原則的評価方式の目的や評価対象とは。具体的な評価方法を解説

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非上場企業の株式は市場で取引されません。そこで評価するときに用いるのが原則的評価方式です。ただし適用されるのは、株式取得者が同族株主等の場合に限られます。また会社の規模によって計算方法が異なるため、それぞれ見ていきましょう。

1. 原則的評価方式とは

1. 原則的評価方式とは

原則的評価方式は、非上場企業の株式を評価する際に用いられる方法です。株式を取得するのが同族株主等である場合に適用されます。複雑な評価方法について理解するために、まずは基本的な知識を紹介します。

1-1. 非上場企業の株式評価方法の一つ

上場企業であれば日々の株価を元に株式の評価が可能です。しかし上場していない会社には相場がなく、株価がはっきりしません。そのため売り手と買い手の双方が納得すれば、その価格でよいことになります。

M&Aの取引であればそれでも構いません。しかし引き継ぐ資産額に応じて税額が決まる相続や贈与・譲渡において言い値で評価すると、税額に不公平が生じます。

そこで用いられるのが、国税庁による『財産評価基本通達』で定められている原則的評価基準です。

1-2. 株式取得者が同族株主等の場合に用いる

原則的評価方式で非上場企業の株式を評価するのは、同族株主等が株式を取得する場合に限られます。そのため適用するに当たり、株式を取得する人が同族株主等に該当するか判断しなければいけません。

同族株主等とは、課税のタイミングで議決権総数の30%以上を保有している株主や同族関係者のことです

ただし議決権総数の50%を超えて保有する株主グループがあると、30%以上の議決権を持っていても同族株主にはなりません。この場合、同族株主は50%を超える議決権を持つグループのみです。

1-3. 特例的評価方式との違い

同族株主等以外が株式を取得する場合には、『特例的評価方式』で株式を評価します。原則的評価方式と比べると、特例的評価方式の方が株価は低く算出されるのが特徴です。

株式の価値には、同じ会社でも違いがあります。30%以上もしくは50%超の議決権を持つ同族株主等は会社の支配権を持っており、単独でさまざまな決定が可能です。一方、それ以外の少数株主が持っているのは配当権程度です。

そのため価値が同等とはいえず、同じ評価の仕方では妥当とはいえないため、計算に用いる評価方式が異なります。

2. 評価方法は会社の規模に応じて決定

2. 評価方法は会社の規模に応じて決定

原則的評価方式は、同族株主等が株式を取得する場合に適用されるものだと分かりました。加えて原則的評価方式には3種類の評価方法があります。この3種類のうちどれを用いるかは、会社の規模によって判断します。

2-1. 評価上、会社は大きく三つに分類される

原則的評価方式の中でどの評価方法を用いるか判断するには、従業員数・総資産価額・取引金額によって、会社を『大会社』『中会社』『小会社』に分類します

大会社に分類されるのは、従業員数が70人以上、もしくは業種ごとに異なる以下のいずれかに該当する場合です。

業種総資産価額 (※いずれも従業員数35人以下を除く)直前期末以前1年間の取引金額
卸売業20億円以上30億円以上
小売・サービス業15億円以上20億円以上
上記以外15億円以上15億円以上

中会社は従業員が70人未満であり、以下のいずれかに当てはまる会社です。ただし大会社に分類される会社は該当しません。

業種総資産価額 (※いずれも従業員数5人以下を除く)直前期末以前1年間の取引額
卸売業7,000万円以上2億円以上30億円未満
小売・サービス業4,000万円以上6,000万円以上20億円未満
上記以外5,000万円以上8,000万円以上15億円未満

従業員数70人未満であることに加え、業種ごとに定められている以下の条件を全て満たしている場合、小会社に分類されます。

業種総資産価額( ※いずれも従業員数5人以下)直前期末以前1年間の取引額
卸売業7,000万円未満2億円未満
小売・サービス業4,000万円未満6,000万円未満
上記以外5,000万円未満8,000万円未満

2-2. 業種区分の判定方法

規模によって会社は大会社・中会社・小会社に分類され、それぞれ用いる評価方法が異なります。正しく株価を算出するには、会社がどの業種に属するか正確に判断しなければいけません。

どの業種に該当するかは『直前期末以前1年間の取引額』で判断します。複数の事業を行っており、いずれの事業にも該当する取引額がある場合には、その中で最も取引額の多い業種として判定しましょう。

3. 会社規模ごとの評価方法

3. 会社規模ごとの評価方法

従業員数や総資産額・取引額で会社を三つに分類すると、それぞれの会社で用いるべき評価方法が分かります。それぞれの規模で使用する評価方法を確認しましょう。

3-1. 大会社は原則「類似業種比準方式」

大会社の株式は、原則として類似業種比準方式で評価します。似た事業を行っている上場企業を探し、その1株あたりの株価・配当・利益・純資産を比較した上で、株価を算出する方法です。

類似業種比準方式で難しいのは、似た事業を行っている上場企業の選び方です。特に複数の事業を営んでいる場合や、分類の難しい事業の場合には判断しにくいでしょう。例外として、純資産価額方式による株価の算出が認められるケースもあります。

参考:「類似業種比準方式」による非上場株式の評価を分かりやすく解説

3-2. 小会社は原則「純資産価額方式」

会社の分類が小会社であれば、株価の算出には原則として純資産価額方式を用います。小会社は個人事業と同程度の規模であるケースも多く、大会社で用いる類似業種比準方式では実態と合わないからです。

純資産価額方式では、資産から負債を差し引いた金額を元に株価を計算します。現時点で会社を解散した場合、株主に分配されるはずの財産の価額から評価する方法ともいえるでしょう。

