会計事務所M&Aの目的とは?相場、売却の相談先、流れなども解説

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会計事務所のM&Aは、どのような目的から行われるのでしょうか?M&Aを検討しているなら、まずは専門知識を持つ相手に相談しましょう。代表的な相談先や、依頼した場合の流れを解説します。加えて、小規模な事務所でもM&Aはできるのかもチェックしましょう。

1.会計事務所の事業承継プラン例は?

会計事務所の事業承継プラン例は?

引退といった理由により所長が会計事務所を辞める際には、事業承継の必要が出てきます。一般的にはどのような方法で承継されるケースが多いのでしょうか?代表的な事業承継プランを紹介します。

1-1.従業員に時間をかけて引き継ぐ

事業承継を実施するにあたり、候補者として有力なのが信頼できる『従業員』です。有資格者であればすぐに後継者候補にできます。

無資格であっても他の従業員をまとめる力や、その他の事務所の経営に必要な資質を持っていると判断できれば、資格取得を支援して事業承継の候補者とする場合もあるでしょう。

従業員であれば既存顧客のこともよく理解しているため、顧客へもこれまで同様の対応ができます。後継者候補として時間をかけて徐々に引き継いでいけるのもメリットです。

1-2.大手の事務所の傘下に入る

近年増えているのが、M&Aにより事業承継する方法です。スムーズにM&Aを実施するには、早めの準備が欠かせません。

目安としては、所長が十分元気なうちに実施するとよいでしょう。病気や加齢などの事情により緊急に事業承継しなければいけないケースでは、準備不足によって売却金額が安く見積もられがちです。

納得のいかない金額だからとよりよい買い手が現れるのを待っていると、価格だけでなく条件まで不利になりかねません。また、会計事務所のM&A市場は、徐々に買い手市場に移行している傾向があります。

早めに行動に移らなければ、売り時を逃す可能性もあるでしょう。

1-3.事務所を移行してすぐに離れる

大手事務所へ移行した場合、所長がその後どのような処遇を受けるかは、移行先の意向に従います。もともとの所長がいると他の従業員が委縮して、新体制に移行しにくいというケースもあるでしょう。

そのような場合には、すぐに事務所を離れてほしいと希望されるかもしれません。要望があれば移行後できるだけ早いタイミングで引退しましょう。

ただし、所長が引退すると、それまでの顧問先も離れていく可能性があります。その分、事業の価値が低下するケースも考えられるでしょう。

2.会計事務所の事業承継としてのM&Aの意味

会計事務所の事業承継としてのM&Aの意味

M&Aを利用して会計事務所が事業承継を実施するということには、どのような意味があるのでしょうか?M&Aで事業承継することにより解消される問題について見ていきましょう。

2-1.業界の高齢化による後継者問題の解消

まず解消できるのは『後継者問題』です。会計事務所の所長は高齢化が進んでいます。バブル期に独立開業した会計士・税理士が大勢いますが、その世代が60~70代に差し掛かっているのです。

加えて会計士・税理士には定年がないため、辞めなければいけない事情が出てくるか、本人が辞めたいと思わない限り現役を続行できます。その結果、業界全体の高齢化が進んでいるのです。

そろそろ引退しようと思っていても、後継者が身近におらず辞められないと考えている会計士・税理士もいるでしょう。安心して顧問先を任せられる人材を自力で探すのは大変です。

計画的にM&Aを実施し事業承継の準備をしていれば、後継者問題に頭を悩ませることはありません。

2-1-1.資格の問題等で親族内承継も難しい

事業承継の選択肢としては、まず親族内承継を検討するケースが多いでしょう。しかし会計事務所の場合、会計士・税理士の資格がなければ引き継げません。

親族内に有資格者がいなければ、一から勉強して資格取得を目指します。会計士も税理士も合格率の低い難関資格のため、取得するのは簡単ではありません。加えて実務経験も積まなければいけませんし、職員との関係構築も必要です。

また価値観の多様化により、親族内承継を選択しないケースも増えています。そのため引退に伴い所長の子どもを後継者に、というように簡単に代替わりできないのです。

2-1-2.小規模事務所も売却できる

M&Aによる売却は1人事務所や職員数名の小規模事務所でもできます。例えば早めのM&Aで他の会計事務所の傘下に入り、元気なうちはそのまま継続して働き続けるというケースもあるのです

事業承継では引き継ぐべき項目がたくさんあります。手続き以外にも、顧問先についての詳細や職員との関係性など、時間をかけなければ難しいものもあるでしょう。

もともとの所長が引き続き働きながら徐々に引き継いでくれるとなれば、買い手としても安心です。小規模な会計事務所に特化したM&A仲介会社もあるため、利用するとよりスムーズでしょう。

2-2.従業員の雇用、顧問先との関係を守る

会計事務所には従業員がいますし、顧問先との関係もあります。M&Aを実施することで両者を守ることにつながる点もポイントです

小規模な事務所では各顧問先に担当の従業員がおり、信頼関係のもと幅広い業務を任されます。仮に事業承継がうまくいかず廃業するとなると、従業員には転籍先を紹介する必要があります。

