生前に贈与した財産が、相続開始前7年(3年)以内の贈与なら相続税に加算される?

「相続に備えて、財産を子供に贈与していたのだから、相続税が課税されることはないよ」
と安心されていませんか?

それが、そうはいかない場合があります。
相続開始前3年以内に贈与された財産については、相続財産に加算して相続税が課税されることになっています。さらに、令和9年以降に発生した相続については、その期間が段階的に7年にまで延長されます。

贈与をすれば、贈与税の課税対象となりますが、その贈与方法によっては、相続税よりも安くすることができます。このため、被相続人の生前に相続人に対して生前贈与をすることがあります。
このような相続税の負担回避を目的とした生前贈与を防止するために、上記のような方策がとられているのです。

これは、一般に「生前贈与加算」と言われます。

1.制度の概要

「生前贈与加算」とはどういった制度なのでしょうか。簡単にご説明します。

相続などにより財産を取得した人が、被相続人(亡くなった人)からその相続開始前3年以内(死亡の日からさかのぼって3年前の日から死亡の日までの間)に贈与を受けた財産があるときには、その人の相続税の課税価格に贈与を受けた財産の贈与の時の価額を加算します(※1)。
また、その加算された贈与財産の価額に対応する贈与税の額は、加算された人の相続税の計算上控除されることになります(※2)。
国税庁HP タックスアンサー№4161参照)

これだけでは分かりづらいと思いますので、具体的に考えてみましょう。

例えば、平成30年の時点で、父Aには5,000万円の財産があったとします。
相続税の支払いをしないようにするために、父Aは、毎年、子Bの誕生日6月15日に財産を贈与することにしました。とはいえ、高い贈与税が課税されては元も子もありません。贈与は110万円まで課税されないと知り、毎年100万円ずつ子Bに贈与をしていました。

平成30年6月15日 100万円贈与(非課税)
令和元年6月15日 100万円贈与(非課税)
令和2年6月15日 100万円贈与(非課税)
令和3年6月15日 100万円贈与(非課税)
令和4年6月15日 100万円贈与(非課税)

令和5年4月5日に父Aが死亡し、その時点での父Aの財産は4,500万円。
この4,500万円を子Bが全て相続したとします。

この相続財産4,500万円に、父Aが死亡した日からさかのぼって3年以内(令和2年4月5日から令和5年4月5日までの間)に、被相続人である父Aから子Bに贈与された財産300万円(100万円×3年分)を加算して相続税を計算することになります(上記※1に対応)。
このように贈与税が課税されなかった贈与財産についても、相続開始前3年以内の贈与であれば、相続財産に加算されることに注意して下さい。

この4,800万円から基礎控除額を差し引いたものが相続税の課税遺産総額になります。

基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数

上記の事例の場合、相続人は、子Bのみなので、法定相続人は1人。
よって、基礎控除額は3,600万円(3,000万円+600万円×1人)となります。
相続財産4,800万円―基礎控除額3,600万円=1,200万円(課税遺産総額)

上記の事例の課税遺産総額は、結局1,200万円。
この場合の相続税の税率は15%、控除額が50万円。

1,200万円×15%-50万円=130万円(相続税)

参考までに、生前贈与加算がなかった場合は課税遺産総額900万円となり、相続税は以下のようになります。
900万円×10%=90万円(相続税)

生前贈与加算という制度があることによって、今回の事例でも40万円違ってきます。

2.贈与税と相続税で二重課税にならないの?

