併するときに、一般へ広く知らせるために行われるものです。合併により会社の体制が大きく変わると、債権者や株主へ影響が及びます。

影響を考慮し、債権者には保護手続きが、株主には株式買取請求権が認められています。ただしこれらの手続きには、決められた期間内に債権者や株主からの申し出が必要です。

債権者には効力発生日の1カ月前まで、株主には20日前までの通知が定められています。法令や公告の手順などを確認し、期日に間に合うようスケジュールを組みましょう。

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