営業譲渡はどんなときに行われるのか。従業員や取引先に関する注意点

営業譲渡が行われるのは、個人が事業を引き継ぐときです。手続き自体は事業譲渡ととてもよく似ていますが、適用される法律が異なるため、違う名称を用います。営業譲渡でスムーズに事業承継するには、どのような点に注意が必要なのでしょうか?

1.営業譲渡は事業譲渡と何が違うの?

営業譲渡は事業譲渡と何が違うの?

営業譲渡は事業譲渡とよく似ています。異なるのは法人同士の取引か、個人との取引かという点です。どのような理由で違いが生じるのか確認しましょう。

1-1.手続きは事業譲渡と似ている

事業にはさまざまな資産や負債があります。例えば事業に必要な設備機器や店舗・事務所・在庫など目に見えるものはもちろん、ノウハウ・販路・顧客・従業員なども重要な資産です。

負債は金融機関からの借入金といった帳簿で確認できるもののほか、未払残業代のように帳簿に記載されていないものもあります。営業譲渡はこれらの資産や負債の中から、引き継ぐものを当事者間で自由に決められる手法です。

実際に行う手続きは、事業譲渡と非常によく似ています。

1-2.譲受人が個人の場合に使われる

事業譲渡との違いは、事業を引き継ぐ譲受人が『個人』である点です。法人同士の取引には『会社法』が適用されます。会社法上では、事業単位で譲渡する取引を事業譲渡と定めています。

以前は会社法上でも事業譲渡ではなく営業譲渡と呼ばれていましたが、2006年の改正に伴い、事業譲渡と改められました。一方、個人との取引は『商法』の対象範囲です。そのため事業を譲渡する取引は営業譲渡と呼ばれます。

両者は名称が異なりますが、手続き自体はほぼ変わりません。適用される法律によって、異なる名称を使い分けていると考えるとよいでしょう。

1-2-1.会社法と商法の違い

事業に関わる法律は『会社法』と『商法』が代表的です。会社法では、会社の設立・組織・運営・管理などに関する項目が定められています。

商法で定められているのは、個人で事業を行う商人の営業や商行為などについての決まりです。そのため事業を承継するのが法人であれば会社法が、個人であれば商法が適用されます。

2.事業を買う目的とは

事業を買う目的とは

「起業したい」「優秀な人材を確保したい」と考えたとき、事業を買うという方法を選ぶケースが増えています。自力で事業を始めたり、人材を採用したりするのと比較して、大きなメリットがある方法です。

2-1.起業したい

一から事業を始めるのは大変なことです。必要な設備や環境を一通りそろえる必要に加え、販路の開拓も欠かせません。仕組みがまったくできていないため、マニュアルを整備し、作業のサイクルを固める必要もあります。

そのため最初の数年は、収益を上げるどころか赤字続きであるのが通常です。結果に結びつかないときには、撤退しなければいけないかもしれません。

事業を買う場合、必要なものは全てそろっている状態で始められます。設備はもちろん人材やノウハウもあるため、初月から黒字を実現できる可能性も十分です。リスクを最小限に抑えつつ、やりたい事業へ挑戦できます。

2-2.人材やノウハウを獲得したい

事業を成功させるには、優秀な人材が必要です。しかし優秀な人材を採用したり、採用した人材を育て上げたりするのは、簡単にできることではありません。

優秀な人材の獲得競争は激しいため、大手企業の資金力に負ける可能性が高いでしょう。育成するにしても一定の時間が必要です。しかし事業を買い従業員の雇用も引き継げば、経験豊富な人材をそのまま雇えます

事業を引き継ぐときの対象にはノウハウも含まれます。事業をスムーズに回すために必要なノウハウを確立するには、長い年月がかかるものです。事業を買い取れば、ノウハウの獲得までに必要な時間を短縮できます。

3.営業譲渡が行われるケース

営業譲渡が行われるケース

営業譲渡が行われるのは、引き継ぎを希望しない負債がある場合や、個人事業の売買をするときです。それぞれのケースでなぜ営業譲渡のスキームが役立つのか、理由を解説します。

3-1.負債がある場合

負債がある事業は買い手が見つかりにくいでしょう。そこで営業譲渡を用います。営業譲渡では事業の中で必要な部分だけを選択的に引き継ぎできるため、不要な負債を除いて承継できるからです。

『多額の借入金がある』『簿外債務がある』『買い手にとって不要な資産や負債がある』というケースでも、スムーズな取引が期待できます。

売り手にとってはスピーディーに承継できる可能性があり、買い手にとっては不要なものを引き継がずに済むメリットのある方法です。

3-2.個人事業の売買

個人事業を売買するときにも営業譲渡が用いられます。個人事業とは、法人を設立せず、個人事業主として事業を行う形態です。開業届を税務署へ提出すれば必要な手続きは完了します。

