#56 相続前に不動産を売却しても良い?収益物件を売却したときの税金や諸費用を解説

2021.10.25

 

相続対策として収益物件を購入したものの、価値があるうちに売却したほうが良いのではないかと考える方もいます。しかし売却益を優先して収益物件を売却してしまうと、かえって金銭的な負担が増えてしまうかもしれません。

一方で、収益物件をご自身が亡くなる前に売却しておいたほうが良いケースもあるため、状況に応じた適切な判断が求められます。

本記事では、収益物件を売却したときに課せられる税金の種類や、売却したほうが良いケースなどをわかりやすく解説します。

不動産を売却すると税金や諸費用の支払いが発生する

収益物件を売却して利益が出た場合、税金を納めなければなりません。また収益物件の売却時は、マイホームの売却時とは異なり「3,000万円の特別控除」をはじめとした税負担を軽減する制度が使えない点にも留意する必要があります。

譲渡所得が発生すると課税対象となる

収益物件を売却して利益(譲渡所得)が発生した場合、所得税や住民税の課税対象となります。譲渡所得の計算方法は、以下の通りです。

  譲渡所得=譲渡収入金額-(取得費+譲渡費用)

譲渡収入金額は、収益物件を売却したときの金額です。売却時に売主と買主のあいだで、固定資産税の清算が行われた場合は、清算金も譲渡収入金額に加えられます。

取得費は、土地と建物を分けて計算しなければなりません。土地部分は、購入したときの金額がそのまま取得費となりますが、建物部分については購入金額から減価償却費を差し引いた金額が取得費となります。減価償却費とは、経年劣化によって失われたと考えられる価値です。なお購入時に支払った仲介手数料や印紙税などの諸費用も取得費となります。

譲渡費用は、売却時に支払った仲介手数料や印紙税などの諸費用です。

所得税や住民税の税額は、譲渡所得に税率をかけて計算します。税率は、売却した年の1月1日における所有期間に応じて決まります。

所有期間 所得の区分 税率
5年以下 短期譲渡所得 39.630%(所得税30.63%+住民税9%)
5年超 長期譲渡所得 20.315%(所得税15.315%+住民税5%)

※2037年(令和19年)までは、所得税額の2.1%が復興特別所得税として徴収されます。ここでは所得税の税率に含めています。

所有期間5年以下で収益物件を売却すると、高い税率が適用されます。例えば、売却によって生じた譲渡所得が200万円であった場合、所有期間が5年超であれば、税額は200万円×20.315%=406,300円です。しかし所有期間5年以下で売却した場合、税額は200万円×39.63%=792,600円となり税負担が増えてしまいます。

収益物件の売却時は3,000万円の特別控除を適用できない

3,000万円の特別控除(居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例)とは、マイホームを売却したときに、譲渡所得が3,000万円まで非課税となる特例です。

3,000万円の特別控除を適用できるのは、自分が住んでいた住宅を売却したときや、住まなくなった日から3年が経過した年の12月31日までに住宅を売却したときです。自分自身が居住していなかった収益物件を売却しても、3,000万円の特別控除は適用できません。

また不動産の売却で発生した損失を他の所得と相殺できる「マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」や、譲渡所得に対する税金の支払いを、買い換え先の住宅の売却時まで繰り越せる「特定の居住用財産の買換え特例」なども対象外です。

売却時には諸費用がかかる

収益物件を売却するときは、仲介手数料や印紙税などの諸費用がかかります。

仲介手数料は、物件の売却を仲介してくれた不動産会社に支払う手数料です。不動産会社の多くは、仲介手数料を法律で定められた上限額である「物件価格×3%+6万円(消費税別)」に設定しています。仮に1億円の物件を売却すると、最大で306万円(消費税別)の仲介手数料が発生します。

印紙税とは、不動産の売買契約書に収入印紙を添付して納める税金です。印紙税の税額は、以下のとおり売買申込書に記載されている契約金額によって異なります。

契約金額 本則税率 軽減税率
100万円超 500万円以下 2,000円 1,000円
500万円超 1,000万円以下 10,000円 5,000円
1,000万円超 5,000万円以下 20,000円 10,000円
5,000万円超 1億円以下 60,000円 30,000円
1億円超 5億円以下 100,000円 60,000円
5億円超 10億円以下 200,000円 160,000円
10億円超 50億円以下 400,000円 320,000円
50億円超 600,000円 480,000円

