#58 不動産投資に火災保険は必要?補償内容や選び方を解説

2021.11.12

不動産投資をするのであれば、火災保険は必要不可欠であるといっても過言ではありません。火災保険に加入していなければ、火災や洪水などで建物が損害を被ったときに多額の修繕費用が発生して、収支が悪化しかねないためです。

また地震や津波などで生じた損害を補償するためには、地震保険にも加入する必要があります。本記事では、火災保険や地震保険の補償内容、必要性が高い理由、選び方などをわかりやすく解説していきます。

火災保険や地震保険の補償内容は?

そもそも火災保険や地震保険とは、具体的にどのような保険なのでしょうか?ここでは火災保険と地震保険の補償内容や、保険料の決まり方などをわかりやすく解説します。

火災保険とは

火災保険とは、建物や家財(家具・家電)が火災や落雷、爆発などで負った損害を補償する保険です。火災保険は、火災だけでなく、台風が原因で生じた風災や、洪水のような水災も補償されます。ただし地震による火災や津波による水害、経年劣化による損害は補償の対象外です。

◯火災保険の補償範囲
● 火災、落雷、破裂、爆発
● 風災、雹(ひょう)災、雪災
● 水濡れ
● 水災
● 建物外部からの物体の衝突・落下
● 騒擾(そうじょう)、労働争議
● 盗難
● 破損・汚損等

現在、火災保険は複数の補償がセットされたパッケージ型が主流であり、保険会社が用意する2〜3タイプから1つを選んで加入します。もっとも補償範囲が狭いパッケージを選んでも「火災、落雷、破裂、爆発」「風災、雹(ひょう)災、雪災」は、補償されるのが一般的です。

火災保険の補償の対象は、建物または家財、あるいはその両方です。建物とは、外壁や屋根、廊下などを指します。またトイレやキッチンなど、室内に取り付けられている設備も建物に含まれます。家財は、家具や家電、衣類など室内にあるものです。

賃貸マンションや賃貸アパートでは、オーナーは建物、入居者は家財を補償の対象に火災保険に加入するのが一般的です。

火災保険に加入すると、補償の対象に損害が生じた場合、加入時に設定する火災保険金額を上限に、実際の損害額が支払われます。また補償プランによっては、残存物片付け費用や消火活動で消費した消火薬剤の再取得費用などをサポートする「費用保険金」が支払われる場合もあります。

火災保険の保険料は、建物の構造や補償の範囲、補償内容、加入する保険会社などで変わります。

地震保険とは

地震による火災や津波による水災は、火災保険の補償対象外です。地震や津波に対する損害に備えるためには、地震保険に加入しなければなりません。

地震保険の保険金額は、火災保険の30〜50%の範囲で設定します。ただし建物は5,000万円、家財は1,000万円が上限です。

地震保険の保険料は、建物があるエリアや建物の耐震性能、建物の耐火構造、保険の契約期間に応じて決まります。なお地震保険は、損害保険会社と政府によって共同で運営されているため、どの保険会社で加入しても保険料は同じです。

地震大国といわれる日本で不動産投資をする投資家にとって、地震保険は必要性の高い保険です。ただし地震保険は、火災保険と必ずセットで加入する必要があり、単品では加入できない点に注意しましょう。

火災保険や地震保険の保険料は経費に計上できる

火災保険料と地震保険料は、どちらも経費に計上できます。ただし長期で契約を結ぶ場合、保険料を支払った年に一括で経費計上できない点に注意が必要です。

例えば、10年契約で火災保険に加入したとしましょう。加入した年に支払った10年分の火災保険料は「前払費用」として資産に計上し、1年ごとに経費化していきます。

契約できる期間は、火災保険が最長で10年、地震保険が最長で5年です。契約期間を長くして加入するほど、高い割引率が適用されて支払う保険料総額は安くなります。

不動産投資において火災保険や地震保険が必要な理由

不動産投資をする人にとって火災保険や地震保険が必要な理由は、以下の3点です。

● 災害リスクに対応できる
● 不動産投資ローンの融資条件に火災保険の加入が含まれている
● 不動産投資におけるさまざまなトラブルに備えられる

災害リスクに対応できる

災害リスクとは、台風や豪雨、地震などで建物が損害を負うリスクです。空室リスクや家賃滞納リスクと同様に、不動産投資において対策する必要性が高いリスクといわれています。

建物を修繕する義務があるのは、基本的にオーナーです。自然災害が発生して損害を負うと、建物や設備の修繕・交換に多額の費用が発生する恐れがあります。また建物を修復するときに、一時的に家賃が減少するケースは珍しくありません。

災害によって、多額の修繕費用や家賃の減収が発生すると、賃貸経営の収支が悪化して貴重な財産を食いつぶしてしまう恐れがあります。

火災保険や地震保険に加入していると、災害が発生した際に、保険会社から支払われる保険金を修繕に充てられるため、収支が悪化せずに済みます。

不動産投資ローンの融資条件に含まれる

収益不動産の価格は、数千万円や数億円になることがあるため、多くの投資家が不動産投資ローンを組んで購入します。

ほとんどの金融機関は、火災保険に加入しなければ、不動産投資ローンを融資してくれません。自然災害で建物が損害を負うと、修繕費用の支払いや家賃収入の減少により、返済を滞納される可能性があるためです。

