新株予約権のメリットは?目的から行使までわかりやすく解説

新株予約権のメリットは?目的から行使までわかりやすく解説

新株予約権とはどのような目的で発行されるのでしょうか?保有しているとどのようなメリットを得られるのかという点についても、分かりやすく解説します。またストックオプションや新株予約権付社債についても見ていきましょう。

1.新株予約権とは

新株予約権とは

新株予約権について理解するにあたり、まずは基本的な知識を押さえておきましょう。有利発行と公正発行の特徴も解説します。

1-1.会社法2条21号における定義と解説

会社法2条21号では、新株予約権のことを『株式会社に対して使うことで、当該株式会社の株式の交付を受けられる権利』と定めています。証券の保有者は、希望の時期に株式を手に入れられる仕組みです。

さらに株式を『行使価格』で購入できるのも特徴といえます。行使価格と条件が定められており、その条件下であれば行使価格で株式を手に入れられるのです。

例えば行使価格が100円であれば、株価が200円に値上がりしたときに権利を行使することで、1株あたり100円の利益を得られます。

1-2.有利な金額で権利を発行「有利発行」

『有利発行』とは第三者に対して、安い価格や無償など有利な条件で新株予約権を発行することです。新たな株主を集めたいと考えている企業にとっては、非常に有効な方法といえます。

一方、既存株主にとっては、保有している株式の価値が下がる可能性があり、想定した利益を得られないかもしれません。新たな株主が増えることで、持ち株比率が変化すると、議決権にも影響を及ぼす恐れがあります。

そのため有利発行の実施は株主総会での特別決議が必要です。

1-3.ストックオプション等の「公正発行」

一方、ストックオプションを始めとする『公正発行』もあります。公正発行では、全ての株主へ新株予約権を発行するのが特徴です

公開会社であれば、有利発行のように既存株主の利益に関わることはないと考えられています。そのため取締役会で決定するだけで発行可能です。

しかし、非公開会社の場合には事情が異なります。既存株主の保有する株式の価値が低下することや、持ち株比率の変化による議決権への影響が考えられるためです。

そこで利益を保護するため、株主総会の特別決議を行い、認められなければいけません。

2.新株予約権発行の目的の例

新株予約権発行の目的の例

企業はどのような目的で新株予約権を発行するのでしょうか?二つの目的をチェックしましょう。

2-1.敵対的買収防衛のため

経営をしていると敵対的買収をしかけられるケースもあります。このときあらかじめ新株予約権を発行しておくと、買収への防衛に役立つのです

敵対的買収は市場の株式を買い占めることで行われます。そこで既存株主に新株予約権を行使してもらいます。すると株式の総発行数が増えるため、買収者の持ち株比率を下げられる仕組みです。

買収者の持ち株比率を下げられれば、経営権の奪取を阻止できます。敵対的買収に対する防衛を目的とした新株予約権の発行は、株主総会決議を義務づけられていません。

ただし原則として株主の意思に基づく決定をすべきと考えられているため、株主総会決議の実施が望ましいでしょう。

2-2.資金調達のため

スピーディーな『資金調達』のために利用するケースもあります。新株予約権を有償で発行し、権利と引き換えにオプション料を受け取る方法です

資金調達の方法として債券の発行もありますが、こちらは返済の義務が生じます。一方、株式発行による資金調達方法に返済義務はありません。リスクを抑えて増資できる点も、企業にとって大きなメリットです。

3.ストックオプションとは

ストックオプションとは

新株予約権の公正発行の一種に、ストックオプションがあります。どのような特徴のある権利なのでしょうか?

3-1.社内向けの新株予約権

1977年に行われた商法改正で導入できるようになったストックオプションは、社内向けに発行される新株予約権です。企業が役員や従業員に付与します。

権利の行使により従業員は自社の株式を獲得可能です。ただし権利の確定には、条件が設けられているケースが一般的です。一定の勤務条件や業績条件を満たしたときに限り、権利を行使できます。

3-2.役員、従業員へのインセンティブ

ストックオプションは、役員や従業員に対するインセンティブとして発行されます。ストックオプションの利益を得るには、企業の価値を高めるのが近道です。そこで価値の向上を目指し、仕事に励むことが期待されます。

また、現時点では財務に余裕がなく、優秀な人材を集められない企業もあるでしょう。そのような企業でも業績次第で将来的に大きな利益を得られるストックオプションを用いれば、優秀な人材の確保に役立てられます。

4.ストックオプション権利者のメリット

ストックオプション権利者のメリット

ストックオプションを発行すると、従業員のモチベーションアップや優秀な人材の確保に役立つと分かりました。では権利者である役員や従業員には、どのようなメリットがあるのでしょうか?

