#53 遺言で不動産を相続する方法とは?遺言書の種類や作成時の注意点

2021.10.07

ご自身の希望通りに遺産を分けて欲しいとの思いから、遺言を作成する方がいます。しかし遺言書を作成しても、財産を残す人の意思通りに遺産が引き継がれるとは限りません。

相続人には、最低限の財産を相続できる権利があります。また遺言書は、所定の様式に則って作成されていなければ無効になってしまいます。相続対策としてマンションやアパートなどの収益不動産を所有していたとしても、相続人の権利や正しい書き方を知らずに遺言書を作成するとトラブルが生じかねません。

本記事では、遺言を作成して不動産を相続する際に知っておきたい相続人の権利や遺言書の作成方法などを解説します。

遺言で不動産を相続するときは遺留分に注意

亡くなった人が遺言を遺していた場合、 基本的に遺言書の記載内容にしたがって遺産が分けられます。もし遺言書がない場合、法律で定められた相続人が話し合い(遺産分割協議)をして、財産の分け方を決めます。

しかし遺言書が発見されたとしても、記載された内容通りに財産が分割されるとは限りません。相続人には、遺留分を請求できる権利があるためです。

遺留分とは相続人の最低保障

遺留分とは、法律によって最低限保障されている相続人の遺産取得分です。遺留分は、以下の通り定められています。

 

相続人 法定相続分 遺留分
配偶者のみ 遺産のすべて 遺産の1/2
配偶者+子

配偶者:遺産の1/2

子:遺産の1/2

配偶者:遺産の1/4

子:遺産の1/4

配偶者+

父母・祖父母など

配偶者:遺産の2/3

父母・祖父母など:遺産の1/3

配偶者:遺産の1/3

父母:遺産の1/6

子のみ 遺産のすべて 遺産の1/2
父母のみ 遺産のすべて 遺産の1/3

 

遺言書の存在によって、上記割合の遺産すらも相続できなかった相続人は「遺留分侵害額請求」をすることで、他の相続人に遺留分を請求できます。

例えば、相続人が配偶者と子ども2人(長男・次男)の計3人、遺産が合計で2億円であったとしましょう。法定相続分は、配偶者は遺産の1/2である1億円、長男と次男は遺産の1/4(1/2×1/2)である5,000万円ずつとなります。

もし遺言に「遺産のすべてを長男に相続させる」と記載されていた場合、配偶者と次男は遺産を相続できなくなってしまいます。

そこで、配偶者が遺留分侵害額請求をすると、長男に2億円の1/4である5,000万円を支払ってもらえます。次男が遺留分侵害額請求をした場合、長男から遺産の1/8である2,500万円を支払ってもらえるのです。

なお、亡くなった人の兄弟姉妹は、相続人になれるものの遺留分はありません。

遺留分を主張されると不動産の売却が必要となる場合も

遺言書を作成するときは、相続人の遺留分を侵害しないように注意しなければ、トラブルに発展しかねません。特に遺産の多くをマンションやアパートなどの不動産が占めている場合、遺留分を侵害するような遺言を作成すると、さらに揉めやすくなります。

遺産の多くを不動産が占めている場合、他の相続人から遺留分を主張されたときは、不動産を共有名義にして売却を回避する方法があります。しかし「共有者全員の同意がなければ売却できない」「費用がかかる」などの理由で、不動産の共有を嫌がる方は少なくありません。

共有名義にできず、遺留分に相当する金銭も支払えないのであれば、不動産を売却することになるでしょう。マンションやアパートなどの収益不動産を売却する場合、売却代金が相場よりも安価となる可能性があります。

相続対策のために収益不動産を購入しても、相続人の遺留分を侵害するような遺言を書いてしまうと、トラブルに発展する恐れがあります。遺言で不動産を相続する場合は、相続の専門家に相談したうえで、遺留分を侵害しない内容にすることが大切です。

遺言は3種類

遺言には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があり、どれか1つを選択して作成します。不動産をはじめとした財産の引継ぎ方を遺言書で指定する場合、それぞれのメリット・デメリットを理解したうえで、遺言書を作成することが大切です。