しかし担当する顧問先とともに引き受けてもらえるとは限りません。一方M&Aであれば、従業員も顧問先も一緒に承継が可能です。これまで築いてきた信頼関係を守り続けられます。

3.買い手が求めるポイント

買い手が求めるポイント

同じような規模感の会計事務所であっても、状況によって売却額には差が出ます。買い手が求めるポイントをより多く満たせる事務所であれば、それに見合う金額での売却が可能です。

3-1.優良な顧客の獲得

優良顧客の獲得を目的としてM&Aを実施する買い手は大勢います。全国に3万以上の会計事務所が存在しており、顧客獲得競争が激しさを増しているからです。

効果的な営業活動をしなければ、会計事務所の顧客は自然消滅していくといわれています。顧客の獲得は事務所の存続に関わる重要な問題のため、M&Aにより優良顧客を引き継ぎたいという需要が増加中です

3-2.即戦力となるスタッフの獲得

優秀な人材の獲得もM&Aの目的の一つです。比較的規模の大きな会計事務所はスタッフ不足に悩んでいます。特に即戦力となる有資格者は貴重な存在です。

そのため優秀なスタッフがいる会計事務所は、売却額を高く評価される傾向があります。有資格者かつ実務経験者が必須で、さらに営業が得意・コンサルティングの経験者といったプラスアルファがあると有利です。

3-3.リスクを抑えて新規開業をする

独立を考えている会計士・税理士が低リスクで開業する手段としてもM&Aが用いられます。一から新しく事務所を設立しても、顧客獲得が厳しい現状では、事業として成功するか分かりません。

一方事業承継であれば、既に一定の顧客もスタッフもいます。ある程度の地盤を築いている事務所を引き継げば、開業に伴うリスクは最低限に抑えられるはずです。

開業後確実に成功させたいと考えている会計士・税理士にとって、M&Aは魅力的な選択肢の一つといえます。

4.会計事務所のM&A手法

会計事務所のM&A手法

M&Aにはさまざまな手法があります。会計事務所でM&Aを実施するには、どのような手法が用いられるのでしょうか?

4-1.主に合併が選ばれている

会計事務所のM&Aで一般的に用いられるのは『合併』です。売り手側の事務所を買い手が吸収合併し、その対価を支払います。『持分譲渡』でM&Aを行う方法もありますが、手続きが複雑なためあまり選ばれません。

合併によりM&Aを実施し、『税理士法人』を設立するケースもあります。特に信頼できる事業パートナーへ引き継ぐ場合に有効です。法人化は顧問先の安心感にもつながるでしょう。

税理士法人を設立してから、役員報酬や退職金といった形で売却額を受け取るという選択肢もあります。

4-2.事業譲渡も可能

会計事務所のM&Aは『事業譲渡』により実施されるケースもあります。事業の全部か一部を引き継ぐ方法です。

例えば税理士の独占業務である税務代理・税務書類の作成・税務相談のみ事業承継し、独占業務外で実施しているコンサルティングや保険営業は続けたいというケースで活用できます。

ただし事業承継によるM&Aでは、買い手は新たにスタッフや顧問先と契約を結び直さなければいけません。中には契約を結ばず離れていくスタッフや顧問先もあるでしょう。円滑な引き継ぎのために、事前準備が欠かせない方法です。

5.税理士法人の場合

税理士法人の場合

税理士法人がM&Aを希望するケースもあるでしょう。個人事業主である会計事務所のM&Aと違う点はあるのでしょうか?税理士法人のM&Aについて概要を紹介します。

5-1.税理士法人同士の合併が現実的

法人のM&Aでは一般的に株式譲渡が用いられますが、税理士法人では株式譲渡はできません。また個人税理士へ持分譲渡によって引き継ぐのは、現実的ではないでしょう。

そのため『税理士法人同士の合併』が主流です。合併時は合併契約が結ばれます。吸収合併であれば売り手は解散し権利は買い手へ、新設合併であれば売り手・買い手とも解散し権利は新設法人へ移ります。

このとき解散した法人の所有する事業・財産・債務などは、包括的に権利を引き継ぐ法人へ移転します。また、税理士法人以外とは合併できない点にも注意しましょう。

加えて税理士法人が合併するには、全ての社員から同意を得なければいけません。法人である分、手続きが会計事務所より複雑です。

5-2.合併に必要な手続き

税理士法人が合併する際には、まず債権者に対してその旨を知らせなければいけません。加えて合併により消滅する税理士法人、合併後存続する税理士法人もしくは新設する税理士法人の名称と所在地も伝えます。

また債権者は合併に対して一定期間内であれば異議を述べられます。異議があった場合には、債権者保護のための措置が必要です。具体的には債務の履行や弁済を目的とした信託会社への財産の信託を実施します。

その後、合併の手続きが完了したら、法務局で登記を実施しましょう。合わせて税理士会への届出も登記後2週間以内にしなければいけません。必要な書類は税理士法人の形態ごとに異なります。税理士個人の変更登録手続きも必要です。

