大切な資産を守りながら円滑に次の代へと継承する相続対策を進めるうえで、資産価値の保全と相続税の節税を期待できる不動産は極めて有効な手段だと言われています。そして、1棟丸ごとのオーナーになるケースと比べて、比較的少額から取り組めるものとして、不動産小口化商品や区分所有マンション投資に注目する人が多いようです。
これら2つには、どのような違いが見られるのでしょうか? 様々な角度が比較を行い、賢い活用法について探ってみたいと思います。
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目次
どちらも建物1棟丸ごとへの投資と比べれば低予算で済むが……
不動産小口化商品は、大勢の投資家から資金を募って、それを一つにまとめて不動産を購入し、その運用(賃貸経営)で得られた賃料収入を出資額に応じて分配するという仕組みになっています。
一方、区分所有マンション投資とは、建物1棟丸ごとのオーナーになるのではなく、個々の部屋ごとに分譲されている物件を購入し、その賃料収入に期待するというものです。不動産小口化商品と区分所有マンション投資は、どちらも建物1棟丸ごとを購入するケースと比べれば、必要となる資金は少なくて済むわけです。
ただ、不動産小口化商品は一口当たりの出資額が数万円〜1000万円程度といったようにプロジェクトごとで多様な設定になっています。これに対し、区分所有マンション投資は安定的な賃貸需要が見込まれる東京都心に的を絞ると、中古物件でも1000万円以上の予算を見積もったほうがよさそうです。
こうした違いを踏まえると、同じ予算でも不動産小口化商品のほうがより幅広い分散投資が可能で、将来的に複数の相続人に資産を遺すことを念頭に置くうえでも柔軟な対策を講じやすいと言えるでしょう。
空室が発生した場合のダメージが大きくなるのはどっち?
賃貸不動産への投資では空室が発生するリスクに留意する必要がありますが、不動産小口化商品と区分所有マンション投資ではそのダメージの度合いに違いが見られます。不動産小口化商品で投資している物件では、すべての居住者が退居しない限り、空室が発生した分だけ減ったとしても賃料収入は得られます。
しかし、1室だけの区分所有マンション投資では、当然ながら空室が発生すると賃料収入がゼロになってしまいます。こうした事態を避けるために複数の部屋を所有するとそれだけ多額の資金が必要となりますし、同じ予算なら不動産小口化商品のほうがもっと多くの対象に分散投資が可能で、よりリスクを低減できるでしょう。
相続税の節税効果に違いはある? 生前贈与にも活用できるのは?
不動産を活用した相続対策では、①相続税の負担をできるだけ抑える、②優良な資産を次の代に遺すという2つのポイントが重要テーマとなってきます。このうち、①においても不動産小口化商品と区分所有マンション投資では、期待できる効果に違いがあるようです。
税制上、「任意組合型」への出資者はその持分(出資分)の不動産を所有しているものとみなされます。したがって、相続税の計算を行う際にも、通常の不動産と同じような評価が行われます。
土地については、時価の概ね80%(※地域差がある)に相当する相続税評価額となります。アパートやマンションとして貸し付けていれば、さらに土地は相続税評価額が20%程度、建物は30%程度も減額されます。しかも、「小規模宅地等の特例」という制度を適用できれば、土地の相続税評価額をさらに50%も減額できます。
区分所有マンションにおいても、このように持分(所有分)に応じて発生する相続税の評価額が減額される点は同じです。しかしながら、生前から進められる相続税の節税対策にまで視野を広げると、不動産小口化商品のほうが有利だという判定になりそうです。
なぜなら、不動産小口化商品は区分所有マンション投資よりも少額から取り組むことが可能なので、「生前贈与」の選択肢としても活用しやすいからです。贈与税には、「年間110万円以下なら課税が発生せず、確定申告も不要」という非課税枠が設けられています。
この非課税枠内や少々オーバーした程度の金額の予算(投資額)で将来の相続人に不動産小口化商品を贈与していけば、相続の対象となる財産を存命中に減らすことが可能です。
現金を不動産に替えて贈与するほうが贈与税の負担は少なくなります。相続税のケースと同様に、贈与税を計算する際に不動産の評価額は低減されるからです。そして、贈与された側は不動産小口化商品から得られる分配金をプールしておけば、相続税の納税資金に充てられます。
建物部分のウエートが高い区分所有マンションは売却時に不利に!?
相続対策で不動産小口化商品や区分所有マンションに投資を行った場合、相続人はいったんそれらを受け継ぐことになりますが、先々で手放すケースも出てくるでしょう。その際に、区分所有マンションは想定していた以上に安い売却価格になる可能性が考えられます。
なぜなら、区分所有マンションの資産価値においては、建物部分が占める割合が高いからです。土地の価値には時間の経過が影響を及ぼしませんが、建物の価値は築年数が古くなるほど低下していきます。
先述したことの裏返しになりますが、区分所有マンションは、建物の専有部分(区分所有権)や共用部分の共有持分と比べて、敷地権(敷地の共有持分)のウエートがかなり低くなります。つまり、その資産価値はほぼ建物部分で決まると言っても過言ではなく、経年劣化とともに減価していけば、おのずと売却価格は下がってしまうわけです。
その点、「任意組合型」の不動産小口化商品は不動産特定共同事業法に基づく許可を受けた事業者が組合理事長として物件を管理しており、一定期間の経過後は一括売却してその代金が出資分(持分)に応じて分配されるようになっています。不動産のプロが売却まで関与してくれることは安心材料だと言えるでしょう。
資産を継承した相続人から感謝されやすいのはどっち?
相続対策と言えば、とかく節税のことばかりに目が向けられがちですが、優良な資産を次の代に受け継がせるという視点も疎かにできません。そして、この優良な資産とは、相続した人がいつか売却する際にも円滑に話を進めやすいという条件を満たすものです。
そういった資産を継承できれば相続人から感謝されやすい一方、処分に困るようなものを遺されると不平不満の種になりがちなのは当然のことでしょう。対策を講じるなら、相続人から喜ばれるようなプランを選択するのが最善です。
まとめ
不動産小口化商品と区分所有マンション投資は、どちらも一棟丸ごとへの投資と比べれば低予算で始められます。しかしながら、空室リスクや節税効果、先々での売却などに目を向けると、不動産小口化商品のほうが利用価値は高いと判断できそうです。