4-1.大きな差益を受けられる可能性がある

代表的なメリットは大きな『差益』を得られる可能性です。企業の業績が右肩上がりに成長し株価も上がれば、定められている行使価格との差額が大きくなり、差額を利益として受け取れます

自社の業績が好調でも、経済全体の流れが悪化していれば、株価は下落するかもしれません。自社株式を保有している場合には、株価の下落は損失につながります。

しかしストックオプションであれば、権利を行使しなければ損失が出ることはありません。リスクを避けながら利益を得られる可能性がある仕組みです。

4-2.税制適格要件を満たすと優遇措置あり

企業が提供するストックオプションが『税制適格要件』を満たしていれば、役員や従業員は税金の優遇措置も受けられます。そのため課税されるのは、取得した株式の売却時のみです。

一方、税制非適格ストックオプションでは、現金を得ていないにもかかわらず、権利を行使し株式を取得するときにも課税されます。行使価格と株価の差額により得た所得に対し、10~55%も課税されるのです。

もちろん株式を売却したときには譲渡所得税もかかります。2度も課税される税制非適格ストックオプションと比較し、税制適格ストックオプションはメリットの大きな仕組みです。

5.ストックオプションの権利行使とは

ストックオプションの権利行使とは

ストックオプションの権利行使には、あらかじめ定められている決まりがあります。請求方法や相続時の扱いについても紹介します。

5-1.期間内に行使することで株式を購入できる

企業がストックオプションを付与する際には『権利行使期間』が定められているのが一般的です。この期間内であれば、希望のタイミングで権利を使い自社株を購入できます。

また税制適格ストックオプションの権利行使期間は、下記の通り法律にも定めがあるため注意しましょう。

  • 付与決議から2年経過後から権利行使が可能
  • 付与決議から10年経過する日まで権利行使が可能

このことから、付与されてすぐに自社株を購入できるわけではないと分かります。具体的には2年以上10年以内の間に権利行使しなければいけません。

そのほかにも、企業ごとに行使条件を設けている場合もあります。付与されるときにはよく確認しましょう。

5-2.権利行使請求の方法

権利行使を請求するときには、税制適格ストックオプションか税制非適格ストックオプションかで手順が異なります。税制適格ストックオプションの場合、まずは証券会社に専用の口座開設が必要です。

その後『権利行使請求書』を提出し代金を振り込むと、株式の発行処理が行われます。売却できるようになるのは、入庫処理の翌日3時以降です。

税制非適格ストックオプションは、専用の口座開設が必要ありません。権利行使代金を指定の銀行へ振り込むと、信託銀行で株式の発行処理が行われます。売却できるようになるのは、入庫処理の翌日3時以降です。

5-3.相続での権利行使は可能?

権利を相続できるかどうかは、保有しているストックオプションの規定によります。権利を保有する人物が死亡した場合、相続人が権利を承継できると定めているなら、相続後に株式を購入可能です。

ただし企業によっては、新株予約権割当契約書において『放棄条項』を定めているケースがあります。放棄条項の記載があると、保有者の死後は権利行使ができません。

6.株式と債券の両面を持つ新株予約権付社債

株式と債券の両面を持つ新株予約権付社債

中には新株予約権付社債と呼ばれる、株式と債券の両方の側面を持つものもあります。代表的な2種類の新株予約権付社債について見ていきましょう。

6-1.CBとも呼ばれる転換社債

転換社債は『CB(Convertible Bond、コンバーティブル・ボンド)』とも呼ばれています。あらかじめ利率や償還期限のほか、株式に転換するときの価格が設定されている社債です。

転換請求期間内であれば、いつでも決められた価格で発行企業の株式へ転換できます。ただしCBはあくまでも負債であり、期限を迎えると企業は元本を返還しなければいけません。

そのデメリットを解消するために発展したのが、有償で発行する新株予約権(コンバーティブル・エクイティ)です。

6-2.行使後も社債が残るワラント債

社債を株式へ転換できるCBに対し、株式を購入しても社債が残るものを『ワラント債』や『新株引受権付社債』といいます。ワラントとは、株式を定められた価格や数量だけ引き受ける権利の証書です。

そのためワラント債を保有していると、決められた条件で新株を購入できます。前述の通り株式を購入しても債権は残るため、期限を迎えると投資家は返済も受けられます。

7.活用方法によって両者にメリットがある権利

活用方法によって両者にメリットがある権利

新株予約権は企業がスピーディーに実施できる資金調達方法の一つです。また敵対的買収の対抗手段ともなり得ます。

社内の役員や従業員に向けて付与するストックオプションでは、会社の業績次第で大きな利益を得られる可能性があるでしょう。企業にとっては、利益獲得に向けて社員のモチベーション向上が期待できます。

またストックオプションは、税制適格か非適格かで課税される回数が異なる点に注意しましょう。税務については『税理士法人チェスター』へ相談するのがおすすめです。

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