相続が「争族」になるケース。争族を未然に防ぐ対策とは?
タグ: #相続トラブル遺産相続は、時として親族どうしで争う「争族」になることがあります。
遺産相続に関するトラブルは家族関係が悪化するきっかけにもなるため、できるだけ避けたいところです。どのような場合に相続が「争族」になるかを知っておけば、トラブルを未然に防ぐことができるでしょう。
この記事では、相続が「争族」になりやすいケースと、争族を防ぐために生前からできる対策をご紹介します。
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1.「争族」とは
争族とは、遺産相続をめぐって争う親族のこと、あるいは遺産相続をめぐる親族どうしの争いそのものを指した言葉です。相続と同じ読み方の漢字を当てはめた造語であり、公式には使われない俗語として定着しています。
遺産相続をめぐる争いは資産家だけのもので、一般家庭では起こらないと考えられていますが、実際は異なります。争族は一般家庭でも十分起こりうるもので、少ない遺産をめぐって争う方が深刻になる傾向があります。
2.相続が「争族」になりやすいケース
これから、遺産相続から親族の争いが起こりやすいケース、つまり相続が「争族」になりやすいケースをご紹介します。
これらの場合で必ずトラブルが起こるわけではなく、当てはまらなければ争族にならないというわけでもありません。あくまでもよくある例としてご覧ください。
2-1.自宅以外にこれといった財産がない
相続財産が自宅だけで他にこれといった財産がない場合は、相続が「争族」になりやすい傾向があります。
財産が多い家庭では生前から相続対策をすることが多いですが、財産がそれほどない家庭では対策をしないまま相続を迎えることが大半です。
財産のほとんどが自宅であれば争いは深刻になります。現金であれば相続人どうしで分け合うことが容易ですが、自宅を分け合うことはできないからです。
故人に配偶者がいれば、ひとまず配偶者が自宅を相続することで落ち着きます。しかし、次に配偶者が死亡したときに一つの自宅をめぐって兄弟で争うことになりかねません。
2-2.特定の相続人だけ故人を介護していた
特定の相続人だけが故人を介護していたなど、相続人の負担が公平でなかった場合も争族になりやすい傾向があります。
介護や看病、事業の手伝いなど故人に対する貢献は、金額に換算したうえで「寄与分」として相続分を上乗せすることが認められています。
しかし、特定の相続人に寄与分を認めると、他の相続人は自分の相続分が減ることになってしまいます。そのため、争いが起こりやすくなります。
さらに、介護や看病などの行為は客観的に金額に換算することが難しく、寄与した相続人とそうでない相続人の考えの違いから話し合いはなかなかまとまりません。
寄与分として認められる行為と寄与分を金額に換算する目安については、下記の記事を参照してください。
2-3.特定の相続人だけ生前贈与を受けていた
特定の相続人だけが特別に財産をもらい受けていたなど、故人からの恩恵が公平でなかった場合も争族になりやすい傾向があります。
たとえば、ある相続人だけ自宅購入の援助を受けた場合や、海外留学の費用を出してもらった場合などがあてはまります。
これらの贈与を「特別受益」といい、遺産を前もってもらったとみなして、相続分からマイナスすることになっています。
特別受益があった相続人は相続分が少なくなるため、争いが起こりやすくなります。さらに、生前の贈与が特別受益にあたるかどうかは明確な線引きがあるわけではなく、解釈をめぐって深刻なトラブルになりがちです。
生前贈与が特別受益にあたるかどうかの判断の目安や、特別受益があった場合の遺産分割について詳しい内容は、下記の記事を参照してください。
2-4.養子・前妻の子・婚外子がいる
次のような事情で故人の家族関係が複雑になっている場合も、相続が「争族」になりやすい傾向があります。
- 知らない人が養子になっていた
- 離婚したもとの配偶者との間に子供がいた
- 愛人との間に生まれた子供を認知していた
養子のほか、離婚したもとの妻(夫)の間の子供や、父親に認知された婚外子(隠し子)も遺産を相続することができます。
こういった子供がいることを家族が知らなければ、亡くなった後に突然名乗り出てきてトラブルになります。また、亡くなった後に家族が戸籍謄本を確認して、知らない名前があることに驚くこともあります。
家族、特に子供にとってみれば、予期しない相続人が増えたことで自分の相続分が減ることになります。相手が今まで会ったこともない人であれば、話し合いはより一層難しくなります。
婚外子がいる場合の相続については、下記の記事も参照してください。
2-5.夫婦の間に子供がいない
夫婦の間に子供がいない場合も、相続が「争族」になりやすい傾向があります。
子供がいない夫婦のどちらかが死亡した場合は、配偶者に加えて故人の両親も相続人になります。両親がすでに死亡していて、かつ両親より上の世代の親族もいなければ、故人の兄弟姉妹が相続人になります。
したがって、故人の配偶者は義理の父母または義理の兄弟姉妹と遺産相続について話し合わなければなりません。
