M&Aにおける労務リスクとは。未払残業代や有給休暇などに要注意
タグ: #M&AM&A実施時には、労務リスクの確認が大切です。帳簿上は問題がなく、条件のよい会社に見えても、未払残業代や退職金・有給休暇などの問題を抱えている可能性があります。リスクを回避するためのデューデリジェンスについても見ていきましょう。
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1.労務デューデリジェンスとは
デューデリジェンスとは、買収する会社を対象に行う詳細な調査です。労務デューデリジェンスでは、労務問題について詳しく調査します。中でも簿外債務や偶発債務は、重点的なチェックが必要な部分です。
1-1.人事・労務分野の簿外債務、リスクの調査
買い手が売り手の会社に対し、簿外債務を始めとするリスクがないか調査するのが『労務デューデリジェンス』です。
会社を丸ごと引き継ぐ株式譲渡でM&Aを実施した場合、簿外債務も引き継ぎの対象とされます。
事業の一部や全てを引き継ぐ事業譲渡では、契約書に『債務を承継しない』と明記することで、法律上は債務を負いません。しかし実質的には支払いを余儀なくされるケースが多いでしょう。
買収後に負う可能性があるリスクを事前に把握し、回避したり交渉に生かしたりするためには、専門家による徹底的な調査が欠かせません。
1-2.簿外債務、偶発債務とは
『簿外債務』は帳簿に記載されていない債務のことです。同じ債務でも、金融機関からの借入金は帳簿上に記載されているため、すぐに分かります。
しかし簿外債務は記載されないため、デューデリジェンスを実施しなければ判明しない可能性が高いのです。また『偶発債務』は簿外債務に含まれるもので、将来的に債務になる可能性が高い取引を指します。
デューデリジェンスで詳しく調べることはもちろんですが、最終契約書に『表明保証条項』を入れることも欠かせません。表明保証条項によって、想定外のリスクはないという確認が可能です。
2.買い手側の主なリスク
M&Aを実施するときの労務リスクには、未払残業代や給料の差額を請求されることや、社会保険未加入で追徴や罰金の対象になることが挙げられます。具体的にどのようなリスクを負うのでしょうか?
2-1.未払いの残業代や手当を請求される
買収した会社が従業員に残業代や手当を支払っていない場合、未払い分を請求される可能性があります。残業した従業員には、必ず残業代を支払わなければいけません。賃金の支払われないサービス残業は労働基準法違反です。
正しく計算しているつもりでも、端数処理に誤りがあり未払いが発生している可能性もあります。例えば残業時間に1時間未満の端数がある場合、30分未満なら切り捨てますが、30分以上なら切り上げです。
仮に1時間未満の端数を全て切り捨てていた場合、その分を請求されるかもしれません。2020年3月31日以前の残業代は2年間、20年4月1日以降の残業代は3年間が時効のため、その期間内は請求の可能性があります。
2-2.社会保険未加入漏れで追徴、罰金など
社会保険は、一定の条件を満たした従業員を雇用したら必ず加入しなければいけません。加入を怠ると最大で2年分の保険料を徴収されます。本来であれば従業員と折半しますが、従業員が退職済みで、100%会社負担となるケースもあるでしょう。
場合によっては6カ月以下の懲役や50万円以下の罰金も科される可能性があります。マイナンバー制度の導入が進んでいるため、買収した会社の加入漏れを放置し続けるのは難しいでしょう。
2-3.給料、手当の差額の請求
就業規則で定められている給料や、退職手当規定で決まっている退職金などは、正しく支払われているでしょうか。書面で決まっている金額と、実際に支給されている金額に差がある場合、差額を請求されるかもしれません。
差額が発生しているのは意図的かもしれませんし、法令や指導の理解が不十分な結果の可能性もあります。どちらにせよ、規定や法令に基づいた運用がされていることの確認が必要です。
3.M&A後に発生する問題とは
M&A成立後に発生する労務問題もあります。有給休暇や退職金の扱い、就業規則の変更について、従業員との間にトラブルが発生するかもしれません。
3-1.有給休暇と退職金の扱い
有給休暇や退職金は、M&Aの手法によって扱いが異なります。従業員との雇用契約が継続される『株式譲渡』でのM&Aであれば、有給休暇の日数や勤続年数も承継されます。
例えばM&A以前に10年間働いていれば、M&A後も勤続年数は10年です。一方、雇用契約を結び直さなければいけない『事業譲渡』では、有給休暇も勤続年数もリセットされます。
M&A以前に勤続10年でも、M&A後は1年目です。同じM&Aでも、手法によって従業員の受けられる福利厚生には大きな違いが発生します。
3-2.就業規則の不利益変更
労働条件を定めている就業規則は、M&A後に一つに統合するのが一般的です。ただし統合後の就業規則は、売り手・買い手どちらの会社の従業員にとっても、プラス・マイナスの両面が発生します。
マイナスの変更が実施されることは『不利益変更』といい、労働契約法で変更の手続きが規定されています。従業員にとって改悪となる内容のため、合意した上で変更しなければいけません。
できる限り不利益変更にならないよう配慮をしつつ、不利益変更になる部分については、注意深く対策をする必要があります。
4.従業員との信頼関係を損なわない進め方を
会社をM&Aで買収するときには、労務リスクについての調査が欠かせません。意図せぬリスクを抱えてしまわないよう、簿外債務に対する調査の徹底が大切です。
またM&A成立後に有給休暇や退職金・就業規則などをどのように扱うかは、従業員との信頼関係に関わります。従業員にとって不利になる変更については、特に慎重に進めることが大切です。
M&Aでは労務だけでなく税務についての調査も必要です。税務デューデリジェンスを実施するなら『税理士法人チェスター』へ問い合わせるとよいでしょう。
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