ただし個人事業では株式を発行しません。そのため株式譲渡や会社分割といった手法での売買は不可能です。そこで営業譲渡により事業を売買します。

4.事業を売るメリット

事業を売るメリット

事業を売却し第三者に承継してもらう方法は、売り手にとってメリットのある方法です。例えば後継者問題の解消や、一部の事業を売却できる点が挙げられます。

4-1.後継者を見つけられる

事業を行う人にとって『後継者』の不在はとても大きな問題です。経営者の高齢化と社会全体の少子化が進行している結果、後継者がいない中小企業は増えています。

引退を考える年齢の経営者でも、後継者が未定のケースは少なくありません。事業が黒字だったとしても、後継者がいなければ廃業に追い込まれてしまいます。大切に営んでいた事業を終わらせなくてはならない事態です。

営業譲渡によって売却できれば、事業を引き継いでもらえます。加えて譲渡の対価を受け取れるため『利益』を得られるのも魅力です。

4-2.「一部の事業を売りたい」も可能

営んでいる事業のうち、一部の事業だけを売却したいというケースもあるでしょう。営業譲渡であれば、このようなニーズにも応えられます。

例えば主要な事業に集中するために、採算の取れていない事業を切り離し売却するといったケースです。この方法を取ると、主力事業に資金や人材を集中させられます。営業譲渡で受け取った所得も、主力事業の成長に役立てられるでしょう。

5.売り手が行う営業譲渡の準備

売り手が行う営業譲渡の準

手続きが複雑になりがちな営業譲渡には、事前準備が欠かせません。売り手はどのような準備をしているとスムーズに進められるのでしょうか?

5-1.営業譲渡の計画を立てる

営業譲渡の実施を決定したら『計画』を立てることから始めましょう。手続きを進めるためには、やることがたくさんあります。計画を立てておくと安心して進めやすいはずです。

例えば『譲渡する事業』『譲渡希望価格』『譲渡の期限』などを決めておくとよいでしょう。加えて事業の状況を把握することも大切です。

これまでの実績や売上を明らかにして、事業の価値を算出しなければ、譲渡希望価格を決められません。できるだけ高額で譲渡するために、強みや他社との差別化についても整理し把握します。

労務・税務・法務などの問題がないことも、改めて確認しておくとよいでしょう。

5-2.取引先や従業員への説明時期を考える

営業譲渡を決めたなら『取引先』や『従業員』へ説明する機会を設けなければいけません。事業を売却すると、取引先や従業員との契約は白紙になります。関係を継続するには、承継した事業者との再契約が必須です。

そこで取引先にあらかじめ再契約の同意を得ておくとよいでしょう。取引先も事業の価値の一部です。承継によって取引先が離れてしまうようでは、事業の価値が目減りしてしまいます。

同様に従業員も大切な資産です。小規模な事業では、これまでの従業員がいなければ成り立たない仕事もあります。そのため従業員が納得するよう説明が必要です。

これらの説明時期は、早過ぎると不要な不安を呼び起こしかねません。営業譲渡の契約締結後に行うのが一般的です。

6.営業譲渡の流れ

営業譲渡の流れ

実際に事業を売却するには、売買の相手を探すところから始めます。それぞれの工程にどのようなポイントがあるのか確認していきましょう。

6-1.取引相手を見つける

取引相手がいなければ売買はできません。そこで事業譲渡を考えている経営者はいないか探します。まずは『商工会議所』や『事業承継・引継ぎ支援センター』といった公的な機関へ相談するとよいでしょう。

インターネット上の『マッチングサイト』を利用するのもよい方法です。売り手は自社の情報を登録するだけで買い手を募集でき、買い手は掲載されている売り手の情報から希望の事業を探せます。気軽に利用できる上、手数料が比較的安い点も魅力です。

6-2.面談、交渉を行う

希望に合う取引相手が見つかったら、意思決定者同士の『面談』を実施しましょう。お互いに対する理解を深めるために、行っている事業の強みや方向性・他社との違いなどを伝えます

面談に回数の決まりはありません。お互いに希望しさえすれば、納得いくまで何度でも面談できます。また『条件交渉』も必要です。売り手であれば従業員の処遇について条件を提示することで、雇用を守れるでしょう。

双方に納得し合意が形成できれば『基本合意書』を締結します。

6-3.譲渡対象の範囲を明確にして契約

基本合意書の締結後は、より具体的に話を進めていかなければいけません。後々のトラブルを防ぐためにも、譲渡対象の資産や負債をどれにするか、明確に決める必要があります。

売買の対象となるものは、次の5種類に分類して考えるのが一般的です。それぞれの項目内で、買い手にとって必要なものと不要なものがあるでしょう。それを一覧にして一目で分かるようにリスト化します。

  • 資産
  • 負債
  • 契約
  • 従業員
  • 知的財産等

引き継ぐ資産や負債の内容で合意形成ができたら『事業譲渡契約書』の締結です。契約書には譲渡範囲のリストを別紙で添付します。

7.買い手側に必要な準備や手続きの例

買い手側に必要な準備や手続きの例

準備が必要なのは売り手だけではありません。買い手もさまざまな準備が必要です。不足している部分があると、営業譲渡がうまくいかないケースもあるため、入念な準備が求められます。

