資産管理会社を使う相続対策のメリット・デメリットを税理士が解説

資産管理会社を使う相続対策のメリット・デメリットを税理士が解説

資産管理会社とは、オーナー自身の資産の管理を目的に設立される会社です。事業活動は行わず、多額の不動産を保有する富裕層の相続対策に活用されます。

資産管理会社を使う相続対策は、個人で不動産を保有する場合に比べて税制上のメリットがあります。一方で、会社を維持する手間やコストがかかるなどデメリットもあります。

この記事では、資産管理会社を使う相続対策のメリットとデメリットをご紹介します。

1.資産管理会社を使う相続対策のメリット

資産管理会社を設立して行う相続対策には、以下のようなメリットがあります。税制上有利になるだけでなく、相続の手続きが簡単にできるようになります。

  • 相続税の財産評価で有利になる
  • 所得を分散させることができる
  • 財産の蓄積を抑えることができる
  • 広い範囲で経費が認められる
  • 相続・贈与がスムーズにできる

1-1.相続税の財産評価で有利になる

資産管理会社を活用する相続対策では、管理会社が不動産を保有し、オーナーは役員として管理会社の株式を保有する形態が主流です。

オーナーが死亡したときは、不動産ではなく資産管理会社の株式を相続することになります。

不動産は相続税の計算上、実態より低い価格(路線価または固定資産税評価額)で評価できますが、資産管理会社の株式はさらに低い価額で評価することができます。

資産管理会社の株式の評価額は、相続税評価額で計算した会社の純資産価額から、資産の含み益にかかる法人税相当額(37%)を引いて求めます(ただし取得後3年以内の不動産は、会社の純資産価額の計算上通常の取引価額で評価するため、節税メリットは少なくなります)。

1-2.所得を分散させることができる

賃貸不動産を保有していると安定した賃料収入が得られます。しかし、賃料による所得が多いと税金が高くなってしまいます。

資産管理会社を設立して不動産を移すと、賃料収入は会社のものになります。あるいは、オーナーが不動産を保有して資産管理会社に管理費を支払う方法もあります。このようにして、オーナーが得るはずだった所得を管理会社に分散させることで、税金を低く抑えることができます。

さらに家族を管理会社の役員にすると、会社の所得を役員報酬という形で家族に分散させることができます。

家族を管理会社の役員にする場合は、役員としての実態が伴っている必要があります。未成年者や他の会社で勤めている人などを役員にした場合は実態がないとみなされ、役員報酬が会社の経費として認められないことがあります。

1-3.財産の蓄積を抑えることができる

賃料による所得が多いとオーナーの財産が蓄積され、将来の相続税が高くなる懸念があります。

所得を管理会社や家族に分散させることで、オーナーの財産の蓄積を抑えて将来の相続税を低く抑えることができます。このほか、家族に管理会社の株式を少しずつ生前贈与することで、財産の蓄積を抑えることもできます。

1-4.広い範囲で経費が認められる

資産管理会社を設立すると、個人で不動産を保有する場合に比べて広い範囲で経費が認められ、所得を少なくすることができます。

個人で不動産を保有する場合は、不動産の管理に直接関係のあるものだけが所得計算上の必要経費として認められます。

一方、資産管理会社では、不動産管理に関する経費のほか、社宅(オーナーの自宅)や社用車(オーナーの自家用車)などの間接経費も経費として計上することができます。

このほか、個人と法人の税率のしくみの違いから、所得が多いと資産管理会社を設立する方が税率は低くなります。

個人の所得税は、所得が高いほど税率が高くなる超過累進税率で課税されます。不動産を個人で保有する場合は、所得が多く最高税率が課されると、住民税等を含めて50%を超える税率になります。