6.会計事務所の相場

会計事務所の相場

会計事務所を売却する際の、金額の相場はいくらなのでしょうか?代表的な計算方法をチェックしましょう。

6-1.一定期間の顧問報酬を参考に計算

相場を求めるために一般的に用いられているのは『顧問報酬』をもとに計算する方法です。顧問報酬2~3年分として算定するケースが多いでしょう。合わせて売上の推移や顧問先の経営状況なども考慮します。

会計事務所には、顧問報酬のほかにもスポットでの報酬がありますが、加えないのが一般的です。

6-1-1.他の計算方法で算出される場合も

ただし、必ずしも顧問報酬のみで金額が求められるわけではありません。事務所によって収益の獲得方法が異なるため、実態に合わせて計算します。

例えば記帳代行・コンサルティングといった仕事も請け負っている場合、その部分に関しては他の計算式を使用するのです。計算には『時価純資産法』や『DCF法』などを用います

時価純資産法は『保有資産の時価総額-負債の時価総額』で企業価値を算出する方法です。また将来獲得するであろう収益からリスクを考慮し企業評価する方法を、『インカムアプローチによる企業価値評価』といいます。その一つがDCF法です。

6-2.会計事務所の売却益にかかる税金

M&Aにより会計事務所を売却すると、利益が発生し雑所得として扱われます。会計事務所の売却は得意先のあっせんととらえられているからです。

雑所得には『所得税』が課されますが、分離課税には対応していません。総合課税により税金がかかるため、売却益の半分近くを納めなければいけないケースもあります

多額の所得税の課税を避けるためにロックアップ期間を設けることもあるでしょう。売却による利益を一部のみ受け取り、事業の引き継ぎや契約変更のサポートをするために一定期間は事務所へ残ります。

ロックアップ期間の経過後に、残りを退職金して受け取る方法です。

7.会計事務所売却の方法

会計事務所売却の方法

実際に会計事務所を売却する際には、どのような手順で進めればよいのでしょうか?具体的な方法をステップごとに解説します。

7-1.事業承継計画を作成する

まず行うのは『事業承継計画』作りです。今後のことについてぼんやりとプランを考えていた場合には、その計画を書き出してみましょう。

書き出すことでイメージがよりはっきりしますし、課題を見つけられるかもしれません。客観的に現状を見つめ直すきっかけにもなるでしょう。

事業承継には親族も関わります。どのような方向性で進めていきたいと考えているのか、親族とあらかじめ話し合う機会を設けることで、トラブルの予防にも役立てられるはずです。

外部関係者へ意思を伝えやすくなるのも特徴といえます。また事業承継計画があれば、『事業承継税制の特例措置』が適用されるかもしれません

7-2.仲介会社やアドバイザーに相談

事業承継のプランが明確になったら、仲介会社やアドバイザーへ相談しましょう。相談先は銀行・証券会社・弁護士などさまざまです。中でもM&A仲介会社を利用するとスムーズに手続きを進めやすくなります。

より専門的なアドバイスを受けたいなら、会計事務所に特化したサービスを提供している仲介会社が適切です。費用を抑えて利用するには、無料で相談できる公的な相談窓口を利用するとよいでしょう。

7-2-1.相談後の流れは?

相談をしてM&Aの実施に向けて動くことを決めたら、まず買い手候補の選出と打診を実施します。買い手に興味を持ってもらえたら、詳細情報を開示しましょう。

そしてトップ面談へ進みます。面談では事前に確認している詳細情報では分からない質問や意見交換を行いましょう。相手の人柄や事務所の雰囲気もチェックします。

基本的な合意に至ったら、法務や税務をより詳細に調査する『デューデリジェンス』です。必要に応じて最終的な条件交渉を実施し、最終契約の締結へ進みます。

契約が成立したらそれでM&Aは終了ではありません。その後は事務所同士が一つになじむよう、統合していくプロセスを実施します。

7-3.マッチングサイトを活用する方法も

運営している会計事務所がごく小規模であるなら『マッチングサイト』の利用も検討しましょう。インターネットを通して買い手が付くかもしれません

ただしM&Aを検討していることが周囲に漏れないよう、注意が必要です。マッチングサイトでは事務所名は出ませんが、会員でなくても事業内容・希望譲渡金額・会社概要・M&A譲渡概要などを閲覧できます。

意図せず情報が拡散すれば、スタッフや顧問先に不安感を抱かせるかもしれません。スムーズなM&Aのために、情報の取り扱いには注意しましょう。

8.早めの計画、準備が成功に導く

早めの計画、準備が成功に導く

会計事務所のM&Aを成功へ導くのは早めの行動です。あらかじめ準備し事業承継計画を作成していれば、いざ事業承継が必要になったときに慌てずにすみます。

また現在、会計事務所のM&A市場は買い手市場です。できるだけ高額で売却するには、タイミングを逃さないよう心がけましょう。

合併により行われるのが一般的な会計事務所のM&Aは、売り手から買い手への得意先のあっせんとして扱われます。そのため利益は雑所得になり、所得税の総合課税が課されるのです。

利益の半分を税金として納めなければいけないケースもあります。可能な限り節税するには『税理士法人チェスター』へも相談してみましょう。

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