自筆証書遺言

自筆証書遺言とは、財産を残す人が本文や日付、氏名をすべて自筆して作成する遺言です。
2019年からは、財産の内容を記載した「財産目録」のみパソコンでの作成が認められています。また預金通帳や登記簿謄本(登記条項証明書)のコピーを財産目録として扱うこともできます。

自筆証書遺言は、財産を残す本人が自宅や貸金庫などで保管します。2020年7月からは「自筆証書遺言保管制度」が開始され、法務局でも保管できるようになりました。

財産を残す人が亡くなったあと、自筆証書遺言が発見された場合は、家庭裁判所で検認を受ける必要があります。

検認を受ける前に自筆証書遺言を開封してしまうと、遺言書の改ざんを疑われたり、5万円以下の罰金が課せられたりする恐れがあります。また相続した不動産の名義変更手続きをする際は、検認を受けた自筆証書遺言が必要です。ただし自筆証書遺言保管制度を利用し法務局に保管してもらった場合、検認を受ける必要はありません。

自筆証書遺言は、紙や筆記用具、印鑑、封筒などを準備するだけで手軽に作成でき、費用もかかりません。一方で、作成された遺言書が様式に則られておらず、記載内容が無効になりやすいのが自筆証書遺言の難点です。また作成者本人が遺言書を保管する場合、紛失や改ざんなどのリスクが伴います。

公正証書遺言

公正証書遺言とは、遺言を作成する人が公証役場で遺言の内容を口頭で伝え、公証人が作成する遺言です。財産を残す人が伝える原案をもとに公証人が遺言書を作成し、内容に問題がなければ本人が遺言書に署名と捺印をします。

専門家が代わりに遺言書を作成してくれるため、無効になるリスクが低いだけでなく、文字を書く能力が衰えてしまった方でも作成しやすい点もメリットです。また作成された公正証書遺言は、公証役場が保管してくれるため紛失や改ざんの心配はありません。

加えて公正証書遺言の開封時に家庭裁判所の検認は不要であるため、相続人の負担も軽減されます。

ただし、公正証書遺言の作成には、一般的に数万〜数十万円のコストがかかります。また公正証書遺言を作成する際は、公証役場に証人を2人連れて行く必要があるため、遺言の存在を秘密にできません。

秘密証書遺言

秘密証書遺言は、財産を残す人が遺言を作成し、公証役場に存在を証明してもらう遺言です。秘密証書遺言を保管するのは、原則として遺言を作成した本人です。また秘密証書遺言を開封するときは、家庭裁判所の検認を受けなければなりません。

紛失や改ざんのリスクが自筆証書遺言よりも低いうえに、遺言の内容を秘密にできる点が秘密証書遺言のメリットです。

しかし秘密証書遺言を公証人に証明してもらう際、2人以上の証人を連れていく必要があるため、遺言の存在は秘密にはできません。また遺言を作成するのは自分自身であるため、不備によって記載内容が無効になる可能性があります。

遺言で不動産を相続するときの注意点

では遺言を作成する場合、どのような点に気をつける必要があるのでしょうか?ここでは、不動産をはじめとした財産を、遺言で引き継ぐ場合に注意すべき点を解説します。

ルールに沿って作成する

遺言書には必ず記載しなければならない項目があり、抜けや漏れがあると無効となってしまいます。特に以下の記載がない遺言書は、無効です。

● 遺言者の署名
● 押印
● 遺言書を作成した日

上記の中でも、日付は遺言書が作成された日を特定するために必要な項目です。「2021年7月吉日」のように、いつ書いたのか分からない遺言は無効となってしまいます。

また不動産について遺言書に記載する際は、最新の登記事項証明書を取得したうえで、以下の項目を記載する必要があります。

● 土地:所在・地番・地目・地積
● 建物:所在・家屋番号・構造・床面積

また自筆証書遺言の本文は、原則として財産を残す人がすべて手書きで作成しなければなりません。パソコンで作成したものや他人が代筆したもの、動画で撮影された遺言などはすべて無効です。

