【事例でわかる!】相続人の探し方
タグ: #相続手続き事例|遺産に明治時代から登記されていない不動産があるケース
叔父の相続です。叔父は生涯未婚で、私の父(叔父の兄)は既に他界しているため、叔父の相続人は私だけです。
父と叔父の家系には、何代も前から名義変更がされていない不動産があると聞いていましたが、叔父の相続手続に際し弁護士に調べてもらったところ、その不動産の登記は、明治時代以降、一切行われていないことが分かりました。
そして、登記名義人の相続人を調査してもらったところ、現在の相続人は、35名いるということが分かりました。
私には子供がいますので、この問題を下の代に引き継がせることなく、何とか私の代で解決したいと考えていますが、何を、どのようにすれば、この不動産の問題を解決できるのでしょうか?
※架空の事例です。
はじめに
事例のように、相続登記が放置されているケースは少なくありません。そのような場合、まずは名義人の現在の相続人を調査したうえで、全相続人との間で遺産分割協議を行う必要があります。
ケースによっては、時効取得を主張できる場合もあります。
それでは以下で詳しく見ていきましょう。
相続登記がされていない不動産の法律関係
相続登記は、相続税申告と異なり、申請期限がありませんでした。また、相続登記には、固定資産税評価額の0.4%が登録免許税としてかかります。
そのため、実際にその土地を売却する等の必要が生じない限り、相続登記を行わないということはよくありました。特に地方のあまり価値がない土地については、相続登記がされないまま放置されているケースが少なくありません。
相続財産である不動産の権利関係は、遺産分割が行われるまでの間、相続人間で各自の相続分に応じた割合で共有となります(民法898条)。これを遺産共有といいます(遺産共有と物権共有の違いについては、法律コラム:「共有関係の解消方法」をご参照ください。)。
そして、遺産共有をしている相続人にさらに相続が発生した場合、その相続人が新たに遺産共有者となり、それ以降、遺産共有者に相続が発生するたびに、その相続人が遺産共有者となるというように、遺産分割を行うべき当事者がどんどん増えてしまいます。
このような、相続登記が未了のまま相続人にさらに相続が発生し、現在の相続人(遺産分割協議を行うべき当事者)が誰かわからないという不動産は非常に多く、所有者不明土地と言われ、現在社会問題となっています。
なお、所有者不明土地の総面積は、現在で九州全土の面積を上回るともいわれており、このまま放っておくと、北海道全土の面積にも達するといわれています。
そこで、この所有者不明土地の有効活用を認めるための法律として「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」が施行されるなど、所有者不明土地問題に対する対策が講じられています。
また、土地の所有者が不明となることを防止するため、2024年4月1日から相続登記が義務づけられます。相続登記の義務化は、同日より前に相続した土地も対象です。
相続人調査の方法
所有者不明土地などを含め、遺産についての相続手続を行う前提として、現在の相続人(遺産分割協議の当事者)を調べる必要があります。
その場合、被相続人の出生から死亡までの連続戸籍と相続人全員の現在戸籍等を取得して、相続人の範囲を確定させます。
どこまで戸籍を取得すべきかについては、相続人の順位や代襲相続の有無によって異なりますが、いずれにしても、直近の戸籍から一つ一つ遡り、転籍している場合には転籍前の戸籍をたどり、出生まで戸籍をつなげていくという、地道かつ着実な調査を行う必要があります。
さらに古い戸籍は、手書きの毛筆体で書かれていますので、相続人ご本人で記載文字を判読し、そこから次の戸籍を追っていく作業は、非常に大変です。
そこで、相続人の範囲を間違いなく確定させるためには、弁護士等の専門家に相続人の範囲を確認してもらうのが確実かと思います。
相続人の範囲が確定した場合、その判明した相続人間で遺産分割協議を行うため、他の相続人に連絡をとる必要があります。
もともと連絡先を知っていればいいのですが、戸籍を取得し初めてその存在を認識したという方の場合、連絡先を知っていることはまずないと思います。
そのような場合には、戸籍の附票という書類を役所で取得します。戸籍の附票には、現在の住民票上の住所が記録されています。そのため、戸籍の附票を取得すれば、相続人の現在の住民票上の住所が分かります。
住民票上の住所が分かったら、その住所に宛ててお手紙などを出し、遺産分割の協議を申し入れます。そして、遺産分割についての希望や意見があるかを確認します。
通常は、書面や電話等で回答を依頼することが多いですが、直接会って話合いを進める場合もあります。
このようにして相続人に辿りついた場合は、通常の遺産分割と同様、まずは遺産分割協議を行い、協議が調わなければ家庭裁判所に遺産分割調停を申し立て、調停も不成立となった場合は遺産分割審判により、解決を図っていくことになります。
時効取得ができる場合
なお、ある不動産について、所有の意思をもって平穏かつ公然に10年間又は20年間占有すると、その不動産を時効取得することができます(民法162条参照)。
所有者不明土地の場合、隣地の所有者が、所有者不明土地までも含め一体として自己の所有地と認識し、所有者として使用収益し、不動産の管理も行い、さらに固定資産税も納付するなどしている場合があります。
そのような場合には、隣地の所有者が、所有者不明土地を時効取得できることがあります。
もっとも、時効取得を原因とする所有権移転登記は、所有者不明土地の相続人全員の協力がなければ実現できません。
また、判決に基づき単独申請で時効取得を原因とする所有権移転登記を行う場合にも、所有者不明土地の相続人全員に対する判決を得ないと、所有権移転登記を行うことはできません。
Point 01 所有者不明土地問題は社会問題化している
Point 02 相続人調査は地道かつ着実な戸籍の収集作業が必要
Point 03 相続人の連絡先が分からない場合、戸籍の附票を取得して、住民票上の住所を調べる
まとめ
いかがでしたか。相続人調査の方法は、戸籍等を順次辿っていくという地道かつ着実な作業が必要となります。
どこまでの戸籍が必要かについては、相続人ご本人が正確に判断することがなかなか難しいことが多いため、弁護士等の専門家にご依頼をいただく、というのも1つの選択肢かと思います。
事例のケースで、何代も前から名義変更されていない不動産の問題を解決するためには、まず相続人が35名であることを戸籍等から確認し、連絡先の分からない相続人については戸籍の附票を取得し、現在の住所を調査する必要があります。
そのうえで、各相続人に対し、遺産分割協議の申し入れをして、遺産分割を進めていかざるを得ないと思います。
多大な手間と時間がかかることは予想されますが、一歩一歩、着実に進めていく必要がありますので、事例のようなケースでは、相続人調査から遺産分割協議まで、まとめて弁護士等の専門家にご依頼されることをおススメします。
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