資産管理会社では、法人税と住民税等を含めた実効税率は高い場合でも33%前後にとどまります。

1-5.相続・贈与がスムーズにできる

個人で保有していた不動産を相続する場合は登記が必要で、登記費用(登録免許税)がかかります。生前に贈与する場合は、登記費用のほか不動産取得税も必要になります。

資産管理会社が不動産を保有している場合は、不動産ではなく資産管理会社の株式を相続・贈与すればよく、登記の手間と費用はかかりません。

ただし、はじめにオーナーが保有していた不動産を資産管理会社に移すときや、資産管理会社が不動産を購入するときには、登記費用や不動産取得税がかかります。

2.資産管理会社を使う相続対策のデメリット

資産管理会社を設立する相続対策は、メリットばかりではありません。デメリットとしては、主に以下の二つがあげられます。資産管理会社を設立すると、不動産の維持管理だけでなく会社の維持管理も必要になります。

  • 会社の運営コストがかかる
  • 仕組みが複雑で専門家の関与が必要

2-1.会社の運営コストがかかる

資産管理会社を設立すると、会社を運営するために次のような業務が必要になります。

  • 厳密な収支の管理・帳簿への記帳
  • 役員報酬支払時の源泉徴収や年末調整
  • 社会保険の加入手続きや保険料の支払
  • 株主総会や取締役会の開催および議事録の作成・保存

これらの業務を自分や家族だけで行うことは難しく、税理士や社労士など専門家に依頼すれば費用がかかってしまいます。

2-2.仕組みが複雑で専門家の関与が必要

資産管理会社を活用する相続対策は、オーナー、資産管理会社、不動産の関係によってさまざまなパターンが考えられます(資産管理会社の形態については次の章で解説します)。

不動産管理の仕組みの構築、資産管理会社の設立手続きなどをオーナーが個人ですべて実行することは極めて困難です。相続や税制、富裕層の資産管理に詳しい専門家のアドバイスが欠かせません。

個人でどうにか手続きはできたとしても、管理会社との間の売買価格や賃料、管理費、役員報酬の設定は難しく、金額によっては税務上認められない恐れがあります。そうなると、資産管理会社を使う相続対策のメリットが大きく損なわれてしまいます。

3.資産管理会社の形態

資産管理会社を活用する相続対策のメリットとデメリットを比較したうえでさらに踏み込んで検討する場合は、資産管理会社の形態を知っておくとよいでしょう。

資産管理会社は、不動産の所有・管理の方法によって以下の三つの形態に分類できます。どの形態を選択するかは、不動産の立地や価額のほか管理会社の運営の手間なども考慮する必要があります。

  • 不動産所有方式(土地建物所有方式・建物所有方式)
  • 管理会社方式
  • サブリース方式

3-1.不動産所有方式

不動産所有方式は、オーナーが所有する不動産を資産管理会社に売却して、管理会社が不動産を所有する形態です。売却方式と呼ばれることもあり、資産管理会社を使う相続対策では主流となっている形態です。

管理会社が土地と建物を所有する「土地建物所有方式」のほか、建物だけを所有する「建物所有方式」があります。建物所有方式では、土地は引き続きオーナーが所有して管理会社に貸し付けます。

資産管理会社がオーナーから不動産を買い受けるときは、金融機関から資金を借り入れます。オーナーは売却代金で個人の借入金を返済して、債務を個人から管理会社に移すことができます。

不動産所有方式(土地建物所有方式)

不動産所有方式(建物所有方式)

不動産所有方式では不動産による収益が資産管理会社のものになるため、オーナーの財産の蓄積を抑える効果があります。特に、土地建物所有方式では収益がすべて管理会社に入るため、財産の蓄積を抑える効果は大きくなります。

ただし、不動産の売買価格や建物所有方式での地代の設定は、十分に注意しなければなりません。

不動産の売買価格が世間一般の相場からかけ離れたものである場合は、時価との差額に課税されることがあります。

土地の時価は、路線価を80%で割り戻す簡便な方法で求めることもできますが、特に商業地など地価の高い場所では時価と路線価が大きく異なる場合があります。このような場合は不動産鑑定士に鑑定を依頼する方がよいでしょう。

建物所有方式では、土地を無償で貸し付けると管理会社が借地権を無償で譲り受けたとみなされて課税されることになります(借地権の認定課税)。借地権の認定課税を回避するには、次のような方法が考えられます。