ご自身で自筆証書遺言や秘密証書遺言を作成する際は、正しい様式に則って必要な項目を漏れなく記載することが大切です。

財産を残す人が健在なうちに作成する

財産を残す人が認知症になってしまうと、遺言書の作成だけでなく生前贈与を含むあらゆる法律行為が無効となってしまいます。そのため遺言書は、意思能力に問題がないうちに作成しておくことが大切です。

ただし認知症を患う前に遺言書を作成しても、トラブルが完全に防げるわけではありません。遺言書の内容を気に入らない相続人が「遺言書は、認知症を患った状態で作成されたものであり本人の意思ではない」と主張し、裁判に発展するケースもあるためです。

トラブルを防ぐためには、遺言を作成する前に医師から「意思能力に問題はない」と記載された診断書をもらっておくのも方法の1つです。

「公正証書遺言」を作成する

自筆証書遺言は、手軽かつ低コストで作成できる一方で、不備によって無効になりやすいです。また本人が遺言書を保管する場合、紛失や改ざんのリスクが高まってしまいます。秘密証書遺言は、自筆証書遺言より紛失や偽造が発生するリスクは低いものの、書式の不備によって無効になる可能性があります。

遺言書は、弁護士のような専門家に預けて保管してもらうことも可能です。しかし相続が発生する前に、遺言書を預けた弁護士が亡くなっていると、預けられた遺言書が見つからない可能性があります。

ご自身の意思を確実に伝えたいのであれば、費用をかけてでも公正証書遺言を作成するほうが良いでしょう。公正証書遺言であれば、専門家が作成をしてくれるため不備によって無効となるリスクがありません。また公証役場で保管してもらえるため、紛失や改ざんのリスクもないといえます。

生前に家族で話し合っておくのが相続対策の基本

遺言書を作成するだけでは、相続でのトラブルを完全には防げません。特に遺産の中に、マンションやアパートなど分割や現金化がしにくい財産が含まれていると、相続人が揉めてしまい“争族”に発展しやすくなります。

また遺留分を侵害するような遺言書の作成も、トラブルの元となります。相続でトラブルが起きないようにするためには、家族一人ひとりの希望や意見を聞いたうえで、公平となるような分け方を決めておくと良いでしょう。

相続の話は、子どもや配偶者からは話しにくいものです。そのため財産を残す人が主体となって健在なうちに家族で財産の分け方を話し合っておくのが有効です。

不動産小口化商品を活用するのも方法

相続時のトラブルを防ぎたいのであれば、遺言書を作成する前に、相続を意識して不動産を所有するのも選択肢の一つです。これから資産をマンションやアパートなどの不動産にシフトしようと考えている方は、不動産小口化商品も検討してみると良いでしょう。

不動産小口化商品とは、現物の不動産の所有権を複数に分割し、小口化された金融商品です。不動産小口化商品は、1口あたり数万〜1,000万円程度で販売されており、現物の不動産よりも遺産分割しやすいというメリットがあります。

また不動産の組合持分権を購入する「任意組合型」は、相続税や贈与税の計算時に現物の不動産と同じ方法で評価されます。そのため現金よりも割安な評価額となり、相続税の節税効果も期待できるのです。

生前贈与しやすいのも、不動産小口化商品のメリットです。不動産小口化商品であれば、贈与税がかからない範囲の口数に分けて贈与できるだけなく、現金よりも評価額が割安であるため短期間で多くの財産を贈与できる可能性があります。

≪不動産小口化商品とは?≫

まとめ

遺言を作成し特定の相続人に財産を引き継ごうと考えていても、相続人の誰かが遺留分を主張すると、遺言書の内容通りに分割されない可能性があります。また遺言書を書く際は、ご自身に合った種類を選択したうえで、ルールに則って作成しなければなりません。

亡くなったあとに家族が相続でもめてほしくない方は、ご自身が健在なうちに遺産の分け方を話し合っておくことが大切です。

相続対策は、遺言書を書くことだけではありません。相続に精通した税理士に相談のうえ、ご自身の状況にあった方法を選択しましょう。

 

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