例外的に併用方式で株価を算出する場合もあります。

参考:純資産価額方式とは

3-3. 中会社は原則、併用方式

中会社では、類似業種比準方式と純資産価額方式を合わせた併用方式で、株価を計算します。併用方式で算出する場合、中会社では類似業種比準方式と純資産価額方式を以下の割合で用い計算します。

なお、総資産価額と直前期末以前1年間の取引額の規模により、中会社はさらに大中小に分けられる点に注意が必要です。

規模類似業種比準方式純資産価額方式
中会社の大0.900.10
中会社の中0.750.25
中会社の小0.600.40

中会社の株価を算出する際には、併用方式以外に純資産価額方式を用いるケースもあります。

参考:Lの割合が重要!類似業種と純資産価額の併用割合

4. 会社規模に左右されない評価方法

4. 会社規模に左右されない評価方法

同族株主が株式を取得するときには、会社の規模に従って3種類の評価方法のうちいずれかが適用されるのが原則です。ただし会社の状態によっては、評価方法が規模によって決まらないケースもあります。

4-1. 特定の評価会社の株式の場合

大会社は類似業種比準方式を用いるのが原則です。ただし大会社であっても以下の条件に当てはまる場合は、類似業種比準方式を使えません。

  • 比準要素が一つのみ:比較に用いる1株あたりの配当金額・利益金額・純資産価額のうち二つが0、かつ前々期末を基準にそれぞれを計算したときに二つ以上が0の場合
  • 株式等保有特定会社:会社の総資産に対し株式等の割合が50%以上の場合
  • 開業から3年未満:課税のタイミングで開業から3年未満の場合
  • 土地保有特定会社:会社の資産のほとんどが土地など不動産の場合
  • 開業前・休業中:法人として存在していても事業を行っていない状態の場合
  • 清算中:会社の財産を換金し株主へ分配する手続きを行っている場合

条件に当てはまり、類似業種比準方式の使用ができない会社を『特定会社』といいます。

参考:株式等保有特定会社とは
参考:土地保有特定会社とは

4-2. 中心的な同族株主が譲渡、贈与する場合

中心的な同族株主による譲渡や贈与が行われる場合、会社の規模にかかわらず小会社として株式を評価しなければいけません。大会社や中会社に分類される規模であっても、小会社で原則として用いられる純資産価額方式の対象です。

また小会社は納税者が選択すれば、例外的に併用方式による株価の算定もできます。

参考:「中心的な同族株主」の範囲

5. 評価額の重要性と自社株対策

5. 評価額の重要性と自社株対策

ここまで株価を原則的評価方式によって評価する方法を見てきました。会社が保有する資産の評価額が重要なのは、税額に影響するからです。そのままでは税負担が重くなり過ぎるという場合には、計画的な自社株対策も欠かせません。

5-1. 評価額に応じて税額が決まる

会社の資産を相続や贈与・譲渡によって引き継ぐと、評価額に応じた税金が課されます。評価額が高いほど税金も高額になるため、税負担を抑えるためには評価額が低い方がよいでしょう。

あらかじめ資産の評価額を算出して把握しておかなければ、想定以上の税金が課され、納税できず解散に追い込まれる可能性もあります。また一度算出した後も評価額は変化するため、定期的に計算し直し最新の金額を把握しなければいけません

ただし評価額を算出するときにどの数値を用いるかは複雑で、専門的な知識が必要な分野です。そのため税理士に依頼するとよいでしょう。実績豊富な『税理士法人チェスター』への依頼がおすすめです。

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5-2. 類似業種比準価額を引き下げる方法

税負担を抑えるには、評価額を下げるのが効果的です。類似業種比準価額は、決算対策によって評価額を変化させやすいという特徴があります。代表的な決算対策は以下の通りです。

  • 設備投資
  • 活用できていない資産の売却
  • 不良在庫の損金算入
  • 決算賞与の損金算入
  • 後払いする費用の損金算入

ただし株価を下げる目的で利益を圧縮すると、本業に悪影響が出るかもしれません。また保有資産の割合が変わることで会社区分が変更になり、株価が上がる可能性もあるでしょう。よく検討した上で実施する必要があります。

5-3. 純資産価額を引き下げる方法

純資産価額方式で算出された株価は、純資産と発行済株式数に左右されます。例えば資産の購入や設備投資の実施は、純資産の評価額を下げ株価の引き下げにつながる対策です。

また役員退職金の支払いも、純資産価額の引き下げにつながります。加えて株価は『純資産の評価額÷発行済株式数』で計算するため、株式数を増やしても株価を下げられるでしょう。

参考:事業承継で発生する費用の目安。税金や手数料負担を抑えるには

6. 非上場企業の評価方法は複雑

6. 非上場企業の評価方法は複雑

相場のない非上場企業の評価方法は複雑です。まず株式を引き継ぐのが誰かによって、適用される方式が異なります。引き継ぐのが同族株主であれば原則的評価方式の対象です。

原則的評価方式には企業規模によって3種類の評価方法があり、中には規模にかかわらず計算の仕方が決まっているケースもあります。自社に適した評価方法で正しく算出するには、税理士に依頼するとよいでしょう。

税理士法人チェスターでは相続事業承継コンサルティング部の実務経験豊富な専任税理士が、お客様にとって最適な方法をご提案いたします。

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非上場株式の評価方法について詳しく解説している以下も、ぜひご覧ください。

【会社区分別】非上場株式の評価方法を決定する方法まとめ|相続税の申告相談なら【税理士法人チェスター】

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