上記の事例では生前には贈与税を支払っていませんが、生前に贈与税を支払っている場合には、その贈与税と相続税で二重に課税されることにはならないのだろうか? と思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

二重課税を回避するために、「加算された贈与財産の価額に対応する贈与税の額は、加算された人の相続税の計算上控除される」ことになっています(上記※2に対応)。

では、先程の事例で、父Aが子Bに毎年300万円ずつ贈与していたと考えてみましょう。

平成30年6月15日 300万円(贈与を受けた額)-110万円(基礎控除額)=190万円
190万円×10%(税額表は国税庁HP タックスアンサー№4408参照)
=19万円(この19万円を贈与税として納税)
令和元年6月15日 300万円-110万円=190万円
190万円×10%=19万円(贈与税として納税)
令和2年6月15日 300万円-110万円=190万円
190万円×10%=19万円(贈与税として納税)
令和3年6月15日 300万円―110万円=190万円
190万円×10%=19万円(贈与税として納税)
令和4年6月15日 300万円―110万円=190万円
190万円×10%=19万円(贈与税として納税)

令和5年4月5日に父Aが死亡し、その時点での父Aの財産は3,500万円。
この3,500万円を子Bが全て相続したとします。

この相続財産3,500万円に、父Aが死亡した日からさかのぼって3年以内(令和2年4月5日から令和5年4月5日までの間)に、被相続人である父Aから子Bに贈与された財産900万円(300万円×3年分)を加算して相続税を計算することになります(上記※1に対応)。

この4,400万円から基礎控除額を差し引いたものが課税遺産総額になります。

基礎控除額は、上記と同様に
3,000万円+600万円×法定相続人1人=3,600万円

相続財産4,400万円―基礎控除額3,600万円=800万円(課税遺産総額)

この場合の相続税の税率は10%なので、
800万円×10%=80万円

この場合、80万円の相続税の納付が必要に思われますが、これでは、贈与額900万円について、二重に課税されていることになってしまいます。
そのため、この場合は、令和2年から令和4年分として納付した贈与税57万円(19万円×3年分)について、上記の80万円から控除されます(上記※2に対応)。

80万円―57万円=23万円

この23万円が、子Bの納めるべき相続税ということになります。

このように、相続税と贈与税で二重に課税されるということはありません。

3.生前贈与加算の対象期間が7年に延長

税制改正により、令和9年以降に発生する相続については、生前贈与加算の対象期間が段階的に延長されます。
令和8年までに相続が開始した場合は、これまでどおり「相続開始前3年以内の贈与」が生前贈与加算の対象になります。
令和9年から令和12年までに相続が開始した場合は、「令和6年1月1日以降の贈与」が生前贈与加算の対象になります。
令和13年以降に相続が開始した場合は、「相続開始前7年以内の贈与」が生前贈与加算の対象になります。
なお、この改正により延長された期間(生前贈与加算の対象期間のうち相続開始前3年より前の期間)に行われた生前贈与については、総額100万円まで生前贈与加算の対象にはなりません。
これらの改正についても、先程の事例をもとに解説しましょう。贈与と死亡の年、贈与の回数は変えています。

令和5年6月15日 100万円贈与(非課税)
令和6年6月15日 100万円贈与(非課税)
令和7年6月15日 100万円贈与(非課税)
令和8年6月15日 100万円贈与(非課税)
令和9年6月15日 100万円贈与(非課税)
令和10年6月15日 100万円贈与(非課税)
令和11年6月15日 100万円贈与(非課税)

令和12年4月5日に父Aが死亡したとします。

死亡は令和12年であるため、「令和6年1月1日以降の贈与」が生前贈与加算の対象になり、その総額は600万円(100万円×6年分)となります。
ただし、相続開始前3年より前の期間の贈与(この例では令和6年分~令和8年分)は100万円まで加算しないため、上記600万円から100万円を引いた500万円を相続財産に加算します。

4.生前贈与加算の注意点

生前贈与加算には、他にもいくつか注意点があります。

4-1.生前贈与加算の対象は、相続又は遺贈によって財産を取得した人のみ

例えば、被相続人が、生前お孫さんに多額の贈与をしたとします。ただ、このお孫さんが相続人にならず、遺贈も受けないというのであれば、お孫さんに生前に贈与した財産について、生前贈与加算の対象にはなりません。一方、お孫さんが相続人になっているか、又は遺贈を受けている場合、お孫さんに生前贈与した財産の価額は、生前贈与加算の対象となります。