仮に火災保険に加入せずに不動産投資ローンを借りられたとしても、災害に遭って建物が被害に遭うと、数千万円や数億円の借金だけが残りかねません。不動産投資ローンを借り入れて収益不動産を購入するのであれば、火災保険には必ず加入しましょう。

不動産投資におけるトラブルに対応できる

火災保険は、以下のような特約を付帯することで、賃貸経営におけるさまざまな金銭的トラブルに対処できます。

 

補償内容
施設賠償責任特約 対象となる建物の管理・維持の不備や構造上の欠陥等によって他人にけがを負わせた李財物を壊したときに追う損害賠償
家賃保証特約 災害によって空室が発生した際に、得られるはずであった家賃の損失を補償
家主費用特約 孤独死や自殺など賃貸住宅内で発生した死亡事故が原因による損害を補償
電気的・機械的事故補償特約 空調設備や電気設備などに、電気的・機械的事故が発生したときの修理費用を補償

 

施設賠償責任特約を付帯すると「外壁の一部が落下して通行人にケガを負わせた」「手すりがはがれて階段から落ちてケガをしてしまった」などで、オーナーが損害賠償責任を負った場合に保険金でカバーできます。

オーナーは、建物や設備が原因で、事故が発生しないように修繕・メンテナンスをする義務があります。しかし修繕やメンテナンスだけでは、事故のリスクを0%にはできないため、万一に備えて火災保険に施設賠償責任特約を付帯しておくと安心でしょう。

家主費用特約を付帯すると、投資するマンション内で自殺や孤独死などの死亡事故が発生したとき、家具や衣類など残されたものを片付ける費用や、汚損の原状回復費用などが補償されます。また空室の発生や家賃の値引きによる損失も、一般的に家主費用特約の補償対象です。

マンションのエレベーターや給水ポンプ、機械式駐車場などで損害が発生すると、高額な修理費用が発生しかねません。1棟マンションに投資するオーナーは、電気的・機械的事故補償特約を付帯して設備の損害に備えると良いでしょう。

2022年に火災保険は値上がりする予定

損害保険会社は、損害保険料算出機構が算出する「参考純率」を目安に、火災保険の保険料を決めています。2021年6月に参考準率を全国平均で10.9%引き上げることを発表したことにより、2022年に損害保険各社は火災保険を値上げする予定です。なかには、1棟マンションでの火災保険引き受けを停止する保険会社もあります。

火災保険料が見直される背景は、度重なる大規模な自然災害の影響です。豪雨や台風の影響により、2018年度には約1.3兆円、2019年度には9,156億円の火災保険金が支払われており、損害保険会社の収支状況は悪化しています。※出典:一般社団法人日本損害保険協会

今後も、豪雨や台風などによる大規模な自然災害は発生するとみられています。増加する災害リスクに備えるために、保険料率の見直しが必要になったのです。

なお、改訂とあわせて最長契約期間が10年から5年に短縮される予定です。火災保険の最長契約期間は、2015年に36年から10年へ短縮されたばかり。火災保険は契約期間が長いほど保険料の割引率も高くなる仕組みであるため、最長契約期間が短縮されたことで割引率が低下し保険料負担が増える見込みです。

火災保険の選び方

火災保険を選ぶポイントは、以下の3点です。

● 契約期間を長くする
● 補償範囲や免責金額を適切に設定する
● 複数の保険会社を比較する

火災保険は、契約期間が長いほど割引率が高くなって保険料が割安になります。今後も大規模な自然災害が続くのであれば、火災保険の最長契約期間が5年から2年や1年に短縮されても不思議ではありません。契約期間中は保険料が値上げされても影響を受けないため、できるだけ契約期間を長くして加入すると良いでしょう。

火災保険に加入する際は、補償範囲を適切に設定することが大切です。例えば、所有する不動産が高台にあり近くに河川がない場合は、水災リスクは低いと考えられるため、水災補償を外すのも方法です。ただし土砂崩れで建物が損害を負うリスクも考えられるため、自治体が公表するハザードマップも確認のうえ慎重に検討しましょう。

免責金額とは、損害が発生したときに契約者自身が自己負担する金額です。免責金額を高くすると、保険料負担を抑えられます。建物が損害を負った場合にいくらまで自己負担ができるのか考えたうえで、免責金額を適切に設定すると良いでしょう。

火災保険は、保険会社によって保険料の算出方法が異なります。今後は、1棟物件を補償する火災保険を引き受けてくれない保険会社もあるといわれているため、火災保険を選ぶ際は、複数の保険会社を検討することが大切です。

まとめ

火災保険や地震保険に加入すると、災害が発生したときの損害をカバーでき、収支の悪化を防ぐことができます。また自己資金以上の物件に投資するために、不動産投資ローンを借り入れる場合は、火災保険の加入がほぼ必須です。

火災保険に特約を加入すると、建物の管理不良によって生じた損害賠償や、住戸内で発生した死亡事故などにも備えられます。これから不動産投資をはじめる方は、建物にあるリスクをカバーできる火災保険や地震保険に加入しましょう。

 

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