  • 管理会社がオーナーに権利金を支払う
  • 管理会社がオーナーに「相当の地代」として年間で地価の6%に相当する地代を支払う
  • 管理会社とオーナーの連名で「土地の無償返還に関する届出書」を税務署に提出する

「土地の無償返還に関する届出書」で借地権の認定課税を避ける方法については、下記の記事で解説しています。

「土地の無償返還に関する届出書」を提出した土地の相続税評価額

3-2.管理会社方式

管理会社方式は、オーナーが個人で不動産を所有して、設備の管理などを管理会社に委託する方式です。不動産の売却手続(名義変更)が必要なく、手軽にできる点がメリットです。

管理会社方式

不動産による収益はオーナーのもとに入りますが、オーナーはその中から資産管理会社に管理費を支払います。このようにしてオーナーの財産の蓄積を抑えることができます。ただし、不動産はオーナーが所有するため相続税の節税メリットはあまり期待できません。

管理会社方式では、管理費の金額の設定に気をつけなければなりません。管理会社に所得を移転させようとして管理費を高額にすると、税務上の必要経費として認められない恐れがあります。

税務上の問題を回避するには、特別の関係がない一般の管理会社に委託する場合と同程度の管理費にする必要があります。管理費の目安はおおむね家賃収入の5~8%程度とされています。

3-3.サブリース方式

サブリース方式は、オーナーが所有する資産を管理会社に一括で貸し付ける方式です。

サブリース方式

不動産による収益は資産管理会社のもとに入り、管理会社はそのうち80~90%を賃料としてオーナーに支払います。管理会社が空室リスクを負う仕組みになっていて、空室の有無にかかわらずオーナーの収入は安定しています。

サブリース方式も相続税の節税効果は小さいですが、不動産の相続税評価額を低くできるメリットがあります。管理会社に一括で貸し付けるため、実際に空室があっても賃貸割合は常に100%として評価額を計算することができます。

4.資産規模が小さければ他の方法で節税できる

資産管理会社を使う相続対策で効果をあげるには、多額の不動産を保有していなければなりません。実際に資産管理会社を設立して効果をあげている人を見ると、少なくとも5億円程度は資産を保有しているようです。

資産規模が小さく資産管理会社を設立するほどでもない場合は、相続税の小規模宅地等の特例を適用することで相続税を節税することができます。

小規模宅地等の特例は、自宅や事業用の宅地の評価額を最大80%減額できる特例です。減額の割合は50%にとどまりますが、賃貸物件にも適用できます。詳しくは下記の記事を参照してください。

賃貸不動産は相続税が下がる!貸付事業用宅地等に該当する場合の小規模宅地等の特例
『特定居住用宅地等』(小規模宅地等の特例)とは。相続税専門税理士が詳しく解説!

このほか、かつては一般社団法人を使った相続税対策が行われていました。

オーナーが一般社団法人を設立して資産を移せば、相続税を負担せずに遺産を承継できたというものです。簡単にできる相続税対策として広まりつつありましたが、税制改正によってすでに節税はできなくなっています。

(参考)一般社団法人を使った相続税対策はできなくなる!【平成30年4月から】

5.資産管理会社設立前にしっかりと検討を

以上、資産管理会社を使う相続対策についてご紹介しました。

資産管理会社を設立すると、個人で不動産を保有する場合に比べて財産の蓄積を抑えて、家族に所得を分散させることができます。相続税の財産評価も有利になるなど税制上のメリットが大きく、資産規模の大きな富裕層であればぜひ考えたい対策です。

資産管理会社を活用する相続対策は、相続や税制、富裕層の資産管理に詳しい専門家のアドバイスを受けて実行する必要があります。信頼できる専門家に相談して検討することをおすすめします。

また、資産規模や種類によっては資産管理会社を設立するよりも最適な対策方法が存在する場合もあるので、専門家に相続対策の目的を伝えながら最適な方法を見つけていく必要があるでしょう。

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