4-2.贈与財産が加算される場合、相続時の価額ではなく、贈与時の価額を評価額とする

贈与財産が現金であれば、その価額は変わりないのですが、贈与財産が不動産や有価証券などの場合、価値の変動が考えられます。
例えば、贈与財産が株式の場合、贈与時の価額が1,000万円であったのが、株価の急落により、相続時には10万円になっていたとしても、1,000万円の価額で相続財産に加算されることになります。

4-3.贈与財産のうち、下記のものは、例外的に相続税の課税価格に加算されません

①贈与税の配偶者控除
20年以上連れ添った配偶者(婚姻届出日から贈与日までの期間が20年以上)に、居住用不動産又はその取得資金を贈与したときには、2,000万円までは贈与税の課税の対象から控除されるものです。
この制度の趣旨は、税制上配偶者を優遇することによって、配偶者の生活を安定させるというものです。とすれば、贈与税の時に優遇しておきながら、配偶者の一方が死亡したときには、相続税の課税価格に加算するというのでは、それこそ、生存している配偶者の生活が不安定となってしまうので、生前贈与加算の例外とされています。

以下の②~④についても、税制上、贈与税の時に優遇しておく一方、相続税の課税価格に加算するというのでは、贈与税での優遇が帳消しにされてしまうことになるので、生前贈与加算の例外とされています。

②直系尊属から贈与を受けた住宅取得等資金のうち、贈与税の非課税の適用を受けた金額
令和8年12月31日までの間に、父母や祖父母など直系尊属からの贈与により、自己の居住の用に供する住宅用の家屋の新築、取得又は増改築等の対価に充てるための金銭を取得した場合において、一定の要件を満たすときは、一定の限度額までの金額について贈与税が非課税となります(国税庁HP タックスアンサー№4508)。

③直系尊属から一括贈与を受けた教育資金のうち、贈与税の非課税の適用を受けた金額
平成25年4月1日から令和8年3月31日までの間に、父母や祖父母などの直系尊属から、教育資金として一括贈与を受けた場合、贈与を受けた価額のうち一定の価額については、贈与税の課税価格に算入されません(国税庁HP タックスアンサー№4510)。※

④直系尊属から一括贈与を受けた結婚・子育て資金のうち、贈与税の非課税の適用を受けた金額
平成27年4月1日から令和7年3月31日までの間に、父母や祖父母などの直系尊属から、結婚・子育て資金として一括贈与を受けた場合、贈与を受けた価額のうち一定の価額については、贈与税の課税価格に算入されません(国税庁HP タックスアンサー№4511)。※

※贈与税の課税価格に参入されなかった金額のうちに、相続開始時までにその目的のため使用できなかった残額があるときは、相続税の対象となる場合があります。

5.最後に

以上から、「相続に備えて、財産を子供に贈与していたのだから、相続税が課税されることはないよ」と必ずしも安心できないことが分かります。

相続開始直前の贈与というのは、相続税の節税にならないことがあるということをお分かりいただけたでしょうか。
そのため、相続税対策するためには、できるだけ早めに準備される方が効果的です。
一方で、もし、急に余命いくばくもないと余命宣告をされた場合に駆け込みの対策をするのであれば、贈与する相手を孫などの相続人以外の人にしたり、又は、価額の急騰が見込まれる財産を贈与するのであれば、一定の効果が得られるかと思います。
ご自身で判断するのが難しい場合には、事前に相続税の専門家に相談した方が良いでしょう。

税理士法人チェスターは、年間2,373件以上の相続税申告実績を誇る、相続専門の税理士法人です。
生前の相続税対策から相続開始後の相続税申告まで、相続に関するサポートを幅広くおこなっています。相続税関連でお悩みの方は、まずはお気軽にお問合せください。

※この記事は専門家監修のもと慎重に執筆を行っておりますが、万が一記事内容に誤りがあり読者に損害が生じた場合でも当法人は一切責任を負いません。なお、ご指摘がある場合にはお手数おかけ致しますが、「お問合せフォーム→掲載記事に関するご指摘等」よりお問合せ下さい。但し、記事内容に関するご質問にはお答えできませんので予めご了承下さい。

【面談予約受付時間】
9時~20時(土日祝も対応可)