※国税庁「不動産売買契約書の印紙税の軽減措置」をもとに作成

不動産を売却して現金化すると相続税が増える可能性も

収益物件を売却して現金化してしまうと、相続税を計算するときの評価額が高くなって、税負担が重くなる可能性があるため慎重に判断しなければなりません。

不動産の相続税評価額は、土地部分については時価の8割程度である「路線価」を、建物部分は時価の7割程度である「固定資産税評価額」を用いて計算されます。また収益物件の場合、土地部分には「貸家建付地の評価減」と「小規模宅地等の特例」が、建物部分には「貸家の評価減」が適用されるため、評価額はさらに低くなります。

一方で現金は、時価がそのまま相続税評価額となるため、不動産とは異なり圧縮効果は得られません。そのため収益物件を売却して現金化してしまうと、相続税負担がかえって増えてしまう可能性があるのです。

,相続

収益物件の売却を検討する際は、不動産をそのまま相続した場合と、売却して現金化した場合それぞれの相続税額をシミュレーションしたうえで判断することが大切です。

生前に収益物件を贈与するのも方法の1つ

収益物件から家賃収入を得ると、相続する財産が膨れ上がってしまって相続税の負担が増える場合があります。相続財産の増加を防ぎたいのであれば、家族に生前贈与するのも方法でしょう。

ただし収益物件をそのまま贈与すると、多額の贈与税が課せられる可能性があります。そこで収益物件を贈与するときは「相続時精算課税制度」を利用するのも方法の1つです。

相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母や祖父母から、20歳以上の子供や孫に対して贈与をするときに選択できる制度です。相続時精算課税制度を利用して贈与された財産は、贈与税の課税対象とはならない代わりに、財産を贈与した人が亡くなったときに相続税の課税対象となります。

相続時精算課税制度には、2,500万円までの非課税枠があり、超過した贈与については一律20%の贈与税が課せられます。支払った贈与税は、相続税額から控除される仕組みです。

相続時精算課税制度を利用すると、2,500万円までの財産を非課税で贈与できます。また贈与された財産から得られる家賃収入は贈与された人のものとなるため、相続財産が膨れ上がる心配はありません。

さらに相続時精算課税制度で贈与された財産は、相続税を計算するときに贈与されたときの価値で評価されます。仮に贈与時に1億円の価値であった収益物件が、相続時に1億2,000万円に増えていても、相続税を計算するときは1億円と評価されるのです。

このように相続時精算課税制度で価値の上昇が見込める収益物件を贈与すると、売却することなく相続財産の増加を抑えたうえで、相続税の負担を軽減できる可能性があります。

収益物件を相続前に売却したほうが良いケース

ここでは、収益物件を相続の発生前に売却したほうが良いケースをご紹介します。

収益物件の価値が下がっている・赤字が続いている

収益物件の資産価値が下がっている場合や、安定した家賃収入が得られず赤字経営が続いている場合は、損失が拡大する前に売却をしたほうが良いでしょう。

とくに赤字が続いてしまうと、持ち出しが多くなり貴重な財産が減ってしまう恐れがあるため、経営の改善が見込めない場合は早急に手放したほうが良いと考えられます。

なお収益物件の売却時に所得税や住民税が発生するのは、売却によって利益(譲渡所得)が発生した場合です。売却価格が低く譲渡損失が発生しても、所得税や住民税は課税されません。

一方、収益物件の売却で譲渡損失が発生しても、給与所得や一時所得など他の所得と相殺できません。物件の価値が下がりきってしまうと、買い手が見つかりにくくなるため、手遅れとなる前に手放したほうが良いと考えられます。

家族が収益物件の相続を希望していない

収益物件の相続に多くのメリットがあるとはいえ、残された家族が相続を希望しない可能性もあります。例えば、収益物件のある場所が相続人の居住地から離れており、物件の管理が難しい場合は、相続を望まないかもしれません。

家族が収益物件の引き継ぎを希望していない場合は、ご自身が健在なうちに売却をしたほうが、亡くなったあとで残された家族に迷惑をかけずに済む可能性があります。

できれば相続対策として収益物件を購入する前に、自身が亡くなったあとに家族が経営を引き継いでくれるのか意思を確認しておくのが望ましいです。

まとめ

収益物件を売却して譲渡所得が発生すると、所得税や住民税を納めなければなりません。マイホームを売却した場合とは異なり、3,000万円の特別控除を適用できないため、高額な税負担が発生する可能性があります。また不動産を売却して現金化すると、相続税がかかりやすくなる点にも注意が必要です。

ただし赤字経営が続いている場合や、家族が物件の相続を希望していないときなど、収益物件を売却したほうが良いケースもあります。経営状況や家族の意向、売却したときの税負担など、さまざまな要素をもとに収益物件を売却するかどうか判断することが大切です。

 

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