普段から親しくしていれば話し合いはしやすいですが、疎遠であればお互いに主張が極端になって話がこじれる傾向があります。
2-6.極端なことを言う相続人がいる
財産の内訳や、家族構成にこれといった問題がなくても、相続人の中に理屈が通用せず極端なことを言う人がいると争族になる場合があります。
極端な主張をする背景には、元来の性格や家族に仕返しをしたいといった過去の恨みなどがあります。このほか、生活が苦しく少しでも多く遺産をもらいたいといった経済的な事情が潜んでいる場合もあります。
こういった場合は主張そのものに無理があるので、お互いに弁護士を立てたとしても話し合いはまとまりません。司法の場に持ち込んでも調停だけでは終わらず、審判や訴訟に及んで争いが泥沼化する恐れもあります。
3.生前からできる「争族」対策
相続が「争族」になってしまえば、家族が疲弊するだけでなくその後の関係に深刻な悪影響を及ぼします。
争族を防ぐにはどういった対策があるでしょうか。ここでは、生前からできる争族対策をご紹介します。
3-1.誰が相続人になるか確認する
争族を防ぐには、まず誰が相続人になるか確認することが大切です。前の章でお伝えしたように、死亡後に予期しない相続人が現れてトラブルになることもあるからです。
法律上、誰が相続人になるかは次のように定められています。
- 常に法定相続人:配偶者
- 第1順位:子(子が亡くなっている場合は孫)
- 第2順位:父母(父母が亡くなっている場合は祖父母)
- 第3順位:兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっている場合は甥・姪)
第1順位の人がいなければ第2順位の人が法定相続人になり、第2順位の人もいなければ第3順位の人が法定相続人になります。
多くの場合は配偶者と子が相続人になりますが、特に次のような場合は、誰が相続人になるかを確認しましょう。
- 子がいない場合
- 離婚歴がある場合
- 養子・婚外子がいる場合
- 未婚の場合
詳しくは「相続人の範囲がすぐに分かる方法(簡単フローチャート付)」を参照してください。
3-2.遺言書を書く
遺言書は、遺産を誰にどれだけ渡すかといった事項を定める法的な書面です。相続人は遺言で指定されたとおりに遺産を分け合うことになるため、遺言書は争族を防ぐ最も有効な手段です。
しかし、遺言書があっても争族に発展する場合があります。たとえば次のような場合です。
- 遺留分(相続人が最低限相続できる割合)を侵害していた
- 形式に不備があって遺言書の有効性を争うことになった
- 特定の相続人に極端に有利な内容になっていた
遺言書は遺留分に注意しつつ、形式の不備で無効にならないように作成しなければなりません。また、遺言で遺産の分け方を指定する場合は、どのような思いで分け方を決めたのかを伝えることも重要です。
遺言書には、付言事項として、遺産分割方法を定めた意図や葬儀・埋葬に関する指示、家族に対する感謝の気持ちなどを書くことができます。付言事項に法的な効力はありませんが、どのような思いで分け方を決めたかがわかれば、家族も納得して相続することができるでしょう。
遺言書の書き方は、「遺言書の書き方完全ガイド-遺言書の形式と内容に関する注意点を解説」で詳しく解説しているので参考にしてください。
3-3.生命保険を活用する
生命保険を活用して争族を防ぐこともできます。
たとえば相続人が長男と次男の二人であるとき、長男に遺産をすべて相続させて、次男は同額の保険金を受け取れるようにすれば、結果として公平になります。
生命保険の死亡保険金は契約上の受取人固有の財産であるため、他の相続人が保険金を分け合うよう求めることはできません。
3-4.家族信託を活用する
家族信託は、ある目的のために家族に財産を信託するしくみです。相続対策に家族信託を活用すると、次のように他の相続対策ではできないきめ細かな対策が実現できます。
- 認知症などで判断能力を欠くことになった場合に備えることができる
- 孫の代にわたる資産承継が設計できる
ただし、個人で家族信託の計画や契約書作成などの手続きを実行することは非常に困難です。家族信託を活用する場合は、実務経験が豊富な専門家に相談することをおすすめします。
家族信託のしくみは「家族信託の基本的なしくみと具体的な活用方法」で詳しく解説しています。
3-5.相続の専門家に相談する
争族を未然に防ぐには、相続トラブルに詳しい専門家に相談することも方法の一つです。
例えば遺言書を遺す場合であっても、書き方や内容次第で逆にトラブルを招いてしまうこともあります。そういうことがないように、事前に専門家に相談してトラブルに発展しないような分割方法、内容などを相談しておくのです。
遺言書を書きたいという場合には、弁護士や司法書士、行政書士に相談すると良いでしょう。特に相続トラブルに強い弁護士であれば、内容についてもアドバイスを貰うことが出来ます。
財産が多い場合は、税金の問題が発生することが多いので税理士に相談することをおすすめします。
争族対策だけでなく相続税対策も併せて提案してもらうことができます。
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