7-1.早めに資金を用意する

早めに準備しておきたいのは『資金』です。手続きが進んだ段階で資金が用意できていないと、破談になる可能性があります。基本的に事業の売買の対価は現金に限定されているため、現金を確保しておかなければいけません。

特に個人が引き継ぐ営業譲渡では、資産の買取費用が想定以上に高額だと、資金を用意できないケースもあるでしょう。買収にかかる資金はあっても、その後の運営資金が不足する場合もあります。

自己資金のみでまかないきれないことも多いため『事業承継・引継ぎ補助金』や『事業承継・集約・活性化支援資金』などの利用を検討しましょう。

7-2.開業届等を提出する

個人が事業を引き継ぐときには『個人事業の開業・廃業等届出書』の提出が必要です。管轄の税務署へ提出することで、屋号を名乗れます。

加えて『青色申告承認申告書』も提出しましょう。確定申告で青色申告ができれば、青色申告特別控除を受けられます。税務面でメリットのある方法です。

7-3.商号続用責任の免責登記

事業とともに商号も引き継ぐけれど、債務は引き継がないというケースがあります。このようなときに必要なのが『免責の登記』です。

商号を引き継ぎ売り手と同様の事業を営んでいると、売り手の債権を持つ第三者からは、事業の債務も引き継いでいるように見えます。このままでは債務の弁済を請求されるかもしれません。

このとき『〇年〇月〇日に営業譲渡を受けたが、譲渡事業である〇〇の債務については弁済する責任を負わない』と登記します。商法第17条2項の規定により、免責登記をしていれば買い手は債権者に対して弁済の責任を負いません。

7-4.従業員との再契約

営業譲渡をすると従業員の雇用契約はなくなります。買い手が引き続き雇用するには、改めて雇用契約を結び直さなければいけません。そこで再契約をスムーズに進めるための準備が必要です。

労働条件がこれまでとあまりにも変わってしまえば、戸惑った従業員が退職を選ぶ可能性が高まります。給与・労働時間・休暇・残業などについて、これまでの制度を参考に、納得してもらえる内容を検討しましょう。

7-5.許認可の再取得

事業を選択的に承継する営業譲渡では『許認可の再取得』も必要です。事業を行う上で必須の許認可であっても、承継できず取り直すケースが多いでしょう。

許認可の取得には時間がかかる場合もあります。事前に準備を進めていないと、事業を引き継いだにもかかわらず許認可が取れていないという事態もあり得ることです。

一時的に事業をストップしなければいけないかもしれません。スムーズな承継のためにも、準備が必要な部分です。

8.営業譲渡により売り手に発生する税金

営業譲渡により売り手に発生する税金

営業譲渡で事業を売却すると、売り手は現金を得ます。そのため所得税や消費税といった税金を納めなければいけません。どのような税金があるか把握し、確実に納めましょう。

8-1.所得税

事業を売却すると譲渡所得が発生し『所得税』が課税されます。譲渡所得は譲渡する資産によって、下記の通り総合課税と分離課税に分かれる点に注意が必要です。

  • 分離課税:建物・土地・株式
  • 総合課税:上記以外の資産

分離課税はその他の所得とは別に、総合課税は他の所得と合計して税額を計算します。確定申告で計算方法を間違えないよう注意しましょう。所得税の申告は、事業譲渡の日までに得た事業の利益と合わせて行います。

8-2.課税資産を含む場合は消費税を納める

営業譲渡で売却する資産の中には、消費税の対象となる『課税資産』も含まれます。そのため課税資産に対しては消費税を納めなければいけません。

課税資産には事業に必要な機材や在庫・備品・事務所や店舗の建物などのほか、ノウハウや営業権なども含まれます。消費税の納税者は売り手ですが、負担するのは買い手です。売却時には消費税を含めて請求しましょう。

ただし土地や債権などは課税資産に入らないため、消費税の計算時には注意が必要です。

9.営業譲渡で悩める問題を解消

営業譲渡で悩める問題を解消

個人が事業を引き継ぐことを『営業譲渡』といいます。引き継ぐ資産や負債を選択できる点は事業譲渡と同様です。適用される法令の違いにより営業譲渡と呼ばれています。

売り手にとってのメリットは、後継者問題の解消や不採算事業の切り離しなどです。一方、買い手は必要なものが全てそろった状態で事業を始められるため、リスクを抑えられるメリットがあります。

また優秀な人材や有益なノウハウを、時間をかけずに取得できる点もメリットです。条件の合う事業を見つけられれば、双方が悩みを解消できるでしょう。

営業譲渡を実施するときには、税務の調査や確定申告による納税が発生します。これらの相談には経験豊富な『税理士法人チェスター』がおすすめです。

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